恐竜の声が聞こえるのは僕だけ~異世界の侵略兵器は絶滅種でした~ 作:タク@DMP
「──猫たちに話を聞いたところ、多分この辺だと思うんだけど」
「貴方のチカラ、こういう時は便利ね」
「町の猫とは大体知り合いだから。うるさいし自分勝手だけど、自分の縄張りに変なモノが入ってきたら教えてくれるんだ」
「縄張りの範囲、随分と広いじゃない……大分歩いたと思うのだけど?」
「猫は気まぐれだからね」
2時間後。
イクサ達は町はずれの河川敷に来ていた。
本来ならばまだ安静にしているべきレモンであるが──
「カガチが居るなら、先ず私が出迎えてあげなきゃだもの」
ということで、ケガを押してやってきたのである。
イクサは少し不安になった。もしも巨大蛇がティタノボアのカガチだったのならば、それで良い。
しかし問題はカガチではなかったときだ。侵略者に改造された恐竜の場合、イクサ達に牙を剥いてくる。
そうなった時に備えて、キューブからいつでもメガを出せるようにしているのであるが、最悪の展開は幾つ考えても尽きない。
「しかし意思の疎通ができるか不安だな……さっきああいった手前、悪いんだけど」
「あら、貴方でもそう思う時があるの?」
「気を悪くしたらゴメン。だけど爬虫類は基本的に飯の事しか考えてないからね」
動物園でヘビやワニと話そうとして、あまりの知能の低さに愕然としたことをイクサは思い出した。
彼らは目の前のものを食べられるかどうかでしか判断していないのである。
そして、腹が減っていれば飼育員ですら食べられるかどうか吟味するので、本当に見境というものがないのでドン引きした。
勿論、何事にも例外はある。人と長い間過ごしたことで一緒に泳ぐようになったワニの話をイクサは知っているので、全ての爬虫類がそうだとは言い切れない。
しかし、傾向として爬虫類は見た目以上に知能が低いということをイクサは実体験も込みで知っている。
「同じ爬虫類でも恐竜はどうなのよ」
そこで至極真っ当な疑問をぶつけるのはレモンだ。
しかし、これに対してもイクサは既に答えを得ていた。
「恐竜はまた別さ。恐竜ってのは、爬虫類の中でも特別な進化を遂げてるからね。ティラノサウルスはワニや鳥のような現生生物ではなく、それこそ文字通りティラノサウルス的な思考をしていたと考えるべき……っていうのが最近の主流の考えさ」
「ティラノサウルス的な思考? つまり、他の生き物のものはしで考えるなってこと」
「そうなるね」
閑話休題。
「その上で、カガチが君と絆を結んでいるならそれはとてもすごい事だと思う。君があそこまで言うんだ、カガチもきっと──君を探してるはずだよ」
「ふむ、貴方の見解は概ね正しいかもしれないわ。ただ、一つだけ誤解がある」
「何なのさ」
「カガチは人間に随伴することを前提に作られた第二世代型のクローンよ。だから、そこらの蛇よりよっぽど頭が良いの」
イクサは目を丸くした。
それで、レモンとも意思の疎通が出来ていたのか──と納得する。
「第二世代型? さっきも言ってたけど、クローンにも色々あるんだな」
「要するに、知能だけを高めた特殊な個体ってこと。多くのクローンや野生化した恐竜は第一世代型なのだけど……メガやカガチは第二世代型だわ」
「……どっちにせよ、君達の世界の生き物は大分人の手が入っているようだ」
良いのか悪いのか一概には言えないけど、とイクサは付け加える。
「どっちにしても、カガチは私の相棒に変わりないわ。ちょっと性格に難があるけど……」
レモンがそう言った時だった。
イクサはレモンを手で制し、水辺から遠ざける。
「ッ……どうしたの?」
「殺気を感じる──メガ!! 構えてッ!!」
キューブを取り出すイクサ。
そうして──レモンの方に振り向いた。
キューブはうんともすんとも言わないのである。
「……ところでこれって、どうやって起動するんだっけ」
「そう言えば教えていなかったけども! ええと、ここのホログラムを展開して……」
レモンがイクサのキューブを手に取り、あれこれ触っているうちに──水の冠が川から上がる。
二人は思わず走って水際から離れた。
間もなく──暗い夜の川に、巨大な影が現れる。
長い長い首、そして月に照らされる金色の眼球が夜の闇に光った。
「で、出たーッッッ!?」
思わずイクサは懐中電灯の光を照射する。
そこに露になったのは、巨大な蛇の頭であった。
『レモン様ッ!! ああ、レモン様ですのねッ!! やっと会えましたわッ!!』
「ッ……え、あ……?」
イクサは戸惑う。
水面から出ているだけでも5メートル以上はあろうかという巨大な蛇。
しかし、そこから発せられるのはやたらと上品な令嬢のような声だった。
懐中電灯に照らされた蛇の頭部を見たレモンは思わず駆け寄る。
「カガチ!! カガチなのね!? 私の事、わかる!?」
『ああ、愛しの我が主! きっとまた会えると信じておりましたわ!』
首を伸ばすカガチ。それに抱き着くレモン。
キューブの翻訳機能が無いので、互いの言葉は通じていないが──それでも絆は確かに感じられた。
そして、一頻り抱きしめた後、レモンはキューブの翻訳機能を起動する。
これでレモンの言葉もカガチにはっきりと伝わるようになり、カガチの言葉もレモンに伝わるようになった。
「カガチ。そう言えば、貴方……私の荷物は持ってるのかしら」
『ええ、ええ、ええ! もちろんですともぉ! 私、あの転移中の時空のうねりの中、確かにレモン様の荷物はしっかり守りましたとも!』
「守った? 手も無いのにどうやって?」
『それは勿論──”キラキラキラキラキラキラ”』
べしゃっ。べちゃべちゃ。
二人は──言葉を失った。
カガチの口から胃液塗れのカバンが落ちてきたからである。ついでに横には、丸呑みにされたであろう鮫の死骸がセット。
カバンはどろどろの何かが纏わりついており、触っていいかどうかも分からない。
恐らくこの中に大事なものや、レモンのキューブが入っていることは明白なのではあるが──
「お、お手柄よ……カガチ。うん。うん! 流石私の相棒だわ! ……うん」
「中身が無事なら良いとは思うけど……レモンさん……ドンマイ」
※※※
「あった! あったわ、私のキューブ! 取り合えずこれさえあれば何とかなる!」
どろどろになったカバンからキューブを取り出し、レモンは安心したように息をついた。
尚、胃液塗れのカバンはあちこちが溶けており、最早使いモノにはならない。
とはいえ、最も重要な荷物の一つを守り切ったのは確かである。
『ところで、そこの貴方』
「うん? 僕?」
ちらり、とカガチがイクサの方を見遣る。
『キカイが無くとも私の言葉が分かりますのね?』
「うん、聞こえるよ」
『そのキューブ……レモン様を守っていただいたのですね?』
「守ったって言うか……勝手に僕が飛び出したというか」
『うふふ、どちらでも構いませんわ』
牙を剥き出しにし、カガチが笑う。
──笑うという行為には敵意を剥き出しにするという意味があることをイクサは思い出した。
『……一度、手合わせを願いたいですわね』
「ッ──カガチ!?」
「いや、手合わせって──」
『この近海の鮫共は、どいつもこいつも弱くてお話になりませんでしたの! 血湧き肉躍る! そんな戦いこそ私の存在意義!!』
「……発作が出たわね……」
「戦いって……」
「これがカガチの悪い癖よ。闘争の為の闘争。戦いに飢えてるの」
『それだけじゃない。貴方、私を恐れていないでしょう? 果たしてどれ程の戦士か、興味がありますわ!』
「カガチ、大人しくして頂戴。イクサ君は戦士じゃないわ」
『だとしても──』
『──やれやれ、どんな奴かと思えばとんだじゃじゃ馬、いやじゃじゃ蛇ではないか』
イクサが握っていたキューブが光り輝く。
次の瞬間、そこには実体化したメガが立ち、カガチに相対していた。
「メ、メガ!? 勝手に出て来ちゃったの!?」
『さっき色々弄っておったろう! おかげで目が醒めてしもうたわ! それより……おいヘビ!! 妾の相棒に手を出すつもりか?』
『成程、貴女。その見掛けで歴戦の狩人ですのね! 楽しめそうですわ!』
「カガチ、ダメよ!! それ以上は許さない!!」
「二匹共、落ち着いて! 仲良くするんだ!」
レモンはカガチの前に。
そして──イクサはメガの前に立つ。
一触即発の空気がその場に流れる。
だが──
『『面白い』』
──メガとカガチは同時に笑った。
『狩りではなく、闘争に意味を見出すか。貴様、なかなか変わっておるのう。だが、嫌いではない』
『今回の所は大人しくしてあげますわ。我が主の命令ですもの。でも、この滾りに滾った炎は早々消えないものと思ってくださいまし』
『お互いに大変だのう』
『そちらこそ。苦労しますわよ』
イクサとレモンは顔を見合わせる。
会ったばかりだというのに──両者の間には奇妙な友情が既に芽生え始めていた。
「……尊大な者同士、通じ合っちゃったのか……?」
「やっぱり分からないわ……貴女達の事……」
ともあれ。
二匹の古代の戦士は一旦は矛を収めた。
そして、イクサに──新たなる仲間が加わったのである。
──しかし。
「まさか、この世界に生き残りが居るとは」
──イクサ達を見つめる、黒い影。
その手には禍々しい光を放つキューブが握られていた。
「生体認証を突破し、パンドラの箱を開いた。あの少年……我々の計画に、是非ともほしい」
ティタノボア 生息年代:暁新世 全長13メートル
恐竜が滅んだ後の時代を生きた巨大な蛇の一種。その体重を逃がす為に半水生だったのではないかと考えられている。NTRの間男を捕食したりはしない。