その後も俺たちは進んだ。
「して八幡、我の新しい小説の設定が出来たのだが?」
「エイトマンな、今は」
一応、訂正しておいたが、多分治らないだろうな。俺だってこいつを剣豪将軍とか呼びたくないし。
「で、それが何?」
どーせ「別に見せてもいいんだが?」的な腹立つイントネーションで少し上からで言うんだろ?分かってんだよ。
「別に見せてもいいんだが?」
一字一句間違えずに完封勝利しちゃったよ。
「いやそういうのいいから、まずは完成原稿を持ってこいよ。本当にお前その辺は変わってねぇのな」
「今回のは自信作なのだ。これが完成すればアニメ化され、声優さんと結婚出来るかもしれん」
「アニメ化されても声優さんと結婚は無理だろ。てか、自信作なら早く原稿を書けよ」
と、なんだか懐かしいやりとりをしながら廊下を進む。
「何々?剣豪さん、小説書いてるの?」
突然、リーファが入ってきた。
「えっ⁉︎お、おううんはい」
おい、返事三回したよ。つーか一発で素に戻るのなこいつ。
「今度見せてよ」
「え?や、いや……あ、あれは、その……う、うむっいや、はい……」
戸惑い過ぎだろ。高校の時より悪化してんじゃねぇか。見ればチラッチラとこっちを見ている。こんな奴、ほっといてもいいとも思うが、ちょっと可哀想で見てられない。
「あー、リーファ。まだそいつ原稿書いてないんだ。完成したら見せてやるから」
「ゲェッ⁉︎八幡⁉︎」
「分かった!楽しみにしてるねー」
すると、材木座が俺の肩をいきなり組んでくる。
「お、おいどういうつもり?俺に自殺して欲しいの?」
完全に素に戻ってるよ。そのまま巣に戻ってくんないかな。
「安心しろ。完成したら、って言っただろ。永遠に完成してないって言っとけばなんとかなるだろ」
「むぅ……流石屑の王者……」
「お前に言われたくねんだよ。つーかお前こそどういうつもり?せっかく女子がお前に声掛けてくれたのに。もう二度とないんじゃねぇのか?」
「むう、確かにそれはあるかもしれん。それに少しならサラマンダーの女性と話すことも可能だ」
おぉ、少し成長してるじゃねぇか。
「だがしかし、それはリアルで顔が見えないから可能なのだ。しかし、彼女らは八幡の知り合いであろう?もしかしたらリアルで遭遇する可能性も無しに非もあらず……」
「いやねーから。そういう希望は捨てろって言ったろ」
大体、そう思うならまずその中二キャラを捨てろよ。と、思った時だ。
「出して……」
声がした。見ると、氷の檻に入れられた女性が中にいた。わ、罠臭ぇーー………。同じ事を思ったのか、助けようとするクラインの襟をキリトが掴んだ。
「罠だ」
「罠よ」
「罠だね」
キリト、シノン、リズと謎のジェットストリームアタックが決まる。
「お、おう……罠だよな。……罠、かな?」
クラインが言う。ちなみに材木座も隣で「罠なの…?」みたいに呟いていた。だが、更にそのバカマンダー2人に、
「罠だよ」
「罠ですね」
「罠だと思う」
と、アスナ、シリカ、リーファと言った。いや実際、罠だとは俺も思う。そのまま俺たちが通り過ぎようとした時だ。
「幻紅刃閃ァァァァッッッ‼︎‼︎‼︎」
気が付けば材木座が檻を壊していた。今まで、何回材木座に殴りたいと思ったかは分からないが、今回はぶっちぎりでイラっとした。
「おい、材木座……」
文句をいってやろうと口を開きかけた時だ。俺の前にクラインが出て来て、材木座の手を熱く握った。
「おい剣豪!お前ならやってれると、思ってたぜィ!」
「むは?むははははっ!我くらい偉大になるとこれくらい当然の事であろう!」
………バカマンダー同士、分かり合えたようで何より。イイハナシダナー。見れば全員が大きくため息をついていた。
「なんか、すまんな……」
代わりに謝っておいた。
「気にするな。悪いのはエイトマンじゃない」
で、材木座は腹立つ声でNPCに手を差し出した。
「ありがとう、妖精の剣士」
「弱き民を助けるのも、将軍の努めよ。気にするな」
あー……こ、殺してぇ……。
「私はこのまま城から逃げるわけにはいかないのです。巨人の王スリュムに盗まれた、一族の宝物を取り戻すために城に忍び込んだのですが、三番目の門番に見つかり、捕らえられてしまいました。宝物を取り返さずして戻ることは出来ません。どうか、私を一緒にスリュムの部屋に連れていって頂けませんか」
「え?う、うむ……」
で、俺を見る材木座。俺に判断を委ねられても困るので俺はキリトを見た。すると、ため息をつくキリト。
「はぁ……分かったよ剣豪さん……」
「ふむっ…妥当な判断と言えよう……」
「む、ムカつく……」
「抑えろキリト」
そんなわけで、新たな罠丸出しの仲間が出来た。