恐竜の声が聞こえるのは僕だけ~異世界の侵略兵器は絶滅種でした~   作:タク@DMP

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第10話:棘の竜

 全長は優に15メートルを超える古代の頂点捕食者の一角。

 それが噴水の縁を砕きながら水を飲み干していく。

 しかし、足りない。足りるはずがない。彼の中を埋め尽くす不愉快な熱を消すには至らない。

 

 

 

『あ、ぁあ、? かわ、く、乾くゥウウウウウウウッッッ!! あつい、あつい、あついイイイイイ!!』

 

 

 

 噴水を前脚で力任せに薙ぎ払えば、女神を模した石膏像諸共圧し折れ跳ね飛ばされる。

 危険を感じてか、既に人の姿は遠のいていた。イクサとレモンは同時にキューブを起動させる。

 

解放(リベレーション)・メガラプトル』

解放(リベレーション)・ティタノボア』

 

 機械音が無機質に鳴り響くと共に、メガ、そしてカガチが並び立ち、狂い悶えるスピノサウルスに相対するのだった。

 

「ごめん、メガ!! 早速だけど緊急事態ッ!!」

『寝起きがこれとは何とも竜使いの荒いヤツよの!!』

『キャハハハハハァ!! 怖いのなら引っ込んでおきなさいなァッ!!』

『あァ!? 怖くないが!? 妾怖くないが!?』

「こんな時まで喧嘩は止しなさいな!!」

 

 怒鳴るレモン。

 しかし、それを待つスピノサウルスではなく──メガとカガチ目掛けて長い爪を生やした前脚を大きく振り上げながら襲い掛かる。

 

「──避けてッ!!」

 

 散開する全員。

 凄まじい威力の引っ掻きが床を抉り取る。

 全長だけながら同格のカガチだが──体格も含めれば、遥かにスピノサウルスの方が上だ。

 

『あ、乾──標的、排除、排除──蹂躙』

 

 加えて──スピノサウルスの頭部の兵器からは光線弾のようなものが次々と放たれて、辺りの物を焼いていく。

 

『お構いなしかコヤツめ!!』

 

 その光線弾を次々に躱し、顔面に張り付くメガ。

 しかし、暴れ狂うスピノサウルスは地面に頭を強く叩きつけ、そのままメガを吹っ飛ばしてしまうのだった。

 

『がぁっ!?』

「メガ!! しっかり!!」

 

 跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられたメガに駆け寄るイクサ。

 同じ肉食恐竜と言えど、メガとスピノサウルスでは体格が二回り近く違う。

 正面から戦っても勝ち目はない。

 

『あんなに暴れられたら近付けませんわ!! 締め上げて毒牙でガブッとすればイチコロですのに!!』

「ダメよカガチ!! 殺したら!!」

『はぁー!? そんな事を言ってられる場合ですの!?』

「カガチ。スピノは暴れたくて暴れてるわけじゃないんだよ!?」

『その間にヤツがどれほどの被害を出すと思っていますの!?』

「そ、それは……」

 

 しかし、スピノサウルスは言い争う彼らの事など歯牙にもかけず、踵を返して四足で走り出してしまう。

 

「あっ、あいつ逃げたわ!!」

「多分本能的に水を求めてるのかも……!! 追いかけよう!!」

 

 両者は相棒の恐竜に騎乗し、そのままスピノサウルスを追跡する。

 幸い、陸地のスピノサウルスはぎこちない走り方だ。水かきのついた足では上手く地面を捕えられていない。

 

「水を求めてるって、どうしてそんなことが分かるの!?」

「声が聞こえた! 水に入れば苦しみから逃れられるんじゃないかって思ってるんだ……!!」

 

 イクサは腕を抑える。

 嫌でもスピノサウルスの苦悩が、そして胸の内から焼かれるような痛みが伝わってくるからだ。

 

「だけど、スピノサウルスは水辺の王者! 水に入れたら余計に手が付けられなくなるわ!」

「そうだね、幼稚園児でも知ってる常識だ……ッ!」

『言ってる場合ですの!? あいつ、人を殺しますわよ!! このままだと確実に!! 速やかに息の根を止めないと──』

「……確かにカガチの言ってることは正しいよ。でも……苦しんでるあいつの事は放っておけない……ッ!!」

『甘いですわ! 被害が出てからでは遅いんですのよ!?』

「じゃあ、被害を出さない場所に追い込めば良い。今此処で正面からあいつと組み合っても、勝ち目は薄いと思う」

「そんな事できるの!?」

「可能だよ。レモンさん、僕はこれでもこの辺の地理には詳しいんだ。カガチも──メガも。僕の作戦に付き合ってくれないかな?」

『……何か考えがあるのだな?』

「うん。特に──水中じゃないと全力を出せないのは、君も同じだろう? カガチ」

 

 ちらり、とイクサはカガチの方を見る。

 不満そうに舌をちろちろと出していたカガチだったが──一通り作戦の事を話した後、カガチは諦めたように溜息を吐いた。

 

『ハァー……なかなか無茶な事を考えますわね』

「カガチ。この辺の地理は現地人の彼に任せた方が良いわ」

『それはそれとして、何でも見透かされてる気がして気に食いませんの』

「あいつを誘き寄せる囮役は、僕達がやるよ。良いよね? メガ」

 

 バチン、と尻尾を打ち鳴らしたメガは鼻息を荒く吐き出し──加速した。

 

『全く、向こう見ずは相変わらずだのう!! 乗ってやるぞ、貴様の愚行にッ!!』

「うんっ……! 僕も命を張るよ!」

 

 駆けだしたメガ。

 スピノサウルスよりも圧倒的に小回りと機動力の効く足で全力疾走し、先回りする。

 その隙にレモン共々、カガチはその脇を摺り抜けた。

 

『せいぜい死なないように足掻くことですわね!! キャハハハハッ!!』

『そっちこそ、しくじるでないぞ!!』

 

 改めて、スピノサウルスと相対するメガ。

 進路を塞ぐ対象に対し、スピノサウルスは確かに視点を合わせる。

 

『邪魔だッ!! 退け──排除、排除、排除』

「やっぱりだ。こっちを敵として認識してくれた! 時間を稼ぐよ、カガチ!」

『おうッ!! 任せておけ!!』

 

 光線弾が地面を穿つ。

 そして、飛び退いたメガに目掛けて跳躍したスピノサウルスは覆い被さるようにして飛び掛かった。

 だが──すんでのところでバックジャンプで躱すメガ。

 衝撃でフローリングが砕けて捲れ上がる。

 しかし──後ろを振り向いてカガチの姿が遠くなったことを確認したイクサは叫んだ。

 

「引き付けるよ、メガ!!」

「おうとも!」

 

 踵を返し、駆けだしたメガ。

 店の看板、植木、オブジェ、辺りにあるもの全てをお構いなく跳ね飛ばしながら追ってくるスピノサウルス。

 しかしイクサは安堵する。その道中に人の姿は無い。

 

 ──先ず、レモンさんとカガチにはショッピングモールを出てほしいんだ。その間に、道中に居る人を追い払って!

 

 ──私が脅せばイチコロですわ!

 

 ──私の方からも逃げろって警告はしておく。そも、こんな大きなヘビが迫ってきたら皆命の危険を感じるに決まってるわ。

 

 ショッピングモールの自動ドアが開く。

 そこから──メガが跳び出し、遅れて強化硝子をブチ破ってスピノサウルスも飛び出した。

 入口から離れてで固唾を飲んでいた人々も皆、逃げ出す。 

 道路に降り立つと、車から降りる人々が次々に逃げていく。

 

「しまった、思ったよりも遠い──道路を挟んで寺院を突っ切って、もう一回道路を突っ切らなきゃだ……!!」

『だから貴様は向こう見ずなのだーッ!?』

「かと言って、真正面から戦って勝ち目はないよ! ブロントサウルスの時とは違うんだ!」

 

 誰も居なくなった車を踏み潰し、咆哮するスピノサウルス。

 そのまま両者は美術館を堂々と横切り、寺院の柵を飛び越えた。

 後から続くスピノサウルスもまた、柵を押し倒して大口を開いて襲い掛かる。

 本当にこの選択が正解だったのか、という疑念がイクサの中に浮かんできた。

 恐竜の力はあまりにも強大で、無軌道で、目の前の物全てを破壊していく。

 

『なあイクサよ!! これ、却って被害を増やしておらんか!?』

「一応、一番被害が少なそうな道を選んでいるけど!!」

 

 参道を思いっきり突っ切り、再び道路へ飛び出す。

 イクサは──目の前の視界が思いっきり開けたようだった。

 大きく広がる巨大な池が見えた時──スピノサウルスの様子が変わった。

 

『水!! 水水水水ッ!! 水ーッ!!』

 

 あろうことかスピノサウルスはメガを飛び越えて、池へと直進。そのまま飛び込んだのである。

 

『あ、あいつ、妾達が飛び込む前に先に──!!』

「いや、良い誤算だ。手間が省けたよ」

 

 そして遅れて──再びスピノサウルスは水面から飛び出した。

 その身体には巨大ヘビであるカガチが巻き付き、拘束していたのである。

 

「──此処は上野の名所の一つ・不忍池!! 此処ならもう、逃げ場はないッ!!」

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