界渡りの不確定な切り札   作:アルフレッド

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ガンダムSEED編第一話「C.E.世界」

キョウスケside

「決めるのは治療が終わってからでいい。今は休んでくれ」

 

ユニウスセブンで救助した30人超の人びとをヴェルトで連れてきたが、もちろん帰りたい人や今回の核攻撃で家族が失った人もいただろう。

 

だから全員を簡単に引き取るという事はせずそれぞれの判断に任せるという方法を取った。

 

「家族がプラントにいる」

「帰りたい」

「ユニウスセブンに家族がいた……」

 

やはりそれぞれ事情がある。帰りたい人が多いな。とはいえヴェルトの存在を考えると簡単に帰せない。もちろんここの存在がどこか、どうやってくるのか、なんてことは明かしてないから帰しても問題はないと思うが。

 

その中に一人問題を抱える女性がいた。

 

「あなたは?」

 

「…………」

 

「プラントへ帰りたいか?」

 

「……分かりません」

 

「?」

 

「私が……どこから来たのか……」

 

女性は頭を押さえた。

 

「自分の名前すら……思い出せないんです」

 

すぐにクエルボとクスハを呼んで診察してもらった。

結果は記憶障害。

 

「言葉や一般知識には問題ありません。それに専門的な知識も残っているようです」

 

「専門?」

 

「植物や農業について、とても詳しいんです」

 

「…………」

 

「でも、自分自身についての記憶だけが……」

 

「……身元を示す物は?」

 

「ありませんでした。救助した時にも所持品らしいものはほとんど」

 

「そうか」

 

俺は少し考える。

 

記憶が戻らない以上、プラントへ帰すにしても帰す場所が分からない。

 

――さて、どうしたものか。

 

レモンはすでに。

 

「帰還希望者については身元の確認が先ね。あなたが言う通り、ここについて余計な情報を持たせるわけにもいかないし」

 

と身元の確認を始めている。ほぼすべてプラントの人間であるのは間違いないようだが。

 

「身元が確認できた者はどうする?」

 

「本人が望むなら帰すべきでしょうね」

 

「問題は方法か」

 

「ええ」

 

レモンが頷く。

 

「プラントへ直接送り届けるのは論外。ヴェルトの存在を知られる危険が大きすぎるわ」

 

「なら、ユニウスセブンの近くか?」

 

「それも駄目ね。あれだけの事件の直後よ。周辺はザフトが調査しているでしょうし、突然三十人以上が現れたら余計な疑いを持たれるわ」

 

「……面倒だな」

 

「あなたが三十人以上まとめて拾ってくるからでしょう?」

 

「見捨てろと?」

 

「言ってないわよ」

 

「ならいい」

 

「もう……」

 

レモンは小さく息を吐いた。

 

「とにかく、帰還希望者については安全に戻せる場所と方法を考えるわ。身元が確認できれば、その人の居住コロニーも分かるでしょうし」

 

「頼む」

 

「ええ。問題は――」

 

レモンの視線が、ベッドに座る女性へ向いた。

 

「彼女ね」

 

「ああ」

 

名前も分からない。

 

家族がいるのかも分からない。

 

どこに住んでいたのかも分からない。

 

プラントの人間なのかさえ、まだ確定していない。

 

帰す場所が分からない以上、少なくとも記憶が戻るまではここにいてもらうしかないだろう。

 

「しばらくヴェルトで保護する。それでいいか?」

 

「……はい」

 

女性は少し迷ってから頷いた。

 

「ご迷惑をおかけします」

 

「気にするな。部屋くらいなら余っている」

 

「余っているどころじゃないでしょう?」

 

「レモン」

 

「惑星一個分あるものね♪」

 

「そういう意味で言ったんじゃない」

 

女性が――ほんの少しだけ笑った。

 

それを見て、クスハも表情を緩める。

 

まあ、今はそれでいい。

 

記憶については急かしたところでどうにもならない。

 

生きている。

 

今は、それで十分だ。

 

「ところでキョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「彼女の植物に関する知識だけど」

 

クスハが少し考えるように言った。

 

「簡単に『詳しい』という程度じゃないと思います」

 

「というと?」

 

「専門家です。それも、かなり高度な」

 

「…………」

 

農業。

 

俺は少し考えて――

 

「ミツコには黙っておくか」

 

「どうしてです?」

 

「今知らせると仕事を用意して飛んでくる」

 

「…………」

 

「…………」

 

「否定できないわね」

 

「できませんね」

 

日頃の行いだな。これは。

 

◇ ◇ ◇

 

さてまた、あの世界……呼び名はどうしよう。

 

「レモン、あの世界の呼び名はどうする?」

 

レモンも考える様子を見せるが

 

「公式には01世界としておくしかないでしょうね」

 

「01世界?」

 

「ええ。私たちがヴェルトを拠点にしてから最初に確認した異世界でしょう?」

 

「なるほどな」

 

シャドウミラー世界をどう数えるか少し迷ったが、あそこは俺たちの出身世界だ。

 

それに今は座標すら分からない。

 

ヴェルトから新たに確認した世界としては、あの世界が最初になる。

 

「今後も世界が増える可能性は高いものね。正式名称までこちらで勝手につけるわけにもいかないでしょう?」

 

「確かにな」

 

国名ならまだしも、世界そのものに名前をつけて暮らしている人間など普通はいない。

 

俺たちだって、自分たちがいた世界を『シャドウミラー世界』などと呼んでいたわけではない。

 

「管理番号として01世界。現地で一般的に使われている暦や名称が分かったら、通称を追加するくらいでいいんじゃない?」

 

「暦か」

 

「救助した人たちの話では、コズミック・イラという暦を使っているそうよ」

 

「なら――」

 

01世界。通称C.E.世界。

 

そんなところか。

 

「正式記録は01世界。会話ではC.E.世界でもいいか」

 

「それが無難でしょうね」

 

「分かった」

 

これで一つ決まった。

 

……一つ。

 

「なあ、レモン」

 

「なに?」

 

「これ、世界が増えるたびに決めるのか?」

 

「当然でしょう?」

 

「…………」

 

「どうしたの?」

 

「いや」

 

増えないことを祈ろう。

 

そう思った。

 

後になって考えれば――

 

この時の俺は、随分と甘かった。

 

「じゃあもう一度C.E.世界に行くとしよう」

 

月のクレーターから出発だから前回使ったスペースシャトルを使ったほうがいいな。

 

避難民は次回に帰すことにして今回もエクセレンと二人で行くか。

 

「エクセレン」

 

「はーい♪」

 

「準備しろ。もう一度01世界――C.E.世界へ行く」

 

「了解♪ 今度はちゃんと観光できる?」

 

「遊びに行くんじゃない」

 

「分かってるわよ。でもダーリンと二人っきりの異世界旅行なんて、ちょっと新婚旅行っぽくない?」

 

「まだ結婚していない」

 

「婚約者なんだから似たようなものでしょ?」

 

「違う」

 

「細かい男は嫌われるわよ?」

 

「誰にだ」

 

「私に♡」

 

「…………準備しろ」

 

「照れた?」

 

「準備しろ」

 

「はーい♪」

 

そこでレモンに呼び止められる。

 

「あ、ちょっと待って。意外とこのスペースシャトル使い勝手よさそうだから次に帰ってくるときもできるなら持って帰ってきて?改造するから」

 

「そ、そうか、わかった(どう改造するつもりなんだ?)」

 

「なによ、その顔」

 

「いや……」

 

「ちょっと手を加えるだけよ?」

 

「お前の『ちょっと』は信用できない」

 

「失礼ね」

 

「否定できるか?」

 

「…………」

 

「レモン?」

 

「大気圏内外で使えて、ある程度の人数と物資を運べて、滑走路も必要ない。異世界探索用の小型船としてちょうどいいと思っただけよ」

 

「それだけか?」

 

「今のところは♪」

 

「…………」

 

今のところ、と付いた。

 

やはり不安だ。

 

◇ ◇ ◇

 

「よし、アンカーを打ち込んだ地点に転移できたな」

 

「ねえキョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「この子、次に乗る時には別人になってそうね」

 

「奇遇だな。俺もそう思っていた」

 

「レモンだもんねぇ」

 

「レモンだからな」

 

さてどこに向かうか。そう考えていた時。

 

プラント側の国営放送で追悼式典の様子が流れる。

 

先日のユニウスセブンへの核攻撃。

 

こちらでは――**『血のバレンタイン』**と呼ばれているらしい。

 

「血のバレンタイン……ね」

 

エクセレンの声から、いつもの軽さが消える。

 

「……随分と悪趣味な名前だ」

 

俺たちは、その現場を見ている。

 

核の光も。

 

崩壊していくユニウスセブンも。

 

そこで死んでいった人たちも。

 

画面が切り替わり、一人の男が壇上へ立つ。

 

プラント最高評議会議長――シーゲル・クライン。

 

そしてクライン議長は、「血のバレンタイン」で犠牲になった人々を悼むとともに――

 

プラントの独立を宣言した。

 

「独立……」

 

さらに。

 

地球連合に対する徹底抗戦。

 

その言葉がはっきりと告げられる。

 

「…………」

 

「キョウスケ」

 

「ああ」

 

どうやら俺たちは――

 

戦争が始まる瞬間に立ち会っているらしい。

 

◇ ◇ ◇

 

「どう思う?」

 

「判断材料が足りない」

 

「核を撃った方が悪い、じゃなくて?」

 

「あの攻撃についてならそうだ」

 

「……うん」

 

「だが、それとこの世界全体の事情は別だ。俺たちは何も知らない」

 

「……避難してきた人たち、連れてこなくて正解だったわね」

 

「ああ」

 

「今戻したら大騒ぎ?」

 

「少なくとも、事情を知らないまま帰すべきじゃない」

 

「じゃあ、まずこの世界について調べる?」

 

「そのつもりだ」

 

「まずは情報収集?」

 

「ああ」

 

「さて……」

 

「どっちに行く?」

 

「…………」

 

「プラント?」

 

「片方の話だけ聞いて判断するのは危険だ」

 

「じゃあ地球?」

 

「そっちも同じだ」

 

「……面倒な世界に来ちゃったわねぇ」

 

「今さらだな」

 

問題はどこで情報取集するかだ。プラントのシャトルに乗っている以上地球に簡単には降りれない。とはいえプラントに近づけば敵扱いされる可能性が高い

 

レモンに改造してもらってから来るべきだったな。

 

「ねえ、キョウスケ。避難してきた人から聞いたんだけどプラントにも地球にも属さない中立国があるそうよ」

 

「いつの間に……」

 

「国名はオーブ。宇宙にもオーブ所属のコロニーがあるって」

 

「宇宙にも?」

 

「うん。資源衛星を利用したコロニーらしいわよ」

 

「そこなら地球へ降りる必要はないか」

 

「それに中立国なら、いきなり撃たれる可能性も低いんじゃない?」

 

「……可能性は、な」

 

「信用ないわねぇ」

 

「中立を名乗っているというだけで信用するほど、この世界のことを知らない」

 

「それもそうね」

 

だが、現状では一番ましな選択肢だ。

 

地球連合とプラント。

 

すでに戦争状態に入った双方の領域へ、所属不明のシャトルで飛び込むよりはいい。

 

「そのコロニーの名前は?」

 

「確か――ヘリオポリス」

 

「場所は分かるか?」

 

「そこまでは聞いてないわね」

 

「…………」

 

「でも、シャトルの航行データに入ってない?」

 

「調べてみるか」

 

操作パネルから航路情報を呼び出す。

 

幸い、民間航路で利用される場所なのか、目的地の一覧からそれらしい名前はすぐに見つかった。

 

《L3 資源衛星ヘリオポリス》

 

「あったな」

 

「じゃあ決まり?」

 

「ああ。まずはヘリオポリスへ向かう」

 

「了解♪」

 

エクセレンが航路を設定する。

 

こうして俺たちは、オーブという国が所有するコロニー――

 

ヘリオポリスへ向かうことになった。

 

◇ ◇ ◇

特に怪しまれることなく普通に入港できた。

 

「……普通だな」

 

「何が?」

 

「いや」

 

人が歩いている。

 

店がある。

 

子供もいる。

 

「前回が前回だったから、もっと殺伐としていると思っていた」

 

「中立国なんだから、こんなものじゃない?」

 

「そういうものか」

 

「せっかくだしデートする?」

 

「情報収集だ」

 

「デートしながら情報収集♡」

 

「…………」

 

「合理的でしょ?」

 

「お前が言うと信用できんな」

 

「ねえキョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「さっきから男の人たちに見られてない?」

 

「そうか?」

 

「……あなた、こういうところ鈍いわよねぇ」

 

「何がだ」

 

「なんでもないわ♡」

 

見るからに軽薄そうな男たちがエクセレンに目を付けたようだ

 

「なあ姉ちゃん、そんな愛想のない男より俺たちと遊ばない?」

 

「…………」

 

「…………」

 

エクセレンが俺を見る。

 

「キョウスケ」

 

「なんだ」

 

「現地通貨が向こうから来たわよ♡」

 

「財布を奪うな」

 

「まだ何もしてないわよ!?」

 

「なんだお前?」

 

「連れだ」

 

「だったらなんだよ?」

 

「いや」

 

俺は少し考える。

 

「別に何も」

 

「あぁ!?」

 

「エクセレンが行くというなら止めるつもりはない」

 

「ちょっとキョウスケ!?」

 

「本人に聞け」

 

「そこは格好よく『俺の女に手を出すな』じゃないの!?」

 

「お前は俺の所有物じゃないだろう」

 

「そうだけど! そうなんだけどぉ!」

 

男はにやついた笑みを浮かべながらエクセレンに手を伸ばそうとする。

 

「おっと」

 

伸ばされた腕を掴む。

 

「な――」

 

「誘うのは勝手だ」

 

少しだけ力を込める。

 

「本人が断った後まで続けるな」

 

「い、痛ぇ!」

 

「分かったか?」

 

「わ、分かった!」

 

「ならいい」

 

「もう、キョウスケったら♡」

 

「なんだ」

 

「最後はちゃんと格好よかったわねぇ」

 

「そうか?」

 

「でも一つ問題があります」

 

「なんだ?」

 

「財布を取ってない」

 

「取るなと言っただろう」

 

「せっかく向こうから来たのにぃ」

 

「現地通貨を野生動物みたいに言うな」

 

「でも、せっかく向こうから来たのにぃ」

 

「金ならあるだろう」

 

「宝石でしょ?」

 

「レモンが持たせてくれた」

 

「それとこれは別よ」

 

「何が違う」

 

「臨時収入♡」

 

「強盗だ」

 

「ちぇー」

 

「舌打ちするな」

 

……無言で先ほどのチンピラを捕まえた

 

さすがにエクセレンも本当にチンピラから財布を奪うと思ってないのか焦った声を出す。

 

「ど、どうしたの?」

 

「お前ら、この辺で出所を聞かずに宝石を買い取る店を知らないか?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「キョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「その聞き方、私たちの方が犯罪者みたいよ?」

 

「身元を証明できないんだから仕方ないだろう」

 

「そうだけどぉ」

 

男は俺たちを胡散臭そうに見ながら、

 

「……あるには、あるけどよ」

 

「場所を教えてくれ」

 

「あ、ああ……」

 

予想通り知っていた。

 

聞く相手を選んだのは正解だったらしい。

「そうか。助かった」

 

「え?」

 

「もう行っていいぞ」

 

「…………」

 

「…………」

 

男たちは俺とエクセレンを交互に見た後、今度こそ逃げるように去っていった。

 

「…………」

 

「なんだ?」

 

「キョウスケ」

 

「ああ」

 

「私、本気で財布を奪うのかと思ったんだけど」

 

「なぜ俺がそんなことをする」

 

「さっきまで私が言ってたからよ!」

 

「俺は止めていただろう」

 

「それなのに無言で追いかけたら勘違いするでしょ!?」

 

「店の場所を聞いただけだ」

 

「だったら最初にそう言ってよぉ!」

 

「聞かれなかったからな」

 

「もう!」

 

何を怒っているんだ?

 

まあいい。

 

これで宝石を換金できる。

 

「でもキョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「さっきの人たち、意外と役に立ったわね♡」

 

「そうだな」

 

「やっぱり現地通貨だったんじゃない?」

 

「違う」

 

「情報を落とすモンスター?」

 

「人間扱いしろ」

 

「デートしながら情報収集♡」

 

「…………」

 

「合理的でしょ?」

 

「お前が言うと信用できんな」

 

とはいえ、エクセレンの言うことにも一理ある。

 

情報を集めるなら、まずこの世界の人間が何を知っているのかを知るべきだろう。

 

俺たちはそのまま街へ出ることにした。

 

「まずどこ行く?」

 

「ニュースを見られる場所だな」

 

「せっかくデートなんだから喫茶店にしましょ♪」

 

「情報収集はどうした」

 

「喫茶店にもニュースくらいあるでしょ?」

 

「…………」

 

「合理的♡」

 

「その言葉を便利に使うな」

 

喫茶店に入るとテレビでは当然、独立宣言のニュースでもちきりだった。

さらに周囲の客の会話から、

 

「本当に戦争になるのかね……」

 

「もうなってるようなもんだろ」

 

「でもオーブは中立だ」

 

「だからって安心できるのか?」

 

「ここまで戦火が来るわけないだろ」

 

などと聞こえてくる。

 

テレビから流れてくる情報と、周囲から聞こえてくる会話に耳を傾ける。

 

少なくとも、この国の一般人にとって戦争はまだどこか遠い場所で起きている出来事らしい。

 

不安を感じている者もいる。

 

だが、中立国であるオーブまで戦火が及ぶとは考えていない者の方が多いようだ。

 

俺たちからすれば、その認識が正しいのかどうかすら分からない。

 

何しろ、この世界について知ったのはついさっきなのだから。

 

「どう?」

 

エクセレンがコーヒーカップを片手に尋ねてきた。

 

「少なくとも、この国は今すぐ戦場になると思われてはいないらしい」

 

「でも不安に思ってる人もいる、と」

 

「ああ」

 

「じゃあ次は?」

 

「もう少し情報を集める」

 

「了解♪ それじゃあ次はショッピングね♡」

 

「待て」

 

「街の物価や流通を見るのも立派な情報収集よ?」

 

「…………」

 

「合理的♡」

 

「……その言葉が嫌いになりそうだ」

 

◇ ◇ ◇

 

「最近物騒よねぇ。やっぱり戦争の影響ってこっちにもあるの?」

 

「そうですねぇ、輸入品なんかは少し――」

 

真面目に情報収集してるな……。

 

「なに?」

 

「いや」

 

「エクセレンちゃんの美貌と話術を見直した?」

 

「普段からそれくらい真面目にやれ」

 

「失礼ね! 私はいつでも真面目よ?」

 

「…………」

 

「なんで黙るのよ!」

 

なぜと言われてもな。普段の行いとしか言いようがないな。

 

口には出さないが。

 

「そういえば、オーブって技術立国なんでしょう?」

 

「ええ、モルゲンレーテなんか有名ですよ」

 

「へぇ~。外国人でも働けたりするの?」

 

「さすがに詳しくは……」

 

「研究者とか技術者なら交流する機会もあるのかしら?」

 

(……やはり連れてきて正解だったな)

 

「モルゲンレーテはカレッジと隣接してるけどそのせいでカレッジもセキュリティが厳しいらしいわね」

 

「カレッジ?」

 

「国立の大学みたいなものです。技術系ではかなり有名ですよ」

 

「へぇ~。じゃあモルゲンレーテと共同研究なんかもしてるの?」

 

「してるんじゃないですか? あそこ、学生でもかなり優秀な人が多いって聞きますし」

 

「なるほどねぇ」

 

エクセレンが楽しそうに頷く。

 

一見すれば世間話だ。

 

だが、聞いている内容は的確だった。

 

モルゲンレーテへ直接近づくのは難しい。

 

ならば、その周辺から接点を探す。

 

カレッジなら軍事施設ではない。

 

もちろんセキュリティが厳しいという以上、俺たちのような身元の怪しい人間が簡単に入れる場所ではないだろうが――

 

研究者や学生まで外部との接触を断っているわけではないはずだ。

 

「ありがとう。面白い話が聞けたわ♪」

 

「いえいえ。オーブには観光で?」

 

「そんなところよ。ね、ダーリン♡」

 

「…………ああ」

 

「間が長い!」

 

店員が笑う。

 

……まあ、否定すると余計に面倒だからな。

 

店を出てしばらく歩いたところで、エクセレンが俺の腕に絡んできた。

 

「どうだった?」

 

「何がだ?」

 

「私の華麗なる情報収集♡」

 

「十分だ」

 

「おっ、素直」

 

「モルゲンレーテへ直接接触するのは難しそうだが、カレッジという選択肢が増えた」

 

「でも、私たちって学歴も身分証もないわよ?」

 

「…………」

 

「まさか正面から『見学させてください』って行く?」

 

「追い返されるだけだろうな」

 

「じゃあどうする?」

 

「まずは外から調べる」

 

「慎重ねぇ」

 

「俺たちはこの世界では、身元不明の外国人だからな」

 

「異世界人だけどね♪」

 

「もっと悪い」

 

「確かに♡」

 

小声でエクセレンに話しかける。

 

「カレッジ近くの喫茶店に行ってみよう。何か情報が手に入るかもしれない」

 

「そうね。あ、喫茶店でジュース一つにストロー二本刺してもらっていい?」

 

「勘弁してくれ……」

 

◇ ◇ ◇

 

カレッジ近くまで移動し、適当な喫茶店を見つけて中に入る。

 

予想通りというべきか、店内には俺たちより若い客が多い。

 

学生らしい。

 

中には端末を広げながら何やら話し込んでいる者もいる。

 

「当たりみたいね」

 

「ああ」

 

適当な席に座る。

 

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

 

「このジュースを一つ。ストロー二本で♡」

 

「おい」

 

「かしこまりました」

 

「待て」

 

店員は行ってしまった。

 

「…………」

 

「楽しみね♡」

 

「何がだ」

 

「情報収集♪」

 

「その顔で言っても説得力がないぞ」

 

しばらくすると、本当にストローが二本刺さったジュースが運ばれてきた。

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます♡」

 

「…………」

 

「ほらキョウスケ♡」

 

「一人で飲め」

 

「せっかく二本あるのに?」

 

「一本抜けばいい」

 

「もったいない」

 

「何がだ」

 

「いいから、ほら♡」

 

「…………」

 

仕方なくストローに口をつける。

 

エクセレンが満足そうに笑った。

 

……何をやっているんだ、俺は。

 

情報収集に来たはずなんだが。

 

しばらくすると学生たちの話が聞こえてくる。

 

「またモルゲンレーテの方で募集してるらしいぞ」

 

「お前受けるの?」

 

「無理無理。あそこ成績だけじゃ駄目だって」

 

「教授の推薦でも?」

 

「それでも厳しいってさ」

 

「キラ・ヤマトぐらい成績と教授の覚えが良くないと無理じゃないか?」

 

「でも、あいつコーディネイターって噂だぜ」

 

「コーディネイター?」

 

小声で呟く。

 

聞き慣れない言葉だ。

 

エクセレンを見ると、向こうも僅かに首を傾げた。

 

「あとで調べましょ」

 

「ああ」

 

どうやらこの世界について知るには、その『コーディネイター』というものについても調べる必要がありそうだ。

 

「そういや今日、モルゲンレーテに地球側の技術者が来てるらしいぞ」

 

「この時期に?」

 

「軍人だって噂だけど」

 

「中立国なのに大丈夫なのか?」

 

「ただの技術交流だろ?」

 

「地球連合の人間か」

 

「気になる?」

 

「ああ。プラント側の情報は避難民からある程度聞ける。地球側の人間と話せるなら都合がいい」

 

「でも軍人なんでしょ?」

 

「なおさらだ」

 

「すみません」

 

「?」

 

声をかけてきたのは、赤みがかった髪の女性だった。

 

「カレッジの正門はこちらで合っていますか?」

 

「俺たちも旅行者だ。詳しくはないが――」

 

エクセレンが案内板を見る。

 

「こっちみたいね」

 

「ありがとうございます。初めて来たもので」

 

「あなたも?」

 

「え?」

 

「私たちもなの♪」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ。昨日来たばかりなの。あなたはお仕事?」

 

「はい。少し……」

 

女性はそこで言葉を濁した。

 

「技術関係?」

 

「え?」

 

「端末と資料を持ってるから、そうなのかなって」

 

「ああ……はい。そんなところです」

 

当然だが、詳しいことを話すつもりはないらしい。

 

まあ、それが普通だ。

 

初対面の旅行者に仕事の内容を話す方がおかしい。

 

「大変ねぇ。こんな時期に出張なんて」

 

「本当に。予定が決まった時には、まさかこんなことになるなんて思っていませんでしたから」

 

「血のバレンタイン?」

 

「……はい」

 

女性の表情が僅かに曇る。

 

「地球でも大騒ぎ?」

 

「ええ。こちらでも報道されていると思いますが……」

 

「さっき見たわ。プラントが独立を宣言したって」

 

「そうですか……」

 

少なくとも、この女性は地球側から来たらしい。

 

先ほど学生たちが話していた人物か?

 

まだ断定はできないが。

 

「ところで、お名前を聞いても?」

 

「あ、すみません。マリュー・ラミアスです」

 

「私はエクセレン・ブロウニング。こっちは婚約者のキョウスケ♡」

 

「キョウスケ・ナンブだ」

 

「ご婚約されてるんですね」

 

「ええ♡」

 

「…………」

 

「なんでそこで黙るのよ!」

 

マリューが小さく笑った。

 

「冗談だよ。婚約したばかりでね。エクセレンははしゃいでいるんだよ」

 

「ちょっとキョウスケ! それじゃ私だけ浮かれてるみたいじゃない!」

 

「違うのか?」

 

「キョウスケだって嬉しいでしょ?」

 

「それは否定してない」

 

「……え?」

 

エクセレンが目を瞬かせる。

 

「どうした?」

 

「いや……そこで素直に認めるとは思わなくて」

 

「俺をなんだと思ってるんだ」

 

「キョウスケ♡」

 

「抱きつくな」

 

「いいじゃない、婚約者なんだから♡」

 

「人前だぞ」

 

「私は気にしないわよ?」

 

「俺が気にする」

 

「ふふっ」

 

またマリューが笑った。

 

「仲がいいんですね」

 

「もちろん♡」

 

「……まあな」

 

「ほら! 今の聞いた!?」

 

「聞いてますよ」

 

「証人ができたわ♡」

 

「何の証人だ……」

 

「婚約したばかりということは、新婚旅行……ではないですね」

 

「まだ結婚してないもの。でも似たようなものよ♡」

 

「違う。旅行ついでに、この辺りを見て回っているだけだ」

 

「また否定した!」

 

「新婚旅行を否定しただけだ」

 

さすがにこれ以上情報を引き出すのは難しいな。

 

地球から来た技術者。

 

おそらく軍人。

 

そしてモルゲンレーテに用がある。

 

それだけ分かっただけでも十分だろう。

 

ここで下手に所属や目的を聞けば、こちらが何者なのかを逆に探られる。

 

「それじゃ、俺たちはそろそろ行くよ」

 

「あ、はい。道を教えていただいてありがとうございました」

 

「気にしなくていい」

 

「でもせっかく知り合ったんだし、連絡先くらい交換しない?」

 

「エクセレン?」

 

「いいじゃない。旅先での出会いも旅の醍醐味よ♡」

 

「私は構いませんけど……」

 

マリューは少し迷ってから端末を取り出した。

 

「じゃあ、これが私の連絡先です」

 

「ありがとう。私のはこれね♪」

 

……なるほど。

 

エクセレンの奴、最初からこれが狙いか。

 

今すぐ情報を聞き出す必要はない。

 

次に会う理由を作ればいい。

 

「それじゃあ、ラミアスさん。またね♪」

 

「はい。お二人もお気をつけて」

 

マリューと別れ、しばらく歩く。

 

「……やるな」

 

「なにが?」

 

「連絡先だ」

 

「あら、気づいた?」

 

「俺たちが探していたのはモルゲンレーテへの接点だ。そこへ出入りしている地球側の技術者と知り合えたなら、今はそれで十分だ」

 

「しかも美人♡」

 

「そこは関係ない」

 

「ほんとにぃ?」

 

「何が言いたい」

 

「べつに~♡」

 

さて、コーディネイターについて調べるべきだろう。

 

カレッジには入れないだろうが、ホテルで端末を借りられればいいんだが……。

 

普通に学生がコーディネイターという言葉を話していたところを見ると、この世界ではおそらく常識的なことだ。

 

下手に他の人間に聞けば怪しまれる。

 

「エクセレン」

 

「なに?」

 

「宿を取るぞ」

 

「あら♡」

 

「その顔をやめろ」

 

「だって婚約して初めて二人でホテルよ?」

 

「情報収集のためだ」

 

「はいはい♡」

 

「……端末を使えるホテルを探す」

 

「じゃあ、ちょっといいホテルにしましょ♪」

 

「なぜだ」

 

「設備がいい方が情報収集しやすいでしょ?」

 

「…………」

 

「合理的♡」

 

「またそれか」

 

否定できないのが腹立たしい。

 

 

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