恐竜の声が聞こえるのは僕だけ~異世界の侵略兵器は絶滅種でした~ 作:タク@DMP
「……ゴフッ、ギュグルルルルルルルル」
咀嚼することなくシャインを丸呑みしたユウティラヌス。
だらんと力無く横たわっていた機械触手が再び起き上がり、火炎の如き赤い光を灯す。
全身の装置がうなりを上げる。
最早咆哮を上げることもしない。
一歩、また一歩とおぼつかない足取りでユウティラヌスはイクサ達に迫る。
『緊急モード起動──指揮権喪失……代替制御開始……生命反応検索、殲滅対象──更新』
声がイクサに響く。
その中に、ユウティラヌスの発しているものは何一つない。
五本の触手が──地面に突き刺さる。
そこを起点にして灼熱の炎が地面から噴き出したのである。
『どういうことだッ!? さっきまで冷気を吐き出していたのが一転して熱風をッ!?』
「そりゃそうか、エアコンと同じ仕組みなら冷気が出せるなら熱風も出せる……! むしろ熱風を出す方が楽まである……ッ!!」
『機械の仕組みは妾には分からんッ!!』
「ゴメン、今は置いておこうか!」
周囲の芝生や樹木に火が点き、燃え盛り始める。
一方で気温も跳ね上がり、さっきまでメガの足を縛っていた氷も全て溶けたのだ。
火を噴き出しながら襲い掛かる機械触手。それをバックジャンプで躱したものの、辺りの物全てが焼き尽くされていく。
まさに地獄絵図。
『殲滅、殲滅、殲滅』
聞こえてくる声は機械信号のみ。
最早、主人を呼ぶ声も苦しむ声も聞こえはしない。
全ては手遅れに終わった。
イクサは胸を抑える。命の灯が掻き消えた感覚が──イクサを冷たく覆った。
「……聞こえない……ユウティラヌスの声が……!!」
機械は最後の最後で完全にユウティラヌスの意思を塗り潰した。
灯火の最後の一つをも吸い尽くし、なおも機械は動く。
息絶えた肉体を操り人形にして、動き続ける。
『あやつは……もう、居らん……ッ!!』
「利用価値が無くなれば……兵器になるだけ……これが、あいつらのやり方……!! ふざけるなよッ!!」
しかし、最早制御する肉体の負荷を考慮しなくて良くなった以上、機械触手の攻撃はこれまで以上に苛烈そのものだった。
炎を噴き散らしてくる以上、迂闊に近付けばメガの羽毛に燃え移りかねないからだ。
加えて、メガもまた腹部の傷を庇いながら戦っている。状況は刻一刻と不利になりつつあった。
──ユウティラヌスの足に何かが巻き付くまでは。
「ッ!?」
イクサは目を見開く。
機械の触手に気を取られて気付いていなかったが、ユウティラヌスに暗闇で接近していた者がただ一人居たのだ。
思いっきりバランスを崩したユウティラヌスは今度こそ地面に倒れ伏せる。
下手人は──
『オッラァァァァーッ!! 復活ですわーッッッ!!』
──周囲の温度が上がった事により、手負いにも拘わらずさっきよりも活力を得たカガチであった。
「……やるわよ、カガチ。こんな馬鹿げた戦いは、終わらせるの」
レモンは──火の粉が散る戦場の中、ゆっくりと立ち上がる。
唇の血を袖でふき取り──叫んだ。
シャインは死んだ。もう居ない。
故にレモンの怒りはかつての旧友を狂わせた侵略者たちに向いていた。
「イクサ君ばっかりに戦わせるわけにはいかないッ!! 温度が上がったならこっちのものだわッ!!」
「レモンさん……!」
「……許せない。許せないわッ!! 弱い私自身も……シャインを利用した、侵略者もッ!! カガチ! このチャンス、イクサ君に繋げるのッ!!」
『もちろんですわァァァーッ!!』
倒れ込んだユウティラヌスの背部装甲にカガチが思いっきり喰らいつき、そして異次元の顎のチカラで外殻を引き剥がす。
先程までの戦いで、冷気によってどれほどまでにカガチがハンデを負わされていたかをイクサは思い知った。
鋼の外殻を食い破ったその姿は、ティタノボアがティラノサウルスと引き合いに出される程の捕食者であることを示していたのである。
「イクサ君!! 後は頼むわッ!!」
「うんっ!!」
露出したのは、青白い光を放つコードがびっしりと詰まった内部の制御装置だった。
起き上がり、触手を暴れさせるユウティラヌスだが、炎を浴びながらもカガチがそれを跳ね退ける。
「今だメガッ!! 装置を壊すよッ!!」
『ああッ!! 勿論だッ!!』
爪を大きく開いたメガ。
ひとっ跳びでユウティラヌスの背部に馬乗りになり、そして鉤爪を何度も、何度も何度も何度も振り下ろす。
切り裂かれるコード、真っ二つになる制御装置。
ユウティラヌスを傀儡にしていた物がズタズタになっていく。
そしてバチバチと紫電を迸らせたかと思えば、装甲は大きく爆ぜ──今度こそ、触手も動かなくなるのだった。
「……あ」
ユウティラヌスの身体はびくん、びくん、と何度か痙攣していたが──今度こそ、力無く横たわる。
『……ご主人……どこ……どこに……』
「ッ……!」
最後に声が聞こえた気がして、イクサは空を見上げる。
後に残るのは燃え盛る公園、そして完全に息絶えたユウティラヌスの遺骸だけだった。
「……終わったんだね」
『すまぬ……助けられなかった……あやつを……』
「……大丈夫。静かに……旅立って行ったよ。それだけが救いさ」
『……ならば、良いが……』
「せめて、向こうで御主人に会えれば良いけどね……」
胸を抑えながらイクサは吐露する。
死んでしまえば、もう敵も味方も何も無い。
「……シャイン。こうなるしか、道は無かったの……?」
亡き旧友をレモンは想う。
そして、火の粉舞う中でずっと空を見上げるイクサの後姿。
レモンは──それを眺める事しか出来なかった。
パトカーのサイレンが近付きつつある。それは、戦いの余韻を味わう余地すら彼らには残っていないことを意味していた。
※※※
上野公園を離れた頃には、もう既に夜も更けていた。
焼け焦げた芝生に、凍り付いた街灯、そして破壊された遊歩道。
報道の車、パトカーに救急車を横目で流しながら、イクサ達は──陸奥の病院に戻っていた。
当然、呆れたように陸奥は頭を抱えていたのであるが。
「あーのさぁぁぁー……」
当たり前のように診察台の上に居座っているメガを見て、陸奥は深々と溜息を吐く。
「此処は動物病院じゃないんだけどね!? ヘビも恐竜もお兄さんは専門外だよ!!」