午前五時。
高度育成衛士高等学校の学生寮は、まだ夜の中に沈んでいた。
窓の外に見える東京湾は黒く、対岸の防衛灯だけが一定間隔で海面を照らしている。
昨夜の警戒警報は解除された。
海底地震による誤検知。
学校から生徒へ伝えられた情報は、それだけだった。
だが、警報解除後も哨戒部隊は戻ってこなかった。
寮の窓から確認できただけでも、少なくとも二度、
別の戦術機部隊が東京湾東部へ向けて発進している。
単なる誤検知にしては、警戒が長すぎる。
そして何より。
高度育成衛士高等学校へ入学してから、今日で一週間が経過していた。
入学式。
基礎訓練。
シミュレーター演習。
戦術講義。
機体整備。
候補生たちは、目まぐるしい毎日を過ごしてきた。
まだ七日。
それなのに、ずっと以前からこの学校にいるような感覚があった。
実戦配備された正規軍を見たことも。
夜中の警報で叩き起こされたことも。
東京湾へ展開する部隊を見送ったことも。
普通の学校なら経験しないことばかりだった。
候補生たちの表情からも、入学当初の緊張は少しずつ消え始めている。
須藤は毎朝の体力訓練に慣れ。
平田は自然と周囲をまとめるようになり。
堀北は教官たちから指揮能力を評価され始めていた。
そしてオレも、この学校の生活へ少しずつ順応していた。
とはいえ、候補生に軍の機密情報が開示されることはない。
東京湾で何が起きているのか。
入学日の警報が本当に誤検知だったのか。
それを知る権限は、まだオレたちには与えられていなかった。
オレたちに与えられた命令は一つ。
午前五時三十分、第一演習場へ集合。
オレは訓練服へ着替え、部屋を出た。
廊下にはすでに何人かの生徒がいる。
眠そうに欠伸をする者。
まだ半分目を閉じたまま歩いている者。
朝から髪型を整えている者。
初日の緊張が残っているのか、思ったより多くの生徒が早めに動いていた。
階段を下りると、玄関前で平田洋介が他の男子生徒へ声をかけている。
「あと十分だよ。演習場までは少し距離があるから、そろそろ出た方がいい」
平田は昨日の適性検査で二位だった。
身体能力、協調性、判断力。
どの項目も高く、他人へ自然に声をかけられる。
Dクラスの中では、すでに中心人物になりつつあった。
「綾小路くんも行く?」
「ああ」
平田と共に玄関を出る。
外気は冷たかった。
人工島は海風を遮るものが少ない。
校舎と寮の間を抜ける風が、訓練服の隙間から入り込んでくる。
演習場へ続く道路の脇では、整備車両が忙しなく行き交っていた。
朝の訓練時間としては数が多い。
荷台には大型の弾薬コンテナ。
別の車両には跳躍ユニットの予備部品。
いずれも北部格納区画へ向かっている。
平田も気づいたらしい。
「昨日の警報、やっぱり何かあったのかな」
「分からない」
「海底地震なら、あそこまで警戒する必要はない気がするんだけど」
「軍には軍の判断がある」
「そうだね」
平田は深く追及しなかった。
「一つ聞いていいか」
「何?」
「この学校に二年生や三年生がいないのは何故だ」
平田は少し意外そうな顔をした。
「ああ、そのことか」
「知らないのか?」
「入学前の説明でも触れられていたけど、
君はあまり興味がなかったのかもしれないね」
否定はしない。
平田は苦笑しながら続けた。
「この学校の二年生と三年生は、ほとんどが海外戦線へ留学しているんだ」
「留学」
「実戦研修みたいなものかな。アラスカ防衛線、ヨーロッパ方面軍、
アメリカ西海岸防衛軍、オーストラリア戦線。配属先は成績や適性で決まるらしい」
オレは黙って聞く。
「本来なら卒業前に実戦経験を積ませるための制度なんだ。
日本だけじゃなくて、世界中の戦場を見てくる」
「戻ってくるのか」
「もちろん。卒業前には帰国する」
平田はそう言ったが、その表情は少し複雑だった。
実戦研修。
つまり、本物の戦場だ。
帰ってこられない者がいても不思議ではない。
「有名な人もいるのか」
「いるよ」
平田は頷く。
「一番有名なのは、やっぱり堀北学先輩かな」
「堀北学?」
「堀北さんのお兄さん」
オレは少しだけ視線を動かした。
「生徒会長だった人か」
「そう。今はアメリカ方面軍へ留学している」
平田の声に、わずかな尊敬が混じる。
「アメリカ西海岸防衛軍の実戦部隊で結果を出しているらしい。
学校でも伝説みたいな存在だよ」
「伝説か」
「成績は歴代トップクラス。戦術理論も操縦技術も別格だったって聞く」
平田は苦笑した。
「堀北さんが兄を目標にしているのも無理はないと思う」
なるほど。
堀北鈴音が異常なほど自分に厳しい理由も少し理解できる。
常に比較される対象がいる。
しかも、その相手は学校中が認める英雄だ。
「君もそのうち会うかもしれないね」
平田は空を見上げた。
「海外留学組もいずれ何人か帰ってくるはずだから」
オレは何も答えなかった。
だが、高度育成衛士高等学校という場所が
思っていた以上に広い世界と繋がっていることだけは理解できた。
今この学校にいるのは一年生だけではない。
世界中の戦場へ散った先輩たちもまた、この学校の一部なのだ。
第一演習場へ到着すると、すでに堀北がいた。
訓練服姿で準備運動をしている。
無駄のない動きだった。
少し離れた場所では、櫛田が女子生徒たちと話している。
「おはよう、綾小路くん。平田くん」
「おはよう」
平田が笑顔で返す。
オレも軽く頭を下げた。
須藤は演習場の端で腕を組んでいる。
早朝訓練に文句を言っていた割には、遅刻していない。
運動に関することだけは真面目らしい。
池と山内はまだ来ていなかった。
時刻は午前五時二十七分。
茶柱はすでに演習場中央に立っていた。
黒い訓練服。
腕には教官用端末。
その後ろには、二人の補助教官がいる。
一人は筋肉質な中年男性。
もう一人は医療器具を持った女性教官だった。
演習場の奥には、障害物コースが準備されている。
高い壁。
泥水を張った溝。
有刺鉄線を模した低い金網。
傾斜路。
重量物。
単なる体力測定ではなさそうだ。
午前五時二十九分。
池と山内が演習場へ駆け込んできた。
「間に合った!」
池が叫ぶ。
その直後。
茶柱の端末が短い電子音を鳴らした。
午前五時三十分。
「整列」
声が響く。
生徒たちは慌てて並んだ。
「遅刻者はいないようだな」
池と山内が安堵する。
茶柱は二人へ視線を向けた。
「だが、集合時刻の十秒前に到着する者を、
時間管理ができているとは評価しない」
「遅刻してないじゃないですか」
池が反論した。
「戦術機は、搭乗時刻の十秒前に格納庫へ到着すれば出撃できると思うか?」
「それは……」
「補給、機体確認、管制接続、作戦共有。出撃前に行うことはいくらでもある」
茶柱は全員を見渡した。
「時間通りに来るのは最低条件だ。準備を終えた状態で、その時刻を迎えろ」
誰も言い返さなかった。
「本日の訓練内容を説明する」
大型モニターに項目が表示される。
長距離走。
障害物走。
負傷者搬送。
集団行動。
空間判断試験。
反射訓練。
午後はシミュレーター。
一日で行う量ではないように見える。
池が小さく呟く。
「死ぬって……」
茶柱が反応した。
「安心しろ。死ぬ前に医務室へ送る」
「安心できないんですけど」
「口を動かす体力があるなら問題ない」
補助教官の男性が一歩前へ出た。
「私は坂上数馬。戦術および基礎体力訓練を担当する」
低く、よく通る声だった。
短く刈った髪。
左眉の上に古い傷跡がある。
軍人としての階級章は外されているが、立ち方だけで実戦経験があると分かる。
「お前たちの大半は、戦術機へ乗れば強くなれると勘違いしている」
坂上は淡々と言った。
「逆だ。弱い人間が乗れば、戦術機も弱くなる」
須藤が僅かに眉を動かす。
「戦術機は、お前たちの欠点を隠す道具ではない。
判断の遅さも、恐怖も、身勝手さも、すべて拡大する」
坂上は地面へ置かれた訓練用ライフルを持ち上げた。
実弾は装填されていない。
「機体を失って脱出した後、誰が歩く?」
誰も答えない。
「お前自身だ」
坂上はライフルを下ろした。
「仲間が負傷した時、誰が運ぶ?」
答えは同じだった。
「戦術機に乗る前に、人間として動けるようになれ」
茶柱が端末を操作する。
「五キロ走。制限時間二十五分。
上位順ではなく、全員が時間内に戻ることを目標とする」
須藤が首を傾げる。
「順位は関係ねぇのか?」
「ない」
「なら、ゆっくり走っても同じだろ」
「全員が戻ればな」
茶柱の言葉に、平田が意味を理解した。
「誰かが遅れたら、全員の評価が下がるんですか?」
「そうだ」
ざわめきが起きる。
「個人競技ではない。足の速い者が先に戻って満足しても、部隊としては失敗だ」
須藤が不満そうに息を吐いた。
「遅い奴に合わせろってことかよ」
「違う」
茶柱が即座に否定した。
「速い者は、遅い者を速く走らせろ」
開始の電子音が鳴った。
Dクラス全員が走り出す。
演習場を出て、人工島外周の訓練道路へ向かう。
最初から須藤が飛び出した。
陸上競技経験者らしい速度だった。
続いて平田。
堀北。
体力に自信がある生徒が前へ出る。
オレは中団に位置した。
一キロ地点。
早くも差が開き始めた。
池の呼吸が荒い。
山内も速度が落ちている。
女子生徒の中にも苦しそうな者がいた。
先頭の須藤は、こちらを振り返ることなく走り続けている。
「須藤くん!」
平田が前方へ声をかけた。
「少し速度を落として!」
「なんでだよ!」
「全員で戻らないと意味がない!」
「知るか!遅い奴が悪いだろ!」
須藤はそのまま走る。
堀北も速度を落とさなかった。
平田が後方へ戻ってくる。
「大丈夫?」
池の横へ並ぶ。
「無理……もう無理……」
「まだ一キロ少しだよ」
「だから無理なんだよ!」
櫛田も女子生徒の一人を支えながら走っている。
クラス全体が縦に長く伸びていた。
このままでは時間内に全員が戻れない。
「綾小路くん」
平田が声をかけてきた。
「後ろをお願いできる?」
「分かった」
オレは速度を落とし、最後尾へ下がった。
山内ともう一人の男子生徒が遅れている。
「少し歩かせてくれ」
山内が言う。
「歩けば間に合わない」
「でも走れねぇって」
「歩幅を狭くしろ。速度を上げる必要はない。止まる方が体力を使う」
「簡単に言うなよ」
言いながらも、山内は再び走り始めた。
二キロ地点。
先頭にいた須藤が折り返してきた。
堀北も続く。
「遅ぇぞ」
須藤が池たちへ言った。
「須藤くん、戻って手伝って」
平田が頼む。
「は?」
「全員で時間内に戻る課題だから」
「俺はもう半分終わってんだぞ」
「だからこそ、余裕がある」
須藤の表情が険しくなる。
「甘やかしてどうすんだよ。戦場で走れねぇ奴なんて置いてくしかねぇだろ」
その考えは完全に間違っているわけではない。
状況によっては、一人を救うために部隊全体を危険へ晒せない場合もある。
だが、今は訓練だ。
まだ改善できる人間を、最初から切り捨てる必要はない。
「須藤くん」
堀北が立ち止まった。
「何だよ」
「あなたが正しいかどうかは関係ないわ。これは教官が定めた課題よ」
「だから?」
「全員で戻ることが勝利条件。なら、それを達成するために動くべきでしょう」
須藤は舌打ちした。
「偉そうに指図すんな」
「指図されないと理解できないから言っているの」
「ケンカ売ってんのか?」
「買う価値もないわ」
空気が悪化する。
平田が間へ入った。
「今は言い争ってる時間がない。須藤くん、お願いだ」
須藤はしばらく黙っていた。
やがて後頭部を乱暴に掻く。
「一回だけだぞ」
須藤は池の前へ回った。
「おい、腰落とすな。腕振れ」
「無理だって!」
「うるせぇ。俺の足見て同じ間隔で走れ」
言葉は荒い。
しかし速度は池に合わせている。
堀北も女子生徒の一人へ呼吸の仕方を指示した。
櫛田が周囲へ声をかけ、平田が全体の速度を調整する。
少しずつ、集団が一つに戻っていく。
残り一キロ。
制限時間まで六分。
疲労は全体へ広がっていた。
先頭も最後尾も関係ない。
全員が同じ程度に苦しんでいる。
人工島の外周道路からは、海が見える。
防壁の向こう。
灰色の東京湾。
遠方には哨戒艦が停泊していた。
昨夜出撃した戦術機の姿はない。
残り五百メートル。
池が再び遅れ始める。
須藤が腕を掴んだ。
「止まんな!」
「手ぇ離せ!」
「だったら自分で走れ!」
「走ってるだろ!」
怒鳴り合いながらも、二人の速度は落ちていない。
演習場の入口が見える。
茶柱と坂上が立っている。
残り一分。
Dクラス全員が演習場へ入った。
最後尾の生徒が計測線を越えた瞬間、端末が鳴る。
二十四分四十七秒。
全員が制限時間内に戻った。
池が地面へ倒れ込んだ。
山内も仰向けになる。
須藤は膝へ手をつきながら、荒く呼吸していた。
茶柱は生徒たちを見下ろす。
「悪くはない」
須藤が顔を上げる。
「もっと褒めてもいいだろ」
「先頭を走ったまま戻っていれば、お前一人の評価は高かった」
「なら、その方が良かったじゃねぇか」
「だが今は、全員の評価が上がった」
須藤は何も答えない。
茶柱は視線を池へ移した。
「池」
「はい……」
「お前が遅れたことで、他の者は連携を学んだ」
池が僅かに表情を明るくする。
「だが、それを理由に遅いままでいいと思うな。次は自力で走れ」
「はい……」
甘さはなかった。
だが、切り捨てもない。
短い休憩の後、障害物訓練が始まった。
高い壁を越える。
泥水の中を進む。
低い金網の下を這う。
重量物を運ぶ。
疲労した状態で判断課題へ答える。
茶柱と坂上は、失敗するたびに生徒を止めた。
「視線が下がっている」
「着地の前に足元を確認しろ」
「自分だけ通過して終わるな」
「後続へ障害物の状態を伝えろ」
須藤は身体能力で次々と突破する。
堀北は慎重だが正確。
平田は周囲の補助を優先する。
櫛田は声かけが多い。
オレは目立たない範囲で課題を処理した。
そして。
訓練開始から一時間以上が経過しても、姿を見せない生徒が一人いた。
高円寺六助。
集合時刻になっても来ていない。
五キロ走にも参加していない。
障害物訓練にもいない。
茶柱は特に名前を呼ばなかった。
誰もが気づいていたが、教官が触れないため質問できずにいた。
午前七時過ぎ。
障害物訓練が終わり、生徒たちが休憩していると、
演習場の入口から鼻歌が聞こえた。
高円寺が歩いてくる。
訓練服ではない。
制服姿。
片手には果物。
髪も乱れていない。
朝の訓練へ参加する人間には見えなかった。
「おはよう、諸君」
誰も返事をしない。
高円寺は気にせず果物を口へ運ぶ。
茶柱がゆっくりと振り返った。
「高円寺」
「なんだい、茶柱ティーチャー」
「現在時刻を知っているか?」
「もちろん。午前七時九分だ」
「集合時刻は?」
「午前五時三十分だったねぇ」
「一時間三十九分の遅刻だ」
「正確な計算だ。素晴らしい」
池が小声で言う。
「なんであんな余裕なんだよ……」
茶柱は高円寺の前へ歩み寄る。
「理由を聞こう」
「私には必要のない訓練だからだよ」
演習場が静まり返った。
「必要かどうかを決めるのはお前ではない」
「私の身体について、私以上に理解している人間はいない」
高円寺は自信に満ちた笑みを浮かべる。
「走力、筋力、柔軟性、反射速度。
そのすべてにおいて、私がこの場の誰かに劣るとは思えないねぇ」
須藤が立ち上がった。
「言ってくれるじゃねぇか」
「事実を述べただけさ」
「なら、俺と勝負しろ」
「断る」
即答だった。
「逃げんのか?」
「結果の分かっている競争に時間を使うほど、私は暇ではない」
須藤の額に青筋が浮かぶ。
茶柱が二人の間へ入った。
「高円寺。訓練を受けないという選択には、相応の責任が伴う」
「承知しているよ」
「本校では個人の自由が認められている。
だが、その自由によって生じた不利益も本人が負う」
茶柱は端末を操作した。
「本日の基礎訓練、評価なし。欠席記録一。生活点から減点する」
「構わない」
「戦術機適性訓練への参加資格も、本日は停止する」
「それも構わない」
高円寺は微笑んだままだった。
茶柱は怒鳴らない。
説得もしない。
「では、見学していろ」
「そうさせてもらおう」
高円寺は演習場脇のベンチへ座った。
須藤は納得できない様子だった。
「いいのかよ、あれ」
「放っておきなさい」
堀北が言った。
「自分で不利益を選んでいるのだから」
「気に食わねぇ」
「あなたが気に入るかどうかも関係ないわ」
「いちいちうるせぇな」
二人は朝から何度目か分からない衝突を始めた。
高円寺は、その様子を眺めながら静かに果物を食べている。
本当に訓練が不要だと考えているのか。
単に規則へ従いたくないだけか。
現時点では判断できない。
ただし、昨日の適性検査で高円寺は上位に入っていなかった。
シミュレーターへ乗ること自体を途中で拒否したからだ。
記録上は最低評価。
実際の能力は不明。
午前の基礎訓練が終わる頃には、Dクラスの大半がまともに歩けなくなっていた。
だが、朝食後に休めるわけではない。
短い食事時間を挟み、今度は第一講義棟へ移動する。
教室にはDクラスだけでなく、A、B、Cの全クラスが集められていた。
合同戦術講義。
教室というより、小規模な作戦会議室に近い。
階段状の座席。
中央の立体投影装置。
壁面には世界地図とBETA占領地域。
前方には複数の教官が並んでいる。
Dクラスが入室すると、すでに他クラスの大半は着席していた。
Bクラスは比較的穏やかな雰囲気だった。
中央にいる桃色がかった髪の少女が、周囲の生徒へ笑顔で話しかけている。
一之瀬帆波。
入学前資料でも高い総合評価を受けていた生徒だ。
その隣には神崎隆二。
真面目そうな顔で講義端末を確認している。
Cクラスは空気が違った。
生徒たちはまとまって座っているが、中心にいる男の存在が強い。
龍園翔。
鋭い目。
椅子へ深く座り、教室全体を観察している。
近くには石崎大地、伊吹澪、山田アルベルト。
龍園を中心にした関係性が、入学から一週間にしてすでに形成されていた。
Aクラスは静かだった。
先頭に座る小柄な少女。
坂柳有栖。
彼女の前には杖が立てかけられている。
身体的な事情から衛士課程ではなく、戦略指揮課程へ進むことが決まっている。
その横には神室真澄と橋本正義。
少し離れた位置に葛城康平。
Aクラスだけは、すでに内部で二つの集団へ分かれ始めているように見えた。
Dクラスが席へ着く。
オレは後方を選んだ。
堀北が隣へ座る。
「他クラスの様子を見ていたの?」
「何となくな」
「そう」
前方では龍園がこちらを見ていた。
正確には、Dクラス全体を見ている。
須藤と目が合う。
龍園が薄く笑った。
須藤は睨み返す。
入学七日目にして、すでに問題が起きそうだった。