界渡りの不確定な切り札 作:アルフレッド
キョウスケside
地響きを上げてアースクレイドルが崩壊を始めた。
おそらくメイガスの機械触手がアースクレイドルの地下に伸びていたんだろう。
最後までアーチボルトは嫌な土産を置いてくる
「ヴィンデル! 聞こえるか!」
『聞こえている。こちらでも異常を確認した』
「アースクレイドルが崩壊する! シロガネを退避させろ!」
『既に始めている! 貴様らも急げ!』
「レモン! トロニウムは!?」
『こっちは大丈夫よ! あなたは自分の心配をしなさい!』
「こちらも至急退却する!」
「聞こえたな二人とも! 脱出するぞ!」
『言われるまでもない!』
『了解ですわ!』
三機同時に機体を反転させる。
来た道は既に半分以上が崩れていた。
「……行きより帰りの方が面倒そうだな」
『誰のせいだと思っている!』
「アーチボルトだろ」
『貴様も半分くらい原因だ!』
「なぜだ?」
『あれだけ派手にクレイモアを撃ち込んでおいて言うか!』
『お二人とも! 漫才している場合ではありませんわ!』
――前方の天井が崩れた。
「見れば分かる!」
……本当に、最後まで面倒な場所だ。
◇ ◇ ◇
あの角を曲がればシロガネがある格納庫だ!
「もう少しだ!」
『油断するな! こういう時ほど――』
「アクセル」
『なんだ!』
「そういうことを言うと何か起きる」
『俺のせいにするな!』
角を曲がる。
シロガネが見えた。
「……よし!」
『シロガネを確認しましたわ!』
『こちらヴィンデル! 三機ともそのまま収容する!』
あと少し――
その時。
『待って、キョウスケ!』
レモンの声が飛んできた。
『新たな機影を確認!』
「こんな時に!?」
『一機だけよ。高速でこちらへ接近中』
『ノイエDCの残存兵か?』
『違うわ』
一瞬、レモンが言葉を止めた。
『識別データ照合――ゲシュペンスト系』
「ゲシュペンスト?」
嫌な予感がした。
『機体色――白』
「――!」
忘れるはずがない。
あの機体を。
そして――
あの女を。
「……エクセレン」
白い機体が、崩壊するアースクレイドルの向こうから姿を現した。
『知っているのか、ベーオウルフ?』
「ああ」
『敵ですの?』
「……味方だった」
『だった?』
「アインストに洗脳された恋人だよ」
『み~つけた♪』
「…………」
『今度は逃がさないわよ、キョウスケ・ナンブ』
「…………」
『……ベーオウルフ』
「なんだ」
『貴様、恋人がいたのか』
「今そこか?」
『そこですの!?』
『重要だろう!』
「重要だが今じゃない!」
『あらあら~?』
エクセレンの楽しそうな声が割り込んでくる。
『キョウスケったら、私のことをちゃんと恋人って紹介してくれてるのね♪』
「…………」
一瞬だけ。
以前のエクセレンと話しているような錯覚を覚えた。
だが――
ライン・ヴァイスリッターの銃口がこちらへ向く。
『それじゃあ――』
声は笑っている。
『一緒に逝きましょうか、キョウスケ♪』
「……やはり洗脳は解けていないか」
シシオウブレードを構える。
『どうする、ベーオウルフ?』
「決まっている」
さっきまで戦っていた四人の顔が脳裏をよぎる。
アラド。
ゼオラ。
ラトゥーニ。
オウカ。
殺さずに倒した。
だが、助けられなかった。
今度は――
「エクセレンを連れて帰る」
『……この状況でか?』
背後ではアースクレイドルが崩壊を続けている。
「この状況だからだ」
『…………』
「ここで置いていけば、今度こそ死ぬ」
『分の悪い賭け、というわけか』
「ああ」
『……フン』
ソウルゲインが拳を構えた。
『ならば付き合ってやる。ただし――』
「殺すな、だろ?」
『分かっているなら言わせるな!』
『わたくしもお付き合いしますわ』
「助かる」
『相談は終わった~?』
ライン・ヴァイスリッターが銃を構える。
『それじゃ、今度こそ――殺し合いましょ♪』
「断る」
ナハトを前へ出す。
「お前を助けるぞ、エクセレン」
◇ ◇ ◇
ミツコside
「……ん……」
ミツコが目を覚ました。
「よく寝ましたわ……」
周囲を見回す。
「……?」
何やら艦が激しく揺れている。
「何かありましたの?」
『キョウスケ! 右から来るわよ~♪』
『エクセレン! いい加減にしろ!』
爆発音。
「…………」
『ベーオウルフ! 痴話喧嘩なら後にしろ!』
『誰が痴話喧嘩ですの!?』
『レオナ、貴様ではない!』
「…………」
ミツコは毛布を掛け直した。
「もう少し寝ましょう」
◇ ◇ ◇
キョウスケside
今回もエクセレンはヒット&ウェイでこちらを削りに来ている。
ちがうのはここが格納庫であるために壁を蹴ってエクセレンに近づけること。
そして……
『いやな、援護射撃ねぇ』
仲間がいることだ。
『そこですわ!』
レオナの砲撃がエクセレンの進路を塞ぐ。
『もう、しつこい女は嫌われるわよ?』
『あなたにだけは言われたくありませんわ!』
エクセレンが機体を翻す。
だが、その先には――
『どこへ行く!』
ソウルゲイン。
『あら?』
『白虎咬!』
『きゃっ!』
エクセレンは咄嗟に回避する。
直撃はしない。
だが、それでいい。
アクセルの目的は最初から撃墜じゃない。
逃げ道を限定することだ。
「そこだ!」
壁を蹴る。
ナハトを一気に加速させる。
『――!』
「捕まえたぞ、エクセレン!」
『もう、情熱的なんだから♪』
「そういう意味じゃない!」
シシオウブレードを振るう。
狙うのは――武器。
『またそれ?』
エクセレンが銃身で受ける。
「まただ」
『私を殺す気がないのね』
「最初から言っている」
鍔迫り合いのように二機が押し合う。
『甘いわねぇ、キョウスケ』
「そうかもしれない」
『戦場じゃ、その甘さが命取りよ?』
「だったら――」
ナハトの左腕を動かす。
リボルビング・ステーク。
だが狙うのはコックピットではない。
「その甘さで、お前を助けてみせる!」
『――っ!』
『……ずいぶんお友達が増えたのね、キョウスケ』
「ああ」
『私がいない間に楽しそうじゃない?』
「……エクセレン?」
『別に嫉妬なんてしてないわよ?』
『隊長、洗脳されている割にはそこは正常なのでは?』
「レオナ、今それを分析するな」
『だから痴話喧嘩に俺を巻き込むな!』
『じゃあ、お邪魔虫さんには退場してもらおうかしら♪』
ライン・ヴァイスリッターがソウルゲインへ銃口を向ける。
『誰がお邪魔虫だ!』
「アクセル! 誘ってくれ!」
『俺を囮にする気か!?』
「頼んだ!」
『返事を聞け、ベーオウルフ!』
そう言いながらもソウルゲインは前へ出た。
エクセレンの銃口がアクセルを追う。
その瞬間――
『今ですわ!』
レオナの一撃。
『――っ!?』
ライン・ヴァイスリッターの退路が潰れる。
「もらった!」
壁を蹴る。
今度は逃がさない。
『くっ……!』
初めてだった。
エクセレンの声から――笑いが消えた。
(追い詰めている)
前とは違う。
今度は俺が――エクセレンを捕まえられる。
「レオナ!アクセル!」
『『了解!』』
レオナがライン・ヴァイスリッターの翼を撃って機動力を奪った!
「この切っ先…触れれば切れるぞ!」
「舞朱雀……貴様に見切れるか!」
アクセルが切り札を切る。
聳弧角を伸ばし、残像が見える程の高速移動でライン・ヴァイスリッターを切り刻む。
ライン・ヴァイスリッターの再生能力が機体全体に回り再生スピード落ちるのが目に見えてわかる。
ここしかない!
シシオウブレードを一旦納刀する。
意識を研ぎ澄ませる。
――『集中』。
周囲の音が遠ざかり、エクセレンの機体の動きだけが鮮明になる。
『キョウスケ!?』
壁を蹴る。
さらに反対側の壁を蹴り――
三角飛び。
ライン・ヴァイスリッターへ一直線に飛び込む。
狙うのは機体じゃない。
エクセレンでもない。
その境目。
アインストに侵食された機体と、コックピットブロックを繋いでいる部分。
見るな。
――観ろ。
装甲の継ぎ目。
フレームの流れ。
ケーブルの位置。
そして――
エクセレンを傷つけずに斬れる、ただ一本の線。
「――そこだ!」
抜刀。
一閃。
『――!?』
シシオウブレードがライン・ヴァイスリッターを駆け抜ける。
一瞬遅れて――
コックピットブロックだけが機体から切り離された。
「レオナ!」
『任せてくださいませ!』
レオナ機が落下するコックピットブロックを受け止める。
『……やったのか?』
「ああ」
だが、ライン・ヴァイスリッターが蠢く。
パイロットを失ったにもかかわらず、アインストの肉体が再生を始めていた。
『まだ動くのか!?』
「アクセル!」
『分かっている!』
ソウルゲインが拳を構える。
『エクセレン・ブロウニングは取り戻した!』
「なら――」
二機が残されたライン・ヴァイスリッターへ向き直る。
『こいつにはもう用はない!』
――ズズズズズズ……!
「!」
格納庫全体が大きく傾いた。
『ベーオウルフ!』
「分かっている!」
『レオナ! それを持ってシロガネへ走れ!』
『了解ですわ!』
「エクセレンは!?」
『生体反応あり! 意識はありませんが生きていますわ!』
「……そうか」
一瞬だけ力が抜けた。
今度は――
間に合った。
『喜ぶのは後だ! 死にたいのか!』
「……そうだな。帰るぞ!」
俺たちはシロガネの格納庫に飛び込んだ!
「全員収納完了!脱出だ!」
◇ ◇ ◇
レモンside
「全機収容確認! ヴィンデル!」
『分かっている! シロガネを出せ!』
「通常航行じゃ間に合わないわ!」
『何!?』
アースクレイドルの崩壊速度は予想以上だった。
地下から崩れた構造体が次々と地上へ波及している。
このままでは、シロガネが安全圏へ出るより先に巻き込まれる。
「……仕方ないわね」
私はコンソールへ手を伸ばす。
『レモン?』
「こんなところで使う予定じゃなかったんだけど」
『何をする気だ?』
「システムXNを使うわ」
『なに!?』
その名を口にした瞬間――
私は、あれを手に入れた時のことを思い出していた。
◇ ◇ ◇
――テスラ・ライヒ研究所
『レモン、こっちにも妙なものがあるぞ』
『妙なもの?』
『次元転移装置らしい』
『……ちょっと待って』
レモンの声色が変わった。
『それ、絶対に壊さないで』
『分かった』
『キョウスケ。本当に分かってる?』
『持って帰ればいいんだろう?』
『そうだけど……なんで不安なのかしら』
――それが、私たちがシステムXNを手に入れた時だった。
◇ ◇ ◇
「まさか、こんなに早く使うことになるとはね」
『使用できるのか!?』
「解析も調整も終わってるわ」
「使えるのか?」
『使えるわよ』
「なら頼む」
『即答!? もう少し怖がりなさいよ!』
「今さらだろう」
『……それもそうね』
「じゃあ、行くわよ! システムXN起動!」
『了解! 次元転移フィールド展開!』
「全員、何かに掴まってなさい!」
『レモン、転移先は!?』
「知らないわよ!」
『何!?』
「座標指定する時間なんてないもの!」
『待てレモ――』
次の瞬間。
シロガネを光が包んだ。
崩壊するアースクレイドル。
崩れ落ちる大地。
そのすべてが――消える。
◇ ◇ ◇
キョウスケside
「…………」
気がつけば。
シロガネは、何もない空間に浮かんでいた。
星もない。
地上もない。
ただ、どこまでも続く奇妙な空間。
「……ここは?」
『分からないわ』
「レモン?」
『少なくとも――』
レモンが計器を確認する。
『私たちがいた世界じゃない』
「…………」
俺は格納庫に収容されたエクセレンのコックピットへ目を向けた。
……そうか。
俺たちは――
世界を越えた。
――シャドウミラー世界編 完