マブラヴ・カーストルーム   作:EXTERMINATION

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第23話 出撃

午後四時。

 

教導隊格納庫では、断界作戦へ出撃する四機の最終確認が進められていた。

 

茶柱の不知火は、暁光作戦で損傷した右肩部の修理を終え、

頭部センサーも新しいものへ交換されている。

 

ただし、使用されたのは本来の規格品ではなく、

予備倉庫からかき集められた応急部品だった。

 

完全な状態とは言い難いが、戦闘と帰還に必要な機能は確保されている。

 

坂上の陽炎には、左腕部の反応に僅かな遅延が残っていた。

 

星之宮の不知火は、前回の戦闘で使用していた突撃砲を外し、

予備装備へ交換されている。

 

そして真嶋の撃震は、損傷していた右脚部の修理を終えていたものの、

最大出力は正常時の八十六パーセントまでしか戻っていなかった。

 

真嶋は自分の撃震の前に立ち、整備員たちへ最後の指示を出していた。

 

「右脚部の温度が規定値を超えたら、すぐに俺へ伝えろ」

 

担当整備員が端末を確認しながら答える。

 

「地下へ入った後は、通信が切れる可能性があります」

 

「中継器が生きている間だけでいい。数値が乱れた時点で知らせろ」

 

「帰還後に使用する交換部品は、どうしますか」

 

「準備しておけ」

 

整備員が僅かに顔を上げた。

 

「帰還後、ですか」

 

真嶋は相手を真っ直ぐ見た。

 

「帰るに決まっている」

 

迷いのない声だった。

 

近くでその会話を聞いていた須藤が、真嶋へ歩み寄る。

 

「先生」

 

「何だ」

 

「今度は、脚が壊れる前に下がれよ」

 

「候補生に言われる筋合いはない」

 

「でも、前回も同じことを言っただろ」

 

真嶋は僅かに口元を緩めた。

 

「今回は壊さない」

 

「本当か?」

 

「整備主任の俺が、自分の整備を疑うと思うか」

 

須藤はすぐに返す。

 

「整備は疑ってない。先生の操縦を疑ってる」

 

真嶋の表情が止まった。

 

須藤は笑う。

 

「無茶するからな」

 

真嶋は呆れたように息を吐いた。

 

「お前にだけは言われたくない」

 

少し離れた場所では、茶柱が堀北と向き合っていた。

 

「地上で待機しろ」

 

「分かっています」

 

「警報が鳴っても、勝手に機体を出すな」

 

「分かっています」

 

「綾小路が出撃すべきだと判断した場合でも、必ず司令官命令を確認しろ」

 

堀北は茶柱の顔を見る。

 

「先生」

 

「何だ」

 

「同じことを何度も言うのは、不安だからですか?」

 

茶柱は一瞬だけ黙った。

 

以前なら、そんな質問は必要ないと切り捨てていたかもしれない。

 

だが今は、誤魔化さなかった。

 

「そうだ」

 

短く認める。

 

「地下へ入れば、お前たちの様子は見えない」

 

堀北の目が僅かに揺れた。

 

「私たちも、先生たちの様子が見えません」

 

「そのために通信がある」

 

「通信が切れたら?」

 

茶柱はすぐには答えなかった。

 

堀北は続ける。

 

「暁光作戦では、何度も通信が途切れました」

 

「今回も同じことが起きる可能性があります」

 

そして、茶柱を真っ直ぐ見た。

 

「その時、勝手に残らないでください」

 

茶柱が僅かに眉を寄せる。

 

「誰も残るつもりはない」

 

そこへ星之宮が口を挟んだ。

 

「佐枝ちゃんは、ちょっと怪しいけどね」

 

「星之宮」

 

坂上も近づいてくる。

 

「今回は時間厳守だ。五分を超えたら、爆薬を捨ててでも戻る」

 

真嶋も頷いた。

 

「機体や爆薬より、帰還を優先する」

 

茶柱は三人を見回した。

 

「分かっている」

 

星之宮が念を押す。

 

「本当に?」

 

茶柱は小さく息を吐いた。

 

「全員で戻る」

 

堀北はようやく僅かに表情を緩めた。

 

「はい」

 

別の区画では、平田と一之瀬が、坂上へ救援対象の優先順位を確認していた。

 

「複数の損傷機がいる場合、どの機体から牽引するべきですか」

 

平田の問いに、坂上はすぐに答える。

 

「原則として、自力で動けない機体を優先する」

 

「次に、退路を塞いでいる機体だ」

 

一之瀬が尋ねる。

 

「搭乗者の負傷が重い場合は?」

 

「救命を最優先する」

 

「でも、管制ユニットだけを取り出したら、機体はその場へ残りますよね」

 

一之瀬の声が僅かに弱くなる。

 

味方の機体を捨てる。

 

搭乗者だけを救い、戦術機を地下へ置いていく。

 

救援任務では、そうした判断を求められる可能性がある。

 

坂上は穏やかに答えた。

 

「機体は置いていけ」

 

「その機体が通路を塞いだ場合は?」

 

「爆破して道を開ける」

 

一之瀬が言葉を失う。

 

平田も僅かに目を見開いた。

 

「味方の機体を、ですか」

 

「そうだ」

 

坂上は二人を見た。

 

「戦術機は大切な兵器だ」

 

「だが、人間を守るための道具でもある」

 

「順番を間違えるな」

 

平田は静かに頷いた。

 

一之瀬も少し遅れて答える。

 

「はい」

 

高円寺は星之宮機の近くに立ち、脚部と跳躍ユニットを見上げていた。

 

星之宮が不思議そうに言う。

 

「高円寺くんが見送りに来るなんて珍しいね」

 

「私は機体状態を確認しているだけだよ」

 

「私のことが心配なの?」

 

「都合よく解釈して構わない」

 

星之宮は嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、心配してくれてるってことにする」

 

高円寺は星之宮ではなく、機体の左脚部を見ていた。

 

「左跳躍ユニットの反応が、〇・四秒ほど遅い」

 

星之宮が目を丸くする。

 

「そんなことまで分かるの?」

 

「試験起動時の音が、右側より僅かに遅れていた」

 

その言葉を遠くで聞いた真嶋が、すぐに整備班へ声を飛ばした。

 

「星之宮機の左跳躍ユニットを再確認しろ!」

 

担当整備員が端末を接続し、数値を確認する。

 

遅延は規定範囲内だった。

 

しかし、地下での方向転換や緊急回避では、

その僅かな差が機体姿勢へ影響する可能性がある。

 

真嶋が命じる。

 

「制御補正を入れろ」

 

星之宮は高円寺を見る。

 

「本当に心配してくれてたんだ」

 

「必要な機体が不調では困るだけさ」

 

「はいはい」

 

星之宮は満足そうに笑った。

 

龍園は教導隊の見送りには加わらず、

格納庫端末へ表示された地下作戦図を見つめていた。

 

その隣にはひよりがいる。

 

「西方幹線の敵反応が増えています」

 

龍園は地図から目を離さずに尋ねる。

 

「作戦開始前からか」

 

「はい」

 

「気づかれてるな」

 

ひよりは慎重に答える。

 

「偶然、個体が集まっている可能性もあります」

 

「四方向全部で増えてるんだろ」

 

「はい」

 

「なら偶然じゃねぇ」

 

そこへ坂柳有栖も近づいてきた。

 

「BETAが人類側の作戦内容を理解しているとは思えません」

 

龍園は赤く増えていく反応を見た。

 

「理由が何であれ、結果として待ち構えてるなら同じだ」

 

坂柳は否定しなかった。

 

「地上の囮反応炉を起動すれば、浅層個体の一部は移動するはずです」

 

ひよりが続ける。

 

「ただし、空いた区域へ深部から別の個体が上がってくる可能性があります」

 

坂柳も灯火作戦の記録を表示した。

 

「浅層部の反応が低下した直後、中層の大型反応が上昇しました」

 

龍園は作戦時間を見る。

 

「計画通りの二十分も、余裕はねぇかもしれないな」

 

ひよりが答える。

 

「作戦計画では、二十分以内に爆破地点へ到達することになっています」

 

「半分で進む必要がある」

 

坂柳が龍園を見る。

 

「現場へ無理を強いるつもりですか?」

 

「違ぇ」

 

龍園は西方幹線の分岐を指した。

 

「敵が動く前に通れる道を探す」

 

ひよりは地形を拡大する。

 

暁光作戦で使用した主坑道。

 

隣接する細い保守坑。

 

地下河川。

 

過去の崩落跡。

 

完全ではないが、爆破目標へ向かう道は一つではなかった。

 

「部隊を分けるのですか」

 

坂柳がすぐに懸念を示す。

 

「通信が途切れれば、合流できなくなる危険があります」

 

「十二機全部で同じ道を進めば、それだけ時間がかかる」

 

ひよりは二本の経路を比較した。

 

「六機ずつに分ければ、目標地点までの所要時間は短縮できます」

 

坂柳。

 

「目標直前で再合流する?」

 

龍園は首を横へ振った。

 

「最初から合流しねぇ」

 

二人が龍園を見る。

 

「一方が爆薬を設置する」

 

「もう一方は、退路を確保する」

 

「設置側が止められたら、退路確保側が役割を引き継ぐ」

 

ひよりは地図へ二隊の進路を描く。

 

「西方幹線なら、分岐地点から爆破目標まで二本の道があります」

 

坂柳も案を検討した。

 

「教導隊と司令部へ伝える価値はありますね」

 

龍園。

 

「なら早くしろ」

 

坂柳はすぐに司令部へ提案を送った。

 

採用される保証はない。

 

それでも、確信がないから黙るという選択はしなかった。

 

午後五時三十分。

 

断界作戦参加部隊の搭乗が開始された。

 

各格納庫で四十八機の主機がほぼ同時に始動し、

重い振動が人工島全体へ伝わっていく。

 

教導隊格納庫では支持架が解除され、最初に茶柱の不知火が歩き出した。

 

その後へ坂上の陽炎、星之宮の不知火、真嶋の撃震が続く。

 

さらにサムライ選抜八機が合流し、西方侵入隊十二機が東部軍港へ向かう。

 

他の三隊も、それぞれ別の港へ移動を開始していた。

 

輸送艦。

 

潜水作業母艦。

 

護衛艦。

 

上空を飛ぶ無人偵察機。

 

海面下で航路を確保する探査艇。

 

東京湾全体が、断界作戦へ向けて動き始めていた。

 

候補生予備隊は、西部格納庫で待機する。

 

十二機の吹雪には、救援用の牽引ワイヤー、

通信中継器、実弾、作業工具、限定量の爆薬が搭載されていた。

 

オレたちはまだ搭乗せず、各機の前で出撃命令を待っている。

 

命令が出てから三分以内に出られるよう、強化装備も接続確認を終えていた。

 

須藤は自分の吹雪を見上げる。

 

「俺たちは、出ない方がいいんだよな」

 

平田が静かに答える。

 

「うん」

 

「でも、ただ待ってるのも嫌だな」

 

堀北が言う。

 

「私たちが出る時は、先生たちが帰れない時よ」

 

須藤も理解している。

 

「だから嫌なんだよ」

 

高円寺は壁へ寄りかかり、腕を組んでいた。

 

「なら、帰ってくると信じればいい」

 

須藤が振り返る。

 

「お前は信じてるのか」

 

「信じることと、万一に備えることは両立する」

 

龍園は端末から目を離さない。

 

「信じてるだけじゃ、誰も戻らねぇ」

 

一之瀬が答える。

 

「でも、信じないよりはいいよ」

 

神崎は現実的に言う。

 

「感情の話をしている場合ではない」

 

一之瀬は神崎を見る。

 

「こういう時だからだよ」

 

声は穏やかだった。

 

だが、弱くはない。

 

「私たちは、この後出撃するかもしれない」

 

「怖いと思っている人もいる」

 

「先生たちが戻らないかもしれないって考えている人だっている」

 

「何も感じていないふりをして待つ方が、ずっと苦しいと思う」

 

神崎は少しだけ視線を落とした。

 

「そうだな」

 

短く認める。

 

ひよりは格納庫へ戻ってからも、地下地図を見続けていた。

 

龍園が横から言う。

 

「少し休め」

 

「まだ作戦開始前です」

 

「だからだ」

 

ひよりが顔を上げる。

 

龍園は近くの椅子を示した。

 

「始まったら休めねぇ。今のうちに座れ」

 

「眠れないと思います」

 

「寝なくていい」

 

「では、地図を見ながら――」

 

龍園はひよりの手から端末を取り上げた。

 

「今は見るな」

 

「龍園くん」

 

「五分だ」

 

「返してください」

 

「五分後にな」

 

ひよりは困ったように笑った。

 

「本当に五分だけですからね」

 

「分かってる」

 

その様子を見た伊吹が、石崎へ小声で言う。

 

「保護者みたい」

 

石崎も頷いた。

 

「龍園さん、結構優しいっすよね」

 

龍園が二人を見る。

 

「聞こえてるぞ」

 

伊吹と石崎はすぐに黙った。

 

午後六時。

 

東京湾に設置された三か所の囮反応炉が起動した。

 

無人撃震の反応炉出力が上昇し、

周囲へ熱と振動、通信波、二酸化炭素が放出される。

 

複数の戦術機と人間が集まっているかのように偽装された信号が、

東京ハイヴ浅層部へ届いていく。

 

やがて、地中のBETA反応が動き始めた。

 

北東。

 

南東。

 

南西。

 

浅層部にいた個体群が、三方向の囮へ引き寄せられていく。

 

第一作戦管制室から、坂柳有栖の報告が入った。

 

『浅層部の反応が囮方向へ移動しています』

 

ひよりがすぐに尋ねる。

 

『予測値との差は?』

 

『移動数は、予測より十二パーセント少ないです』

 

『中層反応は?』

 

『上昇しています』

 

やはり、灯火作戦と同じだった。

 

浅層個体が移動した区域へ、中層から別の個体群が上がってくる。

 

龍園が回線へ入る。

 

『使える時間は、計画より短い』

 

坂柳有栖。

 

『司令部も同じ判断です』

 

続いて、坂柳理事長の声が全回線へ流れた。

 

『断界作戦参加部隊へ』

 

輸送艦上に立つ四十八機。

 

各隊の衛士。

 

地上の候補生。

 

全員が聞く。

 

「浅層BETAの誘導を確認しました」

 

「同時に、中層部からの上昇反応も確認しています」

 

「作戦時間を五分短縮します」

 

当初の四十分から三十五分へ変更。

 

「目標地点への到達が困難と判断した場合は、

作戦開始から十五分の時点で撤退してください」

 

茶柱。

 

『了解』

 

サムライ3。

 

『了解』

 

オニキリ大隊長。

 

『了解』

 

シールド防衛群指揮官。

 

『了解』

 

坂柳理事長の声が強くなる。

 

「各隊、侵入を開始してください」

 

四隻の輸送艦から、戦術機が同時に海へ入る。

 

一機。

 

二機。

 

そして四十八機。

 

巨大な機体が、東京湾の暗い海中へ次々と沈んでいく。

 

候補生管制席の地図には、四方向の機体反応が表示された。

 

北方十二機。

 

南方十二機。

 

東方十二機。

 

西方十二機。

 

全機が海底縦坑を降り、東京ハイヴ浅層部の地下空洞へ到達する。

 

各隊が最初の通信中継器を設置。

 

回線がつながる。

 

坂柳理事長が告げた。

 

「断界作戦、第一段階を開始します」

 

西方侵入隊は、暁光作戦で使用された坑道へ入った。

 

茶柱。

 

坂上。

 

星之宮。

 

真嶋。

 

サムライ選抜八機。

 

照明が暗い地下空間を切り裂く。

 

だが、前回よりも明らかに敵が多い。

 

侵入口を抜けた直後、百体を超える戦車級が通路を埋めていた。

 

茶柱が命じる。

 

『射撃区域を分けろ』

 

十二機は三列に隊形を組み、同時に射撃を開始した。

 

無数の砲口炎と着弾の爆発によって、地下空洞が昼のように明るくなる。

 

戦車級の群れは先頭から吹き飛ばされ、爆風に押されて後続が崩れた。

 

サムライ3が命じる。

 

『止まるな。隊形を維持して進め』

 

真嶋も弾薬消費を警告する。

 

『全滅させようとするな。進路上の個体だけを撃て』

 

星之宮が前方を見ながら返す。

 

『それでも数が多いんだけど』

 

坂上。

 

『足元を空ければ十分だ』

 

敵をすべて倒す必要はない。

 

十二機が通る道だけを作る。

 

西方隊は射撃を続けながら前進した。

 

同じ頃、他の三隊でも異常が発生していた。

 

北方侵入隊は、入口近くで突撃級反応を確認した。

 

重装甲を持つシールド防衛群は正面戦闘を避け、側面坑道へ進路を変更する。

 

南方侵入隊の前方には光線級が現れた。

 

直線的な地下道での照射を避けるため、

オニキリ大隊は重金属雲を散布し、姿勢を低くして距離を詰めていく。

 

東方侵入隊では、敵反応こそ少なかったものの、

最初の通信中継器に出力低下が発生した。

 

作戦開始から僅か五分。

 

四隊すべてが、すでに計画外の事態へ直面している。

 

それでも、各隊は前進を続けた。

 

西方隊は第一分岐へ到達する。

 

そこには、龍園たちが提案した二本の経路がある。

 

坂柳有栖から、部隊分割案はすでに現場へ送られていた。

 

サムライ3が決断する。

 

『二隊へ分ける』

 

茶柱。

 

『六機ずつか』

 

『教導隊四機とサムライ4、サムライ5は右へ』

 

『残る六機は左へ進む』

 

坂上が尋ねる。

 

『再合流地点は?』

 

サムライ3は答える。

 

『合流しない』

 

『先に目標へ到達した側が爆薬を設置する』

 

『もう一方は退路を確保し、必要なら設置を引き継ぐ』

 

茶柱はすぐに意図を理解した。

 

『候補生の案か』

 

坂柳有栖。

 

『龍園くん、椎名さん、私の三人でまとめた案です』

 

茶柱は短く答える。

 

『悪くない』

 

地上で通信を聞いていた龍園は、僅かに口元を上げた。

 

西方侵入隊は二つに分かれる。

 

右経路へは、茶柱、坂上、星之宮、真嶋、サムライ4、サムライ5。

 

左経路へは、サムライ3を含む六機。

 

二隊は別々の暗闇へ進んでいく。

 

通信はまだつながっている。

 

だが、岩盤と距離によって、回線には少しずつノイズが混じり始めていた。

 

右隊の通路は狭く、前方には要撃級二体が待ち構えていた。

 

茶柱が即座に役割を決める。

 

『正面は私と坂上が受ける』

 

星之宮。

 

『私は側面支援』

 

真嶋。

 

『俺は後方の戦車級を止める』

 

サムライ4と5も答える。

 

『了解』

 

一体目の要撃級が長い前肢を振り上げる。

 

茶柱機が正面へ出て注意を引き、坂上機が側面へ回る。

 

星之宮が脚部へ射撃。

 

サムライ4と5も同じ関節へ砲撃を集中させた。

 

爆発が重なり、最初の要撃級が崩れ落ちる。

 

二体目が腕を振り回した。

 

その一撃が天井へ当たり、岩盤が崩落する。

 

茶柱機の前へ大量の瓦礫が落ち、進路が塞がれた。

 

坂上が右側の隙間を見る。

 

『右へ回る』

 

茶柱。

 

『通路幅が足りない』

 

『陽炎なら通れる』

 

坂上機は肩を壁へ寄せ、要撃級の側面へ滑り込む。

 

長刀で脚部関節を斬りつける。

 

星之宮が同じ箇所へ射撃し、真嶋が残していた百二十ミリ砲を撃ち込んだ。

 

大爆発。

 

二体目の要撃級も倒れる。

 

右隊は瓦礫を避け、前進を再開した。

 

残り時間、二十六分。

 

一方、左隊では敵反応がほとんどなかった。

 

サムライ3は、その静けさを不審に思う。

 

『静かすぎる』

 

管制席で地中振動を見ていたひよりが、異常へ気づく。

 

「左隊の真下です」

 

坂柳有栖も表示を切り替える。

 

「深部から大型反応が上昇しています」

 

龍園が地図を見る。

 

「道ごと突き上げてくるぞ」

 

警告が送られる。

 

直後、左隊の足元が大きく隆起した。

 

サムライ3が叫ぶ。

 

『全機散開!』

 

だが、坑道は狭い。

 

六機が完全に距離を取る余裕はない。

 

地面が割れ、突撃級の分厚い前面装甲が、二機の間へ突き出された。

 

その衝撃でサムライ6が弾き飛ばされ、壁へ激突する。

 

『サムライ6、中破!』

 

搭乗者の生命反応はある。

 

だが、脚部出力が大きく低下していた。

 

左隊は五機で戦闘を継続しながら、損傷した一機を守らなければならない。

 

サムライ3が管制へ尋ねる。

 

『爆破目標までの距離は』

 

『約七百メートルです』

 

残り時間は二十四分。

 

撤退判断まで、あと九分。

 

サムライ3は即断した。

 

『右隊へ』

 

『こちらは救援対象が発生した』

 

『爆薬設置を任せる』

 

茶柱。

 

『了解』

 

右隊の爆破目標までの距離は五百メートル。

 

だが、敵反応はさらに増えている。

 

左隊では、突撃級がまだ動き続けていた。

 

地上の龍園が言う。

 

「救援隊の準備を始めろ」

 

堀北が反応する。

 

「まだ早いわ」

 

「中破一機だ」

 

「左隊には動ける機体が五機残っている」

 

「突撃級も一体だけよ」

 

龍園は画面から目を離さない。

 

「一体だけで終わると思うか」

 

ひよりが左隊後方の振動を確認する。

 

「大型反応が増えています」

 

坂柳有栖。

 

「要撃級三体」

 

「さらに、戦車級多数が退路へ接近しています」

 

サムライ6は中破。

 

前方には突撃級。

 

後方には要撃級と戦車級。

 

作戦開始から、まだ十一分。

 

想定より早すぎた。

 

坂柳理事長の声が、西部格納庫へ届く。

 

「候補生予備隊」

 

全員の表情が変わった。

 

「搭乗準備へ移ってください」

 

まだ出撃命令ではない。

 

だが、待機段階が一つ上がった。

 

オレたちは一斉に走る。

 

吹雪の昇降機へ乗り、管制ユニットへ滑り込む。

 

強化装備が座席へ固定され、操縦系統との接続が始まる。

 

堀北機。

 

須藤機。

 

高円寺機。

 

龍園機。

 

平田機。

 

一之瀬機。

 

神崎機。

 

伊吹機。

 

石崎機。

 

アルベルト機。

 

残る二機。

 

十二機の主機が順番に起動する。

 

救援装備と実弾を確認。

 

支持架が解除される。

 

格納庫扉が開き、その先に夕暮れの東京湾が見えた。

 

地下では正規軍が戦っている。

 

茶柱の声が、ノイズ交じりに聞こえる。

 

『右隊、目標まで三百メートル』

 

サムライ3。

 

『左隊、サムライ6の牽引を開始』

 

『突撃級はまだ動いている』

 

爆発音が回線へ入り、通信が大きく乱れる。

 

平田が呼吸を整えた。

 

『全員を帰せるかな』

 

一之瀬が迷わず答える。

 

『帰すよ』

 

神崎は冷静に言う。

 

『まだ出撃命令は出ていない』

 

須藤。

 

『でも、出ることになる』

 

高円寺。

 

『おそらくね』

 

龍園がオレへ通信する。

 

『綾小路』

 

「何だ」

 

『出るなら左隊の救援だ』

 

「分かっている」

 

堀北も状況を整理する。

 

『右隊が爆薬設置を完了すれば、左隊の退路を確保する必要がある』

 

ひよりの声が管制室から届く。

 

『左隊の現在位置から、第二侵入口へ抜けられる可能性があります』

 

正規の帰還路ではない。

 

横方向へ伸びる旧地下水路を使う経路だった。

 

幅は狭い。

 

だが、吹雪一機なら通過できる可能性がある。

 

坂柳有栖。

 

『救援経路を送信します』

 

十二機は主機を起動したまま、出撃許可を待つ。

 

地下では、右隊が爆破目標へ到達した。

 

茶柱。

 

『爆薬設置を開始する』

 

左隊は突撃級を撃破したものの、

サムライ6の脚部出力は二十パーセントまで低下している。

 

牽引状態では、通常の侵入口へ戻る時間が足りない。

 

後方からは要撃級が迫っていた。

 

サムライ3が言う。

 

『時間が足りない』

 

坂柳理事長が決断する。

 

「左隊は作戦を中止してください」

 

「第二侵入口へ向かってください」

 

サムライ3が反応する。

 

『我々の地図にない経路です』

 

ひよりが答える。

 

『旧地下水路があります』

 

『通路幅はぎりぎりですが、理論上は通過可能です』

 

サムライ3。

 

『候補生の分析か』

 

茶柱が短く言う。

 

『信用しろ』

 

一瞬の沈黙。

 

『了解』

 

左隊は進路を変更し、損傷したサムライ6を牽引しながら旧地下水路へ向かう。

 

だが、入口は瓦礫によって狭められていた。

 

サムライ3が報告する。

 

『このままでは通れない』

 

地上の龍園が回線へ入る。

 

『削れ』

 

『誰だ』

 

『地上予備の龍園だ』

 

龍園は瓦礫配置を確認する。

 

『左上の岩盤だけを落とせ』

 

『右側には支柱がある。そっちへ力をかけるな』

 

ひよりも確認する。

 

『龍園くんの指示で問題ありません』

 

サムライ3が尋ねる。

 

『爆薬は使えるか』

 

龍園。

 

『使うな』

 

『作業杭で端から割れ』

 

五機は損傷したサムライ6を守りながら、瓦礫撤去を始める。

 

その間にも、敵は接近していた。

 

右隊の爆薬設置進捗は四十パーセント。

 

左隊へ迫る要撃級は、残り百メートル。

 

坂柳理事長が決断した。

 

「候補生救援隊」

 

全員が聞く。

 

「出撃を許可します」

 

茶柱の声が割って入る。

 

『司令官!』

 

坂柳理事長は揺らがない。

 

「左隊が第二侵入口から脱出するまで支援します」

 

「地下深部へ進入してはいけません」

 

「活動範囲は、入口から二百メートル以内」

 

「敵の撃破より、退路確保を優先してください」

 

茶柱は数秒黙った。

 

『……了解』

 

坂柳理事長は続ける。

 

「救援隊指揮官、綾小路清隆くん」

 

「任務を確認してください」

 

オレは答える。

 

「左隊六機を回収します」

 

「候補生救援隊にも、損失は出しません」

 

坂柳理事長。

 

「その通りです」

 

「出撃してください」

 

西部格納庫前で、十二機の吹雪が一斉に動き始める。

 

跳躍ユニットの出力が上がり、青白い炎が地面を照らした。

 

機体が加速し、夕暮れの空へ飛び出す。

 

候補生救援隊。

 

これまでのように、学校へ迫る敵を迎え撃つためではない。

 

地下へ取り残されかけている正規軍を救うため。

 

自分たちの役割と意思を持って。

 

オレたちは初めて、東京ハイヴへ向けて出撃した。

 

夕暮れに染まる東京湾の上を、十二機の吹雪が一列になって進む。

 

跳躍ユニットの炎が、海面へ長い光を映した。

 

前方には第二侵入口。

 

地下からは黒煙が噴き出し、周囲の海面が地中振動によって細かく揺れている。

 

正規軍左隊は、五機が行動可能。

 

一機が中破。

 

退路には要撃級三体と、多数の戦車級。

 

そして、さらに深い場所では。

 

これまで動かなかった未知の大型反応が、

左隊と救援隊の向かう第二侵入口へ向けて、ゆっくりと上昇を始めていた。

 

断界作戦は、まだ半分も終わっていない。

 

それにもかかわらず人類側は早くも。

 

本来なら地上へ残すはずだった戦力を。

 

東京ハイヴの入口へ投入しなければならなくなっていた。

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