界渡りの不確定な切り札   作:アルフレッド

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ガンダムSEED編第3話「ムウ・ラ・フラガ」

プトレマイオス基地 ムウ・ラ・フラガside

 

「なんだ、あの赤いジンは!?」

 

『識別信号なし! ザフト機ではありません!』

 

「ジンなのにザフトじゃないってどういうことだよ!」

 

『こちらにも分かりません!』

 

「……最近噂になってるアンノウンって奴か?」

 

「救助を専門にしてるって話だけど……、動きが並じゃないね」

 

『赤いジン、連合機に接近!』

 

「やる気か!?」

 

『いえ……違います!』

 

「何?」

 

『損傷したメビウスからパイロットを回収しています!』

 

「戦闘中だぞ!?」

 

『ザフト機が接近!』

 

「危ない――」

 

赤いジンが振り返る。

 

一瞬でザフト機の武器だけを破壊。

 

そのまま救助を続行する。

 

「…………」

 

『少佐?』

 

「なんなんだよ、あいつ……」

 

――ゾクリ。

 

「……なんだ?」

 

赤いジンを見る。

 

向こうも、こちらを見た気がした。

 

「…………」

 

『少佐?』

 

「いや……なんでもない」

 

なんでもないはずなのに。

 

妙に気になる。

 

あの赤いジンのパイロットが。

 

◇ ◇ ◇

 

キョウスケside

 

「…………」

 

『どうしました?』

 

「いや」

 

さっきから妙な感覚がある。

 

クルーゼと遭遇した時とは違う。

 

敵意ではない。

 

だが――何かが引っかかる。

 

『メビウス・ゼロ接近!』

 

「メビウス・ゼロ?」

 

『はい。連合軍の機体です』

 

「……妙な動きをするな」

 

『かなり腕の立つパイロットのようです』

 

「ああ」

 

(あのメビウス・ゼロ……)

 

さっきから何機落とした?

 

有線式ガンバレルを自在に操りながら、敵の攻撃までかわしている。

 

「……あいつも大概だな」

 

(間違いなくエースクラスだ)

 

どこにでも人間離れした奴はいるってことだ。

 

ナチュラルもコーディネーターも関係ない。

 

「さて俺たちは俺たちのやるべきことをやろう」

 

◇ ◇ ◇

 

『キョウスケさん』

 

「なんだ?」

 

『……おかしいです』

 

「何がだ?」

 

『連合軍の動きです。一部の部隊が戦域から離れ始めています』

 

「撤退か?」

 

『いいえ。撤退命令は出ていません』

 

「…………」

 

『なのに、後方の部隊だけが……』

 

「前線は?」

 

『まだ戦っています』

 

「…………エクセレン」

 

『なに?』

 

「救助を急ぐぞ」

 

『何かあるの?』

 

「分からん」

 

『また勘?』

 

「ああ」

 

『最近よく当たるわねぇ』

 

「だから困っている」

 

どうやら先ほどのメビウス・ゼロも異常を感じているようだ。

 

後方に下がっていく……。

 

『……これ、撤退じゃありません』

 

「分かるのか?」

 

『前線を下げるための動きじゃない。後方だけが安全圏へ移動してる……』

 

「なら前線は?」

 

『…………』

 

「ラ・ミラ?」

 

『……置いていかれてます』

 

味方を囮にして罠を仕掛けているのか?

 

だとしても広域すぎる間違いなく味方を巻き込むことになる。

 

味方を囮にして罠を仕掛けているのか?

 

だとしても広域すぎる。

 

間違いなく味方を巻き込むことになる。

 

「ラ・ミラ。連合がこの一帯で使える広域兵器に心当たりは?」

 

『ありません。少なくとも、私が知る限りでは……』

 

「そうか」

 

『キョウスケさん……』

 

「なんだ?」

 

『もし、本当に味方を巻き込むつもりなら……』

 

「考えるのは後だ」

 

『え?』

 

「今はまだ何も分かっていない」

 

『…………』

 

「分かっているのは、ここに残されている人間が大勢いることだけだ」

 

『……はい』

 

「量産型Wを全部出せ。救助対象の所属は無視していい」

 

『ザフトもですか?』

 

「今までと同じだ」

 

『……了解!』

 

「エクセレン」

 

『はーい♪』

 

「救助艇に近づく機体を牽制しろ。無理に落とす必要はない」

 

『了解。ダーリンは?』

 

「前に出る」

 

『やっぱり』

 

「何かある前に、一人でも多く拾うぞ」

 

先ほどのメビウス・ゼロが戦域から離れていく。

 

「…………」

 

『どうしました?』

 

「あいつも逃げるらしい」

 

『命令を受けたんでしょうか?』

 

「いや」

 

そうは見えない。

 

何かから逃げるような動きだ。

 

「……勘のいい奴らしいな」

 

『キョウスケさん! 異常です!』

 

「何が起きた!」

 

『分かりません! クレーター内部で急激なエネルギー反応!』

 

「エクセレン!」

 

『こっちでも確認したわ!』

 

『温度が急上昇しています!』

 

「全員退避! 救助した人間をシャトルへ!」

 

『でも、まだ――』

 

「ラ・ミラ!」

 

『っ……!』

 

「残れば全員死ぬ!」

 

『……了解!』

 

何とか安全圏まで脱出できたか……!

 

エンデュミオン……が崩壊していく。

 

ザフトも連合も残っていた機体が融解していく。

 

「…………」

 

『ラ・ミラ?』

 

「……味方が」

 

『…………』

 

「まだ……残っていたんです」

 

誰も答えない。

 

「連合の兵士が……まだ、あそこに……」

 

「ああ」

 

「なのに……」

 

「…………」

 

「最初から……?」

 

「おそらくな」

 

「…………」

 

ラ・ミラは、それ以上何も言わなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

「……どっちも大概だな」

 

『キョウスケ……』

 

「だからこそ、どちらかだけを見て判断しなくて正解だった」

 

「エクセレン」

 

『なに?』

 

「次はオーブだ」

 

『ようやく?』

 

「ああ」

 

『長かったわねぇ』

 

「言うな」

 

『だって最初にヘリオポリスへ行ってから――』

 

「言うな」

 

……今回保護した連合の兵はどうするかな。

 

◇ ◇ ◇

 

「……ここは?」

 

「目が覚めたか」

 

「あんたは……」

 

「アンノウンだ」

 

「……!」

 

連合兵の表情が変わった。

 

「エンデュミオンは!?」

 

「消滅した」

 

「…………」

 

「サイクロプスとかいう兵器らしい」

 

「サイクロプス……?」

 

「知らないのか?」

 

「聞いたこともない……」

 

「そうか」

 

「味方は……?」

 

「俺たちが拾えた人間以外は分からん」

 

「…………」

 

「ただ」

 

「?」

 

「発動前に、連合の後方部隊が戦域から離脱していた」

 

「…………」

 

男の顔から血の気が引いた。

 

「そんな……」

 

「ラ・ミラ」

 

「……事実です」

 

「…………」

 

「撤退命令は出ていませんでした。それなのに一部の後方部隊だけが先に戦域を離脱しています」

 

「じゃあ……俺たちは……」

 

誰も続きを口にしなかった。

 

「それで、お前たちをどうするかだ」

 

「……どうする?」

 

「連合へ戻りたいなら戻す」

 

「…………」

 

「ただし今すぐは無理だ。アンノウンの拠点を知られるわけにはいかん」

 

「じゃあ俺たちはどこへ……」

 

「安全な場所を探す」

 

エクセレンがこちらを見る。

 

『キョウスケ』

 

「なんだ?」

 

『ちょうどこれから行く場所があるじゃない♡』

 

「…………」

 

『中立国♪』

 

「……オーブか」

 

それが一番無難か。

 

オーブにとってはとんだ手土産になりそうだがな。

 

◇ ◇ ◇

 

俺たちはそのままオーブに向かった。

 

ぼやぼやしてると連合から証拠隠滅のために狙われる可能性もあったからだ。

 

『こちらアンノウン。戦場で救助した連合兵を保護している。治療は済んだが、こちらの事情で連合領へ直接送り届けることができない。中立国として一時的に保護してもらえないか」

 

「あなた方が……アンノウン?」

 

「そう呼ばれているらしい」

 

「連合、ザフト双方の兵士を救助しているという?」

 

「結果的にはな」

 

「なぜ?」

 

「死にそうだったからだ」

 

「…………」

 

「何かおかしいか?」

 

「いえ……」

 

◇ ◇ ◇

 

そばかすの肌の金髪女性が俺達に話しかけてくる。

 

「あなた方の仲間に入れてもらえませんか」

 

「連合には戻りません」

 

「……いいのか?」

 

「味方ごと焼き払う軍に戻れと言われても……」

 

「ならオーブに残るか?」

 

「できれば……あなたたちのところへ」

 

「…………」

 

「駄目ですか?」

 

「それを決めるのは、俺だけじゃない」

 

エクセレン「また拾った♡」

 

「人聞きの悪い言い方をするな」

「名前は?」

 

「ケイ……ケイ・ニムロッドです」

 

「ケイか。軍では何を?」

 

「整備を。モビルアーマーや艦載機の整備を担当していました」

 

「整備士か」

 

「はい」

 

「…………」

 

「どうしました?」

 

「いや」

 

「キョウスケ?」

 

「レモンが喜びそうだと思ってな」

 

「レモンさん?」

 

「うちの技術者だ」

 

「へぇ。どんな方なんですか?」

 

「会えば分かる」

 

「なんで遠い目をしてるんです?」

 

「気にするな」

 

タスクに同僚ができたか。

 

◇ ◇ ◇

 

応接室で少々待たされたが面会してくれるようだ。

 

扉を開けて20代後半ぐらいの浅黒い肌の男が入ってきた。

 

「お会いできて光栄です。オーブ国防陸軍のレドニル・キサカと言います」

 

「キョウスケ・ナンブです。こっちは相棒の……」

 

「『婚約者』のエクセレン・ブロウニングと言います」

 

「…………」

 

「よろしくお願いします♡」

 

「……レドニル・キサカです。よろしく」

 

キサカとエクセレンが握手を交わす。

 

「キョウスケ」

 

「なんだ」

 

「今、相棒って言おうとしたでしょ?」

 

「間違ってはいない」

 

「間違ってはいないけど、もっと大事な関係があるでしょう?」

 

「だからお前が言っただろう」

 

「あなたから紹介してほしかったの♡」

 

「次からそうする」

 

「約束よ?」

 

「分かった」

 

「…………」

 

キサカが俺たちを交互に見る。

 

「仲がよろしいのですな」

 

「はい♡」

 

「そう見えるか?」

 

「見えます」

 

「ほら♡」

 

「……そうか」

 

「それで――」

 

キサカの表情が僅かに引き締まる。

 

「お二人が、最近戦場で噂になっている『アンノウン』の?」

 

「そう呼ばれているらしい」

 

「連合、ザフト双方の兵士を救助しているという」

 

「ああ」

 

「今回のエンデュミオンでも?」

 

「可能な限りは」

 

「…………」

 

「何か?」

 

「いえ。報告では聞いていましたが……」

 

キサカは少し言葉を選んだ。

 

「なぜ、そこまでされるのです?」

 

「死にそうな奴がいたから助けた」

 

「…………」

 

「それだけだ」

 

「……なるほど」

 

「あら、驚かないのね」

 

「正直に申し上げれば、少々驚いています」

 

「そうか?」

 

「普通は、それだけの理由で戦場へ何度も入りません」

 

「…………」

 

「キョウスケ?」

 

「なんだ」

 

「そこで初めて気づいたような顔しないの」

 

「してない」

 

「してたわよ♡」

 

話を進めるか。

 

「早速ですが我々はこの世界でどこが一番信用できるか。どの勢力と手を組むべきなのか調べてきました」

 

「この世界?」

 

エクセレンの笑みが深くなる。

 

「はい♪この『世界』です」

 

「…………」

 

キサカの表情が変わった。

 

さすが国防陸軍の人間だ。

 

聞き流してはくれないらしい。

 

「その言い方……どういう意味です?」

 

「そのままの意味よ♡」

 

「エクセレン」

 

「なに?」

 

「楽しむな」

 

「だって、いつ言うのかなって思ってたんだもの」

 

「…………」

 

「ナンブ殿」

 

「ああ。説明する」

 

さて。

 

どこから説明したものか。

 

ラ・ミラの時にも同じことを考えた気がする。

 

「俺たちは、この世界の人間じゃない」

 

「……外国人という意味ではありませんな?」

 

「違う」

 

「では?」

 

「文字通りだ」

 

「…………」

 

「俺たちは異世界から来た」

 

「…………」

 

キサカが黙った。

 

当然だろう。

 

俺でもいきなりそんなことを言われたら、まず相手の頭を疑う。

 

「……冗談、では?」

 

「俺がそういう冗談を言うように見えるか?」

 

「見えませんな」

 

「即答ね♡」

 

「お前は黙ってろ」

 

「でも、だからあなた方には所属がない?」

 

「ああ」

 

「連合にも、ザフトにも、オーブにも属さない」

 

「そもそも、この世界のどの国家にも属していない」

 

「…………」

 

キサカが腕を組む。

 

「俄には信じられません」

 

「当然だ」

 

「証明は?」

 

「できる」

 

「…………」

 

「ただし、それを見せるなら話が大きくなる」

 

「と、言いますと?」

 

「俺たちだけで決めていい話ではなくなるということだ」

 

「…………」

 

「だからまず、オーブという国が信用できるか確認したかった」

 

「そのために連合とザフトの戦場を?」

 

「結果的にはな」

 

「最初にヘリオポリスへ来た時点で、オーブの存在は知ってたんだけどねぇ♡」

 

「エクセレン」

 

「はいはい♪」

 

「それから世界樹、ニュートロンジャマーの投下、プトレマイオス、エンデュミオン……俺たちなりに両陣営を見てきた」

 

「そして?」

 

「どちらとも組む気にはなれなかった」

 

キサカは何も言わない。

 

「だからオーブへ来た」

 

「我々なら信用できると?」

 

「まだ決めていない」

 

「キョウスケ!?」

 

「嘘を言ってどうする」

 

「そうだけど、もうちょっと外交的な言い方があるでしょう!?」

 

「…………」

 

キサカが僅かに笑った。

 

「少なくとも、取り入るために来たわけではなさそうですな」

 

「その必要がないからな」

 

「キョウスケ!」

 

「事実だ」

 

「もう!」

 

「ただ――」

 

キサカを見る。

 

「今まで見てきた中では、オーブが一番話ができそうだと思っている」

 

「……なるほど」

 

「だから来た」

 

「では、我々と何を?」

 

「まず話がしたい」

 

「その先は?」

 

「互いに信用できると判断できれば――」

 

一度言葉を切る。

 

「協力関係を結びたい」

 

「……この話は、私の一存で扱える範囲を超えています」

 

「だろうな」

 

「少々お待ちいただけますか」

 

「構わない」

 

「上に報告します」

 

「頼む」

 

キサカが立ち上がる。

 

「ところで一つだけ」

 

「なんだ?」

 

「異世界から来たという話が事実なら……あの赤いジンは?」

 

「拾った」

 

「…………」

 

「キョウスケ」

 

「なんだ」

 

「せめて鹵獲したって言いましょうよ」

 

「似たようなものだろう」

 

「全然違うと思います」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……上には、鹵獲したと報告しておきます」

 

「助かる」

 

「そこで素直に感謝するのね……」

 

◇ ◇ ◇

 

またしばらく待った後

 

壮年の髭を生やした男性が入ってきた。

 

「初めまして、オーブ連合首長国代表首長をやらせていただいてる『ウズミ・ナラ・アスハ』と申します」

 

「初めましてあなた方から見て異世界の国であるヴェルトのキョウスケ・ナンブです。こちらは婚約者のエクセレン・ブロウニングです」

 

「やっとちゃんと婚約者と紹介してもらえた♪」

 

アスハ氏は困ったような顔で見ている、気持ちはわかる。

 

「エクセレン」

 

「あ、初めまして♪ エクセレン・ブロウニングです」

 

「……ウズミ・ナラ・アスハです」

 

「よろしくお願いします、アスハ代表♪」

 

「こちらこそ」

 

アスハ氏が俺とエクセレンを交互に見る。

 

「……仲がよろしいようで」

 

「はい♡」

 

「…………」

 

「なんでキョウスケが黙るのよ」

 

「否定はしていない」

 

「だったら『そうです』って言えばいいじゃない」

 

「そうだな」

 

「…………」

 

「なんだ?」

 

「そこで終わるの!?」

 

「話を進めるぞ」

 

「はーい」

 

アスハ氏が小さく咳払いした。

 

「では……ナンブ殿。キサカから一通りの話は聞いております」

 

「どこまでです?」

 

「あなた方が、この世界とは異なる世界から来たということ。そして我が国との協力関係を検討している、と」

 

「はい」

 

「率直に申し上げれば――」

 

アスハ氏は俺を真っ直ぐ見た。

 

「にわかには信じ難い話です」

 

「当然でしょう」

 

「ですがキサカは、あなたが証明できると仰ったと」

 

「できます」

 

「では、拝見しても?」

 

「そのためにあなたに来てもらいました」

 

「なるほど」

 

さて。

 

何を見せるのが一番手っ取り早いか。

 

「証明は?」

 

「できます」

 

俺は右手を前へ出した。

 

「まずは――」

 

ストレージから一本の剣を取り出す。

 

「…………」

 

アスハ氏の目が僅かに見開かれた。

 

「今、どこから?」

 

「ストレージと呼んでいる亜空間収納です」

 

「亜空間……」

 

「これだけなら、こちらの世界にも似た技術があると言われるかもしれませんが」

 

「少なくとも私は聞いたことがありませんな」

 

「次です」

 

「まだあるのね♪」

 

「お前は知ってるだろ」

 

「雰囲気作りよ♡」

 

「いらん」

 

今度はアンカーを取り出す。

 

「これは?」

 

「アンカーです」

 

「錨……には見えませんが」

 

「意味としては似たようなものです。世界の座標を固定するための装置です」

 

「世界の……座標?」

 

「これを使って俺たちはこの世界とヴェルトを往復しています」

 

アスハ氏の表情が変わった。

 

「つまり、それが異世界へ移動する装置だと?」

 

「正確には違います。こいつは目印です」

 

「では、移動そのものは?」

 

「――アギュイエウス」

 

呼びかける。

 

空間が歪み――

 

アギュイエウスが姿を現した。

 

「…………」

 

「これが俺たちの世界間移動手段の一つです」

 

「…………」

 

「信じてもらえますか?」

 

「……信じる信じない以前に」

 

アスハ氏はアギュイエウスを見上げた。

 

「理解が追いついておりませんな」

 

「ですよねぇ♪」

 

「……一度、そのヴェルトという国をこの目で見てみたいものですな」

 

「構いません」

 

「キョウスケ?」

 

「なんだ?」

 

「国家元首を異世界旅行に誘うの、決断早くない?」

 

「本人が希望したんだろう」

 

「そういう問題かしら……」

 

「ただこのアンカー、錨の名を持つように地面に撃ちこまなければなりません。そのために土地をお借りしたい」

 

「土地を?」

 

「はい」

 

「どの程度の広さが必要なのです?」

 

「アンカーを設置するだけなら、それほど広くなくていい」

 

「ただし、人目につかない場所がいいわね」

 

「なぜです?」

 

「そこがヴェルトとの出入口になるからよ♪」

 

「…………」

 

アスハ氏の表情が僅かに険しくなった。

 

当然だろう。

 

土地を貸してほしいと言われたと思ったら、そこに異世界への出入口を作ると言われたのだ。

 

国家の代表として警戒しない方がおかしい。

 

「つまり、そのアンカーを設置すれば……」

 

「ヴェルトとオーブを直接行き来できるようになります」

 

「人員も?」

 

「可能だ」

 

「物資も?」

 

「可能です♪」

 

「兵器も?」

 

「…………」

 

「キョウスケ?」

 

「嘘をついても仕方ない。可能です」

 

アスハ氏の目が鋭くなる。

 

「それは……我が国の安全保障にとって、非常に大きな意味を持ちますな」

 

「承知しています」

 

「一度設置したアンカーを、こちらの意思で撤去することは?」

 

「できる。ただし――」

 

「ただし?」

 

「壊すくらいなら俺たちを呼んでくれ。その方が安全だ」

 

「ふふっ」

 

「エクセレン?」

 

「いえ。そこで『壊すな』じゃなくて『呼んでくれ』なのがキョウスケらしいなって♡」

 

「話を進めるぞ」

 

「はーい♪」

 

「土地についても、オーブの主権を侵すつもりはありません。借りるだけです」

 

「つまり、治外法権を求めるわけではない?」

 

「必要ありません」

 

「警備については?」

 

「オーブ側と相談して決めたい」

 

「……なるほど」

 

アスハ氏はしばらく考え込んだ。

 

「では、仮に土地を提供したとして――」

 

「はい」

 

「我々には何が得られるのでしょう?」

 

「まず――」

 

エクセレンを見る。

 

「ヴェルトを見てもらいます」

 

「…………」

 

「俺たちが何者なのか。何を持っているのか。そして、オーブと何ができるのか」

 

「それを見た上で判断していただきたい」

 

「なるほど」

 

「ただし一つだけ」

 

「なんでしょう?」

 

「兵器技術を無条件で渡すつもりはありません」

 

「…………」

 

「連合にもザフトにも、です。オーブだけを例外にするつもりもない」

 

「まだ我々を信用しきってはいない、と」

 

「はい」

 

「正直ですな」

 

「キョウスケに外交辞令を期待するだけ無駄ですよ♡」

 

「エクセレン」

 

「褒めてるのよ?」

 

「どこがだ」

 

しばらくアスハ氏は考え込んでいる。当たり前だそんな簡単に判断できるようなことじゃない。

むしろ今日はここでお開きになって明日もう一度呼ばれるくらいのことは十分あり得る。

 

「キサカ」

 

「はっ!」

 

「外交官の屋敷にふさわしい場所を一つ調べてくれ。そこを提供させてもらおう」

 

「かしこまりました」

 

「外交官の屋敷?」

 

「はい」

 

アスハ氏がこちらを見る。

 

「あなた方が本当に異世界の国家を代表して来られたのであれば、これは単に土地を貸す、貸さないという話ではありますまい」

 

「…………」

 

「ヴェルトとオーブ。二つの国の関係をどうするのかという話です」

 

「……確かに」

 

「であれば、我々も相応の形で応えるべきでしょう」

 

「ですが、まだ俺たちが異世界から来たという証明すらしていませんよ?」

 

「だからこそです」

 

「?」

 

「屋敷を一つ用意するだけなら、我が国にとって大きな負担ではありません」

 

「なるほど」

 

「あなた方の話が事実であれば――」

 

アスハ氏が僅かに笑う。

 

「異世界との最初の外交施設としては、安いものでしょう」

 

「……大胆ですね」

 

「国家の代表というものは、時には賭けをしなければならないものです」

 

「賭け、か」

 

「それに」

 

「?」

 

「少なくとも、あなた方がエンデュミオンで我が国に何を持ち込んだのかは理解しております」

 

「連合兵ですか?」

 

「彼らの命と、証言です」

 

「…………」

 

「その対価だと思っていただいても構いません」

 

「そういうことなら、ありがたくお借りします」

 

「お借り?」

 

「提供すると言われても、土地そのものを貰うつもりはありません。そこはオーブの領土でしょう」

 

「……なるほど」

 

「屋敷は大使館扱いにすればいいんじゃない?」

 

「大使館?」

 

「だってヴェルトとオーブの外交拠点になるんでしょ?」

 

「…………」

 

アスハ氏と顔を見合わせる。

 

「エクセレン」

 

「なに?」

 

「たまに本当にまともなことを言うな」

 

「たまに!?」

 

「ナンブ殿」

 

「はい?」

 

「それについては、婚約者殿の意見に賛成です」

 

「ほら!」

 

「分かりました」

 

「なんでちょっと不満そうなのよ!」

 

◇ ◇ ◇

 

キサカが用意してくれた屋敷は、俺たちが想像していたよりずっと立派なものだった。

 

「……でかくないか?」

 

「外交官の屋敷として用意したのです。これくらいは必要でしょう」

 

「そういうものか」

 

「キョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「私たちの新居にもなるのよね?」

 

「大使館だ」

 

「新婚生活のできる大使館♡」

 

「その言い方はやめろ」

 

「だって婚約者なんだからいいじゃない♪」

 

「…………」

 

「否定しないのね♡」

 

「話を進めるぞ」

 

屋敷の裏手には、十分な広さの土地があった。

 

周囲からも見えにくい。

 

ここなら問題ないだろう。

 

ストレージからアンカーを取り出す。

 

「これをここへ?」

 

「はい」

 

アスハ氏の問いに頷く。

 

アンカーを地面へ突き立てる。

 

――これで、この世界にも座標ができた。

 

「終わりです」

 

「……これだけですか?」

 

「これだけです」

 

「見た目は本当に錨みたいなものねぇ」

 

「名前通りだろう」

 

「それでは?」

 

アスハ氏を見る。

 

「準備はできました」

 

「…………」

 

「本当に行かれますか?」

 

「無論です」

 

即答だった。

 

「自分の目で確かめずして、国家の未来に関わる判断はできません」

 

「分かりました」

 

やはりこの人物は信用できそうだ。

 

少なくとも、他人の報告だけで重大な決断をする人間ではない。

 

「キサカ」

 

「はっ」

 

「私が不在の間を頼む」

 

「……代表」

 

「心配するな。ナンブ殿を信用してみることにした」

 

「責任重大ね、キョウスケ♡」

 

「今さらだ」

 

「それで、どうするのです?」

 

「アギュイエウスを呼びます」

 

「先ほどの?」

 

「はい」

 

俺は呼びかける。

 

「――アギュイエウス」

 

空間が歪んだ。

 

巨大な存在が再び姿を現す。

 

「では行きましょう」

 

「ええ」

 

「アスハ代表」

 

「なんでしょう?」

 

「ヴェルトへようこそ」

 

◇ ◇ ◇

 

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