マリエルさんの告白劇はまさに嵐のようでした。広場の騒がしさに気づき、私がそこに向かうと────
人混みの隙間から見えたのは、頬を桃色に染めたマリエルさんがグレン様に愛を叫んでいる姿。その後の広場中を揺るがす歓声。
そして……羞恥で真っ赤になりながらも満ち足りた表情を浮かべるマリエルさんの姿。
────いいなぁ……。
その光景は、心の中に棘のように刺さり、残り続けました。
***
夕暮れ時、川辺で一人佇む私。水面に映る自分の顔はどこか寂しげです。
────マリエルさんは本当に幸せそう……グレン様にも認めていただいて……
ため息を一つ。足元の小石を蹴ると浅い川底に沈みました。
────私だって……
指先で自分の唇に触れます。昼間の告白劇を見た後から、胸がチクチク痛むのです。ヴィー様は私を大切にしてくれています。一緒にいると心がポカポカしてきます。
でも……マリエルさんのように公然と愛情を示されたことはありません。
「ラビちゃん?」
背後から聞こえた声に跳び上がります。振り返ると麗しの男性が立っていました。
「ヴィー様……」
「何してるんだい?こんな暗いとこで」
「な……なんでもないです!」
慌てて誤魔化しますがヴィー様の鋭い目は逃しません。
「嘘つきめ」
彼は笑いながら私の頭を撫でました。
「さっき広場の方見てたろ?」
「みっ……見て……ません……」
「俺には全部お見通しさ」
恥ずかしくて、どうしたらいいのか分からなくなっていると、肩を抱き寄せられて、一瞬でその大きな腕に包まれてしまいました。
────彼の胸板は頼もしくて温かい。今の今まで意地を張っていたのに……私はすぐにしがみつき、顔を強く埋めてしまいました。
***
夜。私達の小さなテント。ヴィー様が敷いてくださった藁布団の上で私は縮こまっていました。
「で、本当は何考えてた?」
「ほ……本当に何でもないんです」
「……マリエルちゃんのこと羨ましいって思ったろ?」
「ぅ……」
図星すぎて返答に詰まります。耳がピクリと動くのを止められませんでした。
「バレバレだよ、耳が正直すぎるぜ」
ヴィー様がケラケラ笑います。でも……
「────安心しな、羨ましく思ってるのは君だけじゃない」
「え?」
「あの真っ直ぐさを見たら誰だってそう思うさ────もちろん俺も……」
ヴィー様が私の手を取りました。
「俺、ラビちゃんのこと大好きだよ────今まで不安だったんだよな……ごめんな」
その言葉に涙腺が緩みます。
「……本当ですか?」
「当たり前だろ。こんなに可愛い子ほっとくわけないじゃん」
「かっ可愛いなんて!」
顔が熱くなって耳がピコピコ震えます。でも不思議と不快じゃありません。
「さぁおいで」
「え?」
「膝に乗ってみな」
ヴィー様に優しく促され、私はおずおずと────世界で一番大好きな場所に腰を下ろします。
「ほらな、やっぱり似合う────ここはラビちゃんだけの特等席だな」
頭を優しく撫でられました。指先が髪の間を滑り背中をトントンしてくれます。私の体から力が抜けていきます。
「ヴィー様……」
「ん?」
「私のこと……好きですか?」
「勿論、俺の一番大切な女性さ」
即答でした。それがとても嬉しくて私はつい甘えてしまいます。
「じゃあ……キス……して欲しいです……」
おずおずと顔を上げる私。ヴィー様の瞳が揺れて見えます。
「……甘えんぼめ」
ヴィー様の大きな手が私の頭に優しく添えられ、髪をくしゅっと撫でながら少し引き寄せられました。
その一つ一つの動作に愛情を感じて、閉じた瞼が幸せに濡れていくのを感じます。
そして次の瞬間────唇が重なりました。触れるだけの、啄むような優しいキス。でも充分すぎるほど熱が伝わります。
「……あったかい」
「そりゃお互い様さ」
「もっと……」
調子に乗ってせがむ私。ヴィー様は苦笑しながらも二度三度と答えてくれます。やがて──
「ん……ふぁ……」
耳と尻尾が勝手に揺れ始めました。獣人の本能が悦びに満ち、止められません。ヴィー様はそれを見て、私の耳にも唇を落としてくれます。
「可愛いなぁラビちゃん」
「そんなこと言わないで……恥ずかしいです」
「じゃあ見ないでおこうか?」
「だっダメです!見てて欲しいです!」
矛盾した要求なのにヴィー様は笑ってくれます。それが堪らなく嬉しくて────
「ヴィー様……大好きです……」
何度も何度も────夜明けが近くなるまでその言葉を繰り返していました。
翌朝。テントから出てくる私を見たマリエルさんが目を丸くしています。
「あっ……ラビさん、その……首のところ……」
「へ?」
気づけば鎖骨の下辺りに小さな赤い痕跡。ヴィー様のいたずらの証拠ですね!
「わぁ!私と同じですね!」
マリエルさんが自分の襟元を捲って同じ位置の赤い痕を見せてくれます。ふたりとも顔を真っ赤にしながら笑い合いました。
「マリエルさん!私たち……お揃いですね!」
「うん!グレン様もヴァイス様も素敵な方です!」
────朝靄の中で私達二人は肩を並べて歩き出しました。親友のような不思議な絆を感じながら。