マブラヴ・カーストルーム   作:EXTERMINATION

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第21話 うごめく怪物

午前九時。

 

地下演習区画で行われた実弾訓練は終了し、

参加した吹雪はすべて西部予備格納庫へ帰還していた。

 

整備員たちは各機から弾倉を取り外し、

駆動部や照準装置、通信系統の点検を始めている。

 

候補生たちも管制ユニットから降り、強化装備のまま格納庫の床へ戻ってきた。

 

誰の背中にも、汗が滲んでいた。

 

本物のBETAがいるわけではない。

 

標的は訓練用であり、演習区画も安全基準に従って管理されている。

 

それでも、閉鎖された地下空間で実弾を撃つことは、

候補生たちが想像していた以上に大きな精神的負担を与えていた。

 

引き金を引く前には、標的だけを見ていればいいわけではない。

 

射線の先に壁や支柱がないか。

 

味方機が入り込んでいないか。

 

外した弾が退路へどのような影響を与えるか。

 

一発ごとに確認し、撃たない判断も含めて選ばなければならない。

 

須藤は自分の弾薬消費記録が表示された端末を見つめていた。

 

高円寺と比較すると、標的一体を止めるために使った平均弾数は二・三倍。

 

数字として示されると、想像以上に差が大きかった。

 

「二・三倍か」

 

隣を通った高円寺が、端末を覗き込む。

 

「改善する気になったのかい?」

 

「次は、お前より少ない弾で倒す」

 

「それでは、競争の方向が少し違うね」

 

「命中率を上げるって意味だよ」

 

「それなら正しい」

 

須藤は高円寺を睨んだ。

 

「お前、本当に言い方がムカつくな」

 

「しかし以前より、私の話を聞くようになった」

 

「必要な話だけだ」

 

高円寺は満足そうに笑う。

 

須藤も以前なら、そこで怒鳴って終わっていたかもしれない。

 

今は苛立ちながらも、自分の弾薬消費が問題であることを否定していなかった。

 

少し離れた場所では、平田が通信障害発生時の映像を繰り返し再生していた。

 

要撃級標的の反応が現れてから、須藤へ方向転換を命じるまで二秒。

 

平田は同じ映像を何度も止め、どの時点で判断できたかを確認している。

 

そこへ一之瀬が近づいた。

 

「私も後方を守っている時、前へ出たくなったよ」

 

平田は映像を止める。

 

「でも、一之瀬さんは出なかったね」

 

「龍園くんに言われたから」

 

「僕も、茶柱先生に言われたことを思い出していた」

 

誰を先に守るのか。

 

どの危険を優先するのか。

 

すべての人を同時に助けることはできない。

 

その言葉を、二人とも別の場面で突きつけられていた。

 

一之瀬は少しだけ表情を曇らせる。

 

「難しいね」

 

「うん」

 

平田は否定しない。

 

「でも、守りたいと思う気持ちまでなくす必要はないと思う」

 

「その気持ちを、どこでどう使うかを覚えればいい」

 

一之瀬はしばらく考えた後、小さく頷いた。

 

「そうだね」

 

午前十時。

 

候補生たちは食堂へ向かう前に、第一作戦会議室へ集合するよう命じられた。

 

呼ばれたのは全員ではない。

 

各クラスの中心人物と、

予備隊として戦術機適性を高く評価されている候補生たちだった。

 

Dクラスからは、堀北、平田、須藤、高円寺、そしてオレ。

 

Cクラスからは、龍園、ひより、伊吹、石崎。

 

Bクラスからは、一之瀬と神崎。

 

Aクラスからは、坂柳有栖、葛城、神室、橋本。

 

壇上には坂柳理事長のほか、東京防衛軍の将校、

統合司令部から派遣された参謀、

そして茶柱、坂上、星之宮、真嶋の四人が並んでいた。

 

普段の訓練報告とは明らかに空気が違う。

 

これは候補生へ結果を伝えるための説明会ではない。

 

軍事作戦の実施時期と規模を決めるための会議だった。

 

本来なら、訓練を始めて間もない候補生が同席するような場所ではない。

 

それでも坂柳理事長は、オレたちを会議室へ呼んだ。

 

議題は、東京ハイヴ攻略作戦。

 

大型スクリーンへ、暁光作戦によって取得された地下構造が表示される。

 

東京ハイヴ浅層部。

 

都心へ続いていた共同溝。

 

複数の海底縦坑。

 

その下に広がる巨大な深部空間。

 

中央に存在する、正体不明の反応。

 

さらに、暁光作戦終了後に新しく確認された西方向への掘削線。

 

参謀の一人が立ち上がった。

 

「東京ハイヴ深部から、西方向へ向かう新たな掘削反応が確認された」

 

地図上へ赤い線が伸びる。

 

お台場地下から始まり、東京湾岸、新橋、銀座方面を通過し、さらに西へ向かっている。

 

「暁光作戦で封鎖した共同溝とは、まったく別の経路です」

 

「平均深度は八百から千メートル。既存の地下鉄、共同溝、

地下施設よりも遥かに深い位置を進んでいます」

 

参謀が予測線を表示する。

 

「現在の掘削速度が維持された場合、

最短で七日後には帝都中央防衛区域の地下へ到達する可能性があります」

 

会議室が静まった。

 

七日。

 

教導隊機の修理。

 

候補生たちの訓練。

 

鳳翼作戦で構築された地上封鎖線の再編。

 

必要な戦力と物資を整えるには、あまりにも短い。

 

参謀は続ける。

 

「統合司令部は、東京ハイヴに対する早期攻略作戦を提案しています」

 

画面が切り替わる。

 

作戦案A。

 

複数の侵入口から地上戦力を一斉投入し、浅層部を制圧する。

 

主要縦坑を確保した後、大規模爆薬を運び込み、深部構造そのものを破壊する。

 

投入予定戦力は、戦術機三百二十機。

 

歩兵部隊。

 

工兵部隊。

 

海上艦隊。

 

航空支援。

 

軌道上からの攻撃支援。

 

候補生たちの間から、僅かに息を呑む音が漏れた。

 

これまで高育周辺で行われてきた戦闘とは、規模が違う。

 

第十三戦術機甲大隊サムライ。

 

オニキリ大隊。

 

シールド防衛群。

 

高度育成衛士高等学校教導隊。

 

これまで中心となってきた部隊ですら、全体の一部にすぎない。

 

参謀が告げる。

 

「作戦開始希望日は、三日後です」

 

茶柱の表情が険しくなった。

 

「早すぎます」

 

参謀が茶柱を見る。

 

「七日で中央防衛区域へ達する可能性がある」

 

坂上も口を開く。

 

「我々が把握している内部構造は、浅層のごく一部だけです」

 

「構造が分かるまで待てば、BETAは地上へ出る」

 

「だからといって、正確な地図もないまま三百機を投入すれば――」

 

真嶋が低い声で続けた。

 

「狭い坑道内で機体が詰まる」

 

参謀はすぐに反論する。

 

「大規模侵攻では、複数の侵入口を同時に使用する」

 

坂柳有栖が静かに手を上げた。

 

「発言してもよろしいでしょうか」

 

参謀は候補生である坂柳を見て、僅かに眉を寄せた。

 

坂柳理事長が頷く。

 

「許可します」

 

坂柳有栖は作戦図を見ながら言う。

 

「複数の入口を使用すれば、部隊間の連携はさらに困難になるのではありませんか」

 

参謀が答える。

 

「通信中継器を各所へ設置する」

 

「暁光作戦では、第一中継器が戦闘開始から短時間で損傷しました」

 

「予備を増やす」

 

「設置数を増やせば、その運搬と防衛へ戦力を割かなければなりません」

 

参謀の表情が硬くなる。

 

「候補生に、作戦全体が理解できるのか」

 

坂柳有栖は笑みを崩さない。

 

「理解できていないからこそ、質問しております」

 

「三百二十機を地下へ投入した後、

退路が一つでも崩落した場合、どの部隊から優先して戻すのでしょうか」

 

参謀は一瞬答えを止めた。

 

「現場指揮官が判断する」

 

「部隊同士が互いの位置を把握できない可能性がある状態で?」

 

「だから通信を――」

 

坂柳有栖が静かに遮る。

 

「通信が最後まで維持されることを、前提にしすぎているように思えます」

 

会議室の空気が張り詰めた。

 

候補生と統合司令部の参謀。

 

立場はまったく異なる。

 

それでも坂柳の指摘は、

暁光作戦で実際に起きた通信障害と中継器損傷に基づいていた。

 

別の将校が尋ねる。

 

「早期侵攻以外に代案はあるのか」

 

ひよりは手元の端末を見つめていた。

 

龍園が横から小さく言う。

 

「言え」

 

ひよりは顔を上げる。

 

「深部へ直接侵攻せず、浅層部に広がる経路を一つずつ分断する方法があります」

 

参謀が答える。

 

「封鎖作戦なら鳳翼作戦で行っている」

 

「十分な効果は得られていない」

 

「鳳翼作戦で塞いだのは、地上へ続く出口です」

 

ひよりは地図を切り替えた。

 

「私が申し上げているのは、ハイヴ内部の移動経路です」

 

暁光隊が通過した坑道。

 

都心共同溝。

 

その周囲に存在する複数の分岐。

 

「浅層部には、BETAが頻繁に使用している幹線経路があります」

 

「その幹線を複数箇所で崩落させれば、

深部と地上側の連絡を一時的に分断できる可能性があります」

 

将校が問う。

 

「深部は残る」

 

「はい」

 

ひよりは認める。

 

「ですが、地上へ向かうBETAの移動速度を遅らせることはできます」

 

坂柳有栖も続けた。

 

「その時間を使って、内部地図と攻略戦力を整える」

 

参謀が地図を見る。

 

「本格攻略ではなく、時間を稼ぐための作戦か」

 

龍園が口を開いた。

 

「三百機を突っ込ませて、退路ごと潰されるよりはマシだろ」

 

茶柱が龍園を見る。

 

「発言許可を取れ」

 

龍園は壇上を見たまま答える。

 

「時間がねぇんだろ」

 

参謀が龍園を睨む。

 

「候補生は黙っていろ」

 

龍園は笑わなかった。

 

「昨日、地下に入ったのはあんたたちじゃねぇ」

 

「教官とサムライ隊だ」

 

「俺たちは管制室で、最初から最後まで全部見てた」

 

龍園は画面に表示された暁光作戦の経路を指す。

 

「狭い坑道」

 

「切れる通信」

 

「後ろから塞がれる退路」

 

「地下にいた光線級」

 

「一機ずつしか上がれねぇ侵入口」

 

「そこへ三百機入れると言ってるのは、あんたたちだ」

 

会議室の空気が凍りつく。

 

茶柱が止めようとする。

 

しかし、坂柳理事長は静かに片手を上げ、龍園へ続けることを許した。

 

「早く叩く必要があることは分かってる」

 

龍園は早期攻略そのものを否定しなかった。

 

「だが、早いのと雑なのは違う」

 

参謀が尋ねる。

 

「では、お前ならどうする」

 

龍園は東京ハイヴの地図を見る。

 

「敵を引っ張り出す」

 

全員の視線が龍園へ集まった。

 

「ハイヴ内部で戦うから、こっちが不利になる」

 

「なら、俺たちが選んだ場所へ出てこさせる」

 

坂柳有栖が意図を理解する。

 

「囮用の反応炉ですか」

 

「ああ」

 

以前に一度検討されていた無人撃震。

 

人工島から離れた海上施設で反応炉を起動し、

複数の戦術機や人間が集まっているように偽装する。

 

BETAが戦術機反応炉、熱源、振動、

人間の呼吸や二酸化炭素へ反応しているのなら、意図的に誘導できる可能性がある。

 

龍園は続ける。

 

「浅層のBETAを囮へ引きつける」

 

「内部の密度が下がったところへ、小規模部隊を入れる」

 

「その間に幹線を爆破する」

 

ひよりが補足する。

 

「深部と浅層の経路を分断する」

 

龍園。

 

「ハイヴ全部を潰せなくても、地上へ出てくる数は減らせる」

 

将校は慎重な表情を崩さない。

 

「BETAが囮へ反応する保証はない」

 

「検証は、まだ行っていません」

 

オレが言うと、参謀がこちらを見る。

 

「お前は?」

 

坂柳理事長が答える。

 

「綾小路清隆くんです」

 

参謀はオレへ尋ねた。

 

「意見はあるのか」

 

オレは三つの案を見る。

 

三日後の大規模総攻撃。

 

浅層幹線の分断。

 

囮反応炉による誘導。

 

どの案にも、利点と危険がある。

 

「三日後の総攻撃は危険です」

 

参謀の表情が僅かに変わる。

 

オレは続けた。

 

「ですが、七日間待つことも危険です」

 

「何が言いたい」

 

「作戦を二段階に分けます」

 

作戦図へ二つの段階を表示する。

 

第一段階。

 

無人撃震を使った囮作戦を行い、浅層BETAの誘導を試す。

 

同時に、複数の無人探査機をハイヴ内部へ投入し、敵密度の変化を観測する。

 

第二段階。

 

誘導効果が確認できた場合、

小規模な精鋭部隊を投入し、浅層幹線を同時爆破する。

 

「BETAが囮へ反応しなければ、総攻撃案へ戻る前に、

BETAの探知基準に関する仮説を一つ否定できます」

 

「反応した場合は、ハイヴ内部の敵密度を一時的に下げることができる」

 

坂柳有栖が微笑んだ。

 

「失敗しても、情報が残る作戦ですね」

 

「そうだ」

 

参謀はさらに問う。

 

「小規模部隊で、浅層幹線を爆破できる保証は?」

 

「ない」

 

「なら――」

 

「三百二十機で深部へ到達できる保証もありません」

 

参謀は黙った。

 

軍人。

 

教師。

 

候補生。

 

立場の異なる者たちが、同じ地下地図を見つめる。

 

須藤がおそるおそる手を上げた。

 

「俺も言っていいか」

 

茶柱が眉をひそめる。

 

坂柳理事長は頷いた。

 

「どうぞ」

 

須藤は難しい作戦理論ではなく、自分が見たものをそのまま口にした。

 

「三日後に総攻撃するなら、教官たちの機体は直るのか」

 

真嶋が答える。

 

「全機を完全な状態へ戻すのは無理だ」

 

「俺たちの吹雪は?」

 

「動かせる」

 

「でも、地下で実弾を撃つ訓練をしたのは今日が初めてだ」

 

「そうだ」

 

須藤は統合司令部の参謀を見る。

 

「候補生も、三百二十機の戦力に数えてるのか」

 

参謀は答えなかった。

 

その沈黙だけで、十分だった。

 

正規軍だけで必要な数を揃えられない可能性。

 

候補生予備隊。

 

高育が保有する吹雪。

 

最悪の場合には、投入対象として計算されている。

 

茶柱の声が低くなる。

 

「候補生は出させません」

 

参謀。

 

「状況次第だ」

 

「状況次第で、一年生の生徒をハイヴへ投入するのですか」

 

「東京が落ちれば、学校も生徒も残らない」

 

「だからといって――」

 

坂柳理事長が二人を止めた。

 

「候補生を作戦戦力へ含めるかどうかは、私が判断します」

 

参謀が言う。

 

「統合司令部から命令が下れば――」

 

坂柳理事長の声は穏やかだった。

 

それでも、譲る意思はなかった。

 

「この学校へ所属する候補生の出撃許可は、司令官である私にあります」

 

「そして、その判断に伴う責任も私が負います」

 

参謀と坂柳理事長の視線がぶつかる。

 

会議室が静まり返った。

 

やがて、統合司令部側の別の将校が口を開いた。

 

「囮作戦と浅層分断案を、正式な代替案として提出する」

 

参謀が振り返る。

 

「しかし、時間がありません」

 

「だから今日中に検証する」

 

将校は坂柳理事長へ尋ねる。

 

「無人撃震の準備はできますか」

 

真嶋が答える。

 

「一機あります」

 

「遠隔起動も可能です」

 

「武装は?」

 

「最低限ですが、実弾射撃はできます」

 

「自爆装置も搭載できます」

 

将校が作戦位置を求める。

 

坂柳有栖が地図を切り替えた。

 

「東京湾南西部にある放棄海上観測施設が適しています」

 

ひよりも補足する。

 

「施設直下には既存の地下空洞があります」

 

龍園。

 

「敵が集まった後、施設ごと落とせる」

 

参謀は不満を残していた。

 

だが、明確な反対はしなかった。

 

坂柳理事長が決定する。

 

「本日十八時、無人撃震を用いた誘導実験を実施します」

 

「作戦仮称は――」

 

坂柳理事長は地図へ表示された放棄施設を見た。

 

暗闇の中で敵を引き寄せる、一つの光。

 

そして、人類が次の一歩を踏み出すための火。

 

「灯火作戦」

 

「灯火作戦の結果をもって、東京ハイヴ攻略作戦の実施時期と規模を決定します」

 

会議が終わった。

 

候補生たちは作戦会議室を出たが、

廊下へ出てからも、すぐには誰も口を開かなかった。

 

自分たちが、東京ハイヴ攻略作戦の戦力として計算されていた可能性。

 

須藤が最初に沈黙を破る。

 

「やっぱり、俺たちも出るかもしれねぇんだな」

 

堀北が答える。

 

「まだ決まったわけではないわ」

 

「でも、数には入れられてた」

 

平田の表情も硬い。

 

「今日の訓練で、僕たちはまだ足りないと分かった」

 

高円寺が静かに言う。

 

「足りるようになるまで、敵が待ってくれるわけではない」

 

一之瀬は納得できないように言う。

 

「だからといって、みんなを出すのは……」

 

神崎が答える。

 

「出なければ守れない場合もある」

 

「分かってる」

 

一之瀬はそこで言葉を止めた。

 

分かっている。

 

だからこそ、簡単には受け入れられない。

 

先頭を歩いていた龍園へ、石崎が尋ねる。

 

「龍園さん、本当にハイヴへ入るつもりですか」

 

「命令が出ればな」

 

伊吹が横から聞く。

 

「怖くないの?」

 

龍園は少しだけ振り返った。

 

「怖ぇよ」

 

伊吹が驚いたように目を見開く。

 

龍園は前へ向き直る。

 

「だから準備する」

 

「何も知らずに入る方が馬鹿だ」

 

ひよりが小さく笑った。

 

「龍園くんも、ずいぶん慎重になりましたね」

 

「臆病と慎重は違ぇ」

 

「褒めたつもりです」

 

「そうは聞こえねぇな」

 

高円寺が龍園の隣へ並んだ。

 

「龍園ボーイ」

 

「何だ」

 

「君の囮案は悪くなかった」

 

龍園が高円寺を見る。

 

「上から言うな」

 

「評価しただけだよ」

 

「お前も出る気か」

 

高円寺は少し考えた。

 

「必要なら」

 

須藤が呆れる。

 

「またそれかよ」

 

高円寺は歩みを止めず、静かに続けた。

 

「ただし今回は、必要になる可能性が高い」

 

以前のように、余裕だけを見せる声ではなかった。

 

東京ハイヴの規模。

 

地下戦の危険。

 

正規軍だけでは戦力が足りない可能性。

 

高円寺も、すでに理解している。

 

午後一時。

 

候補生たちは地下戦闘訓練の第二段階へ移った。

 

今回の課題は、損傷機を護衛しながらの撤退。

 

茶柱が午前中に宣言した通り、オレが第一編隊の前衛へ置かれた。

 

堀北が指揮官。

 

平田が損傷機役。

 

須藤が右側。

 

高円寺が左側。

 

オレが先頭。

 

須藤が通信を開く。

 

『本当に前へ置かれたな』

 

「命令だからな」

 

高円寺。

 

『どの程度まで動くのか、興味深いね』

 

堀北が二人を止める。

 

『集中して』

 

地下演習区画へ入る。

 

通信障害。

 

複数の敵標的。

 

損傷機。

 

平田機の左脚出力は五十パーセントへ制限されている。

 

移動速度は通常の半分。

 

任務は、全機での帰還。

 

訓練が始まった。

 

前方に戦車級標的。

 

左右に要撃級標的。

 

オレは最初に地形を確認した。

 

すべて排除することはできる。

 

だが、要撃級を中央で止めれば、その巨体が通路を塞ぐ。

 

左側には狭い保守空間がある。

 

そこへ誘導すれば、中央の道を残せる。

 

要撃級標的の脚部へ射撃する。

 

標的が向きを変える。

 

須藤が右側から援護。

 

高円寺は左後方で平田機を守る。

 

堀北は全体位置を見ていた。

 

『綾小路くん、前へ出すぎよ』

 

「必要な距離だ」

 

『平田くんとの間が開いている』

 

オレは一歩下がる。

 

要撃級は左側へ寄った。

 

中央に通路が開く。

 

「今だ」

 

四機は平田機を中央へ置き、進路を通過する。

 

前方に戦車級標的。

 

須藤が撃つ。

 

午前中より弾数が少ない。

 

高円寺が漏れた一体を正確に止める。

 

オレは先頭で、次の射線を作る。

 

堀北が命じる。

 

『止まらないで』

 

狭い通路に砲口炎が連続し、爆発音が壁へ反響する。

 

オレは標的が現れる前に、地形と遮蔽物から出現位置を予測して動いた。

 

須藤が気づく。

 

『お前、敵が出る場所を知ってんのか?』

 

「地形から予測している」

 

高円寺が静かに言う。

 

『予測だけではなさそうだね』

 

堀北が遮る。

 

『今は問い詰めないで』

 

通信障害装置が作動する。

 

堀北の回線が切れた。

 

事前設定では、指揮順位二位はオレ。

 

『指揮を引き継ぐ』

 

須藤が待っていたように言う。

 

『やっとか』

 

高円寺。

 

『聞こう』

 

平田。

 

『僕はまだ歩ける』

 

敵反応が同時に現れる。

 

右分岐に要撃級。

 

左側に戦車級。

 

後方からも小型反応。

 

三方向。

 

「須藤は右」

 

「高円寺は後方」

 

「オレが左を処理する」

 

「平田は中央で停止しろ」

 

須藤が反応する。

 

『平田を一人にするのか』

 

「三方向の敵から、最も距離がある位置だ」

 

高円寺。

 

『妥当だ』

 

三機は即座に分かれる。

 

右側では須藤が要撃級標的へ射撃。

 

初弾は脚部を外した。

 

二射目は命中。

 

後方では高円寺が戦車級を最小限の弾数で止める。

 

左側はオレが短い連射で排除する。

 

平田は中央から動かない。

 

助けようとして位置を崩すこともない。

 

三方向の敵反応は、短時間で停止した。

 

堀北の通信が復帰する。

 

『状況は?』

 

平田。

 

『綾小路くんが指揮を引き継いだ』

 

須藤。

 

『全部止めた』

 

堀北がこちらを見る。

 

『そう』

 

声には僅かな警戒が混じっていた。

 

『指揮を戻すわ』

 

「了解」

 

その後も平田機の速度へ合わせ、四機は出口まで到達した。

 

全機帰還。

 

課題達成。

 

弾薬残量は、オレ八十二パーセント、須藤六十三パーセント、

高円寺七十九パーセント、堀北九十一パーセント。

 

訓練終了後、須藤は管制ユニットから降りると、そのままオレへ近づいてきた。

 

「お前、やっぱり隠してたな」

 

「何をだ」

 

「今日の動きだよ」

 

「前衛を担当しただけだ」

 

「敵が出る前から、そっち向いてただろ」

 

「地形から予測した」

 

龍園が横から言う。

 

「まだ誤魔化すか」

 

堀北も近づいてくる。

 

「茶柱先生も気づいているわ」

 

オレは管制席にいる茶柱を見る。

 

茶柱は訓練記録を確認した後、オレへ向き直った。

 

「綾小路」

 

「何でしょうか」

 

「これからは、周囲の平均へ合わせることを許さない」

 

候補生たちが静まる。

 

「できることを隠せば、その分だけ他の者が危険を負う」

 

「お前が一歩前へ出れば救える場面で、後方に残ることは慎重とは呼ばない」

 

これまで何度も指摘されてきたことだった。

 

必要な場面でしか力を出さない。

 

失敗しない範囲だけで動く。

 

勝利が必要でなければ、あえて前へ出ない。

 

「東京ハイヴ攻略作戦が始まれば、全員が余裕を失う」

 

茶柱の声が低くなる。

 

「その時、お前一人だけが余力を残しても意味はない」

 

堀北。

 

須藤。

 

平田。

 

高円寺。

 

龍園。

 

坂柳。

 

ひより。

 

多くの視線が、オレへ向けられている。

 

「了解」

 

オレは答えた。

 

茶柱は短く頷く。

 

「次回以降も、お前を前衛へ置く」

 

須藤が笑った。

 

「逃げられねぇな」

 

オレは返事をしなかった。

 

午後五時。

 

東京湾南西部にある放棄海上観測施設では、灯火作戦の準備が完了しつつあった。

 

かつて海底地盤を調査するために使用されていた大型人工構造物。

 

現在は無人であり、周囲三キロ以内に民間施設は存在しない。

 

施設の直下には、東京ハイヴ浅層部へ近い既存の地下空洞が広がっている。

 

囮を設置する場所としては適していた。

 

施設中央には、一機の無人撃震が立っている。

 

旧式機。

 

装甲には無数の傷があり、塗装も剥がれている。

 

それでも反応炉は正常に動いていた。

 

機体には遠隔操作装置、発熱増幅装置、通信波発生装置が追加されている。

 

さらに、複数の戦術機が歩行しているように見せる

振動装置も施設各所へ配置された。

 

地下には大型爆薬が設置され、BETAが十分に集まった場合には、

観測施設そのものを崩落させる計画だった。

 

敵を呼び寄せる灯火。

 

そして、集まった敵を焼く火。

 

候補生たちは第一作戦管制室へ戻っていた。

 

坂柳理事長。

 

統合司令部の参謀。

 

教師陣。

 

全員が実験結果を待つ。

 

午後六時。

 

無人撃震が遠隔操作によって起動した。

 

巨大な機体が、海上施設の中央でゆっくりと立ち上がる。

 

照明が点灯。

 

反応炉出力は通常よりも高く設定されている。

 

意図的に目立たせるためだ。

 

複数の通信波。

 

模擬戦術機回線。

 

人間が多数存在するように聞こえる音響。

 

換気装置から排出される二酸化炭素。

 

熱。

 

振動。

 

これまでBETAが反応した可能性のある要素を、すべて重ねる。

 

作戦開始から五分。

 

変化なし。

 

十分が経過したところで、東京ハイヴ浅層部に小さな振動が現れた。

 

ひよりが地震波を確認する。

 

「南西方向へ動いています」

 

管制官が表示を拡大した。

 

一つ。

 

二つ。

 

その後も、複数の小型反応が浅層部から海上施設方向へ移動し始める。

 

坂柳有栖が言う。

 

「囮へ反応しています」

 

参謀が尋ねる。

 

「深部は?」

 

「変化はありません」

 

動いているのは浅層部の個体だけだった。

 

熱。

 

反応炉。

 

振動。

 

人間を模した反応。

 

仮説通り、複数の要素へ浅層BETAが引き寄せられている。

 

二十分後には、反応数が数百へ達した。

 

三十分後には、千を超える。

 

戦車級。

 

要撃級。

 

突撃級。

 

それぞれが地下を通り、海上観測施設の直下へ集まりつつある。

 

須藤は画面から目を離さない。

 

「本当に来た」

 

龍園。

 

「なら潰せる」

 

坂柳理事長はすぐには起爆を許可しなかった。

 

「まだです」

 

敵がどこまで集まるのか。

 

深部の個体が反応するのか。

 

確認する必要がある。

 

ひよりが言う。

 

「深部個体は、浅層とは別の命令系統で動いている可能性があります」

 

坂柳有栖。

 

「あるいは、中枢から離れることができない」

 

オレは暁光作戦で記録された映像を思い出す。

 

巨大空間の中央。

 

周囲のBETAが避けるように動いていた未知の反応。

 

深部のBETAは、それを守っているのかもしれない。

 

午後六時四十五分。

 

海上施設地下へ、最初のBETAが到達した。

 

地面が揺れる。

 

施設中央に立つ無人撃震の足元で、床が内側から破壊された。

 

戦車級が一体。

 

続いて十体。

 

やがて数百体が施設内部へ流れ込む。

 

無人撃震が遠隔操作で突撃砲を構え、実弾射撃を開始した。

 

砲口炎。

 

爆発。

 

排除される戦車級。

 

その戦闘音と反応炉出力が、さらに多くのBETAを引き寄せる。

 

要撃級。

 

突撃級。

 

施設周辺の海底と地中へ、次々と集まってくる。

 

参謀が言う。

 

「十分だ」

 

坂柳理事長は画面を見続ける。

 

「待ってください」

 

「これ以上待てば、施設そのものを突破されます」

 

「中層部の反応が変化しています」

 

東京ハイヴ中層部。

 

大型反応が一体動いた。

 

だが、囮方向ではない。

 

浅層BETAが減った区域へ向かっている。

 

そこから人工島方向へ移動を始める。

 

龍園が目を細める。

 

「入れ替わりだ」

 

浅層部の敵が囮へ向かい、空いた経路へ中層から別の大型群が上がってくる。

 

敵密度は単純に低下し続けるわけではない。

 

深部から補充される。

 

ひより。

 

「囮作戦だけでは、内部密度を下げられる時間は限定的です」

 

坂柳有栖。

 

「ですが、確実に時間は作れます」

 

十分。

 

二十分。

 

その間に小規模部隊を投入し、幹線へ爆薬を設置する。

 

実行可能な時間が存在する。

 

参謀も認めざるを得なかった。

 

「浅層分断案は、実行可能です」

 

坂柳理事長が決定する。

 

「施設を爆破します」

 

海上観測施設の地下には、戦車級、要撃級、突撃級が密集している。

 

遠隔起爆信号が送られる。

 

最初に施設外周の爆薬が作動した。

 

海面へ複数の火柱が上がる。

 

続いて地下支柱が爆破され、人工構造物全体が大きく沈み始めた。

 

無人撃震もBETAも、崩れ落ちる鉄骨とコンクリートに巻き込まれる。

 

さらに地下爆薬が起爆。

 

地層そのものが崩れ、海面が大きく膨らんだ。

 

巨大な水柱。

 

爆炎。

 

鉄骨。

 

コンクリート片。

 

波。

 

施設全体が、地下空洞とともに海中へ沈んでいく。

 

BETA反応は急速に減少した。

 

突撃級数体。

 

要撃級。

 

多数の戦車級。

 

地下空洞ごと封鎖される。

 

灯火作戦は成功した。

 

浅層BETAの誘導。

 

探知仮説の検証。

 

敵戦力の削減。

 

すべての目的を達成した。

 

それでも、管制室から歓声は上がらなかった。

 

この結果が、次の作戦へ直結することを全員が理解していた。

 

参謀が立ち上がる。

 

「統合司令部へ報告します」

 

「大規模総攻撃案は延期する」

 

茶柱が僅かに息を吐く。

 

参謀は地図へ視線を戻した。

 

「代わりに、浅層分断作戦を実施する」

 

坂柳理事長が尋ねる。

 

「作戦規模は?」

 

「戦術機四十八機」

 

暁光作戦の十機よりは遥かに多い。

 

だが、総攻撃案の三百二十機よりは抑えられている。

 

「四方向から同時に侵入し、浅層幹線を爆破する」

 

「囮反応炉は三か所へ設置」

 

「中層から新たなBETA群が補充される前に、全隊を撤退させる」

 

実施日は、二日後。

 

候補生たちの表情が変わった。

 

二日。

 

訓練を重ねるには短すぎる。

 

機体を整備し、救援体制を整えるにも余裕はない。

 

茶柱が尋ねる。

 

「候補生予備隊は?」

 

参謀は坂柳理事長を見る。

 

最終判断を下すのは、高育司令官。

 

坂柳理事長は候補生たちを見渡した。

 

本日初めて、実弾を用いた地下訓練を行った。

 

経験は圧倒的に不足している。

 

一方で、正規軍の損耗も大きい。

 

四十八機を揃え、さらに地上へ予備を残せるか。

 

しばらくの沈黙の後、坂柳理事長は答えた。

 

「候補生予備隊は、地上待機とします」

 

茶柱の肩から僅かに力が抜ける。

 

須藤は悔しそうに地図を見る。

 

堀北は表情を変えない。

 

高円寺も静かだった。

 

龍園は作戦経路を見つめている。

 

坂柳理事長は続けた。

 

「ただし、侵攻部隊が帰還できない場合には、

救援部隊として出撃させる可能性があります」

 

全員が意味を理解する。

 

最初から地下へ入るわけではない。

 

だが、正規軍が戻らなければ。

 

オレたちが迎えに行く。

 

暁光作戦での真嶋機。

 

最後尾に一機だけ残ったサムライ3。

 

一機ずつしか上がれなかった縦坑。

 

今度は四十八機。

 

四つの侵入口。

 

どこか一つでも崩れれば、大規模な救援が必要になる。

 

茶柱が坂柳理事長を見る。

 

「本当に必要な場合だけですか」

 

「ええ」

 

「救援以外の目的では、候補生を出しません」

 

「約束できますか」

 

坂柳理事長は一瞬黙った。

 

軽々しく約束できる状況ではない。

 

それでも。

 

「約束します」

 

茶柱は敬礼した。

 

「了解」

 

坂柳理事長は会議室全体へ向き直る。

 

「作戦名を発表します」

 

大型地図には、四方向から浅層幹線へ向かう侵入経路が表示されている。

 

深部と地上をつなぐ道を断つ。

 

BETAの世界を、浅層と深部へ分ける。

 

「断界作戦」

 

「二日後、東京ハイヴ浅層分断作戦を開始します」

 

候補生たちは立ち上がった。

 

自分たちは地上予備。

 

だが、戦いの外にいるわけではない。

 

機体整備。

 

地下戦闘訓練。

 

救援経路の確認。

 

弾薬と通信中継器の準備。

 

やるべきことは多い。

 

会議終了後。

 

夜の西部予備格納庫では、候補生たちが再び吹雪の前へ集められていた。

 

真嶋が救援装備の工程を説明する。

 

「地下救援では、武装より牽引装置を優先する」

 

「損傷機を引く」

 

「瓦礫を動かす」

 

「通信中継器を運ぶ」

 

須藤は大型牽引ワイヤーを見た。

 

「敵を倒すための装備じゃねぇな」

 

真嶋。

 

「救援だからな」

 

龍園が言う。

 

「だが、戦いながら引くことになる」

 

「だから二機一組で運用する」

 

堀北が装備表を確認する。

 

「救援対象一機に対して、牽引機と護衛機が一機ずつ必要ね」

 

平田。

 

「全員を連れて帰るために」

 

高円寺。

 

「それが任務ならね」

 

ひよりは最新の地下地図を更新する。

 

坂柳有栖は作戦図と四方向の侵入経路を比較する。

 

一之瀬は救護経路を確認し、神崎は必要弾薬量を計算する。

 

伊吹と石崎は牽引器具の装着訓練。

 

神室と橋本は通信回線の整理。

 

軽井沢と櫛田は帰還者受け入れと医療区画への誘導を担当する。

 

候補生全体が、断界作戦へ向けて動き始めていた。

 

オレは自分の吹雪を見上げる。

 

地上予備。

 

救援部隊。

 

正規軍が全機帰還すれば、出撃する必要はない。

 

それが最善だ。

 

だが、東京ハイヴはこれまで一度も、人類側の計画通りには動かなかった。

 

北部防衛線。

 

南部格納庫。

 

中央講堂。

 

お台場。

 

暁光作戦。

 

毎回、想定外が起きている。

 

今回も起きる。

 

その時。

 

オレたちは出る。

 

茶柱が隣へ来た。

 

「綾小路」

 

「何でしょうか」

 

「救援隊の前衛は、お前に任せる」

 

以前なら、目立たない位置を選んだかもしれない。

 

能力を必要以上に見せず、最低限の役割だけを果たした。

 

今は違う。

 

「了解」

 

茶柱はオレを見る。

 

「全員を連れて帰れ」

 

「先生たちも含めてですか」

 

茶柱は僅かに目を細める。

 

「当然だ」

 

「なら、先生も勝手に残らないでください」

 

茶柱が一瞬黙った。

 

遠くから堀北がこちらを見ている。

 

須藤。

 

平田。

 

高円寺。

 

全員が聞いている。

 

茶柱は小さく息を吐いた。

 

「善処する」

 

「それでは困ります」

 

茶柱がオレを見る。

 

今度は、僅かに笑った。

 

「了解」

 

深夜。

 

東京ハイヴ深部。

 

灯火作戦によって、浅層部にいたBETAの一部が失われていた。

 

海底空洞は崩落し、瓦礫の下では多数の反応が停止している。

 

人類側は作戦成功と判断した。

 

実際、それは間違いではない。

 

浅層部の敵密度は一時的に低下した。

 

移動経路も一つ失われた。

 

だが、東京ハイヴのさらに深い場所では、人類側が知らない変化が起きていた。

 

巨大な地下空間。

 

その中央には、暁光作戦の映像へ一瞬だけ映った未知の影が存在している。

 

周囲には、無数のBETAが集まっていた。

 

戦車級。

 

要撃級。

 

突撃級。

 

要塞級。

 

光線級。

 

一体。

 

十体。

 

百体。

 

そのすべてが、同じ方向へ身体を向けている。

 

地上ではない。

 

浅層でもない。

 

二日後。

 

人類が断界作戦で使用する予定の四つの侵入口。

 

まるで作戦を知っているかのように。

 

未知の影が、ゆっくりと動いた。

 

巨大な肢体が岩盤を擦り、地層全体を低く揺らす。

 

周囲に集まっていたBETAが道を空ける。

 

そして。

 

浅層へ続く四本の幹線へ向けて。

 

それぞれ別の群れが、同時に移動を始めた。

 

人類は、BETAの道を断とうとしている。

 

だが東京ハイヴもまた。

 

その道を守るために。

 

これまで地上へ出していなかった戦力を。

 

深い暗闇の中から。

 

静かに呼び寄せ始めていた。

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