界渡りの不確定な切り札   作:アルフレッド

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次元の狭間編
漂流編第一話「漂着」


キョウスケside

 

「全員、無事か!?」

 

『こちらレモン。艦の損傷を確認中よ』

 

「エクセレンは?」

 

『生きてる。今、医務室へ運ばせてるわ』

 

「……よかった」

 

「アクセルは?」

 

『…………』

 

「レモン?」

 

『……いないわ』

 

「何?」

 

『ソウルゲインが格納庫にない』

 

『待って。ツヴァイザーゲインも反応がない』

 

「…………ヴィンデルも?」

 

『ええ、転移の衝撃で二人とも別の場所に飛ばされたとしか思えないわ』

 

二人の愛機も一緒にか?

 

何か作為的なものを感じる。

 

システムXNの転移に失敗しただけなら、機体ごと二人だけが消えるというのは妙だ。

 

「レモン。転移直前、二人はどこにいた?」

 

『アクセルは格納庫。ヴィンデルはツヴァイザーゲインでシロガネの護衛についていたはずよ』

 

「別々の場所か……」

 

『ええ。だから私も気になってる』

 

「システムXNの影響だと思うか?」

 

『分からない。そもそもあんな使い方をしたのは初めてよ』

 

「…………」

 

事故なのか。

 

それとも――

 

誰かが二人を選んで飛ばしたのか。

 

今は判断材料が足りない。

 

「二人については後で調べる。まず艦内の被害状況を――」

 

『キョウスケ』

 

レモンの声が低くなった。

 

「……どうした?」

 

『それなんだけど……』

 

嫌な予感がした。

 

今日は、この予感ばかり当たる。

 

『……ミオが、死んだわ』

 

「…………何?」

 

「……タスクは?」

 

『生きてる。でも重傷よ』

 

『アースクレイドルで敵兵が侵入したのね。二人も応戦して排除したんだけど……』

 

「…………」

 

『ミオは、タスクを庇ったみたい』

 

「……そうか」

 

『キョウスケ……』

 

「タスクは?」

 

『今、治療中。かなり危険な状態だけど、命は助けられると思う』

 

「……絶対に助けてくれ」

 

『ええ』

 

「ミオは?」

 

『…………』

 

「……いや、いい」

 

聞くまでもなかった。

 

死んだ。

 

あいつが。

 

さっきまで普通に整備をしていたはずのミオが。

 

「…………」

 

ゼンガーを助けられなかった。

 

アラドたちを連れ帰れなかった。

 

それでもエクセレンだけは取り戻した。

 

今度は間に合った。

 

そう思ったばかりだった。

 

――全員を助けられるわけじゃない。

 

分かっている。

 

戦争をしているんだ。

 

そんなことは、最初から分かっている。

 

それでも――

 

「……くそっ」

 

操縦桿を握る手に力が入った。

 

◇ ◇ ◇

 

まずは落ち着こう。

 

今はミオのことを考えていても何もできない。

 

タスクは治療中。

エクセレンも医務室。

アクセルとヴィンデルは行方不明。

 

そして俺たち自身がどこにいるのかすら分からない。

 

……問題が多すぎるな。

 

「レモン、現在地は分かるか?」

 

『そこが一番の問題ね。少なくとも地球じゃないことだけは分かるわ』

 

「宇宙なのか?」

 

『それも含めて調べてるところ。外部観測データがどうにもおかしいのよ』

 

「おかしい?」

 

『説明するより見てもらった方が早いわ。とりあえずレオナとミツコを連れて艦橋に来てちょうだい』

 

「分かった」

 

通信を切る。

 

「……レオナはともかく」

 

ミツコはどこにいる?

 

そういえば、アースクレイドルから脱出してから一度も見ていない。

 

…………。

 

まさか、まだ寝てないだろうな。

 

そして――

 

◇ ◇ ◇

キョウスケside

 

「すぅ……すぅ……」

 

「起きろ!非常事態だ!」

 

寝ぼけたような声を出しながら目を覚まし始めた

 

「んっ。レディの部屋に挨拶もなしに入ってくるなんてマナーがなってませんわね」

 

あくびをしながら起きだす。

 

「非常事態だと言っただろう」

 

「非常事態?」

 

「アースクレイドルが崩壊した」

 

「ええ、それは存じていますわ」

 

「システムXNを使って緊急転移した」

 

「まあ」

 

「転移先は不明。地球ですらないらしい」

 

「まあまあ」

 

「アクセルとヴィンデルが行方不明だ」

 

「…………」

 

ようやくミツコの眠そうな目が開いた。

 

「それは非常事態ですわね」

 

「最初からそう言っている」

 

「でしたら、最初からそう説明してくださいませ」

 

「起きろと言った!」

 

「起き抜けの女性に理解を求める方が間違っていますわ」

 

「…………」

 

……駄目だ。

 

エクセレンとは違う方向で疲れる。

 

「それで、わたくしを起こしたということは、艦橋へ?」

 

「ああ。レモンが呼んでいる。レオナも一緒だ」

 

「分かりましたわ。五分くださいませ」

 

「急げよ」

 

「女性の身支度に五分は十分急いでいますわ」

 

「この状況で化粧する気か!?」

 

「この状況だからですわ」

 

「なぜ!?」

 

「イスルギ重工の人間が取り乱した顔で人前に出られると思いまして?」

 

「…………」

 

「では、五分後に」

 

扉を閉められた。

 

「……本当に大物だな、この女」

 

◇ ◇ ◇

 

きっちり五分後、部屋から出てきたミツコとレオナを伴って艦橋に向かった。

 

そこにはレモンの他にクエルボとクスハがそろっていた。

 

きっちり五分後、部屋から出てきたミツコとレオナを伴って艦橋に向かった。

 

そこにはレモンの他にクエルボ、クスハ――そしてシャイン王女が揃っていた。

 

「遅くなった」

 

「女性の身支度はもっと時間がかかるものよ。早い方だわ」

 

流石レモン、理由が分かったらしい。

 

「キョウスケ、わたくしも状況を聞かせていただきます」

 

「シャイン王女……休んでいなくて大丈夫なのか?」

 

「この状況で、わたくしだけ休んでいるわけにはまいりません」

 

「……分かった」

 

ミツコを見る。

 

「…………」

 

「なんですの?」

 

「いや」

 

この状況で普通に寝ていた女もいたな。

 

「何か失礼なことを考えていませんこと?」

 

「気のせいだ」

 

「そうですの」

 

「それより、まずはこれを見て頂戴」

 

レモンがメインモニターを切り替える。

 

「まずはこれを見て頂戴」

 

外を映すモニターには――奇妙な光景が広がっていた。

 

「……宇宙?」

 

「いいえ」

 

レモンが即座に否定する。

 

星はない。

 

いや――正確には、星のような光はある。

 

だが、それらは遠くにある恒星には見えなかった。

 

紫とも青ともつかない淡い光が、霧のように空間そのものを漂っている。

 

その中を大小様々な岩塊が浮遊していた。

 

数メートル程度のものから、シロガネより巨大なものまである。

 

「……小惑星帯に見えますわね」

 

レオナが呟く。

 

「だったら話は簡単なんだけどね」

 

レモンが端末を操作する。

 

「恒星反応なし。惑星反応なし。既知の星座との照合も全滅。おまけに――」

 

画面が切り替わった。

 

岩塊の一つが拡大される。

 

「……これは」

 

岩に突き刺さっている。

 

明らかに自然物ではない。

 

巨大な金属片。

 

「人工物ですわね」

 

「ええ。でも材質が分からない」

 

「…………」

 

改めて外を見る。

 

岩。

 

金属片。

 

何かの残骸。

 

それらが、淡い光の中をゆっくりと漂っている。

 

「まるで――」

 

クエルボが呟いた。

 

「いろんな世界から流れ着いた漂流物の墓場みたいだな」

 

「……次元の狭間、か」

 

俺がそう呟くと、レモンが肩をすくめた。

 

「今のところ、それ以上に適当な名前が思いつかないわね」

 

「その前に一つよろしいでしょうか」

 

「何かしら?」

 

「避難民の状況は?」

 

レモンが別の画面を開く。

 

『今のところ大きな混乱はないわ。ただし――』

 

クスハが表情を曇らせた。

 

「病院から移送された患者さんたちがいます。長期化すると、お薬や医療物資が……」

 

「そうか……」

 

食料。

 

水。

 

医薬品。

 

動力。

 

そして、いつまでここにいることになるのかすら分からない。

 

「つまり――」

 

ミツコが完全に仕事の顔になった。

 

「現在地の特定だけでは不十分ですわね」

 

「どういうことだ?」

 

「帰還方法がすぐ見つからない場合に備えて、長期滞在を前提とした物資管理を始めるべきですわ」

 

「……なるほど」

 

「特に医薬品は代用品で済ませられないものがあります。残量と必要量を最優先で洗い出しましょう」

 

「シャイン王女?」

 

「お願いします。国民にも不要な物資消費を控えるよう伝えます」

 

「でしたら――」

 

ミツコが端末を引き寄せた。

 

「まず人数と物資をすべて数字にしましょう。話はそれからですわ」

 

「つまり俺達には拠点が早急に必要なわけだな。」

 

「その通りですわ」

 

ミツコが即答する。

 

「食料や医薬品だけの問題ではありません。現在の人数を艦艇だけで長期間生活させること自体に無理があります」

 

「居住スペースか」

 

「それもあります。衛生設備、医療施設、食料生産、機体の整備設備――挙げればきりがありませんわ」

 

「シロガネだけでは?」

 

「数日、あるいは数週間ならともかく、いつ帰れるか分からない状況では論外ですわね」

 

レモンも頷いた。

 

「それに艦は艦よ。人間を何千、何万と住ませ続けるための街じゃないわ」

 

「……となると」

 

俺はモニターへ目を向けた。

 

岩塊。

 

漂流物。

 

正体不明の残骸。

 

「ここで住める場所を探すしかないか」

 

「ええ」

 

シャイン王女が静かに頷いた。

 

「国民を守るためにも、お願いします」

 

「分かった」

 

まずは探索だ。

 

帰る方法を探す。

 

アクセルとヴィンデルを探す。

 

そして――

 

俺たち全員が生きていける場所を探す。

 

「レモン。周辺を探査できるか?」

 

「やってるわ。ただ、この空間じゃセンサーの調子が――」

 

レモンの手が止まった。

 

「……何?」

 

「どうした?」

 

「…………」

 

「レモン?」

 

「ちょっと待って」

 

メインモニターの表示が切り替わる。

 

かなり遠方らしい。

 

淡い紫色の霧。

 

無数の岩塊。

 

その向こうに――

 

巨大な影があった。

 

「……なんだ、あれは?」

 

誰も答えない。

 

あまりにも大きい。

 

最初は巨大な岩塊かと思った。

 

だが違う。

 

表面には明らかに人工的な構造物が存在している。

 

そして何より――

 

「……惑星?」

 

クスハが呟いた。

 

「……惑星?」

 

「大きさだけならね」

 

「レモン」

 

「何?」

 

「顔があるぞ」

 

「…………あるわね」

 

「目ですわね」

 

「目ね」

 

「口もあります」

 

「口ね」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「人工物だな」

 

「そこに着地するんですの!?」

 

◇ ◇ ◇

 

「内部空間が利用可能なら、居住区として相当な人数を収容できますわね」

 

「ミツコ。あれ、顔があるのよ?」

 

「顔があることと不動産として利用可能かどうかは別問題ですわ」

 

「一理ある」

 

「ないわよ!?」

 

「レモン落ちつけ」

 

「今の俺達には取れる手段が少なすぎる。選択肢がないんだ」

 

「だからって、顔のある惑星へ近づくの!?」

 

「他に候補は?」

 

「…………ないわ」

 

「なら決まりだ」

 

「その決断力、今だけは少し嫌いだわ」

 

「褒め言葉として受け取っておく」

 

「褒めてない!」

 

「ですがキョウスケの判断にも一理ありますわ」

 

ミツコがモニターを見つめたまま口を開く。

 

「あれほどの構造物です。現在も形を保っている以上、何らかのエネルギー源が残っている可能性があります」

 

「水や空気がある可能性も、か」

 

「ええ。それに内部空間が存在するなら、避難民を収容できるかもしれません」

 

クスハが不安そうに巨大な顔を見つめる。

 

「でも……生きていたりしませんよね?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「レモン?」

 

「なんで私を見るのよ」

 

「技術担当だろ」

 

「惑星サイズの生物なんて専門外よ!」

 

「では、生体反応は?」

 

レオナに問われ、レモンが探査結果を確認する。

 

「それが……ないのよ」

 

「ない?」

 

「少なくとも、私たちのセンサーが認識できる生体反応はない。熱源もほとんどないわ」

 

「死んでいるということか?」

 

「それすら分からない」

 

レモンが巨大な影を睨む。

 

「ただし――微弱だけどエネルギー反応はある」

 

「場所は?」

 

「内部。かなり深いところね」

 

「なら調べる価値はあるな」

 

「……結局行くのね」

 

「ああ。ただし、いきなり全艦で近づくのは危険だ」

 

シャイン王女が頷く。

 

「まず調査隊を?」

 

「そのつもりです」

 

俺は改めてモニターを見る。

 

巨大な顔。

 

閉じられたように見える両眼。

 

そして、その奥に何があるのか分からない巨大な口。

 

正直に言えば――

 

近づきたくない。

 

だが。

 

背後には帰る場所を失った人間たちがいる。

 

負傷者もいる。

 

子供もいる。

 

なら、俺が怖がっている場合じゃない。

 

「レモン。接近可能な場所を探してくれ」

 

「了解。……できれば口以外にするわ」

 

「同感だ」

 

「そこは意見が一致するんですのね」

 

当たり前だ。

 

誰が好き好んで、あの口の中へ入るものか。

 

「…………」

 

「キョウスケ?」

 

「レモン」

 

「何?」

 

「口しかないぞ」

 

「言わないで」

 

艦隊が惑星の前に来ると扉が開いていく

 

必要な区画だけ照明が点く。

 

シロガネを収容できそうな区画へ誘導される。

 

「明らかにこの星はまだ生きてるな」

 

「探索隊を決めましょう」

 

「そうだな」

 

「戦闘員として俺とレオナは外せない。レモン、解析要員として来てくれ。量産型W も何体か連れて行くとしよう」

 

そこでクスハが声を上げる

 

「私も連れて行ってください。薬物関係があればお力になれるはずです」

 

「……いいだろう。問題はクスハを連れて行くと龍王機と虎王機もついてくるが、まああの二体は賢い。暴れたりはしないだろう」

 

少なくとも、勝手に人へ斬りかかったりはしない。

 

(……ムラタよりは賢いな)

 

「どうしました?」

 

「いや。比較対象を間違えたと思っただけだ」

 

「?」

 

どうやら格納庫についたらしい。

 

「それではさっき言ったメンバーで進むとしよう。不在中の責任者はシャインに頼む。ミツコは至急人数と物資を数字にしておいてくれ。徹夜しない程度にな」

 

「わかりました」

 

「なんか引っ掛かりますわね」

 

「気にするな。では行くぞ」

 

そして俺たちはこの星に降り立っていく。

 

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