「魔術とは、究極的には『理解』よ」
アリーゼは全生徒を見回しながら言った。
「暗記じゃないし、肩書きでもない。純粋な理解と、それを実現する意志の力」
その言葉は、魔術を神格化している貴族からしてみれば常識を覆す理論。
しかし、アリスが証明してみせたように、真実である。
「さて、くだらない茶番は終わりにして」
アリーゼが手を叩くと、黒板に新たな図式が現れた。
「本当の授業を始めましょう。今日は、魔力制御の実践訓練を行うわ」
生徒たちは、先ほどとは違う真剣な眼差しでアリーゼを見つめた。
傲慢で無礼な教師。しかし、その実力と知識は本物だった。
セリアは拳を握りしめながらも、心の奥底で一つの疑問が芽生えていた。
(この女……一体何者なの?)
ミアは後ろの席から、変わり始めたセリアを心配そうに。
しかし、どこか期待を込めて見つめていた。
「……しかし基礎は基礎! さっさときちんとした授業を――」
そう、セリアが抗議したその時。
「んー、あー。もうやっぱり終わり」
心底面倒くさそうに、アリーゼがあっさりと言い放った。
「……え?」
「だから、もう授業は終わりよ」
教室全体が静まり返る。
おかしい、時計をみても授業終了までまだ二十分以上残っている。
「なぜ! 何故もう終わりなんですの! 理由は?」
「理由? まあ一言で言うと……」
セリアが立ち上がった。
「飽きたわ」
アリーゼは欠伸をしながら、教壇から降りる。
「飽きた!?」
セリアの大声が教室に響き渡る。
「飽きたってなんですの! まだ授業時間は――」
「有り体に言えば職務放棄ね」
「涼しい顔で答えないでくださいます?! 後の時間はどうするんですのよ」
「あー、うるさいうるさい。自習でもしてれば? 飽きたもんは飽きたのよ」
セリアは猛抗議するが、アリーゼは悪びれもなく堂々と授業を放棄。
そのまま教室を出ようとする。
「ふざけないで! 教師としての責任が――」
「わかったわかった」
やれやれと、アリーゼは手をひらひらと振ると振り返る。
「じゃあひとつ、実用的な魔術を教えてあげるわ」
そう、ようやく真面目な魔術を教えてくれるのかと思いきや。
「風魔術はパンチラに使える。覚えておきなさい」
「は……?」
「《舞え》――ッ」
セリアが困惑した表情を浮かべた、その瞬間。
ふわりっ。
「「「「「…………!!!」」」」」
アリーゼが指を弾くと、小さな突風がセリアのスカートを捲り上げた。
瞬間、純白のフリルが教室中に晒される。
「きゃああああああっ!!」
セリアの悲鳴が教室に響き渡る。
慌ててスカートを押さえるが、時すでに遅し。
「見えた……! すきっ!」
「純白のセリア様……」
「見ちゃいけない! でも見ちゃった……!」
「な、な、なななななっ! 今、今っ!」
一部の生徒が歓喜している中、セリアの顔が真っ赤を通り越して真っ白になる。
屈辱と怒りで震えが止まらない。
「ほら、実用的でしょう?」
「ふざけないでくださいまし! こんな下品な……」
「緊急時の護身術よ。相手の注意を逸らすのに最適」
「そ、そういう問題じゃありませんわあああっ!!」
セリアが金切り声を上げた。歓声を上げた生徒達が静まりかえる。
「わたくしに、わたくしに何てことを――っ!」
教室は完全に冷たい空気に包まれた。
セリアが教室見渡すと、その視線はいつもの尊敬や畏怖ではなく、羞恥や困惑。
彼女にとって、これほどの屈辱はない。
「……ぐっ!」
レオナルドはセリアにそっぽを向きながらも親指を立てる。
眼福だぜ、と思ってるのが言葉にしなくてもわかる。
「ふふ、魔術師が感情を顔に出すのはいかがな物かしら」
「く、うぅ……」
「セリア様!!」
セリアが顔を赤くして震えていると、エミリーとヴィクトリアがすぐさま駆け寄った。
そして、それにミアも続く。
「あ、あの教師、許せませんわ!」
――王子にも見られた屈辱。
――今まで気高く生きてきて、無様を皆にさらした羞恥。
「あ、貴女……絶対に許しませんわ! レーヴェル家の威光にかけて……っ!」
「じゃ、本日の授業はこれで終了。お疲れ様でしたわ~」
アリーゼは優雅にスカートの端をつまんで一礼すると、さっさと教室を出て行こうとする。
「待ちなさい! 待ちなさいと言っているでしょう!」
セリアが追いかけようとするが、足が震えて立ち上がれない。
悔しさで身体が言うことをきかない。
教室に残された生徒たちは、互いに顔を見合わせた。
(くそ……っくそ……っ!)
こうして、アリーゼの最初の授業は、大混乱と衝撃の中で幕を閉じた。