グレンは振り返る。
現れたのは人間の兵士が三人。全員が紋章の刻まれた防具を装備しており、手に持った剣や槍は具現化で作り出したと思われる圧を放っていた。
……なるほど。
グレンはすぐに状況を把握する。彼らは少女を追ってきたのだろう。
「貴様!そこで何をしている!その娘に近寄るな!」
男の一人が様子を見るやいなや、グレンに怒鳴り散らす。
「私はただ道に迷っただけで……」
グレンは平静を装う。
「ふん、迷い人か……その娘は我々が保護する、すぐさまここから立ち去れ」
「……保護……か」
男達が近づいて来る。
────まずいな……このままでは面倒なことになる。
「おいお前!聞こえなかったか!早くその娘から離れろ!」
男の一人が剣を向ける。しかしグレンは冷静だった。
全く持って見覚えのない紋章だ。この地方の兵士……か?
「よく見ると、貴様おかしな格好をしているな……何故このようなところにいる?」
兵士の一人が訝しげにグレンを見ながら尋ねてきた。
「おかしな格好ではない。これは俺の正装だ。何故ここにいるのかは俺もわからん」
「ふざけるな!貴様怪しいぞ!」
「あの」
少女は森から身を乗り出し、グレンの方を見る。
「この方は違います!」
「なんだと?」
少女の声は微かに震えていたが毅然としていた。
「ここで偶然会っただけの御方です!あなた達のような悪い人間ではありません!」
「貴様……!」
男は殺気立つ。少女は恐怖を押し殺しながらもグレンを庇おうとしていた。
────なるほど、やはり保護というのは建前で、攫うつもりだったというわけか。
「もういい!貴様を切り捨てれば任務に支障はない!」
男の一人が突進してくる。少女は叫ぶ。
「やめて!旅の方、逃げてください!」
グレンは咄嗟に身を翻し男の剣を避けた。
「邪魔をするな!」
兵士達は躊躇なく邪魔者を殺すための攻撃を繰り出したが、グレンは流れるように全ての剣戟を躱すと、魔装騎士として鍛え上げられた体術で連中を無力化した。
「……ぐっ……!」
「……素手で三人を相手に……!?貴方様は一体……?」
目を見開き少女が問いかける。
────今何を言っても証明するものがないな。
「さっきも言っただろう。ただの旅人、いや迷い人だ」
グレンは気絶させた兵士の装備を物色し
「剣か、借りるぞ」
一人の兵が腰に帯刀していた普及品の剣を腰に刺す。
さて…
グレンは少女に向き直る。
どうしたものか……と再び思案の底に沈みそうになったところで、少女が慌てた様子でグレンに駆け寄り、話しかけてきた。
「あ、あの!旅のお方!どうか力をお貸し頂けませんか!?」
意を決した様子で、少女が叫び、語りかけてきた。
少女の警戒、恐怖心と言ったものは先程よりは薄れているが、以前として感じられる。しかし何かそれを押してでも通したい願いがあるのだろう。
「どうか……助けて、ください…」
少女の無垢な瞳から一筋の涙が零れる。
…………女の涙には弱いな。
「話を聞こう、移動しながらが良いか?」
少女の眼に希望の光が宿る。
「は、はい!」
「案内を」
「はい!こちらへ!」
少女は、自身が逃げて来たであろう方向へ歩き出し、グレンはそれに続く。
果たして、どうなるか……
皇竜騎士の次なる戦いが幕を開けた。
***
歩き始めて間もなく、少女はグレンに己の事情を語り始めた。
「改めまして、私はリリアーヌと申します。メイリーン王国の王女シャルロット様付きの侍女をしております」
少女は丁寧にお辞儀をした。
グレンは眉をひそめる。
「メイリーン……アルダインに隣接する小国か」
「はい……」
リリアーヌは俯く。
────村の者、主にマリエルからではあるが、グレンはこの世界の成り立ち、国、歴史などについての情報を一通り習っていたが、その中に一際記憶に残る国があった。
人間族の織り成す国家でありながら唯一「種族対等主義」を掲げ、人間族の王の下、人間族も亜人族も等しく国民として共存する国、それがメイリーンだった。
「我々はアルダインからの休戦提案を受け、王女自らが条件交渉に向かっておりました……ですが……」
言葉を濁す彼女の瞳に悔恨の色が浮かぶ。
「刺客か」
グレンは鋭く切り込む。
「そうです」
リリアーヌは顔を上げた。
「アルダイン国内で待ち伏せていた武装集団に襲撃されました。シャルロット様と私は……囚われました」
「だがお前は逃げた」
「……シャルロット様が……私を逃がしてくださったんです」
リリアーヌの声が震える。
「『私を助けようとせず村へ逃げて助けを求めなさい』と……でも」
涙が頬を伝う。
「私には無理です!大切な友達を置いて逃げられない!」
「だから俺に協力を求めた」
グレンは静かに言った。
「はい!お願いします!貴方様のとてつもないお力は今しがた拝見しました……どうか、そのお力でシャルロット様を助けてください!」
リリアーヌが必死に頭を下げる。
「……あらかたの事情は把握した。一つ聞きたいことがある。」
「なんでしょうか……?」
弱々しい声でリリアーヌが答える。
「お前のその容姿、明らかに人間と違うな、エルフという種族か」
「はい…」
「王女は人間なのだろう、メイリーンは対等主義の国だと聞いている。ならばこの世界の常識からは外れてはいるが、エルフが王女の付き人ということも理解できる────だが、それはあくまで建前の話だ。
命のかかったこの局面で、お前が人間のためにその身を賭けるのか」
「……逆です、王女様が私のためにその身を賭けてくださったのです」
リリアーヌは悲痛な面持ちで話し出す─────