と、そんな時。
「よう、朝から騒がしいな」
男子生徒の気さくな声が、緊張した空気を切り裂いた。
「朝から騒がしいと思ったら、やっぱりお前らか」
その声の主を確認すると、そこにいたのはレオナルド第一王子だった。
「よっ、セリア」
「レ、レオナルド様」
レオナルドが姿を見せると、ミアは席を立ち跪く。
「もう、そういう堅苦しいのはやめてくれって。今は飯の時間だろ」
「で、でも。王子様に対して礼儀は」
「いいっていいって」
そう気さくに手を振りながら、レオナルドはアリーゼの隣にどかっと腰を下ろす。
その様子を見て、アリーゼは上品に微笑み、口元を手で隠す。
「あらやだ、王子様がわざわざあたし様の隣に。いかがいたしました?」
「騒いでるから気になってな、顔を見に来たんだよ」
「あら、光栄ですわね」
アリーゼはくすりと笑い、続ける。
「けど、生徒が朝から先生を冷やかしに来るなんて。大人ぶっても、まだまだお子様ね」
「大人ぶってるって、俺もう十六だぜ?」
「あら、まだ子供じゃない」
「ははは、そりゃそうか」
アリーゼの返答に、レオナルドがカラカラと笑う。
しかし、その代わりにセリアはアリーゼに鋭い視線を向けた。
「ちょ、ちょっと! レオナルド様に失礼な――」
「セリア、別にいいって」
どうどうと、セリアを落ち着けるレオナルド。
「今日はアンタの初めての魔術授業だよな。皆スーリアセンコーのお墨付きだってほかのクラスでも話題になってるぜ?」
「へえ……」
レオナルドの言葉に、アリーゼは不思議そうな目を向ける。
「あの子、ずいぶんと評価が高いのね」
「当然だろ? 宮廷魔術師《セクーダ》だぜ?」
「それだけで?」
と、アリーゼが呟くと、
「当然ですわっ!」
今まで不機嫌そうな顔を隠そうともしなかったセリアが立ち上がり、喋り始めた。
「あのお方は……スーリア様はこの学院始まって以来の天才なのですわっ!」
高らかに話し始めたセリアの目はキラキラしている。
(始まって以来の天才って。それは生徒に対して使うべき言葉よ)
なんてアリーゼは思ったが、セリアは話を続ける。
「おいセリア。行儀悪いぞ、座れよ」
「レオナルド様は黙っていてくださいまし!」
「ひどくね?」
そうレオナルドを足蹴にした後、セリアはぴっと指を指す。
「魔術師には七つの階位が存在するのは、流石の貴女でも知ってるでしょう?」
「それは、まあ」
魔術師には階位というランク付けがある。
魔術師の階位は第七位、見習魔術師《セプティマ》から始まり……第一位、大魔術師《プリーマ》までの七つだ。
これが魔術師の基本の順位となる。
「普通の魔術師は基本的には 第五位の中級魔術師《クィンタ》止まり、それ以上はレベルが跳ね上がるからです。選ばれたこの学院の教師でも、魔術師のレベルは第四位に止まりますわ」
「そうね」
「で、貴女は何位なのかしら?」
「さあ?」
「答えられないということは、大したことないのね」
セリアはパタパタと扇子を仰ぎ、話を続ける。
「お~っほっほっほっほっ! スーリア様はあの若さで第二位の称号……つまり宮廷魔術師の称号をお持ちなのですわ!」
説明しながら、高笑いして嬉しそうなセリア。
それにレオナルドは引きつった笑みを見せる。
「おーい、そろそろ止まれ~」
「しかも!」
「まだあるのかよ」
しかし、やっぱりお構いなしのセリア。その声が更に熱を帯びる。
「スーリア様の専門は時空魔術! 魔術理論の中で最も難解とされる分野で、それを理解し構築できるのは選任に一人の逸材!」
「時空魔術ねえ」
そう、アリーゼは意味深に呟く。
「疑ってるんですの?」
「いえいえ、素晴らしいと思ってるわよ」
「そうですわ! 先日の実演ではスーリア様は一秒だけ時間を止めて見せたのです! たった一秒かと思うでしょう? しかし一秒でも時を止めるためには人類の作り出した概念である時間を魔術式に正確に組み込み、世界の常識概念を曲げる必要があり、尚且つ世界の常識から術者を隔離しなければ……」
「あー、うんわかった。わかったわかった」
「勿論それだけではなく、スーリア様は所作の一つ一つも美しく、歩く姿は花びらが舞うようで声は自然の音のように透き通って微笑みは絵画のようで……」
「長い長い、長いわよ」
「はぁ! まだ始まったばかりですわ!」
アリーゼは呆れ半分、うれしさ半分で話を聞く。
(……なんか、自分の黒歴史を見てるみたい)
彼女が高評価なのは喜ばしいことだ。
しかし、その評価している人物が……アリスの全てを否定していた自分だと思うと。
(まったく、過去の自分なんて見るもんじゃないわね)
アリーゼは心の中で羞恥心を感じていた。
「それに比べて貴女は――ッ!」
突然、セリアがアリーゼを指さした。
「階位も教えない専門分野も不明所作は粗野で言葉遣いも最悪! どうしてスーリア様が推薦したのか理解に苦しみますわ!」
「あらあら」
「どう考えてもスーリア様の方が担任として適任でしょう!」
「仕方ないじゃない、彼女は女王陛下の側近の立場。忙しいんだから」
セリアの問い詰めに、アリーゼは優雅さを気取って紅茶を飲む。
「何かの間違いなのですわ! スーリア様がこのような無礼者を認めるはずがない!」
「そう思うなら、スーリア様とやらに直接聞いてみたら?」
「そ、それは……」
彼女のその言葉に、アリーゼは不敵に笑う。
「それに現実、彼女はあたし様を推薦したのよね」
「くっ」
「ね、結局それが現実よね?」
「推薦にも色々あるでしょう!」
「例えば?」
「きっと女王陛下に頼まれて仕方なく……」
その返しに何も言えなくなるセリア。
そう、どれだけ生徒が御託を並べようとも、現在宮廷魔術師の地位にいるスーリアが推薦したのは事実なのだ。
「あと、あとは……」
「おっおっおっ、この程度で反論できなくなるのねお嬢様?」
「ほんっっとうにむかつきますわね!」
「むかつくなら授業で実力を見せて黙らせればいいじゃない」
「ええ、そのつもりですわ!」
先生とも思えないむかつく煽りに、セリアはダンッとテーブルを叩く。