数時間後、目を覚ました俺は身支度を整えると、早々に移動を開始した。あんまりうかうかしていればいつ外敵に襲われるかも分からない。この森の中で心がけることの筆頭は、とにかく一か所にとどまらないことだ。
さくさくと音を立てて草を踏み締めながら、森の中を歩く。早朝だというのに、どこかしらで命の気配がする。木々の上ではアオイロリスたちがくだらないことで口論しては小競り合いを繰り返しているし、藪の向こう側で三頭のゴブリンが何やらのっぴきならない会話を繰り広げている。
何かしらの獣の咆哮とゴブリンと思わしき三つの悲鳴を聞き流しながら、ちょっとの物音も聞き漏らすまいと耳を澄ませまながら前進を続ける。
そうすると、時折ボンという物騒な音が風に乗って届けられてくる。それが聞こえるたびについつい立ち止まっては聞き耳を立て、音の出どころへと無意識のうちに歩を進めそうになっては踏み留まる。
あの音の出どころは人間の放った何かしらの魔法の結果だろう。そんな事実を知っていても、やはり興味を引かれずにはいられない。もしかしたら自分にとって何か有益な情報が得られるかもしれない。そう思うと居ても立ってもいられなくなり、無駄だとわかっているのにも関わらず現地へと向かってしまう。
しかし当然結果はお察しである。大抵は単なる攻撃魔法の行使でしかなく、何の情報も得られないどころか急いで駆け付けたため体力を消費させられてマイナスで、酷い時なんて見つかって戦闘になることまであった。
大体は魔法使いと近接職のツーマンセル。たまにスリーマンセルであるが、数の不利を差し引いてもお世辞にも強いと言える者はおらず、皆一様に年若い『個体』ばかりであった。
おかげで何とか怪我を負うだけで撃退することができたが、落胆が募るばかりであるのが現状だった。
……もしかしてこの森って、ゲーム風に言うならば序盤の、それもチュートリアルと言えるような低級ダンジョンのようなものなのだろうか?
―――なら俺のやっていること全部無駄骨じゃね?
そんな考えを振り払い、俺は再び歩き出した。もちろん音の出どころへ向かってだ。俺だって学習している。こう何度も期待を裏切られちゃ、さすがに懲りる。
でも、今度こそは違うかも。そう思って現地へと赴き、へっぴり腰の冒険者がブルーボアに尻をどつかれて這う這うの体で逃げ出す様を見た。
■
あてもなく森の中をさまよい歩く。鳥たちの鳴き声を聞き、ウサギ共がこちらを前足で示しては鼻で笑うさまを横目に、ただ歩き進む。
途中で見つけた泉で水分を補給し、少し休憩を取る。陽光が木漏れ日となって透き通る水面を照らし、キラキラと輝いていた。思わず手を差し入れて波紋を作ると、その美しさに魅了され、ほうっと息を吐く。
「……何やってんだろう、俺」
湖面に映る間抜け面のゴブリンを睨みながら深いため息をついた。
結局の所、行動原理は変わっていないのかもしれない。好奇心と言う名の突撃力に任せて、無謀な挑戦を続ける。それは自分でもどうかと思うが、考え方を改めようとすればするほど、もしかしたら今度こそはという悪魔の誘惑はより一層強く抗いがたいものとなる。
気持ちを切り替え、鞄から干し肉を一枚取り出して口に放り込む。味気ない食感と鼻に付く匂いが鼻腔へ流れて鼻の穴から吹き抜けてゆく。顔を顰めつつ水で流し込むと空腹感が少し和らいだ。
だがマシになったのは空腹感だけで、現状は何も変わらない。俺は再び歩き出した。やはり目的地が定まっていない以上、情報収集の見込める場所を探さねばならない。
森の中を進み、時折見つける人間たちの足跡を追いかけた。そうして彼らが立ち寄る村や集落を見つけようと試みる。
しかし、結果は散々たるものであった。冒険者は皆一様に森の外へと向かってゆくので、この森の中に存在するという村の行方は分からずじまいだ。
そもそも村があるかどうかなんて、他の魔物たちの会話から推測したに過ぎない。
もしかしたら村や集落なんてものはこの森にはなくて、人間たちは森の外に住んでいるのかもしれない。そう考えると、一気に意欲が失せた。最悪、森から出たとしても文明社会と隔絶されていた場合、情報収集は困難を極めるだろう。
思わず深い溜息が漏れた。一度立ち止まり、しばらく木々のざわめきを聞いていた。自分の今後の行動を考える。
このまま森の中の探索を続けるべきか、それともいっそ森の外に出るべきか。悩みは尽きない。
そんなことを考えている時だった。前方よりのそりと大きな影が立ちはだかった。
「おや、こんにちわグレイ」
「……ん? あぁ、やあテディ」
声をかけられ、思考を中断して顔を上げてみれば気が大きくて力持ちなブルーベア一の優男、テディ・ベアが、相も変わらず蜂蜜でべとべとの口元をほころばせて近寄ってきた。
「眉間の皴が酷いね。悩み事かい?」
大きなおしりをドスンと地面に落とし、片前足に持っていた俺の顔よりも大きなハチの巣にもう片方の前足を突っ込んで蜜をほじくり出し、ぺちゃぺちゃと舐めながらこちらへと顔を向けるテディ・ベアの顔ときたら!
大好物の蜂蜜をなめる彼の顔は幸福そのもので、そんな横顔を見ていると、この世界に不幸なことなんて何もないんじゃないかと思えてくる。
天敵と言える生物がほとんどいない彼にとって、この世界はきっと幸福にあふれているに違いない。命を脅かされる不安もなく、番もできた彼の生は絶頂期を迎えているといってもいい。
「そうさ、悩み事さ。……悩むことばっかりさ。君がうらやましいよテディ。悩みなんかなさそうでさ」
「まさか! そんなことないよ!」
と、テディは言う。顔を向けると、彼は見つめ返してきて、口を開く。
「確かに傍から見たら僕はとっても幸福に見えているのかもしれないね。番もできて、子供ももうすぐ生まれるし。ご飯にくいっぱぐれた事だってない」
でも、と彼は付け加えた。
「それは今日までで、明日のことなんて分からない。明日は何も食べられたかもしれない。ファーファが突然死んでしまうかもしれない。これから生まれる子供だって、大人になる前に死んでしまうかもしれない今年の冬は越せるだろうか。あの意地悪なローレンス・ベアに脳天をかち割られちゃう事だってあるかもしれない。ね、分かる?」
「……」
「僕は、僕だけじゃない他の獣だって、今日の今のこの瞬間を生きるのに必死なんだ。みんなが今日という日を最後まで生きていけるかなんて分からない。分からないから、分からないからこそ、みんな死に物狂いで生きてゆく。悩みなんて、尽きるはずもないのさ」
そう言い切ると、テディはずいと顔を近づけてきた。その表情は普段の朗らかさを潜め、真顔だった。獣臭と蜂蜜特有の独特な甘ったるい香りが間近にかかる。
「生きること以外にあれこれ悩むのは人間だけ。つまり君が人間であることの証明になるわけだね。前も似たようなことを言った気がするけど、まあ要するにね、君の悩みに、僕はきっと答えられないだろう。
テディはそこまで言うとふっと真顔を崩し、いつもの朗らかな表情に戻る。だがその目には哀れみが宿っていた。
「グレイ、君が可哀そうでならないよ。僕たちは生きることだけを考えればいいし、相談できる相手だっている。でも君は君だけだから、君は自分だけで考えて行動しなければいけないんだ。それはきっと、とても辛いことだろうね」
「……」
俺はテディから顔を離し、とっくりと考えてみた。
テディの言葉は重く、俺の心へとずしんと響いた。今までずっと目を逸らしてきていた自分に同胞はいないという事実。そしてどれだけ悩もうが結局は答えを出さざるを得ないという事。
同胞がいない。正直のところこれは別にどうでもいい。
……いや、嘘だ。目を逸らすな。本当は寂しい。自分と考えを共有できる誰かがいない事を思うと孤独で狂いそうになる。
でも、これはもうどうしようもない。俺は一人だし、これからもずっとそうなのだ。丁度いい機会だ。この際受け入れてしまおう。そうすれば、いずれ
「……君の言う通りだよテディ。俺は独りだ……この先もずっと」
溜息を吐き、言いながら、沈みそうになる気持ちを無理やりに切り替える。そうしなければ、俺はどうにかなってしまいそうだから。
「……うん」
俺を見るテディ・ベアの目はどこまでも哀れみに満ちていた。俺は彼の目から逃げるように顔を逸らす。彼の同情が、ただただつらかった。
「ンン! ところで話は変わるけど、ここいらで村は、あぁ人の集まっているような場所を知らないかい?」
森の外に出るべきか、このまま探索を続けるべきか。実際のところ、答えはすでに出ている。そもそも情報もないのに森の外へ出るなんてもっての外だ。だからこそこの森の中で情報を集める他ない。俺はすがるようまな眼差しでもってテディを見る。
テディは首をひねってしばらく考え、それから何か思いついたような顔をして口を開く。
「村のことは知らないけれど、ここから少し行ったところで人間の子供なら見たよ」
「人間の子供!? 何処に!?」
俺は目を剥いて彼を問い詰めた。テディは面食らったように目をしばたたき、気圧されたようにしどろもどろに返答した。
「え、えぇと、あっち」
彼が指し示した方向へ、俺は腕をしゃにむに振り回して駆けだした。礼も言わずになんて奴だという思いは、すでにテディと一緒に置き去りにされていた。
獣道を突っ切り、草木を踏み分け、進んで行く。息は上がり、全身に汗をかいた。体力的にはキツイが、今は好奇心がそれを上回る。
子供がいるという事は、確実に近くに人の集まりがあるという証左。
五感全開で周囲を警戒しながら走り続ける。不意に魔物に飛びつかれないよう、注意深く視線を配る。
しかし、子供の声も、足音も聞こえてこない。焦りが高まる。もしかしたらすでに通り過ぎてしまったのではないかと不安が頭を過ぎる。
「……ッ」
そう思った時だった。
「~~~~~~!」
いた。
俺の目の前に、小さな子供が、蹲って何ごとか喚いている。
言葉は当然分からない。だがその声音から、酷い苛立ちと焦燥を感じ取った。
「……ッ」
俺は今にも飛び出しそうな体を、渾身の力でもって押しとどめるのに酷く難儀した。目の前にあれだけ欲していた情報の塊がある。
しかし。しかしである。飛び出して痛い目にあったことは数知れず。ここは見に徹する必要がある。
俺は藪から藪へ行き来し、うずくまる子供を観察する。あの子供はいったい何をしているのだろうか。まずはそれを知ることから始めよう。
子供。性別はおそらく男の子で、大きさは大体俺の俺と同じくらい。肌は陽に焼けていて、頭部には髪と呼べるものが生えている。手入れの荒いぼさぼさのそれは光を受けてキラキラと輝いて見えた。
服装は、上下ともに布で作られたシンプルなもの。ズボンからは小さな足がちょこんと覗いている。年齢的には多分十歳前後だろう。
「~~!」
子供は何度も同じ言葉を繰り返し、周囲を見渡していた。よく見ればしきりに片足を引っ張っては焦っている様子から、どうも何かに足を取られて動けなくなっているようだ。
「……助けてやるか? いや、しかし……」
自分でも助けてやればいいという答えがもうすでに出かかっているのだが、今までさんざん受けてきた仕打ちがそのための決心を鈍らせる。
あのまま放っておけば、魔物に食われてしまう可能性もあるのだ。助けるならば早いほうがいい。
「~~~!」
少年が再び叫んだ。切実さを孕んだその声音に、俺の中の良心が大きく揺さぶられる。
「仕方ない、行くか」
口に出し、とうとう決心をつける。その時だ。
「ガルル……!」
「~~~~~~!?」
少年の悲鳴が聞こえ、何事かと目を向ければ、目ざといイヌが、今まさに少年へ向けて飛び掛かろうとしている光景であった。
「卑しいイヌめ!」
最早待ったなし! 俺が茂みの中から飛び出すのと、ブルードックが少年へ向けて飛び掛かるのはほぼ同時だった。
咄嗟に飛び出した俺にプランはなく、故にできた行動と言えば体の中で最も固い部位、すなわち脳天を突き出して突っこむというだけ。
ゴチンという鈍い音が脳の奥で響く。視界に星がチラつきまたたいた。
「糞ゴブリンがぁ!」
正面から突っ込んできた俺に対し、ブルードックは避けることもできずに跳ね飛ばされて地面に転がった。しかしイヌは一瞬ひるむものの、すぐに立ち直り威嚇を始めた。
「グルルォオ!」
牙を剥き出し、唸り声を上げて威圧するブルードック。それに対して、俺も構える。今度は後ろから子供を守りながら戦わなければならない。時間はかけられない。次の一撃で終わらせる。
焦れたブルードックは再び飛び掛かってきた。それを見越して俺は右手を振り下ろす。ブルードックと同じように腕力任せに振り下ろされた拳打は、イヌの頭部へ直撃した。
「ガウン!」
俺の読み通りの軌道で飛び掛かってきたイヌに俺の拳が直撃した。先の頭突きで脆くなっていた頭蓋をあっさりと陥没させた。飛び出た眼球が勢い余って宙を飛び、丁度少年の目の前にポトリと音を立てて落ちた。
「~~~~~~!」
落ちてきた眼球に少年はたまらず悲鳴を上げた。目の前に現れたグロテスクな光景に思考が停止してしまう。こんなもの見たことがないのだ。無理もない。
俺はイヌの死体を蹴飛ばし、少年に近寄る。
「~~~!」
少年は後退ろうとしたものの、足を捕らわれているせいで距離を取ることもできない。そのことに絶望したように目を見開き、手近の石ころや土を投げて必死に抵抗する。
投げられる石や土をかわしながら近づいてゆき、三歩程度先で止まり改めて少年を観察した。それでようやく俺は彼の足が仕掛け罠に捕らわれていることに気が付いた。罠のサイズからしてウサギのような小動物用のだろうか? 縄で捕まえるタイプのようで、これならば開放するのにそう手間はかからないだろう。
問題は、少年が俺を近づくことを許容するかどうかだが……。
「~~~~~~!」
「……」
この分ではいつまでたっても少年を開放することはできなさそうだ。仕方がないので拒絶は承知で近づくことにした。
「~~~~~~!」
少年の抵抗はすさまじいものがあった。鬼気迫る表情で拳をしゃにむに振り回し、全霊で俺を打ち倒そうとしていた。
だが悲しいかな。子供の力などたかが知れている。ブルーボアの突進やブルードックの前足の一撃に比べれば何の事は無い。
俺は気にせずかがみこみ、鞄からすっかり鈍らと化しているナイフを取り出して、背に受ける衝撃で手元が狂わないように慎重に縄を切って少年の足を開放した。
「平気かい?」
問いかけるが、当然少年は止まらないし、そもそも言葉が分からないのだから、彼からすればさっきのブルードックの威嚇と大差ない。
仕方がないのでされるがままに少年の拳を受け続け、息を切らしてへたり込んだところで漸く話を切り出しにかかった。
「大丈夫?」
言葉は通じないが、視線で問いかける。少年は泣き出しそうな表情で俯いていたが、やがて勇気を振り絞るように顔を上げた。
「……?」
恐怖によって見開かれていた瞳が、今度は困惑によって細められた。不思議そうな顔をしている。何故自分が助けられたのか理解できないのだろう。
こちらも言葉が通じない以上、態度で示すしかない。頷いて、笑みを浮かべる。
「足、痣になってないかい?」
「??????」
少年は口を半開きにし呆然と俺を見つめていた。それは本気の困惑の表情だった。
……まあ、当然と言えば当然だ。彼からすればすぐ横で横たわっているブルードックと同じ魔物でしかないゴブリンが、まるで人間のようなしぐさや表情で、その上知らぬ言語で話しかけてきているのだ。これで困惑するなという方が無茶な話である。
「~、~~~?」
と、困惑の表情のまま、少年が振るえる指で俺を指さしながら何事か語り掛けてきた。
「ゴメン。なんて?」
が、当然言語は理解できないので聞き返したが、それすら向こうは分からないので向こうも困惑の言葉を言うが、俺はそれすらもが理解できない。
「「……」」
途方にくれる俺達。しばらく見つめ合った後、少年は深呼吸をして気持ちを落ち着けると、再び俺に向かってお礼のようなポーズを取った。そして頭を下げる。彼の纏う雰囲気やアトモスフィアから、どうやら感謝の意志を伝えようとしているようだった。
俺はそのことに少なからず感動を覚えていた。知らないこと、分からないこと、違うことばかりの環境のなかで、ようやく俺の知っている事柄と合致するものを目にしたのだ。すなわち、自らの頭を低くすることが礼を尽くすという意味であることに。
こういう時、相手の行動に対して真摯に受け止めるのが大人の振る舞いであろう。俺も同じように頭を下げて返事をした。
顔を上げると、丁度少年も顔を上げたようで、再び目が合う。一瞬の間を開け、彼はにっと笑った。
「このいたずら小僧め」
俺は苦笑を禁じえなかった。つい今しがた命の危機を味わったばかりだというのに、もう忘れてしまったのか? 目の前にいるのは君のすぐ横で横たわっているものと同じものなんだぞ。
「~~~~~~!」
分かっているのか。分かっていないのか。俺のつぶやきなど分かるはずもないのに、少年は手をたたいて笑った。そのしぐさから、俺は彼が普段からそういうことを言われ慣れているのだという事を悟った。
俺と少年は何度か言葉のやり取りを交わし意思疎通を試みたが、ニュアンスは伝わるもののやはり理解することは不可能だった。
仕方がなしに木の棒を手に取って地面に絵をかいて伝えようとしたが、俺も少年も絵がへったくそもいいところで、分からぬ言語で貶し合っては互いに殴り合った。
そうなれば収拾はつかなくなり、互いに妨害しながら滅茶苦茶に絵を描きまくった。俺がブルードックの絵を描けば彼は勝手に角を付け加え、彼が明らかに母親と思わしき怪物めいた人物像を描けば俺がウサギの耳を付け加えた。
俺たちはこの行為に夢中になって没頭した。とっくの昔に趣旨は外れ、全くの時間を無駄にしているというのに、不思議と心は満たされていた。
気が付けば空は茜色に染まっており、地面には最早判別不可能な幾何学模様が無数に描かれていた。
「「……」」
俺たちは同じように空を見上げてたたずみ、同じ様に互いを見やり、それから腹を抱えて笑った。こんな風に笑ったのはいつぶりだろうか。
緊張続きの毎日だった。楽しかったことなんて一度もありはしなかった。ストレスがたまるばかりの日々は俺の心から余裕を無くし、息苦しさが増すばかり。
そんな中で一度でも笑い始めればもう止まらない。見れば少年も体をよじって大笑いをしていた。
俺たちはたがいの背中をバシバシと叩き、肩を組んで暮れなずむ空へ向かって笑い声を張り上げた。
種族も生まれも違い、分からないことだらけだが、少なからず通じ合えることはある。言葉は違えども星々は巡り、時は移ろい、ただ去りゆくのみ。命が脅かされれば恐怖を浮かべ、楽しいことがあれば肩を組んでがははと笑う。きっとそれは、どこへ行ったって不変なんだ。
手を振って、異なる言語で別れを告げる、異種族の友へ、同じように手を振って返す。
根拠はないが、彼は明日も来るだろう。その確信があった。
少年の背中が見えなくなっても、俺はしばらくその場から動かなかった。