グレンが居なくなった後、ヴァイスとラビは楽しい雑談という形で留守番を決め込んでいた。
ヴァイスについては普段からではあるが、ラビも前日までの絶望的な状況から一転した反動で、元々そうだったものが更に可愛らしい一輪の花となっていた。
「────わあ、そんなに凄い戦いがあったんですね!ヴィー様もグレン様も素敵です!」
ヴァイスは自分達が異世界の魔装騎士という存在であることや、故郷での最後の戦い────そしてここに転移してくるまでの経緯を面白おかしくラビに語っていた。
決して楽しいことは多くなかった。
しかし目の前の少女にそれをそのまま説明する────それを魔装騎士ヴァイスの矜恃が許さない。苦難に喘ぎながら生きてきた少女を、これからはいつまでも笑顔のままでいさせたかった。
「だろ?でもグレンのことまで素敵とか言わなくていいんだぜ、ラビちゃん。褒めたところでどうせあの仏頂面は変わんないんだから、へへ」
「もう、ヴィー様ったら!」
ラビが仄かに桃色に染まった顔でキャッキャと笑う。
「でも、本当にグレン様も素敵な騎士様です。私、昨日はもうダメだと思って、このまま死んじゃうのかなって……でも、グレン様が助けてくれました。それにさっきの……」
そこで「あっ」と思い出した様子でラビがヴァイスに問いかける。
「そう言えば、先程グレン様が仰られた『マソウ』って、竜神様みたいな神々しい鎧のことですか?ヴィー様も『マソウ』をお持ちなんですか?」
「ああ、でも竜神様ってのは違うな。それはアイツの鎧だけの形状だ。俺のはね────」
ヴァイスは立ち上がり、双剣に気を込める。
────キィ……ィン!ガシャ!
一瞬ヴァイスの背後に狼のシルエットが浮かんだかと思うと、それが瞬時に光と化し、ヴァイスに一体化して弾ける。その中から現れたヴァイスの全身は鎧に纏われていた。
輝く銀色を基調とし、狼の長い毛並みを思わせる流麗なディテールに包まれた全身鎧。その尖端は蒼白く明滅し、まるで闇夜を照らす月の銀光のように優美なものであった。
「これが俺の魔装。アイツとは、っていうか、全員違う形状をしてるんだぜ。戦闘スタイルも違うしな」
ヴァイスは神々しく輝く双剣に顔を向け、またラビに向き直る。
「…………」
ラビは固まっていた。一声も発することなく、じわじわとその頬だけが濃い桃色へと変わっていく。
「ラビちゃん?」
「……はい……」
ヴァイスが呼びかけるも、反応は薄い。
「どうした?おーい、カッコ良過ぎて惚れ直しちゃったか?」
「……はい……あ」
己の失言に我を取り戻すラビ。慌てて顔を覆い、弁明しようとする。
「あっあの!違うんです!いえ違くないんですけど、私みたいなのが惚れ直すなんて、そんなヴィー様に畏れ多いこと……!」
「…………ラビちゃん」
「はっはい!分かってます、すいません!」
尚もあたふたとするラビ。ヴァイスは無言で手を向け、俯いたままのラビの頭に優しく手を置いた。
「あっ……」
頭から伝わる慈愛の感覚に大人しくなるラビ。
騎士の手は、少女の柔らかい髪をゆっくりと撫で、手当を受けた側頭部へそっと指を触れさせた。
「……痛かったよな────いや、今まで”ずっと”痛かったんだよな」
ヴァイスは鎧を解除する。生身に戻り、直に感じる温もりに、少女の瞳がふるり、と揺れる。
「心配するな────俺も、アイツも誇り高い魔装騎士だ。一度取った手は決して離さない。魔装だってそのための力さ…………ラビちゃん、君が傷つけられることはもう二度と無い。」
ラビの眦がくしゃりと垂れ、雫を湛えた瞳から極まった感情が一筋、また一筋と流れ落ちる。
縋るように手を伸ばしてきた少女を、ヴァイスは優しく抱き寄せ、自分の言葉を証明するかのように、力強い腕で『ふわり』と包み込んだ。
「ヴィー様……ヴィー様……」
言葉にならず、ただしんしんと泣く少女。ヴァイスはそれ以上何も語ることは無く、ただ全身で彼女へとその誓いを伝え続けていた。
「緊急かと戻ってみれば……何をやってるんだ、お前達は……」
暫く後に、魔装の気配を感じ取り急ぎ戻ってきたグレンに呆れられ、ラビが慌てて身体を離したのはご愛嬌である。