恐竜の声が聞こえるのは僕だけ~異世界の侵略兵器は絶滅種でした~ 作:タク@DMP
「これで全て元通りだ。君達だけふりだしに戻った、とでも言っておこうか?」
「ッ……!!」
「結局はチカラさ。チカラが無かったから王国は滅ぼされた」
レモンが悲痛そうに目を伏せた。
触手が暴れ出し、冷気を放出しながらメガに向かいだす。
「チカラが無かったから、私は──いや、私達は──ッ!!」
『御主人、ぼく、頑張るよ……そしたら、また、褒めてくれるのかな……?』
「ッ……!!」
イクサは唇を噛み締める。
恨み事ではなく──聞こえてきたのは主人への忠義だった。
『あやつ、こんなになって尚……ッ!? 機械に操られている所為か!!』
「……多分、違うと思うよ……メガ」
『なんだと!?』
暴れる触手がメガに襲い掛かる。
地面を抉り、街灯を薙ぎ払い、木々を凍らせていく。
「なんで、この子がこんなに強いのか、やっとわかった……!! でも、もう……長くは続かない……!!」
『イクサ、キサマ……何に気付いたのだ!?』
「メガ!! とにかく、今は避けてッ!!」
『容易いッ!!』
叫びながらメガが触手を避け続ける。
メガも違和感に気付いた。
先程よりも攻撃は苛烈だ。しかし、あまりにも粗も穴も多すぎる。
その有様にシャインも戸惑っていた。
「──バカな、ケガをしているはずなのに……何故捉えられない!?」
「その子は……今、この瞬間も君を呼んでいる」
「──ッ!?」
シャインが驚愕したように目を見開いた。
「……君の為に頑張ろうとしているんだ、シャイン」
「そんな……そんなはずは……そんなはずは、なぁいッ!!」
動揺したシャインがキューブを掲げた。
それが禍々しい紫色の閃光を放つ。
『
「グルルルオオオオオオオオオオオオッッッ!?」
同時に。ユウティラヌスが狂ったような咆哮を上げ、全身から紫色の光を放った。
イクサは思わず耳を抑える。
ユウティラヌスの声が苦痛の一色に染まり、そして──身の毛がよだつような機械の声が聞こえてくる。
『破壊破壊破壊破壊破壊──』
「やめろっ……やめるんだ、シャインッ!!」
「意思などあるはずがないッ!! そんなものはあの日、捨てさせたんだッ!! それしか生きる術が無かったからッ!!」
機械の杭が更に深くユウティラヌスに打ち込まれていく。
痛みによる絶叫が辺りに響き渡った。
「……シャイン。昔のあなたは……こんな事をする奴じゃなかった……!!」
レモンが地面に手を突く。
「何が貴方を……こんなに変えてしまったの……?」
「君と私の差は此処でついたんだよ、レモン。真の美しさとは、強さだッ!! 弱かったら王国は滅んだッ!! 弱かったから君は負けたッ!! 違うかいッ!!」
機械触手は暴れ回る。
しかし。
最早それは一つもメガに当たりはしなかった。何故当たらない、とシャインはキューブを握り締める。
これ以上、ユウティラヌスの出力を上げる事は出来ない。
「バカな……一体どうして……手負いのメガラプトルも仕留められないというのか!!」
「……無理をしているんだ。オマエも、ユウティラヌスも……!!」
「無理、だと……!?」
「……確かに機械は再生するし、動力がある限り動き続けられる。だけど、ユウティラヌスの体力は無限じゃない。君が施した無理な改造で、既に限界が来ているんだ……!!」
それが意味することは唯一つ。
最早、手負いのメガを捕捉することが出来ない程にユウティラヌスが弱っているということであった。
「ッ……黙れ──そんなはずはないッ!! 美しく凍るが良いッ!!」
5つの触手全てから冷気が放出される。
地面が凍り付く。メガの足元が縛り付けられた。
「イクサ君ッ!!」
思わずレモンは叫ぶ。
足を引き抜こうとするメガだったが、もうその場から動くこともままならなかった。
「やっと追い詰めたぞ……! さあ、私と来てもらおうかイクサ。その前に邪魔なメガラプトルには死んでもらうが……」
「ねえ、シャイン。一つ聞いて良いかな? ずっと気になってたんだ」
「……冥土の土産か? 良いだろう、聞いてやる」
シャインが口角を吊り上げる。
その触手は既にイクサ達の元に向いていた。
しかし、それでも表情一つ変えずイクサは問うた。
「……改造恐竜の武装……レーザーや、その冷気……動力源は何なの?」
ずっと──気になっていた。
電池もバッテリーも無しに、あれだけのレーザーや冷気を放てるはずがない。
そればかりか、日本の酷暑すらも塗り替えてしまうこの冷気は尋常なものではない。
全ては、イクサ自身も知らない技術が使われているはずだ──と。
「そんな事も知らずに戦っていたのか? やれやれ呆れを通り越して笑いが出るよ」
「答えてよ。分かるんでしょう?」
「……イクサ君、まさか貴方」
その問いを聞いた時、何かを察したようにレモンは口を押えた。
イクサの質問は、只の確認だ。
既に彼は、此処までの戦いで薄っすら勘付いていたのである。
「……決まっているだろう。ライフエナジー……生き物の生命力をそのまま動力に変えているのさ!」
「ッ……やっぱり」
──恐竜の生命力が、兵器のエネルギーにそのまま変換されていることに。
ブロントサウルスやスピノサウルスが疲弊していたのは洗脳されていたからだけではない。彼らの身に着けていた武装そのものが恐竜の生命力を吸い取り、エネルギーとなっていたからである。
そして、今回のユウティラヌスもまた──例外ではない。
この結論が導き出す結末は──ただ一つだ。
「エネルギーが尽きたら、どうなるの?」
「愚問だな。その生き物は──力尽き……」
ぐらり。
ユウティラヌスの巨体が揺れ、触手が全て地面に力無く落ちた。
「る……」
信じられない、という顔で──シャインは目を見開いていた。
彼の想定にない事態が発生したからだった。
「バカな。そんなはずはない──おいっ!! しっかりしろッ!!」
激しく取り乱したシャインは、ユウティラヌスに駆け寄った。
「……そう、やっぱり、そうなんだね」
イクサは唇を噛み切りそうになった。
氷の地面に上に、ユウティラヌスは倒れ伏せていた。
咆哮はもう力無く、起き上がる事すらままならないようだった。
「な、なんで……どうして。まだ活動限界には遠いはず……!!」
「これまでの恐竜は……機械の支配に抗っていた。だけど、ユウティラヌスは一つ違ったんだ」
イクサは──シャインを指差す。
痛む胸を押さえ、涙をぬぐい──叫ぶ。
「これだけ痛めつけられて、傷つけられて、苦しめられても──ユウティラヌスはたった一人の家族の君を……捨てられなかった。君が大好きだったからッ!!」
「ッ……バカな。そんなはずはない……ッ!!」
「だから、必要以上に頑張っちゃったんだ……!!」
シャインは──力尽きたユウティラヌスに何度も何度も呼びかける。だが、返事は無かった。
「違うッ!! こんなはずでは、こんなはずではなかったッ!! 他の全てを投げ打ってでも、たとえ悪魔に魂を売ってでも……ただ一人残った家族の君に生きてもらわねば、意味が無いと言うのにッ!!」
「……シャイン、貴方……!!」
「レモンさん──そのユウティラヌス、身体が弱いって言ってたよね」
「え、ええ、よく風邪を引いてたわ……」
「やっぱり。シャインは、ユウティラヌスを生かす代わりに、自分が悪魔になる取引をしたんだ」
全てを悟ったように──イクサは静かにシャインに語り掛ける。
最早、怒りも湧きはしなかった。ただただ哀れな目で彼を見下ろしていた。
「侵略者に故郷を蹂躙され──連れ去られた私に選択肢は無かった……! 私は弱い子供で……彼もまた、弱かった……ッ!! だから、強くなるしかなかったのだ!」
「それで侵略者の仲間になったの……?」
「君も同じ立場だったならそうしたはずだッ!! 生き残った……ただひとりの家族を生かす為、私は……侵略者の軍門に下るしかなかった……ッ!!」
「だからと言って……貴方の非道が許されるわけじゃないわ! 罪の無い人を襲った事ッ!! 多くの動物を犠牲にした事ッ!! 何より貴方は他でもないユウティラヌスをあれだけ傷つけていたじゃないッ!!」
「誰から何と糾弾されても構わないさ。私は……彼がどんな形であれ、生きてくれているのが願いだったからだ。それで、彼に恨まれようとも……ッ!!」
何処で歪んでしまったかは分からない。
しかし、イクサは確信する。
シャインもまた、侵略者の手によって人生と運命を狂わされてしまった者の一人であることを。
「それに、正道に生きることが正しい事か? レモン……ッ! 現に君は、私には勝てなかった……ッ! 正しく生きても、圧倒的なチカラの前には無意味なんだよ……!」
「違うわ、シャイン……貴方は押し潰されたの。貴方自身の心の弱さに。目を背けてはいけないものから目を背けて……そして、一番失いたくないものを失った」
イクサは──頷いた。
理由はどうあれ、シャインが数々の命を弄んだことは事実だからだ。
(こんな結末……僕だって、嫌だけど……!!)
「レモンさん……きっとこの人は、心を殺さなきゃ……やっていられなかったんだ。家族を守る為に家族を傷つける……そんな矛盾に耐える為に、鬼になるしかなかった」
「……哀れね、シャイン。同情はしないけど……」
涙を流しながらシャインはユウティラヌスの頭に縋りついた。
「あんな状態でも君は……私をずっと呼んでいたのかい……!? もう、私の事など分からないと思っていたのに……ッ!!」
「ぐるるるるるる」
低い唸り声が響いた。そして──ユウティラヌスの大顎がゆっくりと開く。
「……済まない。愚かな私を許してくれ、我が友──」
シャインは幼い頃から呼んでいたユウティラヌスの名を口にしようとした。
「──グッゴオオオオオオオオオオッッッッッ!!」
──そして。
その名を口にする前に、ユウティラヌスの大顎が──シャインの身体を丸呑みにし、噛み砕いていた。
「……えっ……?」
イクサは訳が分からなかった。
血飛沫が飛び散る。
千切れた腕が落っこちた。
力尽きたはずの雪原の暴君が──再び機械触手と共に起き上がったのである。
『緊急モード起動、緊急モード起動、周囲の標的を全て、殲滅、殲滅、殲滅──』
──もう、ユウティラヌスの声は聞こえなかった。