東京湾の夕暮れは、厚い雲と黒煙に覆われていた。
十二機の吹雪は海面すれすれの高度を維持し、
跳躍ユニットから噴き出す炎を長く引きながら、
断界作戦の第二侵入口へ向かっている。
隊列の先頭を進むのはオレの機体だった。
右後方には須藤、左後方には高円寺。
そのさらに後ろで堀北が全体位置を管理し、
龍園、平田、一之瀬、神崎が中央隊列を形成している。
伊吹、石崎、アルベルト、予備隊員一名は最後方に入り、
損傷機回収用の牽引装置と通信中継器を背負っていた。
オレたちは正式な戦闘部隊ではない。
戦術機訓練を始めてから、
まだ長い時間も経過していない候補生の集まりだった。
それでも各機には実弾が装填され、
背部には損傷機を引き上げるための大型ワイヤーと固定具が搭載されている。
今回の目的は、BETAを撃破することではなかった。
第二侵入口へ向かっているサムライ左隊六機を、全機地上へ戻す。
左隊のうち一機は中破し、自力での帰還が困難な状態にある。
残る五機も、突撃級との戦闘や瓦礫撤去によって、
弾薬と機体出力を大きく消耗していた。
救援隊の到着が遅れれば、
追跡している要撃級三体と戦車級の群れが左隊へ追いつく。
だが、早く到着しすぎても問題がある。
正規軍がまだ開通させていない狭い地下水路へ十二機が押し込めば、
救援するどころか互いの進路と退路を塞ぐことになる。
単純に速度を上げれば解決する状況ではなかった。
須藤が小隊回線を開く。
『もっと出力を上げられるだろ』
現在の速度でも、候補生の通常訓練基準を大きく超えていた。
それでも第二侵入口へ到着するまでには、二分近くかかる。
「左隊が出口へ近づくまでは、この速度を維持する」
『その前に敵が追いついたらどうするんだ』
「侵入口前で身動きが取れなくなるよりはいい」
須藤は納得していない。
それでも、自分の判断だけで跳躍ユニットの出力を上げようとはしなかった。
堀北は十二機の位置と間隔を確認しながら指示する。
『現在の隊形を維持して。第二侵入口周辺は地盤が不安定よ。
着地する時は、機体同士の間隔を十分に空ける必要があるわ』
龍園が別回線から口を挟む。
『地上で綺麗に並べる暇が残ってればいいけどな』
『だから今のうちに隊形を整えているの』
『出口から何が出てくるかも分からねぇぞ』
『サムライ左隊でしょう』
『その後ろから来るものの話だ』
第二侵入口は、旧地下水路と東京ハイヴ浅層部が接続している縦坑だった。
人類側が作った正式な出入口ではない。
地盤探査によって存在だけが確認され、
断界作戦では非常時の予備脱出路として設定されていた。
現在、サムライ左隊はその水路へ入るため、入口を塞いでいる瓦礫を撤去している。
だが、同じ方向から未知の大型反応も上昇していた。
地上管制に残るひよりの声が届く。
『救援隊へ。左隊後方の要撃級は、距離百八十メートルです』
「移動速度は?」
『一体は低下していますが、残る二体は接近を続けています』
坂柳有栖も情報を補足する。
『さらに深部から上昇している大型反応は、第二侵入口まで約七百メートルです。
ただし、既知の要塞級とは移動波形が一致しません』
須藤が聞き返す。
『何が来てるか分からねぇってことか』
『はい』
高円寺は前方を見たまま、落ち着いた声で答える。
『正体の分からないものについて考え続けても、現時点では答えは出ない』
龍園が僅かに笑う。
『珍しく正論だな』
『私は常に正論を述べているよ』
『その言い方が気に入らねぇ』
堀北が二人を遮った。
『未知反応については、地上へ出る前に正規軍が封鎖する予定よ。
私たちの任務は、左隊を回収することだけ』
龍園はすぐには返さなかった。
作戦通りに進むのであれば、堀北の言う通りだった。
だが、東京ハイヴはこれまで一度も、
人類側が引いた線や予定の中だけで動いてはいない。
オレは正面の海面を見る。
第二侵入口の位置を示す大型ブイ。
その周囲だけ、海面が不自然に波打っていた。
海底から大量の気泡が上がり、黒い泥が水面へ浮かび、
地中から伝わる振動によって円形の波が広がっている。
左隊が近づいている証拠であると同時に、BETAも接近している証拠だった。
堀北が命じる。
『救援隊、着地準備』
十二機が徐々に出力を落とした。
跳躍ユニットの炎が短くなり、
機体は海上施設跡へ設置された臨時着陸区画へ順番に降りる。
最初にオレ。
続いて須藤と高円寺。
その後に堀北と後続機。
巨大な脚部が鋼板へ接触するたび、重い衝撃が海上構造物全体へ伝わった。
着地地点の中央には、
縦坑へ戦術機を降ろすための大型昇降ケーブルが二本設置されている。
通常であれば、一度に降ろせるのは一機ずつ。
だが今回は、救援隊十二機すべてが地下へ入る予定ではなかった。
坂柳理事長から与えられた命令は明確だった。
行動範囲は第二侵入口から二百メートル以内。
深部への進入は禁止。
左隊が出口へ到達するまで、侵入口周辺の安全を確保する。
必要な場合に限り、先頭部隊だけが地下へ入る。
堀北が配置を決める。
『第一班は侵入口正面へ。綾小路くん、須藤くん、高円寺くん、私』
『第二班は施設右側。龍園くん、伊吹さん、石崎くん、アルベルトくん』
『第三班は後方支援。平田くん、一之瀬さん、神崎くん、予備隊員一機』
龍園が不満そうに答える。
『俺が右側か』
『侵入口正面へ全機を集めたら、左隊が出られないでしょう』
『分かってる』
『なら従って』
『もう従ってるだろ』
十二機は三班へ分かれた。
第一班は昇降ケーブル前へ。
第二班は海上施設の右側へ展開し、
海底や側面からBETAが出現する事態へ備える。
第三班は牽引器具と搭乗者回収用の医療装備を準備する。
平田機と一之瀬機がワイヤーと固定具を確認し、
神崎が中継器と弾薬の状態を管理していた。
そこへ地下から通信が入った。
激しいノイズの奥から、サムライ3の声が聞こえる。
『こちら左隊。旧地下水路の入口を開放した』
背景では砲撃音と金属が擦れる音が続いている。
『サムライ6を牽引し、第二侵入口へ向かう』
堀北が答える。
『救援隊は地上配置を完了しています』
サムライ3は僅かに間を置いた。
『本当に候補生を出したのか』
別回線から茶柱の声が入る。
西方右隊は、現在も爆薬設置を続けている。
『文句は戻ってから聞け』
『文句じゃない』
サムライ3は低く答えた。
『守る対象が増えたと言っている』
オレが通信へ入る。
「こちらの責任は、自分たちで負います」
『地下を知らない奴が言う台詞じゃない』
「だからこそ、今は入口で待っています」
サムライ3が短く笑った。
『口は回るな』
『それなら、出口を塞がずに待っていろ』
「了解」
サムライ左隊が旧地下水路へ入った。
地図上には六機の反応が表示されている。
一機は牽引されているため、隊列の速度は遅い。
地下水路の幅は、吹雪一機が通れる程度しかない。
不知火は吹雪よりも僅かに肩幅が広く、壁との間にはほとんど余裕がなかった。
左隊は一列に並んでいる。
先頭はサムライ3。
その後ろに健在機二機。
中央に中破したサムライ6。
左右から牽引機が支え、最後尾に二機が残っている。
追跡する要撃級までの距離は百五十メートル。
ひよりが警告する。
『旧地下水路の途中に、現在よりさらに幅が狭くなる区画があります』
サムライ3。
『位置は?』
『第二侵入口から三百二十メートル。左隊現在位置の約八十メートル先です』
龍園が地上から通信へ入る。
『中破機を先に通せ』
『誰だ』
『龍園だ』
『また候補生か』
『横に並べねぇなら、前から引いて後ろから押せ。牽引機を前後へ置き直せ』
サムライ3はすぐには否定しなかった。
地下映像では、通路幅が少しずつ狭くなっている。
現在の隊形では、二機が斜めに並び、中破したサムライ6を挟むように牽引していた。
このままでは狭窄区画へ入れない。
ひよりが龍園の案を検証する。
『前後から固定する方式なら通過できます。
ただし、後方押圧機が要撃級側へ残ります』
龍園。
『最後尾はサムライ3がやれ』
『勝手に決めるな』
『隊長なら最後尾だろ』
『候補生に隊長の役目を教わる気はない』
そう言いながらも、左隊は隊形を変更した。
中破機を前方の健在機が引き、後方の一機が押す。
サムライ3は最後尾へ移動した。
反発はする。
だが、合理的な案であれば使う。
左隊は狭窄区画へ入った。
中破した不知火の右脚部が壁面へ接触し、激しい火花が散る。
牽引ワイヤーが軋み、前方機が出力を上げる。
後方機も機体を押した。
一メートル。
二メートル。
左隊は少しずつ前進する。
その間も要撃級は接近を続けていた。
後方から砲撃音が響く。
サムライ3が射撃している。
通路が狭いため、要撃級は全身を入れられない。
それでも、長大な前肢だけなら水路へ届く。
壁の向こうから巨大な腕が突き出された。
サムライ3は後退しながら三十六ミリ弾を撃ち込み、腕の表面へ爆発を重ねる。
だが、要撃級の腕は止まらない。
不知火の正面へ迫る。
サムライ3は長刀を抜いた。
切断しようとするのではなく、刀身を外側から当て、進路を逸らす。
巨大な前肢と長刀が激突した。
不知火が壁へ押しつけられ、肩部装甲から火花が上がる。
それでも腕の軌道は逸れ、水路の天井を大きく砕いた。
大量の岩片が降る。
神崎が機体状態を報告する。
『サムライ3、左肩部小破!』
続けて狭窄区画の進捗を確認した。
『左隊の狭窄区画通過率は六十パーセントです!』
須藤が操縦桿を握り直す。
『俺たちは、いつまでここで待つんだ』
堀北。
『左隊はまだ入口から三百メートル以上離れているわ』
『だから中へ行くんだろ』
『命令された活動範囲は二百メートル以内よ』
『三百なら、百メートル超えるだけじゃねぇか』
『それを命令違反と言うの』
須藤は引き下がらなかった。
『あの隊長、今一機で要撃級を止めてるんだぞ』
高円寺が落ち着いた声で言う。
『感情だけで機体を動かすな』
『見えてるのに動かねぇ方がおかしいだろ』
『今こちらが狭窄区画へ入れば、帰還する左隊と正面からぶつかる』
須藤は言葉を返せなかった。
高円寺の指摘は正しい。
左隊が通るための一本道へ救援隊が入れば、
助けるはずの部隊の進路を自分たちが塞ぐ。
助けに向かうことが、撤退の邪魔になる。
須藤は操縦桿を強く握った。
それでも機体を動かさなかった。
やがてサムライ6が狭窄区画を抜けた。
前方牽引機も通過し、後方から押していた機体も続く。
最後に残ったのはサムライ3だった。
要撃級の腕が再び迫る。
今度は一体ではない。
左右の壁から、二本の腕が同時に水路へ突き出された。
サムライ3は片方へ砲撃し、もう片方を長刀で受け流す。
不知火は壁と要撃級の腕の間を僅かに滑り抜け、
姿勢を低くして狭窄区画へ入った。
直後。
二本の腕が水路入口へ激突した。
岩盤とコンクリートが大量に崩れ、
左隊と要撃級の間へ巨大な瓦礫の壁が作られる。
完全な封鎖ではない。
だが、敵の進行を一時的に遅らせることはできる。
サムライ3が報告する。
『狭窄区画を通過した』
管制室に僅かな安堵が広がった。
しかし、ひよりの声には緊張が残っている。
『未知の大型反応が加速しています』
堀北が尋ねる。
『第二侵入口までの距離は?』
『五百メートルを切りました』
須藤。
『要撃級じゃねぇ方だな』
『はい』
地中振動の波形が変化していた。
これまでの大型種であれば、一歩進むたびに振動が大きく上下する。
だが、今回の反応は途切れない。
身体を引きずるような間もない。
地層そのものを押し広げながら、一定の速度で上昇している。
坂柳有栖が推定値を示す。
『全長は要塞級を上回る可能性があります』
一之瀬が息を呑む。
『そんな大きなものが、この入口を通れるの?』
ひよりが答える。
『現在の通路幅では不可能です』
龍園。
『なら、通れるように広げながら来る』
その言葉と同時に、海上施設全体が揺れた。
一度きりの衝撃ではない。
鋼板が低く震え続け、十二機の吹雪の脚部へ細かな振動が伝わる。
海面には円形の波が次々と広がり、第二侵入口周辺のブイが大きく傾いた。
堀北が全機へ命じる。
『姿勢を低くして!』
十二機が膝を曲げ、重心を下げる。
地盤が隆起し、昇降ケーブルが激しく揺れた。
一本が岩壁へ衝突し、大きな金属音を響かせる。
地下映像では、旧地下水路の壁面に亀裂が走っていた。
左隊の前方。
第二侵入口まで二百四十メートル。
問題は、左隊が到着するまで水路が耐えられるかどうかだった。
ひよりが地形図を拡大する。
『左隊前方で、天井崩落の可能性があります』
サムライ3。
『回避経路は?』
『ありません』
『なら、このまま進む』
判断は速かった。
左隊は中破機を牽引したまま速度を上げる。
壁へ接触して火花が出ても、機体を守る余裕はない。
地上へ出せればいい。
後方では、要撃級が先ほどの瓦礫を崩し始めている。
前方では未知の大型反応が上昇している。
左右へ逃げる道もない。
止まれば挟まれる。
その時、中破したサムライ6の右脚部が地面の亀裂へ引っかかった。
牽引ワイヤーが強く張り、前方機が急停止する。
後方機が倒れないように支えた。
『サムライ6、停止!』
平田が地上から状態を確認する。
『右脚部が瓦礫へ噛み込んでいます』
神崎も牽引負荷を計算する。
『牽引出力が上昇しています。このまま引けば、接続部が破損します』
一之瀬が尋ねる。
『ワイヤーを増やせないの?』
『通路が狭すぎて、別の機体を横へ入れられません』
サムライ3は前方へ回ろうとしたが、隊列を入れ替える空間がない。
前に牽引機。
後ろに押圧機。
その間に中破したサムライ6。
残る機体は、その後ろへ縦に並ぶことしかできない。
オレは地下水路の断面とサムライ6の姿勢を確認した。
右脚部が亀裂へ落ち、前方へ引かれるほど深く食い込む形になっている。
「牽引を止めろ」
サムライ3が聞き返す。
『何だと』
「前方から引くな」
『止めれば敵が追いつく』
「今の角度で引けば、右脚部が外れて機体が横転する」
爆薬設置中の西方右隊から、真嶋の声が入った。
『綾小路の判断で合っている』
サムライ3。
『なら、どうする』
「後方機で右側を押し、サムライ6を左へ傾ける」
『左肩が壁へ当たるぞ』
「当てればいい」
『装甲を削るのか』
「右脚部を引き抜くより、左肩を壁へ滑らせて荷重を逃がす」
サムライ3は即座に命令した。
『前方牽引を停止』
『後方機はサムライ6を左へ傾けろ』
後方機が中破機の右側へ力をかける。
サムライ6の左肩部が壁面へ接触し、激しい火花を散らした。
装甲が削られる。
機体が僅かに左へ傾き、右脚部へかかっていた重量が減った。
『前方機、再牽引』
ワイヤーが再び張る。
右脚部が亀裂から抜けた。
外装の一部は瓦礫の中へ残った。
それでも機体は横転していない。
『サムライ6、移動を再開!』
須藤が小さく息を吐く。
『機体を壊してでも帰す、か』
真嶋が訓練で教えたことだった。
装甲は交換できる。
だが、横転した機体が水路を塞げば、全隊が戻れなくなる。
左隊は再び進み始める。
第二侵入口まで百八十メートル。
救援隊へ許可された範囲へ入った。
堀北が坂柳理事長へ申請する。
『救援第一班の地下進入許可を求めます』
『目的は?』
『左隊前方の退路確保と、中破機の牽引交代です』
『進入する機数は?』
堀北はオレを見る。
「四機」
堀北が答える。
『綾小路くん、須藤くん、高円寺くん、私の四機です』
須藤が僅かに笑った。
『やっと行けるな』
坂柳理事長は一瞬だけ間を置いた。
『許可します』
『二百メートルを越えてはいけません』
『左隊と接触した後は、即座に反転してください』
『了解』
第一班の四機が昇降ケーブル前へ集まった。
通常通り一機ずつ降ろしていては時間がかかりすぎる。
第二侵入口は完全な垂直坑ではなく、途中から急斜面へ変わっている。
吹雪であれば、跳躍ユニットを制限出力で使用しながら降下できる。
オレが先頭へ出た。
崖の縁から下を見る。
暗闇の奥から、湿った熱気と泥の匂いが上がってくる。
前照灯を斜面へ向ける。
「降りる」
吹雪を斜面へ踏み出させた。
跳躍ユニットを短く噴射し、姿勢を保ちながら滑るように降下する。
岩盤。
泥。
地下水。
機体の脚が地面へ触れるたび、重い衝撃が伝わった。
後方には須藤。
高円寺。
堀北。
四機は一定の間隔を維持して続く。
地上の光が少しずつ遠ざかる。
橋本と神室が地上から通信中継器を管理していた。
『第一中継器、正常』
『映像を受信しています』
『現在深度、百二十メートル』
再び地面が大きく揺れた。
斜面上部から岩片が落下する。
一つ。
二つ。
須藤機の肩へ大きな岩が当たった。
『邪魔だ!』
須藤は機体を横へずらし、岩を斜面下へ流す。
堀北が注意する。
『撃たないで。砲撃したら斜面自体が崩れるわ』
『分かってる』
高円寺は足元を確認し、必要最小限の機体操作で岩片を避けていた。
四機は急斜面を降り切り、旧地下水路へ到達する。
通路幅は吹雪一機半ほど。
横へ並ぶ余裕はない。
四機は縦列となり、オレが先頭を進む。
前方百メートル。
左隊の照明が見え始めた。
その後方には要撃級の反応。
さらに奥には未知の大型反応が迫っている。
須藤が機体を前へ出そうとする。
『敵はどこだ』
「左隊の後ろにいる」
『まだ見えねぇ』
「今は敵ではなく、味方を見ろ」
水路の奥へ照明を向ける。
先頭にサムライ3の不知火。
その後ろに健在機。
さらに中破したサムライ6が、ワイヤーに支えられながら壁へ接触して進んでいる。
左隊も救援隊を確認した。
『救援隊を視認した』
サムライ3。
『本当に来たのか』
堀北。
『牽引を交代します』
『候補生に任せられるのか』
須藤が怒鳴る。
『そのために来たんだろ!』
サムライ3は冷静に返す。
『声が大きい。地下では反響する』
須藤は一瞬黙った。
それでも言い返す。
『なら早く渡せ』
左隊と救援第一班が接触した。
通路が狭いため、機体を横へ並べることはできない。
オレがサムライ3と位置を入れ替え、中破機の前方へ入る。
堀北と高円寺は左右後方。
須藤は最後尾側へ回った。
平田たちが地上で訓練していた手順に従い、牽引ワイヤーを接続する。
高円寺が中破機の左肩と腰部を固定。
堀北が右側を支える。
オレが前方から牽引し。
須藤が後方から押す。
左隊の正規軍機は、その周囲へ分かれて護衛位置へ入った。
サムライ3が言う。
『牽引は任せる』
『俺たちは後ろの敵を止める』
「全機で地上へ上がる」
『要撃級が接近している』
「だから全機で後退する」
『誰かが最後尾へ残る必要がある』
須藤がすぐに反応する。
『また一人で残る気かよ』
『隊長の仕事だ』
堀北が遮る。
『最後尾は交代制にします』
サムライ3。
『候補生が正規軍へ命令するのか』
堀北は怯まなかった。
『救援隊の指揮権はこちらにあります』
『左隊を回収した後は、救援隊の撤退計画へ従ってください』
短い沈黙。
遠隔通信から茶柱が命じる。
『従え、サムライ3』
『教官命令か』
『救援される側が意地を張るな』
サムライ3が息を吐いた。
『了解』
役割を組み直す。
第一後衛は、サムライ3と健在機二機。
第二後衛は、残る正規軍二機と須藤。
牽引担当はオレ、堀北、高円寺。
地上出口の確保と巻き上げは、地上に残る第二班と第三班。
交代しながら中破機を守り、全員で戻る。
堀北が命じる。
『撤退開始』
牽引ワイヤーが張る。
オレが前へ進む。
中破した不知火が動き始めた。
高円寺と堀北が左右の傾きを調整し、須藤が後方から押す。
地下水路の地面は平坦ではない。
水が流れ、泥が溜まり、一歩ごとに機体が滑る。
中破機の右脚部は、ほとんど自力で動かない。
オレが強く引きすぎれば、機体が前へ倒れる。
須藤が押しすぎれば、ワイヤーが緩み、左右へ大きく振られる。
高円寺が張力を確認する。
『前方出力を三パーセント下げたまえ』
「了解」
『須藤くんは、右側を少し強く押してくれ』
『分かった』
堀北も壁面との距離を報告する。
『左壁まで一・二メートル』
交わされる言葉は短い。
だが、四機の動きは一つにつながっていた。
一機をただ引くのではない。
四機で一つの身体を動かす。
斜面入口まで、残り八十メートル。
その時、後方で要撃級が瓦礫を突き破った。
激しい爆発音とともに、地下水路の奥へ巨大な腕が現れる。
続いて頭部。
要撃級一体が壁面を押し広げながら水路へ入り、
その後ろからさらに二体が続いていた。
サムライ3が命じる。
『第一後衛、射撃開始』
三機の不知火が一斉に突撃砲を撃つ。
狭い通路の正面へ三十六ミリ弾が集中し、要撃級の脚部と肩部へ次々と着弾する。
爆炎が水路全体を満たした。
それでも要撃級は止まらない。
一歩進むたびに壁が削れ、天井から岩片が落ちる。
サムライ3たちは後退しながら射撃を続ける。
目的は敵を倒すことではない。
距離を維持し、中破機が斜面入口へ到着するまでの時間を稼ぐ。
須藤が後ろを見た。
『俺も撃てる』
堀北。
『今は押して』
『でも――』
高円寺が言う。
『君が中破機から離れれば、姿勢が崩れる』
須藤機は動かなかった。
敵を撃ちたい。
後衛を助けたい。
それでも今の役割は、中破機を押すことだった。
要撃級を倒すよりも。
一機を地上へ帰す。
須藤は操縦桿を握り直した。
『了解』
そのまま中破機を押し続けた。
牽引隊は斜面入口へ到着した。
ここから地上までは急勾配となる。
通常の機体であれば、跳躍ユニットを使って登ることができる。
だが、サムライ6にはそれができない。
地上から、二本の昇降ケーブルが降りてくる。
平田が報告する。
『ケーブル到着まで十秒』
一之瀬。
『固定器具を準備しています』
神崎。
『地上側の巻き上げ機は正常です』
龍園。
『地下側は敵を止めろ』
堀北。
『言われなくても分かっているわ』
牽引隊は斜面前で停止した。
ケーブルを中破機へ接続しなければならない。
止まっている時間こそ、最も危険だった。
要撃級との距離は百メートル。
第一後衛が射撃を続ける。
サムライ3。
『あとどれくらいかかる』
平田。
『固定に三十秒です』
『長いな』
一之瀬が答える。
『急いで固定が外れたら、途中で落ちます』
『分かっている』
高円寺はサムライ6の固定箇所を確認した。
『右腰部の外装が歪んでいる』
神崎。
『通常の固定方法では、荷重が右側へ偏ります』
真嶋の声が西方右隊から入った。
『胸部支持と左腰部を使え』
高円寺。
『右脚部は吊らないのかい?』
『脚は捨てろ』
『機体重量を胴体で支えさせる』
堀北。
『了解』
ワイヤー配置を変更する。
オレが前方を支え。
高円寺が胸部を固定。
堀北が左腰部を担当する。
須藤は後方から機体を支えた。
サムライ6の右脚部は、斜面を引きずられることになる。
さらに損傷するだろう。
それでも搭乗者を地上へ出す。
それが最優先だった。
固定進捗、二十パーセント。
後方では要撃級が速度を上げている。
サムライ3たちの射撃が一体目の脚部へ集中する。
巨体が僅かに傾く。
だが、二体目がその横から腕を伸ばした。
左隊の一機が回避する。
要撃級の腕が水路床へ激突し、地下水が高く噴き上がった。
『第一後衛、後退する!』
三機が距離を下げる。
要撃級との距離は七十メートル。
固定進捗、四十パーセント。
須藤が叫ぶ。
『遅ぇ!』
高円寺は作業を止めない。
『急いで外れるよりはいい』
『分かってる!』
地上では、龍園隊が侵入口周辺へ集まっていた。
伊吹、石崎、アルベルトが補助ワイヤーへ機体を接続する。
平田と一之瀬が巻き上げ装置を準備し、神崎が機体重量と牽引負荷を計算する。
地上へ残った全機で、一機を引き上げる体制だった。
坂柳有栖が警告する。
『未知の大型反応まで三百メートル』
ひより。
『要撃級三体の後方です』
龍園が尋ねる。
『映像には入らねぇのか』
『まだ水路の曲がり角の先です』
『速度は』
『低下していません』
固定進捗、六十パーセント。
要撃級まで五十メートル。
サムライ3が命じる。
『第一後衛、交代する!』
須藤が即座に反応した。
『俺が行く』
堀北。
『固定作業は?』
『高円寺とお前で続けられる』
「須藤を後衛へ回す」
オレが言う。
堀北は一瞬だけ考えた。
『許可する』
須藤が中破機から手を離す。
代わりにオレが後方押圧位置へ移る。
須藤機はサムライ3の横へ入り、正規軍二機も第二後衛として前へ出た。
六機。
狭い地下水路。
正面には要撃級三体。
須藤が突撃砲を構える。
『どこを撃つ』
サムライ3。
『一体目の右脚だ』
『全機、同じ場所へ集中しろ』
『了解』
六機が一斉に射撃を開始した。
狭い坑道へ轟音が反響し、無数の砲弾が要撃級の右脚部へ着弾する。
爆炎の奥で巨体が傾く。
だが倒れない。
須藤はさらに撃とうとする。
サムライ3が止めた。
『撃ちすぎるな』
『まだ動いてる!』
『次の射撃に備えろ』
『でも――』
要撃級が巨大な腕を振り上げた。
距離は三十メートル。
このままでは回避が間に合わない。
サムライ3が叫ぶ。
『全機、伏せろ!』
六機が姿勢を低くする。
巨大な腕が頭上を薙ぎ、水路右壁へ激突した。
壁面が崩れ、コンクリートと岩盤が要撃級自身の脚元へ落ちる。
右脚部が瓦礫へ埋まり、動きが止まった。
須藤が叫ぶ。
『今だ!』
六機が二射目を撃つ。
同じ脚部へ砲撃が集中し、大爆発が起きた。
要撃級の巨体が右側へ崩れ、水路壁面へ倒れ込む。
完全に撃破したわけではない。
だが、身体が通路の半分を塞ぎ、後続二体が進める幅を狭めた。
サムライ3が命じる。
『一体目を停止させた』
『全機下がるぞ』
須藤は追撃しなかった。
命令通り後退する。
固定進捗、八十五パーセント。
高円寺。
『残り一か所』
堀北。
『左腰部を固定する』
オレは中破機の姿勢を支える。
その時、地面が再び大きく揺れた。
未知の大型反応が近い。
要撃級二体のさらに後方。
曲がり角の向こうから、何かが岩盤へ触れる音が聞こえてくる。
低く。
長い。
生物が歩くというよりも、巨大な建造物そのものが地中を移動しているような音だった。
ひよりの声が僅かに震える。
『映像へ入ります』
後衛機の照明が、要撃級の背後を照らした。
暗闇の中で最初に見えたのは、白い外殻だった。
要塞級の脚部とは異なる。
厚く。
壁面のように巨大な装甲。
その下には、地面に沿って伸びる太い肢体が見える。
身体は水路幅を遥かに上回っていた。
それでも周囲の岩盤を押し広げながら、強引に進んでくる。
坂柳有栖が既知種データとの照合を求める。
『既知種との照合を』
管制官が答える。
『該当する種はありません』
須藤。
『新種かよ』
サムライ3。
『見るな。後退しろ』
未知種の身体が曲がり角を越える。
全身は見えない。
頭部がどこにあるのかも分からない。
複数の太い肢体が壁と地面を掴み、その中央には巨大な殻状構造が存在している。
周囲の要撃級は、その進路を空けるように動いていた。
暁光作戦で映った深部巨大空間。
他のBETAが避けていた中央の影。
同じ存在なのか。
ひよりが振動波形を比較する。
『暁光作戦で確認した反応と近いです』
龍園。
『あの本体が上がってきたのか』
坂柳有栖。
『完全には一致しません』
『ただし、移動波形は酷似しています』
未知種が一歩進む。
水路全体が歪み、壁面に新たな亀裂が走る。
天井から大量の砂が落ち始めた。
堀北が叫ぶ。
『固定完了!』
平田。
『巻き上げ開始!』
地上の巻き上げ装置が作動し、複数のワイヤーへ張力がかかる。
中破したサムライ6がゆっくりと浮き上がる。
右脚部が地面へ擦れ、激しい火花を散らしながら斜面へ入った。
オレ、堀北、高円寺が下から支える。
須藤たち後衛は、後退しながら射撃位置を維持している。
未知種と要撃級二体までの距離は四十メートル。
サムライ3が尋ねる。
『撃って止まると思うか』
真嶋が即座に答える。
『撃つな』
『外殻の強度が分からない』
『下手に爆発を起こせば、天井が先に落ちる』
サムライ3。
『なら、何で止める』
地上の龍園が言う。
『水路ごと落とせ』
ひよりが反対する。
『爆破は危険です』
龍園。
『今の振動なら、爆破しなくても落ちる』
地下地図には、未知種上部の構造が表示されている。
旧海底水路。
劣化した支柱。
海上施設の基礎。
灯火作戦や断界作戦による振動で、すでに強度が低下していた。
「支柱を直接撃つ必要はない」
オレは天井の亀裂と要撃級の位置を見る。
「左上部の亀裂へ、要撃級をぶつける」
須藤。
『どうやってだ』
「右側へ火力を集中する」
サムライ3が意図を理解した。
『要撃級を左へ寄せるのか』
「未知種との間へ倒す」
要撃級の巨体を障害物として使う。
さらに、その身体を左壁へぶつけることで、
天井に入っている亀裂を広げ、自然崩落を誘う。
爆薬は使わない。
支柱も直接撃たない。
要撃級自身の質量を利用する。
サムライ3が命じる。
『後衛全機、二体目の右側へ射撃を集中しろ』
須藤。
『了解!』
六機が射撃位置を僅かにずらした。
中破機はまだ斜面途中にあり、地上へ出るまで時間が必要だった。
最初の要撃級は壁際で倒れている。
狙うのは中央の二体目。
右肩部と右脚部へ同時に射撃する。
一斉射撃。
砲弾が要撃級の右側へ集中し、巨体が左へ傾いた。
未知種が背後から進み、その身体が要撃級を前へ押す。
サムライ3が命じる。
『もう一度だ!』
二射目。
爆炎の中で要撃級が左壁へ激突した。
上部の亀裂が広がり、岩片が落ちる。
だが、まだ崩落には足りない。
須藤が一歩前へ出ようとする。
『もっと近くから撃つ』
サムライ3が止める。
『位置を維持しろ』
『今の距離じゃ威力が足りねぇ!』
『前へ出れば、要撃級の腕が届く』
須藤は止まった。
以前なら、構わず前へ出ていたかもしれない。
だが今は、サムライ3の射線、仲間の位置、天井の状態まで見ている。
『なら、百二十ミリを使う』
神崎が搭載数を確認する。
『候補生機の百二十ミリ弾は二発だけです』
須藤。
『一発で十分だ』
堀北が念を押す。
『支柱へ当てないで』
『分かってる!』
須藤機が百二十ミリ砲へ武装を切り替える。
照準は、要撃級の右肩。
その背後には未知種。
外せば、未知種へ直撃する。
何が起きるかは分からない。
慎重に照準を合わせる。
サムライ3が命じる。
『撃て』
須藤が発射した。
百二十ミリ弾の轟音が水路を震わせる。
砲弾は要撃級の右肩へ直撃し、巨大な爆炎が地下空間を白く染めた。
衝撃によって要撃級の巨体が左へ押され、壁面へ激突する。
上部の亀裂が一気に広がった。
最初に細かな岩片が落ちた。
続いて巨大な岩盤が崩れ始める。
要撃級と未知種の間へ、
何千トンもの土砂とコンクリートが落下し、水路全体を埋めていく。
後衛六機は全力で後退した。
爆風。
泥。
地下水。
視界が一瞬で消える。
警告音が鳴り、須藤機の背部へ岩片が当たった。
小破判定。
サムライ3の不知火も爆風に押される。
それでも、転倒した機体はなかった。
崩落が収まる。
水路後方は、大量の瓦礫によって塞がれていた。
完全な封鎖ではない。
未知種の反応は残っている。
要撃級も一体が活動を続けている。
それでも距離は作れた。
瓦礫を越えるには時間がかかる。
サムライ3が報告する。
『退路を確保した』
須藤が息を吐く。
『止まったか』
ひより。
『いいえ』
『未知反応は、まだ動いています』
瓦礫の向こうから地響きが続く。
巨大な岩盤が少しずつ押されている。
完全には止まらない。
だが、移動速度は大きく低下した。
それで十分だった。
倒す必要はない。
地上へ戻るための時間を作ればいい。
中破機は斜面を上がっている。
地上の光へ少しずつ近づいていく。
平田が声を上げる。
『もう少しです!』
一之瀬が傾きを確認する。
『機体が右へ三度傾いています』
高円寺。
『地上側の左ワイヤーを五パーセント上げたまえ』
石崎。
『了解です!』
アルベルト機が左側ワイヤーを引き上げる。
伊吹機はサムライ6の右脚部を支えていた。
龍園は全体を見ながら指示する。
『前方を上げすぎるな。胸部が斜面へ当たる』
神崎。
『巻き上げ速度を二割落としてください』
平田。
『低下しました』
中破機が少しずつ地上へ近づいていく。
地下に残る機体も、後衛から順番に斜面へ下がり始めた。
最初に地上へ出たのは、サムライ6だった。
機体が鋼板上へ引き上げられると、支持車両が左右から接近する。
平田機と一之瀬機が姿勢を固定。
搭乗者の生命反応も確認された。
続いて、前方牽引を担当していた正規軍機が一機ずつ斜面を上がる。
地上隊がそれぞれを誘導する。
地下に残っているのは七機。
オレ。
堀北。
高円寺。
須藤。
サムライ3。
正規軍二機。
未知種は瓦礫を押し続けている。
距離は百二十メートル。
須藤が後方を見る。
『また近づいてるぞ』
「順番を崩すな」
『でも――』
「斜面を上がれるのは二機ずつだ」
第二侵入口は広い。
だが、斜面上部は不安定だった。
同時に多数の戦術機が上がれば、入口そのものが崩れる可能性がある。
サムライ3が言う。
『候補生から上げろ』
堀北が即座に反論する。
『正規軍からです』
『救援される側が先だ』
『私たちの機体は損傷が少ない。最後尾を維持できます』
サムライ3はオレへ判断を求めた。
『指揮官は綾小路だ』
地上までの距離。
未知種の速度。
各機の損傷。
弾薬残量。
「正規軍二機を先に上げる」
堀北。
『了解』
サムライ3。
『俺は残る』
「サムライ3以外の二機を先に」
『了解』
正規軍二機が斜面へ入る。
堀北機と高円寺機が左右から支援し、須藤とサムライ3が後方を警戒する。
オレは中央に位置した。
瓦礫の向こうから、未知種の白い外殻が再び見え始める。
複数の肢体を使い、崩落した巨大な岩盤を横へ移動させていた。
砲撃で破壊するのではない。
ゆっくりと。
確実に。
障害物を取り除いている。
知性があるようには見えない。
それでも、障害物へ対する適応は異様に早かった。
ひよりが計算する。
『瓦礫を突破するまで、推定九十秒です』
高円寺。
『十分だ』
須藤が聞き返す。
『何が十分なんだ』
『全機が地上へ上がるにはね』
オレは残機数と所要時間を確認する。
正規軍二機は斜面途中。
地上到達まで三十秒。
地下へ残るのは五機。
二機ずつ上がり、最後に一機。
時間はぎりぎりだった。
坂柳理事長の声が入る。
『救援隊、撤退を急いでください』
続いて茶柱の通信。
西方右隊は、爆薬設置を終えていた。
『爆薬設置完了』
『こちらも撤退へ移る』
堀北が尋ねる。
『先生たちは?』
『右隊は全機健在だ』
星之宮が付け加える。
『今のところはね』
坂上。
『余計なことを言うな』
茶柱がこちらの状況を確認する。
『そちらは?』
「左隊の中破機を地上へ回収しました」
「残る正規軍二機が上昇中です」
「未知種が瓦礫を突破しつつあります」
茶柱は一瞬だけ黙った。
『綾小路』
「何でしょうか」
『全員で戻れ』
「了解」
以前の茶柱なら、自分たちの任務を優先しろと言っていたかもしれない。
今は候補生たちへ帰還を命じている。
そして、自分自身も戻ると約束している。
斜面を上がっていた正規軍二機が地上へ到達した。
地下へ残るのは、オレたち四機とサムライ3。
未知種は、瓦礫の向こうでなおも前進を続けている。
それでも。
誰か一人だけを残すという選択はしない。
必ず。
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