僕のヒーローアカデミア -DBLEGENDS- 作:熱いおゆ
合格通知が自宅に届いてから、三週間が経とうとしていた。
あの日、通知を受け取った瞬間、視界の端に浮かんだシステムメッセージを、アキトは今でもはっきり覚えている。
〈達成報酬:刻の結晶 1000個〉
「――試験の結果だけじゃなくて、合格したこと自体もカウントされるのか」
「システムは律儀なもんだからな。区切りごとにちゃんと評価してくるらしい」
シャロットの言葉通り、そこからの三週間、アキトはデイリーミッションと特訓ミッションを一日も欠かさず走り抜けた。
街のゴミ拾いや買い出しといった細かな雑用(デイリー)を片付けつつ、山中でのトレーニングに励む日々。自作の重り付きベストを着込んで筋肉を追い込み、地道に「刻の結晶」を稼ぎ出していった。
だが、アキトがこの三週間、筋トレ以上に必死に試行錯誤していたことがあった。
――それは、「気」の修得だ。
「……くっ……出ろ……! 頼むから集まってくれ……!!」
ある日の山奥。アキトはベジータを召喚し、直接指導を仰いでいた。
前世で憧れ続けた『かめはめ波』や『舞空術』。もし自分自身で「気」を扱えるようになれば、召喚に頼らずともこの世界で戦えるはずだという強い期待があったからだ。
「集中しろと言ったはずだ! 身体の奥底から『気』を練り上げろ!」
実体化したベジータがアキトの背中に直接手を当て、強烈な「気」の圧を流し込みながら喝を入れる。
「うぐっ……! か、身体の中の熱を意識して……っ!」
アキトは血管が切れそうなほど全神経を集中させ、精神と肉体のエネルギーを練り上げようと汗を流した。
しかし――召喚時間が終わり、ベジータが光となって消え去った後も、アキトの手の平に光が灯ることはなかった。そこにあるのは、ただの静寂と静電気のような微かな皮膚の震えだけ。
「……ハァ……ハァ……ダメだ……。なんにも……起きない……」
何度ベジータを呼び出して直接手ほどきを受けても、結果は同じだった。
消え際、ベジータが呆れたように言い捨てた言葉が、今も耳に残っている。
『――チッ。無駄だ。貴様自身の身体には、気を通すための根本的な回路そのものが存在しない』
「回路がない……? じゃあ、俺は……いくら修行しても、かめはめ波も空を飛ぶこともできないってことか……?」
ドラゴンボールの世界に憧れ、せっかくこの世界に転生してシステムを手に入れたのに、自分自身はどこまでいっても「気を使えない普通の人間」でしかない。
膝から崩れ落ち、アキトは自分の両手を絶望混じりの目で見つめた。
(ガッカリだ……。めちゃくちゃ期待してたのに……っ! 自分であの技を撃てたら、どんだけ凄かったか……!!)
込み上げる激しいショックと脱力感。だが、深く落ち込むアキトの背中を叩くように、シャロットの声が脳内に響いた。
「おいおい、そんな絶望したツラすんなって。気が使えねえなら使えねえで、お前にはベジータに叩き直されたその『筋肉』があるだろ。生身で2点ロボを蹴り砕いたのは、お前自身の力だぞ」
「……シャロット……」
「気を使ったド派手な技は俺たちに任せときな。お前は自分の足を地につけて戦えばいいんだよ」
相棒の言葉に、アキトは深く息を吐き出し、ぽんと自分の頬を叩いた。
(そうだ……ガッカリしてる場合じゃない。気は使えなくても、泥を啜って鍛えたこの身体と、頼れる仲間たちがいる!)
地道なミッションの積み重ねの結果、アキトの手元にはちょうど2000個の「刻の結晶」が貯まっていた。
明日はいよいよ、雄英高校の入学式。
アキトはベッドの端に腰掛け、視界にシステムUIを展開した。ピックアップバナーの名前は、〈命を賭けた決戦〉。センターには『SPARKING 超サイヤ人3 孫悟空』と『SPARKING 魔人ブウ:純粋』のカードが力強く輝いていた。
「なあシャロット。2000個……つまり10連2回分、今日で一気に使い切ろうと思う」
「――思い切ったな。まあ、お前の運が初回でピークを迎えてねえことを祈るぜ」
「おい、縁起でもないこと言うなよ」
軽口を叩きながらも、アキトの指先はかすかに震えていた。
「よし……いくぞ!」
震える指で、最初の10連ボタン(1000個)をタップする。視界が眩い光に包まれ、意識がガチャの演出空間へと引き込まれた。
飛んでいく戦闘ポッドはわずか1基。赤文字の『ひっぱれ!』の文字も出ない。
「嘘だろ……頼む、昇格してくれ……!」
祈りも虚しく、次々と排出されていくカードは――『HERO 栽培マン』『EXTREME ギニュー特戦隊リクーム』『HERO ザーボン』といったものばかり。
そして最後の10枚目――現れたのは、またしても『HERO 栽培マン』だった。
「――お前かよ、また!!」
思わず声が裏返る。2枚目の栽培マンのカードが寂しく画面に収まった。
「ほらな。甘くねえって言っただろ」
脳内でシャロットが呆れたように鼻を鳴らす。
「まだだ……! まだ後半の10連分(1000個)が残ってる!」
2000個の結晶のうち半分が、一瞬で消えた。
ここで諦めるわけにはいかない。明日からの雄英生活。爆豪の鋭い敵意も、相澤先生の冷徹な警戒も受け止めなきゃいけない。今の俺の心を、少しでも支えてくれる存在が必要なんだ!
「頼む……来てくれ……!!」
祈りを込め、最後の10連ボタンを叩き込む。
その瞬間、演出の雰囲気が一変した。
背景の宇宙空間が不気味な赤に染まり、対峙する孫悟空とフリーザ。飛んでいく戦闘ポッドは――期待を煽る5基!
『ひっぱれ!』
アキトは魂を込めて指先を引っ張った。
『はなせ!』
画面の中の悟空が瞬間移動から一気に超サイヤ人へと変貌し、渾身のかめはめ波がフリーザを宇宙の彼方へ吹き飛ばす!
「確定演出……!!」
溢れ出す光の中、9枚のカードをスキップするように光が駆け抜ける。
そして最後の10枚目。
黄金の輝きが渦を巻き、激しい高揚感と共に1枚のカードが浮かび上がった。
そこに描かれていたのは、見慣れた黒髪にオレンジ色の道着、太陽のような笑顔を浮かべた男――『SPARKING 孫悟空』。
光が弾けた瞬間、アキトの脳内に、朗らかで、けれど圧倒的な力強さを秘めたあの声が直接響き渡った。
『――オッス! オラ悟空! おめぇがアキトか。面白ぇ場所に呼んでくれたんだな!』
「ご、悟空さん……!」
目当ての超サイヤ人3や最新キャラでなくとも、そんなことはどうでもよかった。
声を聞いた瞬間、胸を押し潰しそうだったプレッシャーが嘘のように吹き飛んでいくのを感じた。
『明日から新しい学校なんだろ? 無茶しすぎんなよ。困ったときはオラを呼べ、いつでも力になるからよ!』
温かい言葉を残し、輝くカードがアキトのシステムデッキへと静かに収まった。
光が収まり、意識が真夜中の自室へと戻ってくる。
静まり返った部屋の中で、アキトは深く息を吐き出した。
「はぁ……やっぱり、悟空さんはすげぇや……」
気は使えなかった。
けれど、手に入れたのは単なる戦力じゃない。
前を向いて歩き出すための、最高のアドバイザーであり、「味方」だ。
「フッ、これで少しは腹が括れたみたいだな」
脳内のシャロットが、どこか楽しそうに呟く。
「ああ。……よし!」
アキトは静かに笑い、そのまま布団にもぐり込んだ。
明日から始まる雄英高校での日々。
不安が消えたわけではない。
けれど、もう足がすくむような恐怖はどこにもなかった。
ちなみに主人公の髪色はダークブルーです。