紅蓮の騎士と神狼の銀閃   作:うしえもん

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胸中

 

グレンがメイリーン城に滞在し始めてから数日が経った。

 

 

 

初日の謁見時、保留となっていた説明の続きを聞くために、グレンは王城地下へと続く階段、その厳重に閉鎖された扉の前に立っていた。

 

 

 

横には国王、セバス、そして事件に巻き込まれた当事者であるリリアーヌが並んでいる。

 

 

 

────ゴ……ゴゴ……ゴォン

 

 

 

扉の警備に当たっている騎士二人により、重い音を響かせながら扉が開かれる。

 

 

 

「グレン殿────先日、我が国がアルダインに狙われる理由が潤沢な鉱物資源にあるという話をしたが……その中でも、奴らが一番欲しがっているものはなんだと読む?」

 

 

 

階段を降りながら、グレンの前を歩く国王がグレンに問いかけた。

 

 

 

「鉄鉱石だろう」

 

 

 

間髪入れずに答えたグレンに驚く国王とセバス。

 

 

 

「即答か……さすがだな」

 

 

 

「────野心にまみれ、武力で蹂躙することしか頭にない連中の考えることなど一緒だ」

 

 

 

────腐った人間の欲望は際限がないが、突き詰めるとそれは他者の尊厳を踏みにじり、悦に浸ることに行き着く。

 

グレンの目には、アルダイン兵は瘴気に侵された魔物と同じように見えていた。

 

 

 

「うむ────哀しいことだがな……しかし、なればこそ渡す訳にはいかぬ。この国の恵まれた地形、国民として迎えたドワーフ族の優れた鍛治技術、頼もしき騎士たちの忠誠……それらによって、我らは長年耐え凌いできた」

 

 

 

そこで一行は階段を降りきった。そこは堅牢な石壁で囲まれた十メートル四方の部屋となっており、中央に巨大な岩のようなものが鎮座していた。

 

 

 

金属製の台座に固定され、うっすらと青く明滅しながら微かな冷気を漂わすそれに視線を向け、国王が再び口を開いた。

 

 

 

 

「────これがこの国の切り札……魔封石だ」

 

 

 

 

「魔封石……」

 

 

 

「これの効果が及ぶ範囲では、具現化魔法はもちろんのこと、高出力の魔力の放出や身体強化といった魔法もほぼ不可能になる……リリアーヌ、そなたが見たのもこれで間違いないな?」

 

 

 

「はい、襲撃直前に私たちのところに投げ込まれたものが同じ色をしていました。迎え撃とうとされた騎士団の方たちは魔法の一切を制限され、遠距離からの攻撃に為す術もなく……」

 

 

 

リリアーヌの瞳が潤む。セバスも部下の無念を想い表情を曇らせる。

 

 

 

「……それで動揺したというわけか────余程貴重なものだと見える。」

 

 

 

「その通りだ。魔封石は歴史上でもほぼ発見例が無く、通常それを戦略に組み込むことなど想定されるものではない……だからこそ、この巨大な魔封石が切り札となっているのだ────セバス」

 

 

 

「はっ……グレン殿、あちらをご覧下さい」

 

 

 

国王に代わりセバスが口を開くと、グレンへ対して天井を手で指し、意識を促す。

 

 

 

「これは…………」

 

「この部屋は通常我々の過ごす王城内部からかなり下がった場所に位置しており、今はその効果を放っている状態ではありません。」

 

 

 

セバスは手を下ろすと、今度は周囲への手振りへと変え、説明を続ける。

 

 

 

「発見例が無いため、詳細は未だ不明なのですが……魔封石の効果は、それの位置から上方向に対してはおよそ数メートル、という程度であり、周囲及び下方には強力に作用するものとなっております。」

 

 

 

「────つまり有事の際には地上、もしくはそれよりも上へと昇降させる仕掛けがあるということか」

 

 

 

グレンは説明を聞き、再び天井へと目を向けた。

 

────その先には薄暗い闇を突き抜け、僅かに光が見えるように吹き抜けとなっている長い空間がぽかりと空いていた。

 

 

 

「左様でございます────仕掛けを動かすと、台座が胸壁上まで登り、その力を発揮します」

 

 

 

「その範囲は?」

 

 

 

「およそ城下町を包み、いくらか漏れ出る程度です」

 

 

 

「────広いな。しかし、それで奴らの魔法が封じられるのはいいが、お前たちも────」

 

 

 

グレンは問いかけの途中でふと、いつの日か村でバーグルに聞いたことを思い出した。

 

 

 

「……なるほど、ここで種族混在の強みが出るか」

 

 

 

「ご賢察です────獣人族は身体能力に長け、エルフ族は緻密な魔力制御により、その制御下でも敵を翻弄する魔法を放つことが可能です。」

 

 

 

セバスは自らの腕を見つめ、苦々しい顔をした。

 

 

 

「もちろん我ら人間族騎士も、魔法に頼らぬ戦いの訓練を日々行っておりますので、この領土下においては決して引けを取らぬものと自負しております……件の襲撃は、あまりに不測のことゆえに遅れをとったのでしょう……」

 

 

 

「────アルダインは、それから何か動きはないのか。搦め手を含めた王女の拉致というところまでやっている以上、このまま引き下がるとは思えないが」

 

 

 

「────表向きは何も……しかし、密偵からの報告によれば、しばらく前から他国との鉄の取引量が異常に増えている、との報告が上がっており……」

 

 

 

「……そうか」

 

 

 

グレンはそれだけを返すと視線を己の手元に落とした。

 

 

 

 

奴らがいかに凶悪な牙を持ち出してきたとしても、グレンの『竜』を打ち破ることはない。

 

しかし、マリエルの加護なくして今の自分がそれを行うことの結果は、火を見るより明らかだった。

 

 

 

 

────もって一度……か。

 

 

 

 

ほんの数瞬の思案の後、グレンは顔を上げる。

 

 

 

「事を想定して訓練をしているのだろう、俺も参加する。」

 

 

 

その言葉を聞き、セバスが口を開く。

 

 

 

「ありがたい申し出です。我ら一同、しかと学ばせていただきます」

 

 

 

 

「学ぶことがあるのは俺も同じだ。胸を借りるぞ。」

 

 

 

 

「ひとまず話はこれくらいというところか、よろしく頼む、グレン殿。新しく情報があった時はすぐに伝えよう」

 

 

 

国王の言葉を最後に、一同は部屋を後にする。

 

 

 

扉の閉まる重い音が響く中、グレンの金色の眼差しは、ここではないどこかを見据えているように鈍く輝いていた。

 

 

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