界渡りの不確定な切り札 作:アルフレッド
イスルギ重工side
「社長!もうだめです!アインストがそこまで迫ってきています!」
ここはほど近い都市にあるイスルギ重工の本社ビル。都市そのものが骨のような姿や植物を模したようなアインストに攻められて二日たっている。
イスルギ重工本社ビルはアーマードモジュールを製造する軍需企業だけあって、有事への備えもしていた。傭兵を雇いビル周辺を守っていた。
だがアインストの無限のような戦力に防衛線はじりじりと下がっていた。
「諦めるな!周囲の軍籍の艦に救援コードをとばしている!」
イスルギ重工社長【レンジ・イスルギ】、世間では悪辣な死の商人のように言われるが抜け目がなく辣腕なだけであった。
「社員の避難は!」
「地下シェルターへの収容、八割完了しています!」
「役員どもは後回しだ! 技術者と工員を先に入れろ! 人材がいなければ会社など建て直せん!」
「ミツコはどうした!」
「お嬢様はまだ第3区画で避難誘導を――」
「何をやっている、あの馬鹿娘は!」
イスルギ重工第3区画side
「みんな!専務役員室の本棚の裏が地下シェルターの入り口になっているわ!そこから入るとより地下シェルターが近くなっているわ!」
そこには作業員たちを誘導するチャイナドレスの妙齢の美女の姿があった。
「お嬢様!そこはわたくし専用の入り口で……」
ミツコは無言で蹴り飛ばす。
「さあ早く!押さない駆けないしゃべらない!でも急いで!あなた達はイスルギ重工の大事な財産なの!こんなところで死なすわけにはいかないわ!」
「お嬢様も早く我々と地下シェルターに向かってください!お嬢様こそイスルギ重工を背負って立つお方!無事でいてもらわないと!」
「大丈夫私だって死ぬつもりはないわ!あなた達が無事地下シェルターに入ったら私も行くわ!」
◇ ◇ ◇
「これで……全…員ねっ!」
ミツコは専務を蹴り入れた。
「さて私も……入れませんでしたわね」ズズゥ・・・・ン
入ろうとした瞬間――その瞬間、爆発がおこり通路が崩落してしまった。
「ふう、巻き込まれなかっただけましと思ませんと仕方がないですわね。」
(この近くの他の地下シェルター入り口は……名ばかりの相談役室の専用入り口が近いですわね。……まったく。こんなところで死んだらお父様に地獄で何と言われることやら)
(急ぎませんと!)
ミツコは所々崩落している通路を走り出した。だが渡り廊下を渡ったところで壁を破壊して骨型のアインストが現れる!
「これがアインスト……さすがに本物は迫力が違いますわね」
冷や汗を流しながら悪態を付けるんだから大したもんだよ。
だが幸いにもミツコが見たアインストは縦一文字に真っ二つに斬られていた。
キョウスケside
「救援部隊ですの!? でしたら本社正面より第二区画へ戦力を回してください! あちらの防衛線が限界です!」
ちょうど修理が終わったアルトに搭乗してシシオウブレードを振っていた俺はなぜか救助したはずの女性から指示を受ける。
「……助けられた直後に指示を出してきたぞ」
レモンは通信画像の中から笑いながら
「なかなか面白い子ね♪」
と通信を送る。
「お嬢さん大丈夫だ。そちらにはうちの精鋭部隊が回っている。そちらは大丈夫だからこちらの避難誘導に従ってくれ!」
第二区画に回るとすでにアクセルのソウルゲインに砕かれた植物型アインスト残骸が多数散らばっていた。
「アクセル!そっちも救助完了したか」
「ああ、だがこの社長さんの機体を舐めまわすように見る目が怖いんだが……」
「あら、お父様まだ無事でしたのね。てっきり次は地獄で再会することになるかと思っていたんですが。」
次はアルトを舐めるように見つめながら
「ふん馬鹿娘が、馬鹿娘に心配されんでも自分の身は自分で守るわい。しかしこの機体が元はゲシュペンストか。ゲシュペンストMkⅢと呼ばれとる機体じゃな。ずいぶんピーキーな機体のようだがそれを操る腕も並ではないという事か」
「しかし今回は助けていただいて礼を言う。この会社は我が宝。そしてこの会社は社員がいてこそだ。そのうえ娘を助けていただいたのだ。何か礼をせねばなるまい。」
どうやら噂とは違い義理堅い人物ではあるようだ。だが……
「礼は必要ない。救難信号を受けたから救助しただけだ」
「そうはいきません!このイスルギ重工社長レンジ・イスルギ。貸しは作っても借りは早めに返す主義でしてな。商売というものは貸し借りを曖昧にするとろくなことにならん」
とはいってもな。
「レモン、何か必要なものはあるか?」
通信機でレモンに聞くとしよう。俺は前線で戦うだけだしな。
「正直、足りないものだらけよ。食料の備蓄や予備の部品、一番足りないのは人材だけどね」
「……待て。今、足りないものだらけと言ったか?」
「食料の調達は誰が?」
「必要な時に現地で」
「部品在庫の管理は?」
「整備班ね」
「資金は?」
「手弁当ね。たまにテロリストを襲って補給してるわ」
イスルギ親子が呆れた顔で頭を抱えている。まあ仕方あるまい。俺たちは反乱軍だ。正規軍からの補給があるわけではない。
「待て待て待て。お前たち、この戦力をどうやって維持しておる?」
「だから手弁当だと言ったでしょう?」
「弾薬は!?」
「拾ったり奪ったり作ったり」
「燃料!」
「現地調達ね」
「給与!」
「出してないわ」
「保険!」
「何それ?」
「…………ミツコ」
「はい、お父様」
「行け」
「嫌ですわ」
眉間を抑えながらレンジは娘に、手塩にかけた経営者としての才能を持つ娘に命令した。
「この方々を放置したら、助けてもらった恩人が戦死するより先に経営破綻する」
まあ、その可能性は高い。否定はしない。正直助かる。
その隣でミツコからレモンへの尋問が始まっていた。
「……レモンさん」
「なぁに?」
「帳簿を見せていただけます?」
「帳簿?」
「…………」
「…………」
映像通信機越しに無言で二人が見つめ合っている
「どうした?」
「帳簿がないそうですわ」
「そうなのか。俺も門外漢だから見たことは無いな」
「そうなのか、ではありませんわ!!」
ミツコの怒声が響く!
「この規模の軍をどうやって今まで維持していけたのか不思議でたまりませんわ!」
「だから山賊を襲って……」
「おだまり!」
「そもそも山賊を襲って補給とは何ですの!」
まあ、そこは否定しておこう
「テロリストだ」
「どちらでも同じですわ!」
そうか、そうだな。でもたまに海賊もいるぞ?
「これから私があなた方の経理を担当させていただきます!異論反論は認めません!今後、補給については私の許可を通していただきます」
「わかった。俺の方からヴィンデルに伝えておく」
「ヴィンデル様とは誰ですの?」
「うちの司令官だ」
責任を押し付けよう
「そう……、まだ問い詰める方がいるようですね」
「ミツコをしばらくお前たちに出向させる。イスルギ重工からの礼の一部と思ってくれ」
「物資、資金の方もわしの方で何とかする。補給部隊を作って連絡を取れるようにしておいてくれ」
「わかった……これで猪を狩る必要が無くなるのか」
俺の独り言に反応したのか
レモンが同じくつぶやいた
「キョウスケお手製の牡丹鍋おいしいのよねぇ」
「ちょっとお待ちなさい! まさか食料調達というのは――」
「猪とか鹿だな」
「山菜も採るわよ♪」
「魚も釣る」
「…………」
「あなた方は軍隊ですの!? 猟友会ですの!?」
「食えるものは食った方がいい。食料となる命に貴賎はないぞ。牡丹鍋嫌いか?」
「……食べたことありませんわ」
「今度ごちそうさせてもらおう」
なかなかの美味だぞ。秋に脂ののった猪は特にうまい。ジビエ料理は得意分野だ。 そういえばリシュウ先生のところで気配を消せるようになったから獣も魚も捕獲しやすくなるかもな。 ところでなんでレモンはにやにや笑っているんだ。それにレンジ社長はは頭を抱えているし。
「そういえばどうやら周囲のアインストを排除できたようだ。地下シェルターの避難した社員を解放してやらなくていいのか?」
「そうだな、瓦礫の撤去も手伝わせてもらおう」
いたのかアクセル。
「そのあと、うちの旗艦シロガネに案内しよう」
◇ ◇ ◇
「あら、ガーリオンカスタムがあるんですのね」
俺は今イスルギ親子をシロガネに案内している。
「ああ、俺の兄弟子の薪が使っている」
「マキ、女性の様な名前ですのね」
「本人はむさくるしいひげ面だがな」
「ほう、ガーリオンか。だいぶ手が入っとるな」
レンジも目を付けたようだ。当然だ自社製品だしな。
「しかもこのガーリオン表面は傷だらけだ。かなり歴戦の様だな。
「ところでマキさんは?」
「ムラタだ。」
「はい?」
「ムラタ・ケンゾウ。俺の兄弟子だ」
「では先ほどの『薪』とは?」
「先生があれを割れと言った」
「…………」
ミツコはかなり理解不能な顔をしている。まあ当然だ。
あの時は俺もAMを割れと言われてるのかと思ってかなり理解不能だったからな。
事情を説明しておこう……
「なるほど。それであのガーリオンを持ってきたのか」
「先生からムラタごと預かった」
「人間を機体の付属品のように言うな」
しかたがない。
俺が預かったのはガーリオンでムラタはついでだしな。
「パイロットにもお会いしてみたいですわね」
「なら営倉に行くか」
◇ ◇ ◇
「出せぇぇぇぇ!! 俺を誰だと思っている!!」
「…………」
「兄弟子だ」
「なぜ簀巻きなんですの?」
「暴れるからだ」
二人とも無表情になっているな
あ、冷や汗が。
「……ミツコ」
「なんですの、お父様」
「お前、本当にこいつらについて行けるか?」
「今さら不安になるようなことを言わないでくださいまし!」
基本ムラタとレモンが特別変人なんだと思うがな……
◇ ◇ ◇
「初めましてヴィンデル・マウザーと申します。このシャドウミラーの司令官兼シロガネの艦長をやっております」
ムラタを見せてきたと言ったら体裁を整えようと一生懸命だな。
「初めましてイスルギ重工の社長をやらせてもらっているレンジ・イスルギと申します。こちらは我が娘ミツコです」
「初めましてミツコです」
「この度はキョウスケさんたちには非常にお世話になりまして」
「いえいえ、私も振り回されっぱなしなんですよ」
「お礼と言っては何ですが物資と資金を補給させていただこうかと。それも定期的に」
「それは助かります!経理に明るいものがいないので非常に苦労していますから」
「それはわかります。ですので経理及び監査としてうちの娘ミツコをシャドウミラーに置いていただけないかと思いまして」
「ミツコさんご本人はよろしいのですか?」
ヴィンデルはミツコの顔をうかがうように見ている
「……先ほど帳簿すら存在しないと伺いました」
「…………」
「放置できませんわ」
「…………申し訳ない」
「さらに私共イスルギ重工がスポンサーになるんですから監査をやらせていただかないといけないのは当然だと思いませんか?」
「よろしくお願いします」
後で胃薬を調達してやるか。たしか熊の胆だったな。
レンジはさらに。
「シロガネの補修もやらせていただきます。大分あちこち痛んでるようですので」
「非常に助かります」
それは助かる、俺も頭を下げておこう。
「命を救ってくれた恩です。この程度大したことはありません。その間に補給部隊の編成もお願いいたします」
「ヴィンデル。レイディバードが確かあったな。補給部隊をピート・ペインに任せてみよう」
「ふむ、レモン。W03の調整は大丈夫か?」
「大丈夫よ。もともと前線指揮官モデルだもの。そのくらい大丈夫よ」
二人の前でそこまで言っていいのか?俺は名前までしか言ってないぞ?
……大丈夫の様だな。軍隊のNeed-to-Knowの原則はわかっているようだ。聞かないふりをしてくれている。
「後ほどピート・ペインを紹介いたします」
「「よろしくお願いいたします」」
イスルギ親子が頭を下げてくる。
ヴィンデルもそろそろ話を切り上げるようだ。
「ふむレモン。ピート・ペインを連れてきてくれ。紹介と一緒にレンジ社長を送らせよう」
「そうね。そうした方が手間も省けるわね」
◇ ◇ ◇
「ではミツコ、しっかりやれ」
「誰に言っていますの、お父様。それより会社の方こそお願いしますわよ」
「誰に言っとる」
俺の目の前では感動的な親子の別れが繰り広げられてる。
レンジはレイディバードに向かって歩いていく。と、立ち止まりこちらを振り向いて
「……身体には気をつけろ」
「……お父様も」
「キョウスケさん娘をよろしくお願いします」
「責任をもってお預かりいたします」
「何を言ってるんだか。……次に会った時に会社を傾けていたら承知しませんわよ」
「誰に向かって言っとる、この馬鹿娘!」
ミツコはイスルギ重工へ向けて発艦するレイディバードを見送ると
「さて!資材を確認いたしますわよ!」