長の提案で行われた、村人全員による歓迎会を兼ねた夕餉の席、そこにいるのはグレンを始めとする獣人救出班。ヴァイスとラビも招かれ、席につき食事に舌鼓をうっていた。
「……美味いか?ヴァイス」
「ああ、最高だ!この肉料理は絶品だな!味付けが素朴なのがそそるぜ!」
ヴァイスは手で鶏の腿肉を掴み頬張る。
「それは良かった」
グレンは淡々と食べ進めている。
「これで甘い物もあれば文句無しなんだけどな!」
「……お前は昔からそればかりだな」
嘆息しながら、グレンは皆の様子を眺める。
席の隅でラビが村人たちに囲まれており、話しかけられている。
「ねえラビちゃん?ヴァイスさんもやっぱりグレンさんみたいな鎧を呼び出せるのかい?」
「はい!とても素敵でした!ヴィー様は凄いです!」
ラビは頬を紅潮させながら、己の街での体験を熱弁する。召喚に関しては特に熱がこもっていた。
「うむ……なるほど。もし可能なら一度その鎧を見せてもらえんか?」
ヴァイスは食べ物を咀嚼しながら肩をすくめ、承諾する。
「ああ、別に構わないぜ」
そして立ち上がると、一同の視線が集まる中双剣を構える。二つの剣を頭上でクロスさせると、ヴァイスの頭上から神々しき狼のシルエットが顕現し、そこから溢れる白銀の光が彼を包み込んだ。
刹那、月を彷彿とさせる流麗な鎧が現れ、彼に装着される。
「おお……!」
村人たちから驚嘆の声が上がる。
竜騎士のものと違い、若干細身の美しく輝く狼を模した鎧。
辺りに広がる夜の闇に、白銀とその先に明滅する蒼白い光が溶け、神秘的な様相を漂わせていた。
「これが神狼騎士の鎧だ」
ヴァイスは双剣の演舞のように、軽く体を動かして見せる。
「まっ!これを見ればわかる通りお前らのヴァイスさんはスーパー頼れる男ってわけさ」
村人たちから笑い声と共に賞賛の拍手が湧き上がる。ラビは「ヴィー様ぁ……」と蕩けた表情で見つめている。
「素晴らしいぞ!ヴァイス殿!」長老までが感嘆している。
「じゃあ見せ物も終わったし俺は飯に戻るかー」
ヴァイスは双剣を納めると椅子に座り食事を再開した。
村人たちも興奮冷めやらぬ様子で隣の者と語り合っている。
食事が終わりかけた時、グレンが口を開いた。
「ヴァイス────昼間のバーグルとの模擬戦のことだが……どう思う?」
その問いかけに対しヴァイスは眼差し鋭く答える。
「ああ、お世辞抜きに強かった。────例のヤツか?」
「ああ、俺は上手くいくと踏んでいる。」
「俺もそんな気がするな、楽しみだ────明日にでも早速やってみるか?」
「ああ、早いほどいい」
グレンはそう言うと立ち上がり、離れた所で犬耳の青年と笑いあっていたバーグルへと話しかけた。
「バーグル、明日一日時間を空けておいてくれ」
「お、なんだよグレン、藪から棒に」
「お前に話がある」
「おう、よく分からんが、アンタがそう言うなら従うさ」
「ああ、では明日お前のテントに行く」
「あいよ!」
用件を簡潔に伝え、グレンは踵を返す。
***
宴も終わり、各々がねぐらへと歩を進める中、グレンはヴァイスに問いかけた。
「ヴァイス、滞在中の寝床は用意してもらったのか」
「ああ、さっき聞いたぜ、ほら、そこだ」
ヴァイスが指さした場所にはいくつかのテントが立てられていた。元々住んでいた村人のものとは違い即席の物ではあるが、しっかりと補強が効いているようだ。
おそらく、正規のテントが出来上がるまでは、今回入った獣人たちが住まうことになるのだろう。
「そうか、ならいい」と、グレンも自分の(と言ってもマリエルのテントに間借りさせてもらってるのだが)に帰ろうと踵を返す。
────途中、モジモジという音が聞こえて来そうなほどモジモジしている物体、いや女性が視界に入った。
────ラビか。
これまで故郷の星でストイックに魔装騎士の責務を果たしてきたグレンは、あまり人間の、特に女性の心の機微には精通していない。
しかし、それを持ってして、ラビの心の内が手に取るようにわかった。グレンもマリエルとの触れ合いを通し、成長したと言うこともあるが、それ以上にラビの態度が分かりやすすぎたのだ。
もはや今までの行動、言動を鑑みれば見ずとも予想できたことかもしれない。
────あんなに分かりやすい態度を示すくらいなら言ってしまえばいいものを……
と、グレンは件の少女を憐れんだ。
その原因は間違いなくヴァイスだが、ヴァイスは今のところグレンとの会話に夢中でラビの様子には気づいていない。どうしたものかとグレンは思案する。
結果、グレンは敢えて何も言わず、顎で僅かにでラビの存在を促した。ヴァイスがそれに気づき、ラビの方を見やる。
一瞬間が開くと同時にヴァイスの表情が変わった。いつもの飄々とした表情とは別種の真剣さを湛えたものだった。
ヴァイスの目がラビを捉えた瞬間、
「うっ……」
ラビはそれまでの熱視線が嘘のように恥ずかしくなり、ヴァイスから目を逸らした。
「グレン、そろそろ行くわ、じゃあな」
「ああ」
そう言ってグレンと別れるとヴァイスは一直線にラビへと向かう。
ヴァイスが歩み寄るのを見て緊張で固まってしまったラビだが、意を決して口を開いた。
「あ、あのっ……わわ私、ヴィー様と同じテントで眠ってもいいでしょうか……?」
消え入るような声だった。しかしヴァイスにはしっかり届いたようで
「もちのロンだよラビちゃん!」
嬉々として答え彼女を抱き締めた。長めの黒髪が月明かりに煌めく。
「はわっ!?」
驚きと緊張で固まる彼女の背中を優しく撫でながら続ける。
「俺も今日はラビちゃんともう少し話したかったんだよな。いろいろ聞きたいこともあるんだ」
「あっ……はい!私でよければ何でも……!」
真っ赤になりながらも必死に言葉を紡ぐ様子が愛らしい。
その光景を少し離れた位置から眺めるグレン。
彼女の幸せそうな顔に、彼の普段の無表情が僅かに綻ぶ。
やがて二人は手を繋ぎながら自分達のテントに入っていった。その手は温もりに満ち溢れている。そんな二人を見送るとグレンは空を見上げた。
────明日からまた忙しくなるな。
そう思いながら、グレンもまた、マリエルの元へと戻っていった。