BLEACH異聞ー焦天五獄変ー   作:鬼屋敷

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6.こいつ嫌い

 

 幾度目だっただろう。

 砂の上に倒れ、薄桃色の焔に焼かれながら目を覚ます。

 軋んだ骨が元の位置へ戻り、裂けた肉が焼けるような痛みとともに繋がっていく。何度経験しても、この痛みにだけは慣れなかった。

 

「っ……」

 

 息を吐き、身体を起こす。そうして、また歩き出す。

 虚を斬り、生き延び、あの怪物と出会えば戦って、吹き飛ばされる。

 いつからか、それが虚圏での日常になっていた。

 最初は、死にたかった。

 あの怪物なら自分を終わらせてくれると思ったし、初めて目の前に立った時には、それでようやく全部が終わるのだとすら思っていた。

 けれど、怪物は雛森を殺さなかった。

 本気で戦いもしない。

 こちらが何をしても適当にあしらい、もう動かないと分かれば興味をなくしたように去っていく。

 それが、だんだん腹立たしくなった。

 鬼道は届かない。斬魄刀も届かない。工夫しても、考えても、その上から馬鹿みたいな力で叩き潰される。

 なのに。

 

「今日は昨日よりマシだったな」

 

 時折、怪物は楽しそうに笑った。

 鬼道が掠めた時。刀が肩口に残る赤い鱗を掠めた時。昨日までできなかった何かが、今日できるようになった時。

 そんな些細なことを見つけるたび、子供みたいに牙を見せて喜ぶ。

 意味が分からなかった。

 何がそんなに楽しいのか、雛森にはさっぱり分からない。

 だから余計に腹が立った。

 死にたかったはずなのに、いつからか、あの笑った顔を見るたびに悔しくなった。

 

「……なんで笑ってるの」

 

 どうせ玩具なのだ。転がして、殴って、少し面白い動きをすれば喜んでいるだけ。

 なら。いつか、その顔を引き攣らせてやりたいと思った。

 幾度も積み重なる敗北と、そのたびに繰り返される再生は、雛森自身にも変化をもたらしていた。

 死線を越えるたびに霊圧は鍛えられ、あの日ただ暴走するだけだった力も、少しずつ雛森の意思に応じ始める。

 薄桃色の焔は次第に鮮明な輪郭を持ち、身体の内側を無軌道に焼き荒らしていた力も、僅かながらその行き先を選べるようになっていた。

 飛梅の姿は見えない。声も聞こえない。

 それでも、この力だけは今も自分の中にいる。

 そして、その日。

 雛森はまた、シルエロの前に立っていた。

 

「おう、やるか!」

 

 白い翼が大きく広がり、羽の隙間に滲む紅が黒い空を掠めた。

 相変わらず楽しそうだった。

 雛森は無言で刀を握る。

 何度負けた。何度吹き飛ばされた。何度、砂の上で目を覚ました。

 もう数える気にもならない。

 

「あ? どした? 来ねぇんか?」

 

 その声を聞いた途端、腹の底が煮えた。

 その顔が気に入らない。

 その声も気に入らない。

 強すぎるのも気に入らない。

 こちらがどれだけ必死に足掻いても、楽しそうに笑っているのが何より気に入らない。

 殺してほしかった。

 最初は、それだけだった。

 なのに、こいつが殺してくれなかった。

 何度も立ち、何度も刀を握り。

 そのたびに考えた。

 次はどうすれば、鬼道を当てられるか、あの鱗を斬れるか。

 どうすれば避けられる。

 どうすれば一発、あのふざけた顔に叩き込める。

 どうすれば、どうすれば。

 気づけば、そんなことばかり考えていた。

 死ぬことなんて、考えていなかった。

 

「……最低」

 

 思わず口から零れた。

 本当に最低だった。全部終わらせるために虚圏まで逃げてきた。

 誰にも会いたくなくて、何も考えたくなくて、死ねるならそれでいいと思っていた。

 それなのに。

 

「ねぇ、飛梅」

 

 返事はない。

 雛森は刀を握り締めた。

 

「私、いま……」

 

 何をしているんだろう。

 自分でも分からない。

 ただ、目の前でニヤニヤ笑っているこいつが、どうしようもなく腹立たしい。

 もう一度、シルエロを見る。

 楽しそうな顔。待ちきれないように揺れる尾。いつでも来いとばかりに開かれた両腕。

 

 こいつは。

 本当に。

 こいつは……!

 

「――ああッ!!」

 

 薄桃色の焔が爆ぜた。

 霊圧が一息に噴き上がり、白い砂を巻き上げる。羽衣が熱風にはためき、どこからともなく響いた鈴の音が、荒れ狂う炎の中へ呑まれていく。

 雛森は刀を天へ掲げた。

 今この瞬間、終わりたいなんて、頭のどこにもなかった。

 

「――卍解!!」

 

 焼けるような熱を引き連れ、雛森はシルエロを睨みつけた。

 

「お前ッ、殺してやるッ!!」

 

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