僕のヒーローアカデミア -DBLEGENDS- 作:熱いおゆ
ゲートが開き、模擬市街地へと足を踏み入れた瞬間、アキトは思わず息を呑んだ。
高層ビルを模した建造物、入り組んだ道路、あちこちに配置されたセンサー。前世の記憶にある「あの試験」の光景が、圧倒的なスケールで目の前に広がっていた。
「――試験、開始!」
アナウンスと同時に、アキトは地を蹴った。
(個性は使わない。この二か月半、ベジータとシャロットに叩き込まれた体だけで――!)
一体のロボットが行く手を塞ぐ。アキトは低く姿勢を落とし、教わった通りのステップで死角に回り込んだ。装甲の継ぎ目――そこを狙って、渾身の蹴りを叩き込む。
ガシャン!と鈍い音を立てて、ロボットが機能を停止した。
「悪くねえ動きだ。だが、まだ力んでるぞ」
頭の中に、シャロットの声が届く。
「分かってる!」
その後もアキトは着実にロボットを撃破していった。派手な個性でロボを粉砕する周囲の受験生と比べれば地味だが、確かに自分の体でポイントを積み重ねている手応えがあった。
視界の端、路地を挟んだ向こう側に、緑谷出久の姿が見えた。
彼はロボットに向かって踏み込みかけては、直前で足が止まる――その繰り返しだった。拳を握りしめる手が、小刻みに震えている。
(……原作通り、焦りまくって一点も取れてないな)
周囲の受験生たちが次々と得点を重ねる中、出久だけが完全に取り残されていた。その顔に浮かぶ焦燥と絶望の色は、前世の記憶にあった「あのシーン」そのものだったが、生で見るその痛々しさは想像以上だった。
だが、感傷に浸る時間はなかった。突如として地面が大きく揺れた。
「な――!?」
道の向こうから現れたのは、これまでとは比較にならないほど巨大な、超大型の模擬ロボット。ゼロポイントロボだ。周囲の受験生たちが悲鳴を上げ、我先にと逃げ出していく。
その時、瓦礫の下敷きになった受験生――お茶子の姿が目に入った。
巨大ロボットの鋼鉄の足が、無慈悲に彼女の方へと迫る。
(――来る!)
アキトがそう確信した瞬間、出久が弾かれたように走り出した。
「――ぐああああああああ!!」
轟く雄叫び。出久は地を蹴った。次の瞬間、その体は信じられない高さまで跳躍し、巨大ロボットの顔面に振りかぶった拳を叩き込んだ。
ドォォォォォォォン!!!
鼓膜を裂くような轟音。鋼鉄の頭部が陥没し、巨体がゆっくりと後方へ崩れ落ちていく。
知識として知っていたはずだった。だが、目の前で繰り広げられたその光景は、アキトの想像を絶する熱量と、狂気じみた威圧感を放っていた。
落下した出久の体は、地面に叩きつけられ、ぴくりとも動かない。右腕はあり得ない方向に折れ曲がり、両脚も力なくねじれている。
凄惨という言葉すら生温いその有様に、アキトは本能的な戦慄を覚えた。
「う、うそ……出久くん……!?」
瓦礫に挟まれたお茶子が悲鳴を上げる。しかも、崩れ落ちた巨大ロボットの残骸が、二人を押し潰さんばかりに頭上から降り注ごうとしていた。
「嘘だろ……!? 間に合わない……!」
全力で駆け出しても、絶対に間に合わない。
(――正体がバレる? 雄英に説明がつかなくなる?)
そんな躊躇いは、次の瞬間、頭上を覆う巨大な影によって吹き飛ばされた。
ここで頼らなきゃ、俺は一生後悔する!
「シャロット!! 力を貸してくれ!!」
半ばパニックになりながら、アキトは心の中でUIを叩いた。
ゴオッ!
眩い閃光が模擬市街地を包み込んだ。
「――ッ!?」
光の中から現れたのは、超サイヤ人ブルーの静謐な闘気を纏ったベジータだった。
ベジータは召喚された瞬間に状況を理解し、頭上に迫る瓦礫へ鋭い眼光を向けた。
「フン、派手にやってくれるじゃねえか。……俺の出番、ってわけだな」
ベジータは地を蹴り、瞬時に瓦礫の落下地点へと割り込んだ。掌に集束した蒼いエネルギーが、凄まじい熱量で放たれる。
轟ッ!!
降り注いでいた残骸が跡形もなく粉々に砕け散り、霧散していった。
「何突っ立ってやがる! 今のうちに二人を助けろ!」
頭の中に響くシャロットの怒鳴り声に、アキトは弾かれたように走り出した。出久とお茶子を瓦礫の圏外へと救い出す。
だが、救い出した出久のコンディションは最悪だった。焦点の合わない目、荒い呼吸。折れた骨の痛みでショック死しかけている。
(このままじゃ不味い……!)
アキトはすぐさま次の一枚を切った。
「ピッコロさん、お願いします!」
再び走る光の粒子。現れたのは、鋭い眼光のナメック星人、HEROピッコロだった。
ピッコロは出久の惨状を見るなり、無言でその胸元へ手をかざした。
「――ふん、これしきの怪我で死にそうな顔をするな」
ピッコロの手の平から眩い緑色の気が溢れ出し、出久を包み込んでいく。
激痛で白目を剥きかけていた出久の表情から、すっと苦悶が消えていく。完治とまではいかないまでも、折れた骨の痛みを劇的に和らげ、容態を安定させるナメック星の癒やしの力。
「な……痛みが……引いて……っ……」
「……怪我まで治したのか!?」
唖然とする出久とお茶子。そして周囲の受験生たちは、ベジータの「破壊」とピッコロの「治癒」という、あまりにも規格外な光景に言葉を失っていた。
「な、なんだよあの個性……二人も実体化させて……」
「あんな凄まじいパワーと回復能力……一人の個性なのか……?」
戦慄と驚嘆が混ざり合ったざわめきが市街地に広がる。
試験終了のアナウンスが響く中、ベジータとピッコロは静かに光の粒子となって消えていった。
ベジータは消え際、アキトにだけ聞こえる声で短く告げた。
「――よくやったな、小僧」
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