僕のヒーローアカデミア -DBLEGENDS- 作:熱いおゆ
初めてベジータ一人だけを呼び出した夜、アキトは緊張のあまり、なかなか声をかけられずにいた。
河川敷、人気のないことを何度も確認してから、シャロットに促されるまま、視界のアイコンをタップする。光と共に姿を現したのは、あの十連の日に見た通りの、鋭い目つきの男だった。
「――今度は一人で呼び出したか。少しはマシな心構えのようだな」
低く、威圧感のある声。アキトは思わず息を呑んだ。
「あ、えっと……よろしくお願いします」
「ふん。ようやく骨のある用件か」
「シャロットから聞いてると思うんですけど、三か月後に、この体の実力だけで試験を突破するつもりです。個性に頼らず、地力だけで」
「悪くねえ心構えだ。中途半端に力に頼るやつよりは、よほど見込みがある」
意外にも肯定的な言葉に、アキトは少し驚いた。
「そう、言ってもらえると思ってなかったです」
「勘違いするなよ。褒めたわけじゃねえ。ただの評価だ」
「はは、そういうところ、シャロットと似てますね」
「あの若造と一緒にすんな」
近くで聞いていたシャロットが、「おい、聞こえてんぞ」と口を挟む。ベジータは意に介さず、続けた。
「星1の状態じゃ、大した力は出せねえ。だが基礎の鍛え方次第で、伸びしろは変わる。分かってんだろうな」
「はい。星を上げるには被り――同じキャラを引き当てる必要があるんですよね。それまでは、地道にレベルとソウルブーストで……」
「甘い理屈はどうでもいい。動け」
有無を言わさず組み手が始まる。アキトは何度も地面に転がされながら、それでも食らいついた。ベジータは容赦なく、しかし確実に、動きの一つ一つを見て叩き込んでくる。
「息を吐くタイミングが遅い。無駄な力みが多すぎる」
「く……っ、了解……!」
「なあ、お前」
組み手の合間、ベジータがふと尋ねた。
「なぜそこまでヒーローとやらになりたい。強さを求めるだけなら、他にもやり方はあるだろう」
アキトは息を整えながら、少し考えて答えた。
「正直、まだ自分でもよく分からないんです。ただ、この体に残ってた『誰かを助けたい』って気持ちだけは、なぜか消えてなくて」
「他人の想いの受け売りか」
「そうかもしれません。でも、今の俺の中にある感情なのは、本当なので」
ベジータはしばらく黙り込んだ後、ふん、と鼻を鳴らした。
「悪くねえ根性だ。だが、まだまだだな」
「褒めてるのか貶してるのか分かんないですね、それ」
息も絶え絶えに言い返すアキトに、ベジータは珍しく、微かに口の端を上げた。
「――今日はここまでにしといてやる。次も同じ時間に来い」
そう言い残し、ベジータの姿が光の粒子となって消えていく。
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一人になった河川敷で、アキトはふと、あの十連の日に会った他の面々のことを思い出していた。
「なあシャロット。あの日出てきた人たち、みんな今も『いる』んだよな。呼ばなきゃずっと待機ってことか」
「そうだ。俺やベジータみたいに頻繁に呼ばれるやつもいれば、一度も呼ばれず、育成もされないまま眠ってるやつもいる。まあ、ぼちぼち顔を出してやれ」
「亀仙人とかブルマとか、なんか濃いメンバーだったもんな……」
「あの短時間でよく名前覚えたな、お前も」
「そりゃ、まあ……色々思い入れがあるというか」
言いかけて、アキトは口をつぐんだ。この世界の誰にも共有できない「思い入れ」を、うっかり口にしそうになったことに気づいたからだ。シャロットだけが、その空気を察したように、それ以上は追及してこなかった。
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その夜の夕食時、食卓の脇には学校から配られた『進路および個性詳細調査票』が置かれていた。
数日前、アキトが意を決して「……なんか、個性が発現したみたいんだ」とおそるおそる切り出した時の光景を、アキトは今でもよく覚えている。
あの時、父親は手に持っていた箸を落とし、母親は抱えていた味噌汁の椀を両手で強く握りしめたまま固まっていた。十四年間ずっと「無個性」として育ち、半ば諦めかけていた我が子からの突然の言葉。
『ほんとうに……? 無理して、気を使わなくていいのよ……?』
『どんな個性でも……いや、たとえ違ったとしても、お父さんたちは味方だからな』
泣きそうな顔で、喜びと不安が混ざり合った複雑な表情を浮かべていた二人。信じたいけれど、期待して傷つくのが怖い――長年我が子を見守ってきたからこその葛藤が、その動揺から痛いほど伝わってきたのだった。
あれから数日、アキトの日常は大きく変わり始めていた。
毎朝、暗いうちから河川敷へ向かい、シャロットの指導のもとで走り込みと体幹トレーニング。夜になればベジータを呼び出し、容赦のない組み手で泥だらけになるまでしごかれる日々。体中に青あざを作りながら帰宅するアキトを、両親は「急に体を鍛え始めて大丈夫か」と心配しつつも、何も言わずに温かいお風呂と栄養のある食事を用意して見守ってくれていた。
腫れ物に触るような気遣いと、確かな温もり。そんな静かな数日間を経て、今夜の食卓がある。
父親が、食卓の上のプリントにそっと視線を落とした後、お茶を一口飲んで静かに切り出した。
「アキト。……学校から連絡があってね。個性の書き換え手続きのこと、そろそろ先生に伝えないといけないんだが……どうだ?」
「あ……うん、そうだよね」
「担任の先生には『発現の兆候がある』とだけ伝えてあるんだが……実際、どういう個性なのか、聞かせてもらってもいいか? ずっと心配で、気になってたんだ」
食卓の空気が、わずかに張り詰めた。
アキトは静かに箸を置き、言葉を選びながら口を開いた。
「まだ、自分でも全部は把握できてないんだけど……何て言うか、離れた場所に、一時的に『何か』を実体として呼び出せる、そういう個性みたいなんだ」
「実体として……」
「うまく説明できなくてごめん。制御もまだ危なっかしいから、当分は人前で使わないようにしてる。学校にも、時期を見てちゃんと説明するつもり」
父親は少し黙り込んだ後、静かに頷いた。
「そうか。……無理に聞き出す気はないんだ。ただ、な」
「うん」
「お前が、何年も『個性がないかもしれない』って不安を抱えてたの、知ってるから。それが、こんな形でも発現してくれて――正直、ほっとしてる部分もあるんだ」
不意打ちのような言葉に、アキトは胸の奥が詰まるのを感じた。この体に流れ込んできたのは自分の意識だが、その両親から向けられる想いは、紛れもなく「星宮アキト」という一人の少年に対する十四年分のものだ。
「……ありがとう。ちゃんと、大事にするから」
短い返事しかできなかったが、それだけで、父親は満足そうに頷いて、また箸を動かし始めた。母親も、少しだけ潤んだ目で微笑んでいる。
食後、自室に戻ったアキトに、シャロットが小さく声をかけた。
「うまく誤魔化したじゃねえか」
「誤魔化したっていうか……あれは、噓じゃないからな。制御が危なっかしいのも、実体を呼び出せるのも、全部本当のことだし」
「まあ、そうだな」
「ただ、こう……この体の親を、これ以上不安にさせたくないなって、素直に思っただけだ」
窓の外を見つめながら、アキトはしばらく黙り込んだ。星宮アキトという少年が背負っていたものの重さを、また一つ、実感した夜だった。
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数日後の帰り道、アキトは商店街の裏路地を通りかかったとき、微かな悲鳴を聞いた。
「――!?」
反射的に足を止める。路地の奥、若い女性が、道に倒れ込んだ自転車の下敷きになって足を挟まれている様子だった。周囲に人の姿はない。
「大丈夫ですか!」
駆け寄ると、女性は顔を歪めながら「あ、足が抜けなくて……」と苦しげに答えた。自転車自体はそう重くないが、倒れた拍子に変な体勢で挟まってしまったらしい。
(個性は使えない。今は普通に、体一つで――)
この数日の朝練を思い出しながら、アキトは慎重に自転車を持ち上げ、女性の足を引き抜いた。地味な作業だったが、シャロットとの訓練で鍛えた体幹のおかげか、思ったよりスムーズに動けた。
「あ、ありがとう……! 助かったわ」
「いえ、大したことしてないので」
「大したことないなんて、そんな。ちゃんと、冷静に対応してくれて」
女性は足を軽くさすりながら、笑顔で礼を言って去っていった。アキトはその後ろ姿を見送りながら、胸の奥に小さな熱を感じていた。
「――良かったな」
いつの間にか隣に立っていたシャロットが、静かに声をかけた。
「別に、個性使ったわけじゃないけどな」
「使わなくても、助けは助けだろ。むしろ、それができたってことは、お前自身の力が確実に育ってる証拠だ」
「……そうか」
アキトは自分の手のひらを見つめた。ゲームのシステムでも、伝説の戦士の力でもない、ただの「星宮アキトとしての体」で、誰かを助けられた。その事実が、思っていたよりずっと、胸に響いていた。
「なあシャロット。今の感じ、悪くなかった」
「だろうな。顔に出てるぞ」
「うるさいな」
軽口を叩き合いながら、二人は夕暮れの商店街を歩いていく。試験まで、あと二か月半。まだ先は長いが、確かに一歩、前に進んでいる実感があった。
一日何話投稿するのがいいんだろ?というわけで3話目、、、
ストーリーや会話の気になる部分を変えていたら気づいた時には話を大幅に修正していました。既読の方はお手数ですが、また覗いてもらえると嬉しいです!