界渡りの不確定な切り札   作:アルフレッド

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ガンダムSEED第五話「マリュー・ラミアス」

キョウスケside

 

「それではこれからは取引を詰めていきましょう」

 

俺の横にはミツコとエクセレンがいる。

 

「初めまして。ヴェルトの経済担当、ミツコ・イスルギと申します」

 

「オーブ連合首長国代表、ウズミ・ナラ・アスハです。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

にこやかに微笑みながら、ミツコが差し出した手をウズミ殿が握る。

 

……さて。

 

「キョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「なんでちょっと楽しそうなの?」

 

「気のせいだ」

 

「絶対嘘ね」

 

エクセレンにはバレたらしい。

 

「では、まずは両国間で取り扱う品目についてですが――」

 

ミツコが端末を操作すると、テーブルの上に資料が表示された。

 

「ヴェルトからは希少金属、工業素材、一部食料品などを輸出できます」

 

「逆に我々が希望するものは?」

 

「主に民生用の工業製品と、その生産設備ですわ」

 

「食料は?」

 

「基本的な自給体制はすでに整っております。ですが――」

 

「ですが?」

 

「美味しいものまで自給に拘る必要はありませんでしょう?」

 

「……なるほど」

 

「ミツコらしいわねぇ」

 

「経済とはそういうものですわ♡」

 

「……希少金属?」

 

「はい」

 

「具体的には?」

 

「こちらになります」

 

ウズミ殿が資料へ目を落とす。

 

そのまま動きが止まった。

 

「…………」

 

「どうかなさいました?」

 

「いや……この価格で?」

 

「ええ」

 

「市場価格と比較すると、随分と安いようですが」

 

「大量に用意できますので」

 

「どの程度?」

 

「ご希望でしたら、年間――」

 

ミツコが数字を告げる。

 

「…………」

 

ウズミ殿の隣に座っていたホムラ殿まで固まった。

 

無理もない。

 

ヴェルトには元素変換装置がある。

 

俺たちにとって希少金属は、名前ほど希少ではない。

 

「もちろん、オーブの市場を破壊するような量を一度に流通させるつもりはありません」

 

「……そこまで考慮していただけるので?」

 

「当然ですわ」

 

ミツコが微笑む。

 

「商売とは、相手から一度だけ利益を得ればよいものではありません。長く続けてこそ意味がありますもの」

 

「なるほど……」

 

ウズミ殿が感心したように頷いた。

 

「非常に優秀な方ですな」

 

「ええ」

 

俺も頷く。

 

「だから覚悟した方がいいと言ったんです」

 

「キョウスケ様?」

 

「なんでもない」

 

笑顔のままミツコがこちらを見た。

 

……聞こえていたらしい。

 

「ところで、オーブから輸入したいものについてですが」

 

「そちらもあるのですかな?」

 

「当然ですわ」

 

「ヴェルトには大抵の物があるんじゃないの?」

 

エクセレンが資料を覗き込む。

 

「物があることと、産業が成熟していることは別問題です」

 

「なるほどねぇ」

 

「特にヴェルトは建国から日が浅く、民生分野については不足しているものが多々あります」

 

これは事実だ。

 

ユニクロンの設備によって物を作ること自体はできる。

 

だが、それだけでは国家の産業とは呼べない。

 

「ですので、オーブからは民生品、電子機器、工作機械、衣料品、それに――」

 

ミツコが資料を切り替える。

 

「各種生産設備の輸入を希望します」

 

「製品そのものではなく、生産設備を?」

 

「はい。いつまでも輸入に頼るつもりはありませんので」

 

ウズミ殿が少しだけ笑った。

 

「なるほど。魚ではなく、魚の釣り方を求めるというわけですな」

 

「その通りですわ」

 

「ミツコらしいわねぇ」

 

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

「褒めてるわよ?」

 

……たぶん。

 

「それともう一つ」

 

ミツコがこちらを見る。

 

「機動兵器関連についてです」

 

来たか。

 

ウズミ殿の表情も変わった。

 

「ナンブ殿にはすでに少しお話ししましたが、我が国では現在、新型機動兵器の開発計画が進められています」

 

「はい」

 

「そのうち二機を、完成後ヴェルトへ提供する方向で調整したいと考えています」

 

ミツコの眉がわずかに動いた。

 

「二機、ですか?」

 

「ええ」

 

「完成品を?」

 

「そのつもりです」

 

「…………」

 

ミツコが黙った。

 

「どうした?」

 

「いえ」

 

笑った。

 

……嫌な予感がする。

 

「非常に興味深いお話だと思いまして」

 

「ミツコ」

 

「なんでしょう?」

 

「ほどほどにな」

 

「まだ何もしておりませんわ」

 

「『まだ』と言ったな?」

 

「…………」

 

「ねえキョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「そのやり取り、どこかで聞いたことない?」

 

「気のせいだ」

 

技術省の連中と同じだ。

 

まだ実物すら見ていないというのに。

 

「ちなみに、その機動兵器の名称を伺っても?」

 

ウズミ殿が頷く。

 

「現在の開発名称は――」

 

一拍置いて告げた。

 

「アストレイです」

 

「アストレイ?」

 

「英語で『道を外れる』といった意味ね」

 

エクセレンが横から教えてくる。

 

「なるほど」

 

俺は頷いた。

 

「どのような姿か楽しみですね」

 

その後細かいところを詰めていったが、おおむね両国に理があるものだったと思う。

 

◇ ◇ ◇

───ヘリオポリス

俺たち二人はヘリオポリスのモルゲンレーテ社近くの喫茶店に来ている

 

「久しぶりに来たわね。ここにも」

 

「そうだな」

 

「モルゲンレーテの案内をしてくれる人とはここで待ち合わせしてるのよね」

 

「ああ」

 

「確か、エリカ・シモンズさんと……」

 

「バリー・ホーだったな」

 

「二人も来るの?」

 

「一人は技術者、もう一人はパイロットらしい」

 

「ふーん」

 

「なんだ?」

 

「キョウスケと気が合いそうだなって♡」

 

「会ってもいないのに分かるのか?」

 

「なんとなくね」

 

「時間まではまだ少しある」

 

「じゃあコーヒーでも飲みながら待ちましょうか」

 

「そうだな」

 

前回来た時と同じように、店内には多くの客がいる。

 

戦争中とはいえ、ここは中立国オーブの資源衛星だ。

 

少なくとも表向きは、以前と何も変わっていない。

 

「それにしても」

 

「なんだ?」

 

「まさか私たちがモビルスーツを貰うことになるとは思わなかったわね」

 

「まだ完成していない」

 

「そうだけど。二機も用意してくれるんでしょ?」

 

「そうらしいな」

 

「私のは射撃戦向きにしてもらおうかしら♡」

 

「好きにしろ」

 

「キョウスケは?」

 

「刀が使えればいい」

 

「やっぱり?」

 

リシュウ先生から剣を教わるようになってから、俺自身も近接戦では刀の方が使いやすくなっている。

 

ジンにも刀型の武装を装備させている。

 

新しい機体でも、その方がいいだろう。

 

「だったら名前も――」

 

エクセレンが何かを言いかけたところで、

 

「――あら?」

 

視線が俺の後ろへ向いた。

 

「どうした?」

 

「キョウスケ。後ろ」

 

振り返る。

 

「…………」

 

見覚えのある女がいた。

 

向こうもこちらを見ている。

 

そして目を見開いた。

 

「……あなたたち!?」

 

「久しぶりだな」

 

「お久しぶり、マリューさん♡」

 

マリュー・ラミアス。

 

以前、このヘリオポリスで知り合った地球連合軍の士官だ。

 

「どうしてあなたたちがここに?」

 

「仕事だ」

 

「仕事?」

 

「ああ」

 

「……ここで?」

 

「そうだ」

 

「…………」

 

なぜかマリューが俺たちを怪しむような目で見ている。

 

「ねえ、キョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「たぶん説明が足りないわよ?」

 

「そうか?」

 

「そうよ」

 

「では頼む」

 

「私に投げた!?」

 

マリューが額に手を当てた。

 

「相変わらずなんですね……」

 

「何がだ?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

「それで、マリューさんはどうしてここに?」

 

「私は……」

 

マリューが一瞬だけ言葉を止める。

 

「仕事です」

 

「仕事?」

 

「はい」

 

「ここで?」

 

「そうです」

 

「…………」

 

「…………」

 

エクセレンが俺とマリューを交互に見る。

 

「似た者同士?」

 

「違う」

 

「違います」

 

声が重なった。

 

「息ぴったりね♡」

 

「「違う」」

 

「……以前から気になっていたんですが」

 

「なんだ?」

 

「あなたたち、一体どこの所属なんです?」

 

「それはまだ秘密だ」

 

「まだ!?」

 

「企業秘密よ♡」

 

「企業じゃないでしょう!?」

 

「お待たせしました」

 

声をかけられて振り返る。

 

一人の女性と、大柄な男が立っていた。

 

「キョウスケ・ナンブさんとエクセレン・ブロウニングさんですね?」

 

「ああ」

 

「初めまして。モルゲンレーテ社のエリカ・シモンズです」

 

「バリー・ホーだ」

 

「キョウスケ・ナンブだ」

 

握手を交わす。

 

「…………」

 

「…………」

 

バリーが俺を見る。

 

「武術をやっているな?」

 

「分かるのか?」

 

「立ち方を見ればな」

 

「多少、剣を習っている」

 

「剣か」

 

「ああ」

 

バリーが小さく笑った。

 

「なるほど」

 

「ねえキョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「やっぱりこの人と気が合いそうよ♡」

 

「なぜだ?」

 

「なんとなく」

 

「私にも分かる気がします」

 

エリカが苦笑した。

 

マリューが小さく呟いた。

 

「どうしてアスハ代表の名前が……?」

 

「今回の件を紹介してくれたのがウズミ殿だからな」

 

「ウズミ殿!?」

 

「そうだが?」

 

「…………」

 

またマリューが黙った。

 

「キョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「また説明不足みたいよ♡」

 

「そうか?」

 

「そうよ!」

 

なぜかマリューまで同意した。

 

「……ナンブさん」

 

「なんだ?」

 

「あなた、本当に何者なんです?」

 

「キョウスケ・ナンブだ」

 

「それは知っています!」

 

「なら問題ないだろう」

 

「あります!」

 

エクセレンが楽しそうに笑っている。

 

「マリューさん、諦めた方がいいわよ。この人こういうところあるから♡」

 

「ブロウニングさんは知ってるんですよね?」

 

「もちろん♪」

 

「教えてください」

 

「秘密♡」

 

「…………」

 

マリューが頭を抱えた。

 

「そろそろよろしいですか?」

 

エリカが苦笑しながら声をかけてきた。

 

「ああ」

 

「ではご案内します。アスハ代表から、お二人には開発中の機体について可能な範囲で希望を聞くようにと言われていますので」

 

「開発中の機体……?」

 

マリューの表情が変わった。

 

「…………」

 

エリカもそれに気づいたらしい。

 

「ラミアス大尉」

 

「分かっています。聞きません」

 

「助かります」

 

どうやらマリューも、ここで何かの仕事をしているらしい。

 

「マリューは?」

 

「え?」

 

「これからどこへ行くんだ?」

 

「私もモルゲンレーテへ戻るところです」

 

「なら途中まで一緒だな」

 

「……そうですね」

 

「あら♡」

 

「なんだ?」

 

「なんでもないわよ?」

 

妙に楽しそうだ。

 

何なんだ、一体。

 

◇ ◇ ◇

 

───モルゲンレーテ社内

 

俺たち五人は通路を歩いていた。

 

「ナンブ」

 

「なんだ?」

 

「先ほど剣を習っていると言ったな」

 

「ああ」

 

「どの程度だ?」

 

「まだ修行中だ」

 

「そうは見えんが」

 

「師には六十点と言われた」

 

「六十点?」

 

「残心が足りないらしい」

 

「…………」

 

バリーが少し笑った。

 

「厳しい師だな」

 

「ああ」

 

「だが、良い師のようだ」

 

「そうだな」

 

「(エリカさん。なんか男二人が分かり合ってませんか?)」

 

「(そうみたいですね)」

 

エリカは微笑みながら聞いている。

 

(ところで聞こえてるぞ。エクセレン)

 

「私はここで」

 

マリューが足を止めた。

 

「そうか」

 

「ナンブさん」

 

「なんだ?」

 

「次に会った時こそ、所属を教えてもらいますからね」

 

「考えておく」

 

「絶対教える気ないでしょう!?」

 

「さあな」

 

「もう……」

 

「じゃあまたね、マリューさん♡」

 

「ええ。また」

 

マリューが別の通路へ消えていく。

 

「……あいつの仕事も、この施設に関係しているのか」

 

「気になる?」

 

「多少はな」

 

「調べる?」

 

「いや」

 

「あら?」

 

「本人が話せないと言ったことを探る必要はない」

 

「ふふっ」

 

「なんだ?」

 

「そういうところ、キョウスケらしいなって♡」

 

「では私たちはこちらへ」

 

エリカの案内で別方向へ施設を進んでいく……。

 

◇ ◇ ◇

 

重厚な扉が待っていた。

 

エリカのカードキーで扉を開ける。

 

その向こうには、まだ装甲の一部も取り付けられていない二機のモビルスーツが並んでいた。

 

「これが……」

 

「はい」

 

エリカが振り返る。

 

「アストレイです」

 

二機を見上げる。

 

まだ完成していないとはいえ、ジンとは明らかに違う。

 

全体的に細身で、人間に近い体型をしている。

 

「二機とも同じ機体なのか?」

 

「基本設計は同じです」

 

エリカが端末を操作する。

 

「ただし、現在はこちらを――」

 

一機を指す。

 

「ゴールドフレーム」

 

続いて、もう一機へ視線を向けた。

 

「そしてこちらを、ミラージュフレームと呼んでいます」

 

「ゴールドとミラージュねぇ」

 

エクセレンが二機を見比べる。

 

「色で決めたのか?」

 

「ゴールドフレームについては、まあ……分かりやすいですから」

 

「なるほど」

 

「そこ納得するところなの?」

 

「分かりやすいだろう」

 

「そうだけど」

 

エリカが苦笑する。

 

「現状ではあくまで開発段階での呼称です。完成までに仕様も変わります」

 

「それで」

 

バリーが口を開いた。

 

「どちらに乗る?」

 

「まだ性能を聞いていない」

 

「当然だな」

 

「…………」

 

「…………」

 

「また始まった」

 

エクセレンが呆れたように言った。

 

「何がだ?」

 

「男二人だけで納得するやつ」

 

「普通のことを言っただけだ」

 

「俺もそう思う」

 

「ほらぁ!」

 

エリカが小さく笑った。

 

「では、順番に説明しますね」

 

「ゴールドフレームは型式番号MBF-P01、装甲材質は発泡金属装甲、動力源はバッテリーとなっています」

 

「発泡金属装甲?」

 

聞き慣れない名前だ。

 

「ジンなどの通常装甲と違って金属の内部に気泡が出来ているため軽量であり、高い強度を保ったまま機体の軽量化に大きく貢献しているほか、気泡が空間装甲の役目も果たしているため、実体弾に対する耐性も確保しています」

 

エリカがこちらを向きながら質問を投げかける。

 

「希望する武装はありますか?」

 

「刀だ」

 

「……即答ですね」

 

「さっきからそれしか言ってないもの、この人」

 

「刀にも色々ありますが」

 

「片刃。できれば今使っているものに近い方がいい」

 

「ジンに装備しているものですね?」

 

「知っているのか?」

 

「戦闘データは提供していただいていますから」

 

「なるほど」

 

「機体でも剣術を使うつもりか?」

 

バリーが食いついてきた。

 

「使えるならな」

 

「人間とモビルスーツでは身体の構造が違う」

 

「ああ」

 

「同じ動きをさせるだけでは剣にはならんぞ」

 

「なら、どうすればいい?」

 

バリーが笑った。

 

「それをこれから確かめる」

 

「…………」

 

「何だ?」

 

「いや」

 

少し面白くなってきた。

 

「私は長距離射撃ね♡」

 

「ライフルですか?」

 

「できれば高出力で、取り回しが良くて、連射もできて――」

 

「注文が多いな」

 

「だって希望を聞いてくれるって言ったじゃない♡」

 

「限度がある」

 

「キョウスケは刀の一言で済むからいいわよねぇ」

 

「必要なものが決まっているだけだ」

 

「女には必要なものがいっぱいあるの♡」

 

「そういうものか?」

 

「そういうものよ」

 

「……分からんな」

 

「分からなくていいの♡」

 

エリカが苦笑しながら端末を操作する。

 

「では、エクセレンさんの希望も踏まえて調整してみます」

 

「お願いね♪」

 

「ただし――」

 

「ただし?」

 

「高出力、軽量、連射可能、長距離対応を全部同時に満たすのは難しいですよ?」

 

「そこをなんとか♡」

 

「技術者に一番言ってはいけない言葉だな」

 

「キョウスケさん、よく分かっていますね」

 

「身近に似た連中がいる」

 

「レモンたちね?」

 

「ああ」

 

「……どんな方たちなんです?」

 

「知らない方がいい」

 

「そこまでですか?」

 

エリカが笑っている、が本人たちを見たら笑えないんだろうな。

 

「では次に、こちらです」

 

エリカがもう一機へ視線を向けた。

 

「ミラージュフレームについて説明します」

 

「型式番号MBF-P05LM、同じく装甲材質は発泡金属装甲、動力源はバッテリーとなっています。違いは本機は特殊ミラージュコロイドを採用しており姿を消せるのは勿論ミラージュコロイドセンサーを搭載しており、自機の周りにミラージュコロイドを散布しその動きを把握することで、周囲の空間の物体(敵機やミサイルなど)の動きを感知できるようになっています」

 

「また、範囲は限定的ながらもミラージュコロイドを使用している機体の探知も可能となっています」

 

「…………」

 

エクセレンが黙った。

 

「どうした?」

 

「キョウスケ」

 

「なんだ?」

 

「私、こっちがいい♡」

 

「早いな」

 

「だって姿を消せて、周囲の敵やミサイルまで探知できるんでしょ?」

 

「はい。ただしセンサーの有効範囲には限界があります」

 

「十分よ♡」

 

エクセレンが楽しそうにミラージュフレームを見上げる。

 

「姿を消して狙撃位置を変えて、相手がこっちを探している間に――」

 

「撃つのか」

 

「正解♡」

 

「性格が悪いな」

 

「褒め言葉として受け取っておくわ♪」

 

「褒めてない」

 

エリカが苦笑する。

 

「確かにエクセレンさんの希望されている射撃戦とは相性が良さそうですね」

 

「でしょう?」

 

「ただ、ミラージュフレームは元々射撃戦専用に設計された機体ではありませんから、そこは調整が必要になります」

 

「じゃあ、そこもお願い♡」

 

「また増えたな」

 

「女には必要なものがいっぱいあるのよ♡」

 

「さっき聞いた」

 

「大事なことだから二回言ったの♪」

 

「ならナンブはゴールドか」

 

「そうなるな」

 

「不満か?」

 

「いや」

 

俺はゴールドフレームを見上げる。

 

「剣が使えるなら問題ない」

 

「本当にそれだけなのね……」

 

「ではミラージュフレームに装備予定でした実体刀をゴールドフレームに合わせておきます」

 

「受け渡しは来年71年の一月を予定しております」

 

「一月か」

 

「はい。まだ調整が必要な部分もありますし、お二人の希望を反映する時間も必要ですから」

 

「分かった」

 

「それまでジンで我慢ね」

 

「十分使える機体だ」

 

「そういう意味じゃないんだけどなぁ」

 

「それと――」

 

エリカがゴールドフレームを見る。

 

「ミラージュフレームに装備予定だった実体刀については、ゴールドフレーム用に調整しておきます」

 

「助かる」

 

「ただ、先ほどバリーさんも言っていた通り、剣を持たせるだけでは不十分でしょう」

 

「ああ」

 

バリーが腕を組む。

 

「お前の動きを機体に合わせるのではない」

 

「?」

 

「機体を、お前の動きに合わせる」

 

「……なるほど」

 

「これから何度か動きを見せてもらうぞ」

 

「構わない」

 

「生身でもな」

 

「ああ」

 

「…………」

 

「…………」

 

エクセレンが二人を見比べる。

 

「ねえエリカさん」

 

「はい」

 

「この二人、もう私たちいなくてもいいんじゃない?」

 

「そんな気がしてきました」

 

「聞こえてるぞ」

 

「聞こえるように言ったのよ♡」

 

◇ ◇ ◇

 

「どうする?」

 

「あっちを半年も留守にするわけにもいかないしね」

 

エリカに向き直る。

 

「俺たちは二週に一度来ればいいか?」

 

「二週に一度、ですか?」

 

「ああ。機体の調整が必要ならその時に行う」

 

「そうですね。それだけ定期的に来ていただけるなら十分だと思います」

 

「私の射撃データもその時に取るの?」

 

「はい。シミュレーターも用意します」

 

「じゃあ退屈しなくて済みそうね♡」

 

「遊びに来るんじゃないぞ」

 

「分かってるわよ」

 

「ナンブ」

 

バリーが声をかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「二週に一度なら、その時にお前の剣も見せてもらう」

 

「構わない」

 

「できれば次は木刀を持ってこい」

 

「分かった」

 

「…………」

 

バリーが笑う。

 

「楽しみにしている」

 

「俺もだ」

 

「ほら」

 

「なんだ?」

 

「やっぱり気が合ってるじゃない♡」

 

「そうか?」

 

「そうよ」

 

エリカまで頷いた。

 

「私もそう思います」

 

「…………」

 

バリーを見る。

 

「…………」

 

向こうも俺を見る。

 

「そうらしいな」

 

「らしい」

 

「なんで二人揃って他人事なのよ!」

 

◇ ◇ ◇

それから俺たちは、二週に一度の割合でヘリオポリスを訪れるようになった。

 

「そういえば、お二人に紹介しておきたい人たちがいるんですが」

 

「誰だ?」

 

「ジャンク屋の方たちです」

 

「ジャンク屋?」

 

「ええ。少し変わった人たちですけど」

 

「変わった?」

 

エクセレンが俺を見る。

 

「ダーリンのお友達候補ね♡」

 

「なぜそうなる」

 

「最近そんな人ばっかりじゃない」

 

バリーが腕を組んだ。

 

「否定はできんな」

 

「お前まで言うのか」

 

そこには眼鏡をかけた白衣の女性と赤髪の青年がいた。

 

「俺はロウ・ギュール」

 

「私はプロフェッサーで通ってる」

 

「プロフェッサーはわたしの古い友人なんです」

 

「へえ、あんたがあのジンのパイロット?」

 

「知っているのか?」

 

「データだけな。あの動き、面白かったぜ」

 

「そうか」

 

「それだけ?」

 

「他に何を言えばいい?」

 

「いや……もっとこう、あるだろ?」

 

「ない」

 

「変な奴だなぁ」

 

「お前に言われたくないと思うぞ」

 

「バリー!?」

 

「なるほどね」

 

プロフェッサーが俺をじっと見ている。

 

「何だ?」

 

「いえ。エリカが面白い人がいるって言うから、どんな人かと思ってたのよ」

 

「俺は面白くないぞ」

 

「そういうところよ」

 

「?」

 

「あらダーリン、もう見抜かれてるわよ♡」

 

「何をだ?」

 

「それが分からないところじゃない?」

 

「分からん」

 

「重症ねぇ」

 

「で?」

 

ロウが俺の方へ身を乗り出した。

 

「あんた、モビルスーツに刀を持たせるんだって?」

 

「ああ」

 

「やっぱり!」

 

なぜか嬉しそうだ。

 

「いいよなぁ、モビルスーツに刀!」

 

「そうか?」

 

「そうだろ! 巨大な機械が刀を持って戦うんだぞ!」

 

「必要だから使うだけだ」

 

「浪漫がねえなぁ!」

 

「必要なのか?」

 

「必要だ!」

 

「そうか」

 

「だからなんでそこで終わるんだよ!」

 

エクセレンが俺の肩を叩く。

 

「ダーリン」

 

「なんだ?」

 

「やっぱりお友達になれそうね♡」

 

「どこを見てそう判断した」

 

「全部♡」

 

そして、ある夜はバーに飲みに行った時、気になる男と知り合った。

 

「ここ空いてるか?」

 

エクセレンはエリカとマリューと女子会?をしに行ったので今日は俺一人だ。

 

「別に誰も来る予定はない。ん?連合軍の人間か?」

 

その男は連合軍の制服を着崩してサングラスを付けていた。

 

「……元、だ」

 

「元?」

 

「今は傭兵をしている」

 

男が隣へ座る。

 

「叢雲劾だ」

 

「キョウスケ・ナンブだ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

会話が終わった。

 

別に困らないので酒を飲む。

 

劾も黙ってグラスを傾けている。

 

「…………」

 

「…………」

 

不思議と居心地は悪くない。

 

「剣をやるのか?」

 

劾が唐突に口を開いた。

 

「分かるのか?」

 

「立ち方でな」

 

「前にも同じことを言われた」

 

「そうか」

 

「ああ」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「お前は、軍人だな」

 

「わかるのか」

 

「濃い戦場の匂いがする」

 

「そうか、だが今は少し立場が変わった」

 

「そうか」

 

「聞かないのか?」

 

「必要ない」

 

「…………」

 

「何だ?」

 

「いや」

 

こいつとは気が合いそうだ。

 

「劾」

 

「なんだ」

 

「連絡先を教えてくれ」

 

「…………」

 

劾がこちらを見る。

 

「仕事の依頼か?」

 

「今は違う」

 

「今は?」

 

「傭兵なら、そのうち頼むことがあるかもしれん」

 

「そうか」

 

劾が端末を取り出した。

 

「叢雲劾。傭兵部隊サーペントテールだ」

 

「サーペントテール?」

 

「仕事があるなら連絡しろ」

 

「分かった」

 

互いの連絡先を交換する。

 

「…………」

 

「…………」

 

「飲むか」

 

「ああ」

 

それからも大した会話はしなかった。

 

だが、不思議と退屈もしなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

「昨日はどうだったの、ダーリン?」

 

「傭兵と知り合った」

 

「…………」

 

「なんだ?」

 

「私はマリューさんとエリカさんと楽しく飲んでたのよ?」

 

「そうか」

 

「ダーリンは一人で飲みに行って、どうして傭兵のお友達を作って帰ってくるの?」

 

「たまたまだ」

 

「名前は?」

 

「叢雲劾。サーペントテールという傭兵部隊にいるらしい」

 

「連絡先まで聞いたの!?」

 

「ああ」

 

「何話したの?」

 

「大したことは話してない」

 

「じゃあなんで連絡先交換してるのよ!」

 

「気が合った」

 

「何で!?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「こういう感じだ」

 

「分かんないわよ!」

 

◇ ◇ ◇

 

それからも二週に一度、俺たちはヘリオポリスを訪れた。

 

ゴールドフレームの調整。

 

ミラージュフレームの射撃試験。

 

バリーとの訓練。

 

ロウたちジャンク屋との交流。

 

時折顔を合わせるマリュー。

 

そして、バーで知り合った傭兵――叢雲劾。

 

そうして季節は流れた。

 

そして――

 

C.E.71年1月25日。

 

俺たちは完成した二機のアストレイを受け取るため、再びヘリオポリスを訪れていた。

 

「ようやく完成か」

 

「半年近く待ったものねぇ」

 

「長かったな」

 

「ダーリン、嬉しそうね♡」

 

「そう見えるか?」

 

「見えるわよ。刀が使えるから?」

 

「それもある」

 

「やっぱり♡」

 

「最終チェックは終わっています」

 

エリカが二機を見上げた。

 

半年前とは違い、ゴールドフレームもミラージュフレームも完全な姿になっている。

 

ゴールドフレームの腰には、こちらの要望通りに仕上げられた実体刀。

 

ミラージュフレームにはエクセレン用に調整された射撃兵装が装備されていた。

 

「あとは実際に動かしていただいて、問題がなければ正式な引き渡しになります」

 

「分かった」

 

「やっと私たちのものになるのね♡」

 

エクセレンがミラージュフレームを見上げる。

 

「壊すなよ」

 

「まだ乗ってもいないのに何で壊す前提なのよ!」

 

「お前だからだ」

 

「失礼ねぇ」

 

『――緊急警報』

 

「…………」

 

「…………」

 

『コロニー内部にて武装勢力との戦闘が発生。住民は直ちに――』

 

エクセレンがこちらを見る。

 

「ダーリン」

 

「なんだ」

 

「私たち、こういうの多くない?」

 

「……否定はできんな」

 

 

 

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