僕のヒーローアカデミア -DBLEGENDS- 作:熱いおゆ
満開の桜並木を抜け、アキトは重厚な雄英高校の校舎を見上げた。
(――ついに来た。)
前世で何度も画面越しに見た憧れの場所。
そして今は、自分が通う学校だ。
校門をくぐり、巨大な「1年A組」の扉へ手をかけた――その瞬間。
「あ! 星宮くん……と、出久くん! やっぱり同じクラスだったんだね!」
背後から明るい声が飛んできた。
振り返ると、そこには麗日お茶子と、どこか緊張した面持ちの緑谷出久が立っていた。
「星宮くん、試験の時は本当に助けてくれて……! あの時はパニックで、ちゃんとお礼も言えてなくて、ごめんね」
出久も続いて深々と頭を下げる。
「あの時、本当にありがとう。あのままだったら……僕たち、どうなっていたか分からなかった」
実技試験で受けた傷はリカバリーガールによって完治している。
それでも、絶望の中で差し伸べられた手だけは、二人の胸に強く刻まれていた。
アキトは照れくさそうに頭をかいた。
「気にするな。助かってよかった。それより――これからよろしく」
「うん!」
「よろしくね!」
三人は笑い合い、そのまま教室へ入った。
⸻
教室には、すでに多くの生徒が集まっていた。
個性豊かな顔ぶれ。
未来のトップヒーロー候補たち。
(……ほんとにA組なんだな。)
その光景に見入っていると、一人の男子生徒が一直線に歩み寄ってきた。
手刀を切るような独特の姿勢。
眼鏡をきらりと光らせながら、大きな声で言う。
「君は実技試験で見事な立ち回りを見せていた子だな! 同じクラスになれて光栄だ! よろしく頼む!」
勢いに少し圧倒されながらも、アキトは笑って答える。
「ああ、よろしく……えっと」
「失礼した! 自己紹介がまだだったな!
私は飯田天哉だ!」
「星宮アキト。よろしく、飯田」
二人は固く握手を交わした。
⸻
その直後だった。
教室の空気が、一変する。
「――オレの点数に肉薄しやがったのは、テメェか」
低く響く声。
窓際から爆豪勝己が立ち上がり、ゆっくりと歩いてくる。
視線には隠そうともしない敵意が宿っていた。
「星宮だったか。」
「実技二位だか知らねぇが……ヴィランポイント十八点しか取れてねぇ雑魚が、レスキューポイントなんぞでオレのすぐ下に来やがって」
そして視線は、そのまま出久へ移る。
「……それにクソデク。」
「テメェ、無個性だったはずだろ。」
「なんでここにいやがる」
「どうやって受かった」
「か、勝己ちゃん、それは……!」
出久がたじろぐ。
だが爆豪は聞く耳を持たない。
「言っとくが、まぐれとは思ってねぇ。」
「次はねぇ。」
「オレが本気を出せば、テメェらなんざ一瞬で置いていく。」
教室中が静まり返る。
だがアキトは一歩も引かなかった。
爆豪の視線を真正面から受け止める。
「……望むところだ」
一瞬だけ。
爆豪の口元がわずかにつり上がる。
「……チッ」
舌打ちだけを残し、自分の席へ戻っていった。
その様子を、教室の後方から赤白の髪を持つ少年――轟焦凍が無言で見つめていた。
やがて、ざわめく教室の片隅――教壇の脇の床から、いつの間にか黄色い寝袋の塊がモソモソと起き上がった。
(……いつの間に紛れ込んでたんだ?)
「――静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。お前たちは合理性に欠けるね」
黄色い寝袋から這い出してきたのは、ボサボサの黒髪に目の下に濃いクマを張り付けた、冴えない男だった。
ゴソゴソと目薬を差しながら、男は自らを担任の「相澤消太」と名乗る。
「さっそくだが、これ着てグラウンドに出ろ」
放り投げられたのは、雄英高校の赤いラインが入った、お馴染みの体育着だった。
⸻
体操服に着替え、グラウンドに集まった生徒たちから困惑の声が上がる。
「あの……先生! 入学式は!? オリエンテーションとかガイダンスは!?」
お茶子が不安そうに尋ねると、相澤は振り返りもせず冷淡に言い放った。
「ヒーローになるなら、そんな悠長な行事に出てる暇はない。雄英の売りは『自由』な校風。そしてそれは、教師側もまた然りだ」
相澤は気だるげな声音で、生徒たちを見回す。
「中学校じゃ、個性使用禁止のまま体力測定をやっていただろ。国は相変わらず合理的じゃない」
一拍置いて、ボールを一つ取り出す。
「雄英は、個性を隠さずそのまま使ってテストを行う」
相澤はボールを軽く放り投げ、爆豪を指さした。
「爆豪。お前、中学の時ボール投げいくつだった」
「……67メートルだが」
「じゃあ、個性使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。思いっきりな」
相澤に促され、爆豪は不敵に笑いながらボールを片手で構えた。
アキトが身構えた瞬間、爆豪の全身から殺気じみた熱量が噴き出す。
「死ねェ!!!!」
轟音と共に、爆風を乗せたボールが文字通り空気を引き裂いて射出された。
『705.2メートル』
「700ってマジかよ!」
「何だこれ! スゲー面白そう……!」
「個性思いっきり使えるんだ! さすがヒーロー科!」
周囲の生徒たちが一気に沸き立ち、楽しげに盛り上がる。
その様子を冷ややかな眼差しで見据えながら、相澤は不敵に口角を吊り上げた。
「……面白そう、か。ヒーローになる為の三年間……そんな腹積もりで過ごす気でいるのか」
ピリッとした緊張感が走る。
相澤は冷徹に言い放つ。
「よし。トータル成績最下位の者は、見込み無しと判断し、除籍処分とする」
「「「ええええええーーーっ!?!? 除籍ぃ!?」」」
クラス中から悲鳴と抗議の声が一斉に飛び交う。
⸻
【第一種目:50m走】
飯田天哉がすさまじいエンジン音を響かせ、『3秒04』の圧倒的な記録を叩き出す。
続いて、アキトの番が来た。
(ベジータたちと泥を啜って鍛え上げたこの足腰……どこまで通用するか試してやる!)
爆発的な蹴り出しと共に、アキトの身体が弾丸のように飛び出す。
前世の自分では考えられない足の回転と推進力。
そのまま一気にゴールテープを駆け抜けた。
『計測……3秒85』
「な、なんだと……っ!?」
タイムを見た飯田が、メガネを押し上げながら目を見開いて叫んだ。
「君は今、個性を発動していなかったはずだ! 『個性』の補助なしでその瞬発力と踏み込みだと!? 一体どれほどの鍛錬を積めば、人間が生身でそこまでの速度を出せるんだ……!!」
飯田の大驚愕に周囲もどよめく。
「生身で3秒台……?」
「召喚だけじゃないのか、あいつ」
「身体能力まで化け物だぞ……」
相澤は手元の端末を見つめ、小さく呟いた。
(……身体能力そのものが異常に鍛え上げられているな)
続く【握力】では、三週間の筋トレで鍛え上げた生身の筋肉で測定器をメキメキと鳴らし、『68.4キロ』を叩き出す。
続く【立ち幅跳び】や【反復横跳び】でも、高い基礎身体能力を活かし、上位の数字を維持していった。
そして、運命の【ボール投げ】。
麗日お茶子が「せーい!」と声を張り上げて能力を解放し、『∞(INFINITY)』を叩き出してグラウンドを沸かせる。
(さて……次は俺の番か)
アキトは自分の番に備え、ボールを構えた。
「おい、アキト。そろそろド派手なのを見せてやったらどうだ?」
脳内でシャロットがニヤリと笑う。
アキトは静かに息を吐き、システムから一枚のカードをロードした。
「……来てくれ、悟空さん」
光の粒子がアキトの隣へ収束し、見慣れたオレンジ色の道着を纏った『SPARKING 孫悟空』が実体化した。
「おっ、投げるんだな! 任せとけ!」
唐突に現れた人物に、周囲は騒然となる。
悟空はボールを軽く受け取ると、派手なオーラは抑えたまま、しなやかな動作で右腕を大きく振り抜いた。
ズドン!!
地響きのような鈍い音と共に、ボールが空気を引き裂き、はるか彼方の空へと消えていく。
『計測……842.6メートル』
「は、842メートル……っ!?」
「おいおいおい、嘘だろ!? 爆豪の記録を軽く塗り替えやがったぞ!」
「なんだあの人!? 急に何もないところから現れたぞ!」
暗い影をまとった常闇踏陰が、肩に乗せたダークシャドウと共に腕を組んで呟く。
「……フッ。我がダークシャドウは私と精神を繋ぐ半身だが……あのお方は、まるで独立した生身の人間がそのまま現れ出たかのような……」
「そうだぜ! 俺たちとは訳が違う、あんなスゲー奴が飛び出してきたぞ!」
ダークシャドウが興奮気味に目を光らせ、上鳴が頭を抱える。
「いやいや、実質的に別のヒーローを急に召喚してるようなもんじゃねえか!」
悟空は「っと、こんなもんでいいか」と満足そうに笑うと、アキトの肩をポンと叩いた。
「それじゃ、また呼べよ!」
そう言い残し、悟空は光の粒子となってシステムへと戻っていった。
騒然とするグラウンドの中、相澤が一歩前へ歩み出る。
鋭い眼光が、アキトを真っ直ぐに捉えた。
「おい、星宮。今のは何だ」
相澤の低く探るような問いかけに、アキトは言葉を選ぶ。
「……意志を持った戦士を、一時的に実体化させて力を借りる『召喚』の個性です」
「……召喚、か」
相澤の眉間に深い皺が刻まれる。
(実技試験の映像にあった二人とは、また違う新たな個体だ。あの出力と自立性……ただの召喚物とは到底思えん)
相澤の目が、さらに深く鋭い警戒の色を帯びる。
「……放課後、職員室に来い。お前が呼び出せる存在の条件、制約、リスクについて、詳細な申告書を出してもらう」
「……分かりました」
逃げ場のない相澤の追及に、アキトは静かに頷いた。
⸻
テスト終盤。
緑谷出久の【ボール投げ】。
出久は土壇場で右手の人差し指一本に全力を集中させ、凄まじい風圧と共にボールを放つ。
『705.3メートル』
だが、その代償として右人差し指はどす黒い紫色に腫れ上がり、激痛に顔を歪めた。
「……動けます、相澤先生!」
激痛に耐えながらも立ち上がる出久の執念に、相澤はフッと目を見開く。
⸻
最後。
ずらりと並べられたホログラムの順位表。
「ちなみに除籍というのはウソだ。君たちの限界を引き出すための合理的虚偽だ」
「「「ええええぇぇぇーーーっ!?!?」」」
クラス中から悲鳴のような絶叫が爆発する中、アキトはホログラムの画面を見上げた。
21人の生徒が並ぶ表。
1位――轟焦凍。
2位――爆豪勝己。
そしてアキトは、召喚による記録と高い基礎身体能力によって、堂々の3位につけていた。
最下位には、ボロボロになりながらも踏み留まった出久の名前がある。
⸻
放課後。
夕暮れ時の校門へ続く通路で、背後からバタバタと慌ただしい足音が追いかけてきた。
「星宮くん! 待ってくれ!」
振り返ると、腫れた指に応急処置を施した出久が、息を切らしながら駆け寄ってくる。
その後ろには、お茶子の姿もあった。
「どうした、緑谷」
「き、今日の体力測定、すごかったね!」
出久が目を輝かせる。
……だが次の瞬間。
その雰囲気がガラリと変わり、緑色の瞳が怪しい熱を帯び始めた。
「そ、それでさ、星宮くん! さっき現れたあの男の人なんだけど……!」
出久は懐からボロボロの『将来の為の分析ノート』を取り出し、凄まじい勢いで詰め寄ってくる。
「お茶子ちゃんから聞いたんだ! 実技試験のとき、僕たちを助けてくれたのは『蒼いオーラの戦士』と『緑色の皮膚の戦士』だったって!」
「さっきの道着を着た人は、それとはまた別の戦士なんだよね!? 一体どんな条件で召喚できるの!? 持続時間やエネルギー消費は!? 召喚できる人数に上限はあるのかな!?」
「うわっ、デクくん急にすごい勢い……!」
お茶子が圧倒されて一歩引く中、出久はブツブツと早口でまくし立てながら、ノートへペンを走らせ続ける。
(……やっぱりこうなったか)
アキトは苦笑いを浮かべた。
相澤の警戒とはまた違う。
出久の”ヒーローオタク”としての熱量だった。
「おいおい、緑谷。落ち着けって。一気に聞かれても答えきれない」
「あ、ご、ごめん……! あまりにも凄まじい個性だったから、つい……!」
顔を真っ赤にして頭を下げる出久に、アキトは苦笑しながら言う。
「これからいくらでも見せる機会はあるさ。それに、これから相澤先生に呼び出されててな」
「あ……そうだった。申告書って言ってたね。気をつけてね、星宮くん」
アキトは二人に軽く手を上げ、そのまま職員室へ向かって歩き出す。
(相澤先生への申告書か……。どこまでシステムの手札を明かすか、慎重に誤魔化さないとな)
夕暮れの廊下を歩くアキトの胸の中で、シャロットが不敵に笑う。
「ハッ。お前なら上手いこと乗り切れるだろ」
アキトは小さく息を吐き、静かに職員室の扉へと歩みを進めた。
朝投稿と夜投稿どっちがいい??