悪役令嬢の教師は未来のわたくし   作:エクソダス

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第8話

 

「魔術とは、究極的には『理解』よ」

 

 アリーゼは全生徒を見回しながら言った。

 

「暗記じゃないし、肩書きでもない。純粋な理解と、それを実現する意志の力」

 

 その言葉は、魔術を神格化している貴族からしてみれば常識を覆す理論。

 しかし、アリスが証明してみせたように、真実である。

 

「さて、くだらない茶番は終わりにして」

 

 アリーゼが手を叩くと、黒板に新たな図式が現れた。

 

「本当の授業を始めましょう。今日は、魔力制御の実践訓練を行うわ」

 

 生徒たちは、先ほどとは違う真剣な眼差しでアリーゼを見つめた。

 傲慢で無礼な教師。しかし、その実力と知識は本物だった。

 セリアは拳を握りしめながらも、心の奥底で一つの疑問が芽生えていた。

 

(この女……一体何者なの?)

 

 ミアは後ろの席から、変わり始めたセリアを心配そうに。

 しかし、どこか期待を込めて見つめていた。

 

「……しかし基礎は基礎! さっさときちんとした授業を――」

 

 そう、セリアが抗議したその時。

 

「んー、あー。もうやっぱり終わり」

 

 心底面倒くさそうに、アリーゼがあっさりと言い放った。

 

「……え?」

「だから、もう授業は終わりよ」

 

 教室全体が静まり返る。

 おかしい、時計をみても授業終了までまだ二十分以上残っている。

 

「なぜ! 何故もう終わりなんですの! 理由は?」

「理由? まあ一言で言うと……」

 

 セリアが立ち上がった。

 

 

 

 

「飽きたわ」

 

 

 

 アリーゼは欠伸をしながら、教壇から降りる。

 

「飽きた!?」

 

 セリアの大声が教室に響き渡る。

 

「飽きたってなんですの! まだ授業時間は――」

「有り体に言えば職務放棄ね」

「涼しい顔で答えないでくださいます?! 後の時間はどうするんですのよ」

「あー、うるさいうるさい。自習でもしてれば? 飽きたもんは飽きたのよ」

 

 セリアは猛抗議するが、アリーゼは悪びれもなく堂々と授業を放棄。

 そのまま教室を出ようとする。

 

「ふざけないで! 教師としての責任が――」

「わかったわかった」

 

 やれやれと、アリーゼは手をひらひらと振ると振り返る。

 

「じゃあひとつ、実用的な魔術を教えてあげるわ」

 

 そう、ようやく真面目な魔術を教えてくれるのかと思いきや。

 

「風魔術はパンチラに使える。覚えておきなさい」

「は……?」

「《舞え》――ッ」

 

 セリアが困惑した表情を浮かべた、その瞬間。

 ふわりっ。

 

「「「「「…………!!!」」」」」

 

 アリーゼが指を弾くと、小さな突風がセリアのスカートを捲り上げた。

 瞬間、純白のフリルが教室中に晒される。

 

「きゃああああああっ!!」

 

 セリアの悲鳴が教室に響き渡る。

 慌ててスカートを押さえるが、時すでに遅し。

 

「見えた……! すきっ!」

「純白のセリア様……」

「見ちゃいけない! でも見ちゃった……!」

「な、な、なななななっ! 今、今っ!」

 

 一部の生徒が歓喜している中、セリアの顔が真っ赤を通り越して真っ白になる。

 屈辱と怒りで震えが止まらない。

 

「ほら、実用的でしょう?」

「ふざけないでくださいまし! こんな下品な……」

「緊急時の護身術よ。相手の注意を逸らすのに最適」

「そ、そういう問題じゃありませんわあああっ!!」

 

 セリアが金切り声を上げた。歓声を上げた生徒達が静まりかえる。

 

「わたくしに、わたくしに何てことを――っ!」

 

 教室は完全に冷たい空気に包まれた。

 セリアが教室見渡すと、その視線はいつもの尊敬や畏怖ではなく、羞恥や困惑。

 彼女にとって、これほどの屈辱はない。

 

「……ぐっ!」

 

 レオナルドはセリアにそっぽを向きながらも親指を立てる。

 眼福だぜ、と思ってるのが言葉にしなくてもわかる。

 

「ふふ、魔術師が感情を顔に出すのはいかがな物かしら」

「く、うぅ……」

「セリア様!!」

 

 セリアが顔を赤くして震えていると、エミリーとヴィクトリアがすぐさま駆け寄った。

 そして、それにミアも続く。

 

「あ、あの教師、許せませんわ!」

 

 

 ――王子にも見られた屈辱。

 ――今まで気高く生きてきて、無様を皆にさらした羞恥。

 

「あ、貴女……絶対に許しませんわ! レーヴェル家の威光にかけて……っ!」

「じゃ、本日の授業はこれで終了。お疲れ様でしたわ~」

 

 アリーゼは優雅にスカートの端をつまんで一礼すると、さっさと教室を出て行こうとする。

 

「待ちなさい! 待ちなさいと言っているでしょう!」

 

 セリアが追いかけようとするが、足が震えて立ち上がれない。

 悔しさで身体が言うことをきかない。

 教室に残された生徒たちは、互いに顔を見合わせた。

 

(くそ……っくそ……っ!)

 

 こうして、アリーゼの最初の授業は、大混乱と衝撃の中で幕を閉じた。

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