────人間が表舞台の覇を唱え、芽吹く深緑が生命の息吹を包みこむ星
────セルシウス。
その裏の世界とも言うべき「根源の地」と名付けられた瘴気の溜まり場────深い闇の広がる荒れ果てた大地で、太古から人々を守り続けてきた魔装騎士達が、永き因縁に終止符を打つべく最後の戦いを繰り広げていた。
「グレン!こいつらはまとめて俺が抑える!────後は任せたぞ!」
轟々と、地から天へと立ち昇る瘴気が戦場を呪う。
襲い来る魔物の軍勢と同胞の血飛沫が絶え間なく空間を彩る中、幾百幾千と戦場を共に駆けた盟友の騎士、ヴァイスの怒号が響く。
その声をただ背中で受け、満身創痍の体に鞭を打ち、グレンは最後となるであろう魔装召喚を行う。
相棒の片刃剣「叢雲」に練り上げた闘気を込め、閃光のごとき速さで横薙ぎ一線に振り抜く。
刹那、暗い闇をあまねく照らすような光を放ちながら、顕現せし黄金の竜が煌々と輝く両翼を広げ、グレンの全身を包みこんだ。
強靭な竜鱗が瞬時に鎧へと変貌し、その力を騎士の身体に宿していく。
振り抜かれたままの愛刀も、肉厚両刃の神剣「ムラクモ」へと変貌し、その威光を放ち始める。
────魔装召喚。
己の魂を糧とし、契約を交わした生物の特性を秘めた武装を纏う秘技。
瘴気に蝕まれた死骸の成れの果て、「魔物」の脅威から人々を守るために、グレンが契約を交わしたのは、表の人間からは伝説上とされる存在。
────神の遣い、竜であった。
ニヴルヘイム。高潔かつ強大なる竜の頂点に君臨せし皇竜。
その全身は幾万の星の煌めきの如く、黄金にして荘厳なる両翼の羽ばたきは、周囲眼下もろとも敵勢を灰燼に帰す。
────皇竜の力を顕現させ、天を突く双角の下、悲愴とも言えるほどの決意を込めた眼差しで立つその姿は、まさに黄金の竜騎士であった。
皇なる光剣を平星眼に構え、眼前に見据えるは降臨せし巨悪。
この世の全てとも言える程の大量の瘴気に魂を喰らい尽くされ、邪神と化した────
全ての生命の始まりたる始祖────神竜セルシウス。
絶望を迎え撃つは希望、夜明けを告げる朝焼けのごとき光を纏いながら、気高き金竜の咆哮が大地に木霊する。
「偉大なる我らが祖にして哀れなる邪神よ────皇竜の光にて無へと帰せ!!」
***
星の行く末を賭けた神竜と皇竜の激突。それは地獄の釜の蓋を開けたように凄惨な傷跡を戦場に残した。
天は朱一色に染まり、地はことごとく焦土と化し、地に伏した魔物や同胞達の骸はその一切が塵となり空を舞っていた。
瘴気が猛々しく渦巻き、腐臭と鉄錆の匂いだけが鼻腔を突き刺す。
周囲を彩るのは死の色のみ——──その中心には、僅かな煌めきが残り佇んでいた。
────竜騎士グレンである。
皇たる威光を放っていた黄金の鎧は既に至る所に大小入り混じったヒビが入り、神の焔に飲み込まれた装甲はそのほとんどが溶け、爛れ、かつての輝きは灯火のように弱々しいものになっていた。
もはやグレンには腕を振り上げる力も残っていなかったが、右手に握られた神剣は確かにその牙先を神の心臓に突き立て、辛うじて彼の腕を支えていた。
神を討った代償としてとめどなく流れ出る鮮血がグレンの全身を濡らす。
鎧の隙間から溢れだしたそれは、命の残り火を消すかの如く、鎧の最後の輝きをも朱に染めていった。
「……終わったか……」
血に染まり、震える喉から絞り出すような呟きが漏れる。
それが示すは戦いの終わりか、それとも己が命か。
弱る呼吸に応じるように鎧が軋み、砕け散る星屑のような煌めきを残し崩れ、虚空に溶けていく。
全身を覆っていた装甲が光となって消え去り、最後に残ったのは今にも生を終えんとする肉体であった。
膝が折れる。グラリと世界が傾く。
(星産みの魂が解放され、世界の理は生まれ変わる……もう瘴気が世界を蝕むことはない────後は頼んだぞ、ヴァイス…同胞達……)
薄れ行く意識の中、どこか遠くで同胞の叫び声が────自分の名前を呼ぶ声が微かに聞こえたような気がしたが、それが誰なのか最早わからなかった。
視界は急速に霞みを帯び、音は耳鳴りのように響きながら途切れていく。
世界が暗転する——まさにその瞬間だった。
ゴウッ────!!!
爆発的な光が突如弾け、グレンの体を包みこんだ。
それはこれまで経験したことのない現象だった。
熱いのか冷たいのかも分からない不思議なエネルギーが細胞一つ一つを揺さぶり、今まさに地に落ちようとしていた全身が浮遊感に包まれる。
閉じかけた瞼をすり抜け、数字や幾何学模様のようにも思える意味不明な羅列が脳裏を埋め尽くしていく。
何が起こっているのか理解しようとする本能に反して、意識は霞となり消えていく。
(これは────魔装召喚? ……違う……これ、は……)
思考は眠気と溶け合い、やがて自分の身体すら溶けていくようにも感じた。
何もかもが曖昧な感覚の中、グレンは迸る光の中に投げ出され
────そして消えていった。
初投稿となりますので、色々と読みづらいところがあるかと思います。
もし誤字脱字や、文章表現でおかしい部分などありましたら、ご指摘いただけますと幸いです。
尚、本作は特撮「牙狼」へのリスペクトを込めて、設定の一部を参考にさせていただきつつ、重厚で美麗な描写を目指して執筆しています。
牙狼ファンの方はもちろん、特撮やダークヒーローが好きな方にも楽しんでもらえますと嬉しいです!