# 灰翼のモルフォ
## 第2話「同族」
**人間として生きたい。**
**だが、世界はもう私を人間として見てくれない。**
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### Scene.1 翌朝
午前九時。
国立自然史博物館。
「おはようございます。」
いつもと変わらない朝。
真綾は白衣に袖を通し、標本修復室へ向かう。
事故から一週間。
昨日、公園で起きた出来事は夢ではなかった。
机へ向かう。
修復途中のモルフォチョウの標本。
翅へ触れようとした、その時だった。
ドクン──
胸の奥が脈打つ。
リバースハート。
一瞬だけ視界が鮮明になる。
遠く離れた展示室の来館者の話し声。
廊下を歩く職員の足音。
すべてが聞こえる。
「……また。」
以前の身体ではない。
真綾は改めて実感する。
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### Scene.2 違和感
昼休み。
同僚たちと食堂。
「九条さん、本当にもう大丈夫?」
「事故、大変だったね。」
笑顔で答える。
「はい。ご心配をおかけしました。」
しかし。
料理へ箸を伸ばした瞬間。
鼻をつく匂い。
肉。
魚。
野菜。
それとは別に──
人間から漂う、奇妙な香り。
胸がざわつく。
(何、この匂い……。)
無意識に隣の席の男性を見つめてしまう。
その瞬間。
ドクン。
リバースハートが強く脈打つ。
真綾は慌てて立ち上がる。
「すみません……少し気分が。」
食堂を飛び出した。
人気のない非常階段。
壁へもたれ、息を整える。
「違う……。」
「私は人を襲いたいわけじゃない。」
胸を押さえる。
鼓動は少しずつ落ち着いていった。
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### Scene.3 スマートブレイン
一方。
都内・スマートブレイン本社。
地下研究室。
大型モニターには、公園の監視映像が映っていた。
モルフォオルフェノク。
女性型。
「変身時間、二十七秒。」
「戦闘経験なし。」
「にもかかわらず、コピー個体を圧倒。」
研究員が報告する。
奥の椅子へ座る男が静かに口を開いた。
「オリジナルは個体差が大きい。」
「観察を続けろ。」
研究員が頷く。
「確保は。」
「まだだ。」
男は画面を見つめる。
「自分が何者なのか知ろうとする。」
「その時が一番捕らえやすい。」
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### Scene.4 再会
夜。
仕事帰り。
真綾は昨日の公園へ足を運んでいた。
なぜ来たのか。
自分でも分からない。
すると。
ベンチに、一人の青年が座っていた。
黒いジャケット。
二十代後半ほど。
「来ると思ってた。」
真綾は警戒する。
「誰ですか。」
青年はゆっくり立ち上がる。
「安心しろ。」
「俺も……オルフェノクだ。」
「!」
その瞬間。
青年の首筋へ灰色の亀裂が走る。
だが完全には変身しない。
人間の姿のまま止まる。
「見えるだろ?」
「俺たちは同じだ。」
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### Scene.5 オリジナルとコピー
青年は名乗る。
「相沢透。」
「三年前に死んだ。」
真綾は息を呑む。
「死んだ……?」
「ああ。」
「俺はオルフェノクに殺された。」
「使徒再生。」
「それで蘇った。」
真綾は昨日の言葉を思い出す。
コピー。
オリジナル。
「あなたは……。」
「コピーだ。」
相沢は苦笑する。
「でも生きてる。」
「だから別に気にしてない。」
少し沈黙。
「君は違う。」
「自然に目覚めた。」
「オリジナル。」
「珍しい。」
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### Scene.6 オルフェノクの社会
真綾は尋ねる。
「オルフェノクって……何人いるんですか。」
相沢は遠くを見る。
「結構いる。」
「普通に働いてる奴。」
「家族を持ってる奴。」
「人間を襲う奴。」
「人間を守る奴。」
「色々だ。」
真綾は驚く。
「そんな……。」
「人間と変わらない。」
相沢は静かに笑う。
「結局、人間だった頃と同じさ。」
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### Scene.7 狩る理由
その時。
悲鳴。
公園の反対側。
若い男が女性へ襲い掛かっていた。
しかし様子がおかしい。
男の皮膚が灰色へ変わる。
オルフェノク。
「腹が減った……。」
相沢が舌打ちする。
「あいつ。」
「知ってるの?」
「コピー個体だ。」
「覚醒したばかりなんだ。」
男は苦しそうに胸を押さえている。
「苦しい……。」
「助けて……。」
次の瞬間。
女性へ襲い掛かった。
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### Scene.8 戦い
「止めるぞ!」
相沢が走る。
真綾も後を追う。
ドクン。
リバースハートが鼓動する。
身体が反応する。
皮膚へ亀裂。
灰色の甲殻。
背中の石化した翅。
モルフォオルフェノク。
相沢も変身する。
彼のモチーフは**キングフィッシャー(カワセミ)**。
鋭い嘴を思わせる頭部。
流線形の甲殻。
二体のオルフェノクが並び立つ。
暴走するオルフェノクは叫ぶ。
「食わなきゃ……!」
「死ぬんだ!」
真綾は動揺する。
「どういうこと?」
相沢が叫ぶ。
「コピーは覚醒直後、不安定なんだ!」
「理性を失う奴もいる!」
男は泣きながら襲い掛かる。
「死にたくない!」
その叫びは怪物ではなく、人間のものだった。
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### Scene.9 終焉
真綾は攻撃を受け流す。
相沢が背後へ回る。
「悪い。」
一撃。
男の身体へ深い亀裂が入る。
「ありがとう……。」
男は笑った。
次の瞬間。
全身が灰となり、崩れ落ちる。
風が吹く。
灰だけが夜空へ舞った。
真綾は立ち尽くす。
「助けられなかった……。」
相沢は静かに答える。
「俺たちは。」
「人間でも。」
「怪物でもない。」
「だから難しい。」
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### Scene.10 監視者
二人の知らない場所。
ビル屋上。
双眼鏡で戦いを見つめる男。
「接触しました。」
「モルフォとキングフィッシャー。」
通信の向こうから声が返る。
「予定通りだ。」
「二人まとめて確保する。」
男はスーツの内ポケットから、一枚の社員証を取り出した。
**SMART BRAIN**
そのロゴだけが、街の灯りを受けて静かに光っていた。
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### ラストシーン
相沢は帰り際に真綾へ言う。
「また会おう。」
「君には見せたいものがある。」
「俺たちの世界を。」
真綾は答えられない。
オルフェノクにも、人間と同じように生きようとする者がいる。
一方で、生きるために人を襲う者もいる。
人間とは。
怪物とは。
その境界は、思っていたよりも曖昧だった。
真綾は夜空を見上げる。
街灯に照らされ、一匹の蝶が静かに舞っていた。
しかし、その羽ばたきはどこか儚く見えた。
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**第3話「選択」へつづく。**