ゴブリンに転生した元人間の話   作:三流二式

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メインの小説のほうできょむのあんこくに囚われてしまったので初投稿です。


第1話 ハローワールド

 主な登場人物

 

 

 グレイ・ゴブリン:何の前触れも無く現代から異世界のゴブリンに転生していた男。この世界について全く何の情報も持っていないため、完全に手探りで敵だらけの森の中を彷徨う。人に戻るための情報を得るためならば命を懸ける事を厭わない。

 

 テディ・ベア:青の森に棲むブルーベア。温厚なブルーベアの中でもひときわ温厚な性格のオスの成熊で、ブルービーの蜂蜜が大好きでほぼ常に舐め回している。グレイ・ゴブリンへ森での生き方を教えた。

 

 ハカセ・ゴブリン;森一番の賢者を自称するおかしなゴブリン。人と同等の知能を持つことを夢見ているが、志半ばで冒険者に殺される。

 

 子供:グレイ・ゴブリンが出会った十歳前後と思わしき子供。青の森にある開拓村、青の村に住んでいる。とても好奇心旺盛で無鉄砲で考えなしの青二才で、グレイ・ゴブリンと出会った時にも魔物に殺されかけていた。

 

 ヤンス・ゴブリン、ノビタ・ゴブリン、スネオ・ゴブリン、タケシ・ゴブリン:ブルードックを襲撃するためにグレイ・ゴブリンを誘ったゴブリンの集団。ブルードックにバラバラに引き裂かれて死んだ。

 ──────────────────────―

 

 

 

 

 かねてより『ギルド』に指定討伐魔物として指名手配されていた『グレイ・ゴブリン』であるが、本日1月1日の0時にて行われた『聖人会議』により『神敵』として認定された。

 

 

キシリトール神の子ら、及び全てのキシリトール教所属の各位はグレイ・ゴブリンへの食糧、情報、寝床の提供の一切を禁じるよう、周知徹底されたし。それらが一つでも破られたことが判明した場合、その者がいかなる地位についていようとも絞首刑に処す。

 

 1517年1月1日キシリトール教皇庁 ザビエル・モウミエンネン大司教

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忘れるな、あの怪物を

 

 

 あの霊峰のような巨躯を

 

 

 あの神に抗う天を衝く五本の角を

 

 

 あの満月のような黄色の瞳を

 

 

 あの死者のごとき灰色の肌を

 

 

 兄弟達よ、決して忘れるべからず

 

 

 グレイ・ゴブリンを忘れるな

 

 

 グレイ・ゴブリン人の敵

 

 

 グレイ・ゴブリン命の敵

 

 

 グレイ・ゴブリン神の敵

 

 

 キシリトール教騎士団第二隊長 ユング

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、何か悪いことをしたのだろうか?

 

 

 水面に映る醜い顔を睨みつけながら、独り言ちる。早朝に酷い頭痛と共に目が覚めてからたっぷり半日ほどの時間が経ったが、俺の心情が変わる事は決して無かった。

 

 

 でも、仕方ないじゃないか。こんなものを見せられて、憤りを感じない奴なんか要るもんか。

 

 

 緑色の肌、長く尖った耳、大きな鉤鼻、頬まで裂けた大きな口、白目の無い黄色一色の瞳。一目見れば、誰もがゴブリンという創作のキャラと断定する怪物。それが、今の俺であった。

 

 

 どういうことだ、何でこうなった、などという惰弱な疑問も、これは夢なんじゃないかという淡い希望的観念も抱いた。

 

 

 しかし、降り注ぐ陽光の温かさ。肌を撫でる柔らかな風。踏みしめる地面の硬さと冷たさ。そして何より自分自身の肉体の熱さが、何よりも雄弁に全てを物語っていた。圧倒的な現実がそこにあった。

 

 

 切っ掛けも何もあったものじゃない。仕事が終わり、帰宅して、くたくたの体に鞭を打ってすべきことを成し、やっとこさ布団に入って目を閉じて、気が付けばこの様である。

 

 

 しかしどれだけ怒りを覚えても憎悪に身を焦がしても、今は変わらず、水面に映る顔が変わる事も無い。

 

 

 なんにも説明の無いまま、何の準備も無いまま、俺は今までの生活を捨てられ、この新たなる生活を享受せねばならなくなった。

 

 

 ふざけた話である。幸いにしてこの年になるまでの間の記憶はこのちっぽけな脳味噌には詰まっていた。少なくとも当面は生き残れそうだ。

 

 

 小さな泉から顔を離して立ち上がり、こめかみに指を当て、新しく与えられた今生を脳裏に思い浮かべた。

 

 

 母親の腹の中から産み落とされた五匹の内の一体が俺だった。母親は俺たちを産み落として数日後に出産で弱った体を『ブルードック』というその名の通り青い体毛が特徴の魔物に食い殺されてしまった。

 

 

 残された俺たちは五匹固まって生活していたが、ただでさえ弱小生物であるゴブリンの子供の上に親の庇護さえ無いときた。それでは弱肉強食なこの『青の森』の中で生きていくなど土台無理な話である。

 

 

 日を追うごとに執拗さを増す天敵からの襲撃。這う這うの体で逃げ回った末に十匹程度の同族の群れに合流できて安堵したのも束の間。その一ヶ月後には武装した人間の三人組に剣で切られ、魔法で焼かれ、物の数分で俺を残して全滅してしまった。

 

 

 恐ろしい力だった。ローブをまとった女が杖を掲げて何かを唱えたかと思えば、女の目の前に火球が現れ、放たれれば避ける間もない速度で迫り、着弾した瞬間に腹に響く音とともに灼熱が割れ爆ぜた。

 

 

 目も眩む閃光とともに炸裂した熱によって数匹まとめて吹き飛ばされ、残った奴らも衝撃で耳をやられ、閃光で目を焼かれ大パニックに陥り、統制の乱れたところを二人の剣士により各個撃破されていった。

 

 

 たったの一撃。たったの一撃を受けただけで、群れが崩壊した。

 

 

 俺はというと魔法が炸裂した瞬間に本能的に後方へと退いた結果、熱で肉体が焼かれることはないものの衝撃で吹き飛ばされてしまい、ほんの一瞬意識を失ってしまった。

 

 

 気が付いた時、群れは全滅しており、三人は生き残りがいないか周囲を索敵している最中であった。

 

 

 俺は彼らに気が付かれるよりも早く、その場を去った。まさしく脱兎の如し。後ろを向いて、なりふり構わず走り出す。

 

 

 死に物狂いで逃げ惑っている中、目の前の坂に気づかず転げ落ち、そのまま大きな石に額をしたたかに打ちつけた。

 

 

 衝撃で頭の中が白く消し飛び、そこで何らかのトリガーが引かれ頭の中でスパーク。俺は自分のかつての内外の全てを思い出した。

 

 

 岩のすぐ横には泉があった。嘘だと思いたくて勢いよく覗き込んで、そして絶望した。

 

 

「はぁ……」

 

 

 ここに至るまでの経緯を思い出し、自然とため息が出る。ついでとばかりに額がずきりと傷んだ。

 

 

 嘆いていても仕方がない。とにかく動かなくては。今でこそ敵の気配はないが、いつ嗅ぎ付けられるとも限らない。ここは周り全てが敵なのだ。油断すれば死に、油断していなくとも理不尽な死が降りかかる恐ろしい場所なのだ。

 

 

 生き残るのは当然として、最終的な目標は当然人間になる……否、()()()()()()()。この世界は魔法なる超常が当然の様に存在する。ならば、俺が人間に戻る方法だって絶対にある筈なのだ。

 

 

 希望的観測かもしれない。だが希望を持たねばとてもじゃないが生きていけない。現に今だって立っているのがやっとなのだから。

 

 

 しかし一息飛びに目標を達成する術はなく、当面の間はここで生活しなければならない。

 

 

 そのためには力を付けなければならない。誰にも負けない力を。この世界を旅するに足る力を。きっと辛い日々になる事だろう。志半ばで力尽きる可能性も十分にある。だって俺は弱くて醜いゴブリンなのだから。

 

 

 唐突に与えられた長く厳しい道のりを思うとうんざりした。思わず天を仰ぐ。照り付ける陽光が目に染みた。

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 長い戦いとなる。となると先ずは住処となるような場所を探さなければならない。

 

 

 俺はおっかなびっくりとした歩調で泉から離れ、森の中を探索し始めた。青の森は豊かな森だ。あちこちから聞こえる鳥獣の声にびくつきながら、しきりに周囲を探りつつ、ゆっくりと歩く。

 

 

 途中ですぐ近くの茂みからがさがさと音がして腰を抜かしそうになったものの、それ以外には特に特筆すべきことが無いまま、時間だけが無意味に過ぎてゆく。

 

 

「やばいやばい……どこか良い所は無いのか……!?」

 

 

 どこか、どこでもいい。身を隠せる場所が欲しい!

 

 

 その祈りが通じたのか分からないが、太陽が沈むギリギリのタイミングで立派な木の幹の下にゴブリン一匹程度ならば十分に入り込める穴を見つけた。

 

 

 幸先が良いのか悪いのか。俺は一も二も無く穴の中に飛び込んだ。穴には真新しい匂いは無く、心落ち着かせる土と木の匂いが充満していた。これならば擬装用の葉を被せればいい住処として機能しそうだ。

 

 

 俺はここを当初の拠点として決めた。陽が沈み、完全に真っ暗となった視界の中で今後の生活についてあれこれ考えた。大半が皮算用も言所だが、こういうのは方針を決めることこそが大事なのだ。違うかい?

 

 

 それに、ゴブリンの耳は天敵の出す音を良く拾う。森のあちこちで弱肉強食の生存争いの音がひっきりなしに聞こえてくるのだ。あれこれ考えていないとこの音の事を考えてしまい気が狂いそうになる。

 

 

 俺は必死になって頭を計画や算段で満たし、音の事を考えないようにしながら、何時明けるとも知れぬ夜を震えながら過ごした。

 

 

 するといつのまにか眠っていたようで、目を空ければ昨日と変わらぬ朝陽が俺を出迎えた。初日はどうやら生き延びられた様だ。だが明日は分らない。

 

 

 俺の生活は、まだまだ始まったばかりである。

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