界渡りの不確定な切り札   作:アルフレッド

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第3話リュウセイ・ダテ

――キョウスケside

 

「キョウスケ! アルトアイゼンに変形・合体機構つけようぜ!」

 

格納庫にリュウセイの声が響いた。

 

見ると、アルブレードの装甲を開き、整備を続けながらこちらを見ている。

 

……何を言い出すかと思えば。

 

「断る。アルトアイゼンにそんなものは必要ない」

 

俺はアルトアイゼンの整備を続けながら返事をする。

 

「えー! ロボットには変形、合体だろ!」

 

全く……。

 

「お前の趣味を押し付けるな!」

 

「わかってねぇなぁ、男のロマンだよ!」

 

「分かる必要もない」

 

「いやいや! 考えてみろって! アルトアイゼンがこう、ガシャーン! って変形してさ!」

 

「どこをどう変形させる気だ」

 

「そこはロブたちに考えてもらえばいいだろ!」

 

「他人任せか」

 

「俺はアイデア担当!」

 

「余計な仕事を増やす担当の間違いだろう」

 

「ひでぇ!」

 

隣で整備をしていた隊員たちから笑い声が漏れる。

 

リュウセイ・ダテ。

 

戦場では無茶をすることも多いが、こういう時はどこにでもいるロボット好きの青年にしか見えない。

 

「じゃあ合体は?」

 

「何とだ」

 

「アルブレード!」

 

「断る」

 

「早っ!」

 

「そもそも機体規格が違う」

 

「だったら――」

 

その瞬間だった。

 

格納庫に警報が鳴り響いた。

 

『敵影と思われるものを発見! 機動部隊は発進準備を行ってください!』

 

「!」

 

俺とリュウセイの手が同時に止まる。

 

つい先ほどまでの馬鹿話が嘘だったかのように、リュウセイの表情が変わった。

 

「……敵だってよ、キョウスケ」

 

「ああ」

 

工具を置く。

 

整備途中だったアルトアイゼンを見上げる。

 

「整備班。アルトは出せるか?」

 

「応急処置は終わっています! 戦闘機動には問題ありません!」

 

「十分だ」

 

コックピットへ向かう。

 

隣ではリュウセイもアルブレードへ乗り込もうとしていた。

 

「リュウセイ」

 

「ん?」

 

「変形機構の話は忘れろ」

 

一瞬の沈黙。

 

「まだ言ってんのかよ!?」

 

「念のためだ」

 

「帰ってきたら絶対続きをするからな!」

 

「断る」

 

「だから早ぇって!」

 

俺たちは、それぞれの機体へ乗り込んだ。

 

この時の俺は――。

 

これがリュウセイと交わす、最後の馬鹿話になるとは思っていなかった。

 

『機動部隊、発進してください!』

 

アルトアイゼンのシステムを起動する。

 

「キョウスケ・ナンブ。アルトアイゼン――出る」

 

続いて通信回線から、聞き慣れた声。

 

『リュウセイ・ダテ! アルブレード、行くぜ!』

 

二機は格納庫を飛び出した。

 

――その先で待っているものも知らずに。

 

――キョウスケside

 

アルトアイゼンとアルブレードを発進させ、敵影が確認された宙域へ向かう。

 

『キョウスケ、レーダーに反応!』

 

「ああ、こちらでも確認した」

 

敵は一機。

 

だが、その姿がモニターに映し出された瞬間――。

 

「あれは……」

 

俺は、その機体に見覚えがあった。

 

いや。

 

正確には――前世の記憶で、だ。

 

白を基調とした細身の機体。

 

翼を思わせる異形のシルエット。

 

そして、俺の記憶にあるヴァイスリッターとは明らかに異なる姿。

 

見間違えるはずがない。

 

「あれは……ライン・ヴァイスリッター」

 

『ライン・ヴァイスリッター? 知ってるのか、キョウスケ?』

 

「…………」

 

リュウセイの問いに、すぐには答えられなかった。

 

――まさか。

 

嫌な予感がする。

 

俺はあの航空事故の時、一度死にかけた。

 

アインストの『種』を植え付けられ、意識が消えかけたその時――前世の記憶が蘇った。

 

日本という国で生きていた記憶。

 

そして。

 

『スーパーロボット大戦』というゲームを遊んでいた記憶。

 

そのゲームには――。

 

キョウスケ・ナンブがいた。

 

エクセレン・ブロウニングがいた。

 

リュウセイ・ダテがいた。

 

ライディース・F・ブランシュタインがいた。

 

そして、アクセル・アルマーやヴィンデル・マウザーもいた。

 

最初は混乱した。

 

自分の人生が、前世ではゲームとして存在していた。

 

そんなものを簡単に受け入れられるはずがない。

 

だが――。

 

「…………」

 

俺は隣を飛ぶアルブレードを見る。

 

そこにはリュウセイが乗っている。

 

ゲームのキャラクターではない。

 

ついさっきまで、アルトアイゼンに変形機構を付けろと騒いでいた馬鹿だ。

 

痛ければ叫ぶ。

 

嬉しければ笑う。

 

腹も減る。

 

くだらないことで騒ぎもする。

 

アクセルもそうだ。

 

ライも。

 

ヴィンデルも。

 

そして――エクセレンも。

 

皆、生きている。

 

ここはゲームではない。

 

俺にとっては――現実だ。

 

前世でどんな物語だったかなど関係ない。

 

ここにいる者たちは、『登場人物』などではない。

 

人間として生きている。

 

だから俺は、前世の記憶を攻略本のように考えることをやめた。

 

知識は使う。

 

救えるものがあるなら、使えるものは何でも使う。

 

だが――。

 

前世でそうだったから、この世界でも必ずそうなる。

 

そんな保証はどこにもない。

 

むしろ、すでに歴史は大きく変わっている。

 

それでも。

 

目の前にいる機体だけは、俺の記憶と一致していた。

 

ライン・ヴァイスリッター。

 

そして、この機体が存在するということは――。

 

「……エクセレン」

 

無意識に、その名前が口から漏れた。

 

『え?』

 

「…………」

 

『今、エクセレンって言ったか?』

 

「ああ」

 

俺は操縦桿を握り直した。

 

『まさか、あれに乗ってるのって……』

 

「まだ分からん」

 

そうだ。

 

決めつけるな。

 

ここは俺の知っているゲームではない。

 

だが――確認しなければならない。

 

「リュウセイ」

 

『おう』

 

「俺が前に出る。援護を頼む」

 

『了解!』

 

ライン・ヴァイスリッターがこちらへ機首を向ける。

 

アインスト反応。

 

間違いなく敵性。

 

それでも俺は――。

 

トリガーへ掛けた指に力を込めながら呟いた。

 

「……そこにいるのか、エクセレン」

 

ライン・ヴァイスリッターは速い。

 

いや、速いだけではない。

 

こちらの動きを読んでいるかのように、アルトアイゼンの射線から滑り落ちていく。

 

「くっ……!」

 

三連マシンキャノンを放つ。

 

だが――当たらない。

 

放たれた銃弾の間を縫うように、白い機体がすり抜けていく。

 

そして距離を取った瞬間、こちらへ砲撃。

 

「ちっ!」

 

アルトアイゼンを強引に捻る。

 

直後、先ほどまでいた空間を光弾が貫いた。

 

相性が悪い。

 

アルトアイゼンは本来、敵の懐へ飛び込み、重装甲に物を言わせて一撃を叩き込む近接戦闘型。

 

対するライン・ヴァイスリッターは、高い機動性を活かして距離を維持しながら攻撃を仕掛けてくる。

 

接近できなければ話にならない。

 

『大丈夫か、キョウスケ!』

 

リュウセイから通信が入る。

 

『アルトじゃ相性が悪いんじゃないか!?』

 

「分かっている!」

 

また距離を離される。

 

このままでは捉えられない。

 

それでも――。

 

「だが、それでもあいつは俺が止めなければならない!」

 

『…………』

 

一瞬、通信が静かになった。

 

しまった。

 

自分でも驚くほど声を荒らげていた。

 

だが、リュウセイから返ってきたのは――笑い声だった。

 

『へっ!』

 

「何がおかしい」

 

『熱いところもあるじゃないか!』

 

「何?」

 

『いつもすかした野郎だと思ってたけどよ!』

 

「……お前な」

 

『でも――』

 

リュウセイの声が変わる。

 

『そこまで言うなら……俺に任せろ!』

 

「リュウセイ?」

 

アルブレードが加速した。

 

ライン・ヴァイスリッターへ向かって――ではない。

 

こちらへ向かってくる。

 

「何をする気だ!?」

 

『キョウスケ! そのまま真っ直ぐ行け!』

 

「何?」

 

『いいから!』

 

アルブレードがアルトアイゼンへ急接近する。

 

まさか――。

 

「お前!」

 

『へへっ!』

 

アルブレードが跳んだ。

 

そして――。

 

ガンッ!!

 

「ぐっ!」

 

衝撃。

 

アルブレードの脚が、アルトアイゼンの肩を踏みつける。

 

『借りるぜ、キョウスケ!』

 

「馬鹿! そんな使い方を――!」

 

『こういうのは勢いだろ!!』

 

アルトアイゼンの前進速度。

 

アルブレード自身の推力。

 

さらにアルトの肩を蹴った反動。

 

全てを加速へ変えて――。

 

アルブレードが弾丸のように飛び出した。

 

ライン・ヴァイスリッターが回避運動へ入る。

 

だが――。

 

今度は逃げ切れない。

 

『捕まえたぁぁぁっ!!』

 

アルブレードがライン・ヴァイスリッターへ飛びついた。

 

「リュウセイ!」

 

二機が激しく回転する。

 

ライン・ヴァイスリッターが振りほどこうと暴れる。

 

それでもアルブレードは離れない。

 

『キョウスケ!!』

 

「!」

 

『今だ!』

 

「だが、お前まで――!」

 

『何のために捕まえたと思ってんだ!』

 

「…………!」

 

『お前が止めなきゃならないんだろ!?』

 

リュウセイ。

 

『だったら――』

 

アルブレードの腕が、さらに強くライン・ヴァイスリッターを拘束する。

 

『俺のことなんか気にしてんじゃねえ!!』

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

胸の奥で――何かが熱くなった。

 

リュウセイが身体を張って、ライン・ヴァイスリッターの動きを止めてくれた。

 

なら――俺は!

 

「スクエア・クレイモア!」

 

アルトアイゼンの両肩に装備されたユニット、その前面ハッチが一斉に展開する。

 

狙いをつける必要などない。

 

この距離なら――!

 

「全弾持っていけ!」

 

轟音。

 

ほぼゼロ距離から放たれた無数の散弾が、ライン・ヴァイスリッターへ叩き込まれる。

 

白い装甲が弾け飛ぶ。

 

翼が砕ける。

 

機体各所から破片が飛び散った。

 

『うおおおっ!?』

 

爆風に巻き込まれながら、アルブレードがライン・ヴァイスリッターから離れる。

 

「リュウセイ!」

 

『大丈夫だ! それよりあいつを!』

 

「ああ!」

 

モニターを見る。

 

効いている。

 

決して浅い傷ではない。

 

これなら――。

 

『キョウ……スケ……』

 

「!」

 

聞こえた。

 

微かな声。

 

だが。

 

忘れるはずがない。

 

「エクセレン!」

 

ライン・ヴァイスリッターを見る。

 

「まだ意識があるのか!」

 

『キョウ……スケ……』

 

「エクセレン!」

 

生きている。

 

あの中にいる。

 

なら――助けられる!

 

そう思った。

 

その瞬間だった。

 

「なっ……!」

 

ライン・ヴァイスリッターの傷口が蠢いた。

 

砕けたはずの装甲。

 

抉れた機体。

 

そこから赤黒い何かが溢れ出す。

 

――アインスト。

 

「くそっ!」

 

俺たちが与えた傷を埋めるように、異形の組織が増殖していく。

 

破壊された翼が形を取り戻す。

 

装甲が塞がる。

 

ライン・ヴァイスリッターが――再生していく。

 

そして。

 

――邪魔ね。

 

「……!」

 

声。

 

エクセレンとは違う。

 

だが――。

 

どこかで聞いたような。

 

いや。

 

俺は、この声を――。

 

考える暇はなかった。

 

ライン・ヴァイスリッターがハウリング・ランチャーを構える。

 

砲身が回転する。

 

狙いは――。

 

俺だ。

 

「ちっ!」

 

回避――。

 

間に合わない。

 

その時。

 

『あぶねえ!!』

 

「!?」

 

横から衝撃。

 

アルトアイゼンの巨体が弾き飛ばされた。

 

「リュウセイ!?」

 

アルブレード。

 

リュウセイが――俺を突き飛ばした。

 

そして。

 

俺がいた場所へ。

 

アルブレードが入る。

 

ハウリング・ランチャーの真正面。

 

「馬鹿! 避けろ!!」

 

『へへっ……』

 

「リュウセイ!!」

 

『間に合ったな』

 

ハウリング・ランチャーが――発射された。

 

ハウリング・ランチャーの光が――アルブレードを貫いた。

 

いや。

 

リュウセイを、貫いた。

 

「リュウセイ!!」

 

アルブレードが力を失う。

 

俺は反射的にアルトアイゼンを寄せ、その機体を支えた。

 

「リュウセイ! 応答しろ!」

 

返事がない。

 

「リュウセイ!!」

 

『……ふうっ』

 

「!」

 

通信から声が聞こえた。

 

だが――リュウセイではない。

 

『興が失せましたわ』

 

ライン・ヴァイスリッター。

 

『今日はここまでで、見逃して差し上げます』

 

「待て!」

 

白い機体が翼を広げる。

 

「エクセレン!!」

 

返事はなかった。

 

ライン・ヴァイスリッターはそのまま上昇し――夜の闇へと消えていった。

 

追うことなどできない。

 

今は――。

 

「リュウセイ!」

 

アルブレードを地上へ降ろす。

 

アルトアイゼンのコックピットを開き、機体を飛び降りる。

 

「リュウセイ! 無事か!」

 

返事はない。

 

アルブレードのコックピットハッチは歪み、開かなくなっている。

 

「くそっ!」

 

隙間へ手をかける。

 

「開け……!」

 

力任せに引く。

 

動かない。

 

「開け!!」

 

金属が軋む。

 

アインストを取り込んだ影響なのか。

 

それとも火事場の馬鹿力なのか。

 

そんなことはどうでもいい。

 

「リュウセイ!!」

 

ハッチを――無理やりこじ開けた。

 

「…………」

 

中に。

 

リュウセイがいた。

 

「……リュウ……セイ……?」

 

一瞬。

 

何が起きているのか理解できなかった。

 

上半身はある。

 

顔もある。

 

いつものリュウセイだ。

 

だが――。

 

その下が。

 

ない。

 

ハウリング・ランチャーはアルブレードの装甲だけではなく、コックピットを貫通していた。

 

リュウセイの下半身ごと――消えていた。

 

「…………」

 

理解を拒んだ。

 

目の前にあるものを、

脳が現実として認めようとしない。

 

「……リュウ……セイ?」

 

『……よう』

 

「!」

 

リュウセイが薄く目を開ける。

 

「リュウセイ!」

 

『無事か?』

 

「……何を……」

 

こんな状態で。

 

最初に俺の心配か。

 

「馬鹿野郎……! 自分の心配をしろ!」

 

『へへ……』

 

力なく笑う。

 

『なら……無事みたいだな』

 

「喋るな! 今、救護を――」

 

『いいって』

 

「黙れ!」

 

『キョウスケ』

 

「黙っていろ! すぐに――」

 

『俺は……ここまでのようだ』

 

「…………」

 

「何を……言っている」

 

『自分の身体くらい……分かるって』

 

「…………」

 

 

『ゲームじゃねえんだからさ』

 

「!」

 

 

その言葉に、俺は何も返せなかった。

 

そうだ。

 

ゲームじゃない。

 

最初から分かっている。

 

ここは現実だ。

 

だから――。

 

失った命は。

 

リセットして、やり直すことなどできない。

 

「……死なせん」

 

それでも。

 

俺はそれしか言えなかった。

 

「お前は死なせん」

 

『無茶……言うなよ……』

 

「無茶でも何でもする!」

 

『……へへ』

 

また笑った。

 

『やっぱ……熱いじゃねえか』

 

「…………!」

 

『すかした野郎だと……思ってたけどよ……』

 

「リュウセイ……」

 

『お前……結構……熱い奴だぜ……』

 

「喋るな……」

 

『キョウスケ』

 

「……なんだ」

 

『さっきの……』

 

「?」

 

『アルトの変形……』

 

「…………」

 

『やっぱ……考えといて……くれよ……』

 

「…………馬鹿が」

 

『男の……ロマン……だからな……』

 

「……分かった」

 

『え……?』

 

俺はリュウセイの手を握った。

 

「考えておく」

 

『へへ……』

 

ほんの少しだけ。

 

リュウセイが笑った。

 

『やっと……分かったか……』

 

「ああ」

 

『遅えよ……』

 

「……すまん」

 

その手から。

 

少しずつ――力が抜けていった。

 

『キョウスケ! アルトアイゼンに変形・合体機構つけようぜ!』

 

――少し前まで、そんな馬鹿なことを言っていた。

 

『ロボットには合体だろ!』

 

『お前の趣味を押し付けるな!』

 

『わかってねぇなぁ、男のロマンだよ!』

 

本当に。

 

馬鹿な奴だ。

 

「リュウセイ……」

 

返事はない。

 

目を閉じたリュウセイの手から、完全に力が抜けていく。

 

「…………」

 

その時だった。

 

「……なんだ?」

 

何かが――流れ込んでくる。

 

リュウセイから。

 

俺の中へ。

 

温かい。

 

だが同時に、焼けつくように熱い。

 

これは――。

 

「念動力……」

 

言うまでもない。

 

俺はこの感覚を知っている。

 

アヤから力を託された、あの時と同じ。

 

だが――まったく同じではない。

 

アヤから受け取った力とは違う何かが、俺の中で渦巻いている。

 

熱い。

 

どこまでも真っ直ぐで。

 

馬鹿みたいに真っ直ぐで。

 

まるで――リュウセイそのもののような力。

 

「…………」

 

またか。

 

また――俺だけが受け取るのか。

 

アヤが死んだ。

 

そして今度はリュウセイが死んだ。

 

その二人が持っていたものだけが――俺の中に残っていく。

 

「……ふざけるな」

 

拳を握る。

 

「こんなもの……!」

 

力が入る。

 

「こんなものより……!」

 

声が震える。

 

止められない。

 

「リュウセイにも……!」

 

アヤの姿が脳裏に浮かぶ。

 

あのカプセル。

 

脳と脊髄だけになってなお、最後まで意識を保っていた彼女。

 

――受ケ取ッテ。

 

「アヤにも……!」

 

そして目の前には。

 

もう二度と目を開けないリュウセイ。

 

――ゲームじゃねえんだからさ。

 

分かっている。

 

そんなことは――最初から分かっている!

 

ここはゲームじゃない。

 

俺にとっては現実だ。

 

リュウセイも。

 

アヤも。

 

ライも。

 

アクセルも。

 

ヴィンデルも。

 

エクセレンも。

 

ゲームの登場人物なんかじゃない。

 

生きている人間なんだ!

 

だからこそ――。

 

「生きていて欲しかった!!」

 

声にならない叫びを、俺は吐き出した。

 

力などいらない。

 

念動力などいらない。

 

サイコドライバーだろうが何だろうが知ったことか。

 

そんなものと引き換えに仲間を失うくらいなら――。

 

「俺は……!」

 

リュウセイの亡骸を前に。

 

俺は拳を握り締めた。

 

「俺は、こんなものが欲しかったんじゃない……!」

 

返事はない。

 

ただ。

 

俺の中には確かに――。

 

アヤから受け取ったもの。

 

そして。

 

リュウセイから受け取ったもの。

 

二つの念動力が存在していた。

 

消すことも。

 

返すこともできない。

 

なら――。

 

「…………」

 

俺は目を閉じる。

 

力はいらない。

 

だが。

 

二人が最後に残したものまで否定することは――できない。

 

「……分かった」

 

誰に言ったのか、自分でも分からない。

 

アヤか。

 

リュウセイか。

 

それとも――自分自身か。

 

「受け取る」

 

ゆっくりと目を開ける。

 

「だが……これ以上は御免だ」

 

仲間が死ぬたびに強くなる。

 

そんなものを成長とは呼びたくない。

 

「次は――」

 

リュウセイの顔を見る。

 

「死なせない」

 

――現在。

 

「…………」

 

俺は意識を現実へ戻した。

 

目の前には、あの時と同じ白い機体。

 

ライン・ヴァイスリッター。

 

あの日。

 

リュウセイを奪った機体。

 

そして――

 

惚れた女を閉じ込めている機体。

 

「エクセレン……」

 

操縦桿を握る手に力が入る。

 

あの時とは違う。

 

アヤを救えなかった。

 

リュウセイも救えなかった。

 

そしてエクセレンも――あの日、取り戻せなかった。

 

だが。

 

「今度こそ……」

 

アルトアイゼンをライン・ヴァイスリッターへ向ける。

 

「今度こそ俺は――」

 

もう、失うつもりはない。

 

「エクセレン! お前を取り戻す!」

 

ライン・ヴァイスリッターがハウリング・ランチャーを構えた。

 

俺もアルトアイゼンの操縦桿を握り直す。

 

今度は――退かない。

 

――第3話 END

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