恐竜の声が聞こえるのは僕だけ~異世界の侵略兵器は絶滅種でした~ 作:タク@DMP
──結果。
早期にイクサ達がブロントサウルスを鎮静化し、キューブに保存したため最悪の事態は免れた。
しかし、既にネットやテレビでは実体化したブロントサウルスが大暴れしている様が放映されてしまっている。
町は破壊され、車は炎上し、窓ガラスは割れており──想定される被害を考えると気が気でない。
何より一部始終は報道のヘリで撮影されてしまっており、テレビに流れてしまっている。
【市街地に恐竜出現、大暴れ!? ビルが破壊され大損害、怪我人大多数】
その様をスマートフォンで眺めるのは──アロハシャツの上に白衣を纏った珍妙な姿の医者の青年だった。
金に染めてパーマをかけた髪をかきむしりながら、サングラスを指で直すと──医者はイクサに向き直る。
「いやー、イクサ君。大変な事になってんねー、東京。何時の間にジュラシックパークの世界になっちゃったの? おん?」
「……ア、アハハハハ、ソウデスネー」
誤魔化すようにイクサは目を逸らした。
自力で縛ったものの、やはりレモンのケガは見過ごせる物ではなかった。
そこで、自宅の近くにある病院に彼女を無理矢理引っ張り、手当しに来た次第である。
問題は──そこの医者が診察中にスマホで思いっきり件の映像を視聴していた点で、イクサは酷く肝を冷やした。仕事しろ医者。
「しっかし恐竜が出た場所がウチから離れててよかったよ。じゃなきゃ今頃、怪我人がこっちにも押しかけてきてただろうから、その子後回しになってたかも」
「本当に助かりました、陸奥先生」
「ありがとうございます」
「いーってことよ。ウチはいっつも閑古鳥鳴いてるからねー」
「自慢気に言うことじゃないんですけどね……」
それはそうだろうな、とイクサは陸奥の恰好を改めて見た。
アロハシャツにサングラス、そして白衣。年がら年中この格好をしている医者の所に誰が行きたがるのだろうか。
しかし、見た目はこの通りいい加減だが腕前だけは確かなのでイクサは昔から彼の世話になっていたのだった。
「それにしてもイクサ君。この人は……? 随分親しいようだけど」
言葉にはしないが「随分怪しい風貌の人だけど」と目で訴えかけてくるレモン。
それに対し無理もない、とイクサは首を横に振った。
「陸奥 出光先生。こう見えて整形外科のお医者さんで……昔からの知り合いさ。僕、今は家に両親が居ないから……陸奥先生にたまに面倒見て貰ってて」
「と言っても、彼のお父さんの知り合いで……便宜上保護者役やってるだけだぜ? 一緒に住んでるわけじゃないし」
「随分フクザツなのね」
「うん。色々あってね……」
「そうそうレモンちゃんだっけ? ……傷口化膿してたからウチの方で抗生剤出しとくよ。そういや保険証かマイナンバー持ってたっけ?」
カルテを打ち込みながら陸奥が聞いた。しかしレモンはそれが何の事か分からないので首を傾げ──そして正直に言った。
「持ってなくって……」
「もしかしてさぁ、ワケアリ?」
陸奥は──スマホの画面を二人に見せた。
そこには、ブロントサウルスの攻撃から逃げ回るメガの映像が映っていた。
当然、跨っているのは──イクサである。
「……この恐竜に乗ってるのってさ、イクサ君でしょ」
「ダ、ダレデスカシラナイデスネー……」
「いや、誤魔化すのヘタクソか? 一体何に首突っ込んじゃったの? 明らかに大事になってるし、タダ事じゃないし……何があったのマジでさぁー?」
「イクサ君……知人には全部バレてしまってるわ」
「医者として危ない事は見過ごせないなあ。一応君の父さんから預かってるわけだからね。何かあったらお兄さん怒られちまうよ」
口ぶりは軽いが──目は真剣そのもの。
「えーと陸奥先生……秘密にできますか?」
「大丈夫だいじょーぶ! お兄さん口が堅いからさあ」
「本当に大丈夫なのかしら……?」
「レモンさん……観念しよう。何かあった時に頼れる人が居ないのはマズい」
仕方がないので、イクサはレモンに目配せし──これまでの事を話すことにしたのだった。
空から突如、レモンが落ちてきたこと。
そして彼女の持っていたキューブから恐竜が現れたこと。
何より異世界からの侵略者が恐竜を送り込んできていること。
全てを聞き終えた陸奥は──じゅるり、と生唾を飲み込みながら言った。
「……マジで言ってる?」
「ニュースになってる巨大恐竜が何よりの証拠ですよ……」
「ちょいとファンタジーが過ぎるなあ!? いやしかし、君の言う通り証拠が出揃っちまってるし」
「ンじゃあ論より証拠ということで、此処でメガを出して──」
「おいおいおい何を出すって!? まさか恐竜か!?」
「それ以外に何があると?」
「やめておくれよ!! 院内には一応看護師も居るんだぜ!? 見られたらどうするんだ!! 分かった、信じる。信じるからマジで」
キューブを徐に取り出したイクサを必死で腕を掴んで止める陸奥。
「じゃあ、そこのお嬢さんは異世界のお姫様ってわけだ。上手いこと知り合いになって……主人公かキミは!?」
「邪だなぁ」
「あーあ、お兄さんだって可愛い女の子と青春したかったんだぞう」
「イクサ君、やっぱりこの人ちょっと様子がおかしいわ」
「それにしても君ィ? どうしてまたここにやってきたんだい? 空から落ちてくるとか、昔の映画じゃないんだから」
「……説明した方が良さそうね」
診察室のベッドに腰かけたレモンは──画面の割れたタブレット端末を取り出した。
「改めて──私はレモン・シトラス。此処とは違う世界からやってきたわ」
「この世界に来た理由は?」
「侵略者を止める為。私達はレジスタンスで、侵略者と戦っていたの」
「侵略者とやらの目的は何なんだい? 何故わざわざ兵器とかじゃなくて恐竜を使うんだい?」
陸奥の問にレモンは簡単よ、と答えた。
「私の居た世界ではクローン技術が発展してるの。恐竜を始めとした絶滅動物をクローニングして自然に還して生態系を再生しようとした」
「じゃあ、レモンさんの居た世界でも恐竜は一度絶滅したってこと!?」
身を乗り出し、イクサは聞いた。
そんな彼を無理矢理丸椅子に座らせ「ちょっと落ち着きなよ」と陸奥は諫める。
「驚きだな。ウチの世界より随分と技術が発展してるみたいだねェ?」
「今、私達の世界で生きている生物たちの殆どはクローンか、その子孫ってことになる。それほどまでに一度、文明が崩壊して……人類の存続が難しくなった時期があるの」
「異世界って言うから、剣と魔法のファンタジーかと思ったら、科学とクローンのSFだったってことか」
「そして侵略者は、その技術を悪用して他所の国や世界に進出しようとしているってわけか」
「あいつらの次の狙いが異世界──貴方達から見たこの世界──と知った私達は、先んじて転移装置で移動する事にしたの。この世界で奴らを返り討ちにするため。この世界に警鐘を鳴らすため」
「異世界転移って、そんな軽いノリで出来るのかい……? お兄さん耳を疑ったんだけど」
「軽くなんかないわ!」
レモンが陸奥に声を荒げた。
そして──感情が高ぶってしまった事を悔いるように「ごめんなさい」と続ける。
「……敵から鹵獲した転移装置。それを必死にみんなで修理したのよ」
「そうだったんだ……」
「どうやら、その侵略者とやらの技術は君達の基準でも相当高いみたいだねえ? それで君は転移装置を使ってこの世界にやってきた、と。じゃあ他に仲間が居るのかい?」
「それが──いざ転移しようという時に拠点が襲撃を受けて……転移できたのは私だけだった」
彼女の面持ちは悲痛なものになる。
心細いに違いない、とイクサは考える。
まだ自分と同じくらいの年の少女が恐竜と共に戦い、そして仲間と逸れて異世界に単身やってきたのだから。
「そう、だったんだ……」
「ついでに──相棒とも転移中に逸れてしまって……荷物もこのタブレットしか残っていないし……最悪よ」
「相棒? そっか、レモンさんも恐竜に乗ってたんだ」
「恐竜というか──蛇よ」
「蛇?」
イクサは聞き返す。
「クローンは恐竜だけじゃない。様々な動物がいるの。私の相棒は──ティタノボア。名前は……カガチっていうの」
「ティタノボア? ボアって言ったらヘビのデカい奴だっけ。最近ちょっとネットで話題になってたな」
「ボアはヘビの仲間の一種を指すんですよ。ティタノは巨人を意味します。そして──恐竜が滅んだあとの時代のコロンビアに生息していた史上最大のヘビがティタノボアだよね」
こくり、とレモンは頷く。彼女は明らかに心配そうな面持ちだった。
神経質そうに髪を指で巻きながら遠い目。
「そう、とにかくカガチは……というかティタノボアは大きいのよ。そして好戦的。誰かに見つかったり騒ぎを起こしたりしなければ良いのだけど……」
「一緒に見つけよう、レモンさん」
イクサはレモンの手を取る。
「きっと、君の相棒だって心配しているはずだからさ」
「ッ……ち、近いわ」
「ああ、ごめんっ!!」
顔を赤くして目を逸らすレモン。
思わず手を離してしまうイクサ。
そんな二人を見て──呆れたように陸奥は言ったのだった。
「イクサ君さぁー……そういうジゴロムーブ、一体誰に似たのかな? お兄さん教えてないぞう」
※※※
──東京湾・近海。
暗い夜の海に、不穏な影がうねっていた。
全長13メートルは優に超える長大な大蛇。
鰓から水を排出しながら悠然と水の中を舞い泳ぎながら──目についた鮫に襲い掛かり、喰らいつく。
『弱い、弱い弱い弱いッ!! あんまりにも弱すぎますわッ!!』
毒牙を深く深く食い込ませ、仕留めた鮫を丸呑みにした大蛇は──ギラギラと金色の目を輝かせ──本能のままに地上を目指す。
『レモン様……レモン様。ああ、愛しの我が主!! 何処に行かれたのかしら!! 貴女と共に戦う事こそ我が悦びだというのに、こんなことはあんまりですもの!!』
主の名を呼びながら──大蛇は体をうねらせ、海を進撃する。
『叶うならば……今すぐにでも、お迎えに上がりたいのにッ!!』