悪役令嬢の教師は未来のわたくし   作:エクソダス

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第5話

 朝靄が晴れぬうちから、アクアドール学院の鐘が鳴り響く。

 セリアとミアはいつものように寮を出て、中央の食堂棟に向かった。朝の冷たい空気が頬を撫で、セリアは少し身震いをする。

 

「寒いですわね、ミア」

「はい、セリア様。もうすぐ冬ですから」

「全寮制とはいえ、もう少し暖房を効かせてもよろしいのではなくて?」

「贅沢は敵、という教育方針なのでしょう」

「ふん、くだらない」

 

 そんな話をしながら、二人は食堂へ。

 温かい空気と共に焼きたてのパンの香ばしさ、紅茶の優雅な香りが胃を刺激する。

 

「セリア様、お席はいつもの場所でよろしいですか?」

「当然ですわ。窓際の特等席は代々レーヴェル家が使うものと決まっていますのよ」

「かしこまりました。すぐに朝食をお持ちいたします」

 

 セリアがいつものように窓際の席に向かうと、すぐさまミアが朝食を取ってくる。

 

「セリア様、お持ちいたしました」

「ええ」

「本日のメニューは焼きたてのクロワッサンとダージリンティーでございます」

 

 セリアは一口ダージリンを口に含む。

 

「セリア様、本日は少しお疲れのように見えますが」

「ええ、最近少し寝付きが悪いんですの」

 

 隣で心配するミアに、セリアは凛と返す。

 

(あの女……今に見ていなさい。わたくしを愚弄した報いを受けさせてやりますわ)

 

 寝付きが悪かった理由は明白、あのアリーゼという教師のせいである。

 

「大丈夫ですか? 本日は休んだ方が……」

「ミア、メイドの分際で主に提案とは良い度胸ですわね」

「それは――」

「身の程をわきまえなさい」

「……失礼しました」

 

 セリアは意味のない怒りをミアに吐き捨て、頬杖をつく。

 

「あのアリーゼという女……スーリア先生の推薦だというのに。礼儀がなってませんわ」

「そう、ですね。同意見です」

「本当に腹立たしいですわ」

 

 セリアは悪態をつき、パンを千切る。

 

「ち、今日のパンは固いですわね」

 

 だが、一口食べただけでパンをゴミ箱に投げ捨ててしまう。

 

「ミア、新しいパンを持ってきなさい」

「かしこまりました」

 

 セリアに檄を飛ばされ、ミアはすぐに立ち上がり新しい朝食を取りに向かった。

 

「まったく、ほんっとにむかつきますわ」

 

 イライラを隠そうともしない。

 そんな彼女を見て、生徒達はぼそぼそと何かを話している。

 

「セリア様、今朝も機嫌が悪そうね」

「新任教師のせいかしら」

「可哀想に……」

 

 遠いためセリアには詳しく聞こえない。

 だが、どうにも哀れみの目で見られているようでむかついた。

 

「何ですの? 何か言いたいことがあるなら、はっきりおっしゃいな」

 

 セリアが睨みをきかせた瞬間、こちらを見ていた生徒達は目をそらす。

 

「ちっ。どいつもこいつも」

 

 朝からの空気は最悪、そんな時だ。

 

「座るわよ」

 

 いきなりどかっとセリアの前に座る無礼者が一人。

 

「な――」

「おや、ごきげんよう。今朝もお顔が青いですわね、クソガキ」

「あ、貴女は……!」

 

 最近新担任になった、あの無礼者――アリーゼ・ヴェルレイだった。

 

「朝から可愛い生徒の顔を見れるなんて、教師冥利に尽きるわね」

「誰が可愛いですって!?」

「あー、別に貴女のことじゃないわよ。勘違いはやめなさいね」

 

 アリーゼはセリアの反応を楽しむように、優雅に紅茶に口をつける。

 

「んー、やはりここの紅茶は中々の美味ね。優雅さのわからないガキにはもったいないわ」

「な、な……」

「ま、ダージリンの香りすらお嬢様にはわからないかしら? まあガキだものね」

「な、わたくしは生まれた時からダージリンで育ったようなものですわ!」

 

 アリーゼが紅茶の香りを堪能する中、セリアは心の中で怒りを燃やしていた。

 

「というか何故ここに!? ここは学生食堂ですわ!」

「おや、朝っぱらから怒鳴り声とは血圧が上がるわよ。落ち着きなさいな」

「く……」

「それに、教師が学生食堂に入ってはいけない理由など、そんな話一言も聞いたことはございませんが? ん?」

「規則に無くても常識というものがあるでしょう!」

「あら、それは誰の常識かしら? 騒がないのクソガキ。それは非常識というものよ?」

「どこまでも小馬鹿にして!!」

 

 睨みをきかせ、怒りを露わにするセリア。

 しかしそんな姿などどこ吹く風、アリーゼはクロワッサンを食べながらほくそ笑む。

 

「職員の食堂で食べなさいな!」

「ああ、あそこ。あそこは堅苦しくて……生徒達と同じ釜の飯を食べた方が親睦は深まると思わない? たとえその相手が貴女であっても」

「親睦など必要ありませんわ!」

「あら、そう? 人生損してるわよ」

「いちいち一言多いですわね……」

 

 セリアはつい呆れてため息をつく。

 

「ここは魔術を極めるための学院、あの誇り高きアクアドール学院ですわよ? なれ合うなど言語道断ですわ」

「まぁ、それは否定しないわ。けど、学園生活の友情は、その時にしか感じられない」

「友情? そんな甘い考えで魔術が極められるとでも?」

「魔術だけが人生じゃないでしょう?」

 

 アリーゼはピンっと人差し指で何かを転がす。

 それは赤いあめ玉のようで、テーブルをコロコロと転がってセリアの前で止まった。

 

「絆は大事よ。それは、覚えておきなさい」

「……ふん、友情なんてなれ合いに興味などありませんわ」

「ぼっちになって、いつか後悔するわよ」

「しませんわ!」

 

 少し経ち、ミアも新しいパンを持って戻ってくる。

 それを見て、アリーゼは明るく声をかけた。

 

「こんにちは、ミアさん」

「ちっ」

 

 しかしミアの挨拶が帰ってくることはなく、舌打ちのみ。

 

「新しいパンでございます」

「ありがとう、ミア」

 

 ミアはセリアに新しい朝食を渡した後、セリアの隣に座る。

 

「あらあら、あたし様もずいぶんと嫌われたもので」

「……然るべき方に然るべき対応をしているだけです」

「このあたし様が担任になって、まだ一ヶ月も経ってないわよ? そんな品性を疑われることをしたかしら」

「セリア様を侮辱したでしょう」

「事実を述べただけよ」

 

 アリーゼは不思議そうにとぼける。

 ミアはつい殺意をむき出しにしたが、セリアに睨まれて殺意をしまう。

 

「ミア、みっともないですわよ」

「……失礼しました」

「おや、謝るべき相手が違うんじゃないかしら?」

「貴女に謝ることなど何もございません」

 

 そうミアがばっさりとアリーゼの言葉を切った。

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