BLEACH異聞ー焦天五獄変ー   作:鬼屋敷

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4.壊れない

 

 黒い空。

 白い砂。 

 乾いた風が吹くたび、虚圏の大地は静かに姿を変える。 

 シルエロは、この景色が嫌いではなかった。

 

 何もない。 

 隠れる場所も、守るものも、言い訳もない。

 強い者が生き、弱い者が喰われる。 

 それだけの世界。 

 とても単純で気に入っていた。ややこしいものは嫌いだ。 

 だが、一つだけ不満がある。 

 退屈だった。

 

「……つまんねぇな」

 

 巨体が砂丘の上に立つ。 

 白い外殻の隙間から覗く、竜を思わせる赤い鱗。 

 額から後頭部へと伸びる巨大な角。 

 純白の翼には、血が滲んだような紅がところどころ混じっていた。

 長い生存競争の果てに、ただ強さだけを残して生き延びてきた怪物。

 

 シルエロ・ドレスデン。

 

 その圧倒的な霊圧を警戒するように、遠くでは大型の虚達が群れを作っていた。

 どれも、この世界で長く生き残ってきた個体なのだろう。

 そのくせして弱い。

 爪を振れば裂ける。尾を振れば潰れる。翼を打てば砂へ沈む。

 戦いにすらならない。

 ただ、目の前にいたから引っ叩いただけ。

 

「……腹も減らねぇ」

 

 砕けた仮面を踏みつけてみても気晴らしにすらならず、シルエロは欠伸をした。

 その時だった。

 風の向こうから、小さな霊圧が流れてきた。

 虚ではない。

 死神。

 それも、これまで見てきた強い連中と比べれば、ずいぶんと弱々しい霊圧だった。

 

「……なんだぁ?」

 

 珍しい。

 ただそれだけの好奇心だった。

 白い翼がゆっくりと広がる。羽根の合間に滲む紅が、陽炎のように揺れた。

 轟音とともに砂煙が吹き上がり、シルエロは霊圧の前へ降り立った。

 そこには、一人の少女がいた。

 傷だらけだった。

 血を流し、息も荒い。

 それでも足元には、斬り伏せた虚が何体も転がっている。

 

「ふーん」

 

 シルエロは首を傾げた。

 

「なんだ、お前」

 

 少女は何も答えない。

 驚きもしない。

 逃げもしない。

 ただまっすぐシルエロを見ていた。

 ここでよく見るような獲物を見る目でもない。

 死を恐れる目でもない。

 何も映していないような、ひどく空虚な瞳。

 

「…………」

 

 なんとなく爪を振るった。

 少女は刀を抜いた。

 同時に鬼道を放つ。

 桃色の炎が砂漠を照らした。

 

(おっそ)

 

 シルエロの爪は炎ごと切り裂き、そのまま少女を吹き飛ばした。

 小さな身体が砂丘を何度も跳ねる。

 骨の砕ける音。

 最後に岩へ叩きつけられ、動かなくなった。

 

「……ちぇ」

 

 シルエロは鼻を鳴らす。

 

「やっぱ雑魚か。つまんな」

 

 食う気にもならない。

 動かなくなったものに興味もない。

 そのまま踵を返した。

 少ししたらもう忘れていた。

 

 

 数日後。

 また、あの霊圧を感じた。

 

「……あ?」

 

 砂丘の上。

 同じ少女が立っていた。

 また血を流している。出来たばかりの生傷も目立つ。

 足元も覚束ないのに、それでも刀だけは握っている。

 

「お前、生きてたのか」

 

 返事はない。

 桃色の炎だけが飛ぶ。

 やはり遅い。

 爪を振るう。

 少女は吹き飛ぶ。

 砂へ沈む。

 動かなくなる。

 

「……変なの」

 

 放っておいた。

 またしばらくしたら忘れた。

 

 

 一週間後。

 またいた。

 

 

 半月後。

 またいた。

 

 

 一ヶ月後。

 またいた。

 

 何度小突いても死なない。

 何度吹き飛ばしても、気が付けばその辺で虚を斬っている。

 その目は相変わらず何も映していない。

 生きたいのか。

 死にたいのか。

 そんなことすら分からない。

 

「んだよ、お前」

 

 初めて見た時と同じように、少女は何も答えなかった。

 ただ、静かに刀を構えるだけだった。

 シルエロは知らない。

 この死神が、帰る場所を失い、心を壊したまま虚圏を彷徨っていることを。

 ただ一つだけ分かったことがある。

 

 弱い。

 とても弱い。

 なのに、壊れない。

 

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