恐竜の声が聞こえるのは僕だけ~異世界の侵略兵器は絶滅種でした~ 作:タク@DMP
「メガ、ラプトル……!」
その名を改めて聞き、イクサは己の持つ知識をフル稼働させる。
恐竜の最盛期の一つ・白亜紀のアルゼンチンやオーストラリアに棲息していたとされる、中型の肉食恐竜。
略奪者を意味する名前の「ラプトル」の通り、盗賊のナイフを思わせる曲がりくねった鉤爪が嫌でも目に映る。
だがそれ以上に、恐竜と意思の疎通が出来た事はイクサにとって最大級の興奮だった。
絶滅したと思われていた生き物と出会うのは、それほどまでに彼にとって大きな衝撃だった。
「すごいよ、恐竜が……出てくるなんて! これ、本物なんだよね!?」
「ありえないわ!!」
興奮に満ちたイクサの声を、少女の金切り声が遮る。
「キューブが勝手に起動するなんて!! それにあなた……恐竜の意思を理解できるの? それとも、この世界にも生き物の言葉を翻訳するテクノロジーがあるの!?」
イクサは──答えられなかった。
生き物の言葉が理解出来るのは決して普通の事ではないのは彼自身が一番理解していたからだ。
しかし、問答を重ねる前に──遠くから硝子が大きく割れるような音が響く。
「ッ……また、空が裂けてる!?」
「……あいつらが、来る」
「あいつら!? あいつらって一体誰なの!?」
少女は──忌々しそうに裂けた空の向こうを睨む。
「恐竜を兵器に変えた──侵略者。この世界は、狙われてるの! 貴方達から見た──異世界の侵略者に!」
恐竜。兵器。異世界。侵略者。
その言葉を脳内で反芻した。
これに比べれば、生き物の言葉が分かる、など些末なファンタジーに思えてしまう。
まるで映画や漫画やライトノベルのような突拍子もない話だ。
だが、恐竜が生きているのは──目の前にいるメガラプトルが証明している。
『ほう──今日は随分と大きな獲物だのう』
「分かるの?」
『妾は捕食者ぞ。獲物の気配くらい感じ取れる』
間もなく──稲光と共に、轟音が向こうの市街地に落ちる。
そして、大地を揺るがすような地響きが此方にも聞こえてきた。
まるで、霹靂の如き足音で大地が悲鳴を上げている。
「……来たわ。侵略キューブによって解放された恐竜よ」
「侵略キューブ……?」
「私達の世界では、キューブは本来生き物を安全に運ぶための技術だったの」
イクサの拾い上げたキューブを指差し、少女は言った。
「随分と便利な技術なんですね……?」
「ええ。恐竜を始めとした生き物を粒子化して、キューブのストレージ容量が許す限り保存ができる。遠距離移動や保護に使われた。でも──」
少女の目に影が落ちる。
「……それをあいつらは、悪用したの。恐竜をキューブの状態で送り込み、そして──解放する。侵略先を破壊する兵器として」
地響きと共に、町の向こうから長大な首が覗いた。
そして──甲高い咆哮が周囲の空気を揺らす。
ビルを追い越す程の体長、そして丸太の如き四つの脚、何より──鞭のような尻尾が打ち鳴らされれば辺りの車を跳ね飛ばしひっくり返す。
アスファルトは踏みしだかれ、ただ歩くだけで辺りに雷鳴の如き足音を響かせ破壊を振り撒く。
その姿を前にイクサは──思わずその名を呼んだ。
「ブロントサウルス……!! あんなデカい奴が暴れたら……町が大変な事になる!!」
古代を生きた巨大な竜脚類。
史上最大の草食生物であり、歩いただけで雷の如き音を響かせただろうことから「ブロント」の名を賜った恐竜。
本来ならば穏やかに草木を食んでいたはずのブロントサウルスは今──無慈悲に、そして無軌道に蹂躙するだけの兵器と化していた。
丸い頭部はバイザーのような機械に覆われており、意思というものを感じさせず、赤い光のようなものが灯っている。
そして全身には黒い紋様のようなものが浮かび上がっており、明らかに生物として不自然な姿だった。
『成程理解した。不愉快な事をしおるわ!!』
「あれが改造恐竜よ。洗脳装置で……自我を奪われてるの。命令のままに、死ぬまで町を破壊し尽くすわ!」
「ッ……」
イクサが壮絶な生態兵器を前に立ち尽くす中──声が彼の頭に響いた。
『イ、タイ、くる、しい……からだ、いうこと、きかない』
「ッ──」
イクサの表情が変わった。
困惑から──決意に。
「あいつ、苦しんでる。暴れたくて暴れたいわけじゃない。痛がってる……!!」
思わずイクサは立ち上がる。
だが──その手を少女は掴んだ。引き留める為に。
「バカ!! どうするつもり!? 貴方、死にに行きたいの!?」
「でも、放っておけないよ!! あんな声、初めてだ……苦しんでて、自由を奪われて、死ぬまで暴れさせられるなんて、間違ってる!!」
「貴方、戦闘経験はあるの!? 恐竜に乗ったことは!? 何処からどう見たって、そんな風には見えないわ!!」
「確かに僕は──身体は小さいし、喧嘩も弱いよ。だけど──生き物の声は聞こえる」
「聞こえたところで、貴方に何が出来るって言うの!?」
イクサは暴れるブロントサウルスに目を向けた。
彼の苦しむ声を聞いていると、イクサの胸も締め付けられるようだった。
「生き物の声なんて聞こえなかったら良かったのにって思ってた。だって──生き物の苦しむ声を聞くと……僕だって苦しいんだ……!! 何とかしてあげたいって思ってしまうんだ……ッ!!」
「ッ……貴方、優しいのね……」
「でも実際は僕がどうにかできることなんて、限られてるって分かってる。寿命だったり、病気だったり、そうして死んだ生き物をまた他の生き物が食べて──命は回ってる。だから、人間は手を出しちゃいけないんだ。でも……」
イクサは己の中の衝動にウソは吐けない。
「あの恐竜は人間に利用されて苦しんでるじゃないか!! それを助けたいって思うのは、間違ってるのかな!?」
少女は息を呑んだ。
恐怖でもなく、怒りでもなく。
ただ、イクサは──ブロントサウルスの命を心配している。
「……貴方、ヘンな人ね。見ず知らずの恐竜に命を懸けるだなんて」
「よく言われる」
『だが、妾は気に入ったぞ』
くるるる、と機嫌が良さそうにメガラプトルが腰を下ろし背中を差し出した。
「これって」
『イクサと言ったな。貴様は弱い。見るからに小さいし戦いの経験も何一つない、そのくせ理想だけは一丁前の半端者、狩りではすぐ死ぬ愚か者だ』
「……う、自覚はあるけど、そこまでボロッカスに言わなくっても……」
『だが、その愚行に妾も乗ってやる。ケガをした小娘よりは使いモノになるであろうからな』
くふふ、と見下すような視線をメガラプトルは少女に向けた。
「……なんかバカにされた気がするけど──」
『乗れ。あやつを止めるのであろう? 人の乗せ方は熟知しておる』
「……うんっ!!」
イクサはメガラプトルの背に飛び乗る。
そして──無意識にその頭に手を伸ばしていた。
羽毛に覆われた頭をイクサはわしゃわしゃと撫でる。
『って、何をする!? 撫でるでないッ!?』
「ありがとう、メガ。一緒に戦ってくれるんだね、よしよしよしよし」
『あ、そこはっ、あふんっ──なーでーるーなー!!』
「……扱いが大型犬じゃない……信じられないわ。初めて見た恐竜にやることがソレ?」
「何となく分かるんだよね、生き物の気持ちがいい場所」
「すっごく語弊があるわね……」
呆れたように少女が言った。
しかし──悪びれもせず、イクサは返す。
「だって、友達になりたいから」
少女は──黙った。
そして託すように続ける。
「……貴女のチカラ。世界を救うかもね」
その時──ブロントサウルスの足音が此方へ響く。
目の前にある建物など意にも介さず、逃げ惑う人々を散らしながら──巨竜が迫りくる。
だが、その咆哮は──怒りでも敵意でもない。
助けを求める悲鳴だ。
「行こう、
『なんて安直な名だ──しかし、悪くないッ!!』
メガラプトル改め──メガが駆けだす。
現代日本の街中、古代の猛者たちが暴れ出す。
そして、恐竜を兵器としてではなく──命として救う戦いが今、幕を開けた。