ガシャアン!!
商業区に辿り着いた二人は、路肩の鉢や樽を派手に撒き散らしながら敢えて派手に登場した。
「な……なんだお前らは…………!?」
巡回していた衛兵達が慌てて具現化鎧を起動させる────が、既に皇竜騎士の姿は眼前から消えていた。
「遅い」
背後から冷徹な声が響き渡った瞬間、敵全員の胴鎧が、具現化のものだろうとそうでなかろうと等しく同時に粉砕された。
全身に広がる衝撃に目を剥き、声を出すこともなく崩れ落ちる衛兵達。まるで風の如き動き――皇竜騎士の剣技は慈悲深いまでに洗練されていた。
「命は取らん、しばらく寝ていろ」
言い放ちながら、事態に気づき続々とやって来る増援に目を向けるグレン。魔装の鎧はその心を映すかのように神々しい光を放っていた。
一方、ヴァイスは既に目的となる場所に到着していた。街路に繋がれた三人の獣人奴隷たち――犬耳の青年、狐耳の老婆、そして翼を持つ小鳥の少女。
「助けに来たぜ!」
神狼騎士の声に三人の目が希望に輝く。
ヴァイスが鎖を断ち切ると同時に衛兵達が乱入してきた。
「銀鎧の騎士め……!!そこの奴隷諸共処刑してくれる!」
「ハッ────やれるもんならやってみろよ」
ヴァイスは挑発的に笑う。しかし、構えた双剣からは、その場で心臓が止まりそうな程の怒りの闘気を容赦なく解き放っていた。
「俺はアイツみたいに優しくないからな────手の一本くらい覚悟しとけよ!!」
グレンが躍り出た門前では既に街中の大半の衛兵が集結していた。その多くが具現化魔法を体得した精鋭。この世界では猛者と言える者達ばかりである。
────しかしそれはあくまで人間族という枠組の中での話であり、竜の前ではただ足元に群がる羽虫と何ら変わらなかった。
自分達が相手取っているのが如何な次元の存在であるのか全く理解せず、武装を具現化してグレンを囲み、襲いかかる愚者達。
グレンからすれば避ける必要も無く、そのまま横になり、眠りについたとてかすり傷一つ負わぬ攻撃。
しかし彼は、時間を稼ぐために敢えて真っ当な攻防を行う。
最小限の動きで斬撃を回避し、反撃。鎧の重量を逆手に取っていなし、敵の体勢を崩す。時には翼で突風を起こし、立ち止まった相手の足を払い、地に背をつけさせる等多彩な戦術を見せる。
「この野郎!」
背後を取った「つもりの」衛兵が、自慢の具現化剣で竜の鎧に一撃を当てる────果たして、その剣は一矢報いることも無く、その命を終わらせた。
「終わりだ」
粉々になった自分の剣に驚愕するその者に対し、グレンは少しだけ殺気を込めた圧を放つ。瞬間、兵士は泡を吹いて崩れ落ちた。
周囲の敵はいずれも戦闘不能。広場に残るのは倒れた兵士と唖然とする民間人ばかりだ。
────時間稼ぎはこれくらいで十分か。
ヴァイスを良く知るグレンは、既に彼が目的を達成しているであろうことを確信し、街への置き土産として神剣をただ一撃だけ振り抜いた。
────スッ……ズ……ズズズ……!
その瞬間は無音、そして程なく街の門とその周囲広範囲の外壁が”斬られた”ことに気づき、石同士の擦れ合う音を大きく響かせながらずれ落ち始める。
巨大な壁がずれながら落下してくる惨状により、混乱の渦中に陥った広場を尻目に、グレンは悠々と駆け戻っていった。
グレンが広場で大立ち回りを見せている頃、ヴァイスは既に三人の奴隷を連れて地下道の近くまで辿り着いていた。
犬獣人の青年は自分で走っているが、小さな小鳥獣人娘はヴァイスの肩に乗り、狐族の老婆は彼に抱き上げられていた。
「こっちだ!走れ!」
「ありがとうございます!」
「助かるわぁ!」
「ピィッ!」
その時、門の方角から何か巨大な物が崩れ落ちる音が轟音となり、響いてきた。
「ひゃー、アイツ派手にやったなあ」
どこか嬉しげに呟きながら走り続け、遂に地下道がある廃教会に到着した。そのまま階段を下り、地下道内へと歩を進める。
「あっ、ヴィー様……!」
薄暗い洞窟の奥から涙混じりの声が響く。ラビがヴァイスの姿を認めると同時に駆け寄ってきた。
「お帰りなさいませ!私、信じて待ってました!」
少女が銀色の鎧に抱きつく。装甲越しに伝わる温もり。ヴァイスは老婆を降ろし、優しくラビの頭を撫でた。
「遅くなってごめんな。でもほら」
腕の中の三人を示すとラビの目に希望の光が宿る。
「新しい仲間だ。一緒に守ろうな?」
ラビが無言で頷く。涙を拭いながらも笑顔を浮かべた。そんな彼女の額に、ヴァイスは鎧を解除し、軽くキスを落とす。
「いい子だ」
「ひゃっ……♡」
顔を真っ赤にするラビ。神狼騎士は周囲の獣人たちにも微笑みかける。
「みんな安心しろ。グレンが来たらすぐに出発だ」
────夜明けの刻はもう目の前まで来ていた。