界渡りの不確定な切り札 作:アルフレッド
病院side
「院長大変です!」
「落ち着きたまえ、どうした婦長」
「西の方から怪物たちが迫ってきています!」
「何!しかし病院で雇っている警備隊の方々がいるだろう!」
「はい警備隊の方々もPTに乗って戦闘準備を始めてくださっていますが数が多いようです。地下シェルターへの移動の準備を!」
「うむ、看護師や医師たちに入院患者の移動指示を出す!だが自分たちもケガをしないようにな!」
シロガネside
ミツコが汗をかきながらコンピューター端末に向かっている。
「大分帳簿への移行が進みましたわ。まさかこんなにひどいとは……」
「部品の予備は偏っているし、弾薬も偏っている。食品は肉類は豊富なのに野菜類はほとんどない!そのくせ酒類はたくさんある!肉類も狩猟頼み!ほんとに野蛮人なんだから!レモンさんはよくこんなところで暮らしていけましたわね。」
「人員も兵士は多いけど指揮官はアクセルさんとキョウスケさんだけ!ヴィンデルさんはどうやら常識人らしいですが……。レモンさんは自分の研究を優先しすぎ!」
目にクマができている。大分徹夜したようだ。デスクの脇にレモン特製の栄養ドリンクが並んでいる。
「調理は兵士たちの持ち回り、まあこれは仕方がないですわね。そういうところは多いと聞いています。専門の調理師がいれば食品が偏ったりはしないでしょうし。」
「問題は医薬品とそれを扱う医師、看護師ですわ!全然いない!こればかりは持ち回りという訳には行かないでしょうにレモンさんが代理を務めてるようですが……」
「せめて医師一人、看護師数名は必要ですわね……」
と独り言をつぶやいたところで突然。
ビーッ! ビーッ!
「緊急救難信号!」
「今度は何ですの!?」
「近隣の病院がアインストに襲撃されています!」
「病院!?」
病院side
「自ら動けない重症患者を優先的に運んでくれ!」
茶髪の若い医師が叫んでいる。
看護婦は脚を骨折している患者の補助をして地下シェルターに案内している。
「慌てないでください!この病院は警備隊に守られています!慌てないで避難してください!」
蒼い髪をした看護師が……クスハ・ミズハが叫んでいる。
「クエルボ先生! こちらの患者さんはどうしますか!?」
クスハがクエルボ……クエルボ・セロに尋ねる。
「その患者さんは動くのが難しい。俺がベッドごとエレベーターまで運ぶからクスハ君は一緒に地下シェルターに避難してくれ!」
「いえ!わたしはまだ避難させないといけない患者さんを探します!患者さんを残して避難するわけには行けません!」
「クスハ君、気持ちは分かる。だが君まで倒れたら患者が一人増え患者を助ける人間が一人減る。それだけは忘れるな!」
「……はい! 無茶はしません!先生こそまだ正規の医者じゃないのに!」
「非常時に研修医も正規の医師もあるか! 医者が必要なら俺がやる! クスハ君は東側を頼む! 俺は西側に行く!」
と言って走っていく。
「誰か残っていませんか!」
クスハが病室を声掛けしながら確認していくと一つの病室にたどり着く。
その病室は……病室のネームプレートには『ユキコ・ダテ』と書いてあった。
「失礼します! 避難は――」
「ユキコおばさま!まだ避難していなかったんですか!」
「他の若い方々を優先してもらっただけですよ。私は……もう生きていく気力がないから」
その手には手紙が握られている。
「まだそんなことを!あのリュウセイ君が簡単に死ぬわけないじゃないですか!何かの間違いに決まっています!ほら避難しますよ。」
「でも、クスハちゃん――」
「でもじゃありません!」
「リュウセイ君が帰ってきた時、おばさまがいなかったらどうするんですか!わたしはリュウセイ君にどんな言い訳をすればいいんですか?ほら行きますよ!」
「おばさまの体は治ってるんです。クエルボ先生が持ってきてくれた新しい治療法で!」
そこにクエルボ医師が飛び込んでくる。
「ここか!クスハ君まだいたのか!ユキコさんが最後の患者さんだ!急いで避難するぞ!」
そう言ってクエルボはユキコを担ぎ上げるとエレベーターホールに向かおうとする。
「クエルボ先生、西側は?」
「……警備隊が持たない。急ぐぞ」
三人がエレベーターホールにたどり着く直前。
ギィィィィィィィ――ッ!!
突然、金属とも獣ともつかない甲高い異音が病院内に響き渡った。
「っ!?」
「……まずい、もうここまで来たのか!」
西側の通路。その壁が内側へ大きく膨らみ――次の瞬間、粉々に吹き飛んだ。
そこには骨の姿を模した怪物が迫ってきていた。
「(助けて……助けて……助けてリュウセイ君!)」
キョウスケside
「病院の防衛線が突破された!」
通信から悲鳴にも似た報告が飛び込んでくる。
「患者の避難状況は!」
「ほぼ完了しています! ですが生命反応が三つ、まだ地上階に残っています!」
三人――。
「場所は!」
「東側エレベーターホール付近!」
「わかった!」
俺はアルトのスロットルを押し込んだ。
「先行する!」
クスハside
骨の怪物が腕を振り上げる。
クエルボ先生はユキコおばさまを抱えている。
私が――
私が二人を守らないと!
だけど足が動かない。
「(リュウセイ君――!)」
怪物の腕が振り下ろされた。その瞬間!
天空からまばゆい光が下りてきた。
三人が目を開けるとそこには巨大な虎と龍が三人に背を向けてかばうように立っていた
「何が起きたの!」
キョウスケside
「生命反応三つを確認……それと大型反応が二つ?」
「……病院からの救難信号だったよな?」
「そのはずです!」
「なぜ龍と虎がいる」
虎がアインストを攻撃し龍が三人を守るように背中を向けている
「……俺は医学研究者なんだが、誰か医学的に説明してくれないか」
(我龍王機、有資格者の思いにこたえて召喚されり)
(我虎王機、有資格者の願いにこたえて召喚されり)
((我ら、有資格者を護るものなり))
「今の声は龍と虎の声?」
何!今の頭に響く声をあの看護師も聞こえたのか?
『そこの看護師さん!君にも今の龍と虎の声が聞こえたのか!』
「は、はい!『我ら、有資格者を護るものなり』って!」
『そちらの二人は!?』
「クエルボ先生、今の声は?」
「いや。俺には何も聞こえなかった」
「ユキコおばさまは?」
「……聞こえました。龍王機……虎王機と……」
(俺、あの看護師、それにユキコという女性には聞こえた。だが医師には聞こえていない)
(有資格者……何の資格だ?)
『有資格者とは何だ!』
(…………)
『おい!』
(…………)
「返事がありませんね……」
『都合の悪いことは答えないタイプか』
まあいい今は敵の敵は味方だ!
『話は後だ! そこの三人は龍に任せる! 俺は虎を援護する!』
シシオウブレードを構えてアインストに突貫する!
今のアルトとキョウスケにとってアインストクノッヘンなど大した相手ではない。次々と斬り捨てていく。
……だが、相手はアインストクノッヘンだけではない。歪にうごめく植物型アインストが混じっている。
『虎王機!そっちは任せる!俺は植物型を相手にする!』
とはいえ相手は植物、弾丸や杭は効果が薄い。ここはやはりシシオウブレードをふるう。
ツタを伸ばして攻撃してくるが刃ならば断ち切れる!
一本、二本――いや、まだ来る。
ツタの動きだけを見るな。根元を見ろ。
どこから伸び、どこへ力が流れている。
リシュウ先生に言われたことを思い出しながら、俺はツタをいなし、その根元へ踏み込む。
「そこだ!」
シシオウブレードを一閃。
植物型アインストの胴体が斜めに両断された。
虎王機の方も爪を出して骨型アインストであるアインストクノッヘンを砕いていく。
◇ ◇ ◇
それほど苦労もなく病院を囲んでいたアインストは排除できた。しかしなぜアインストはここを襲っていたのだろうか。
俺はアルトアイゼンを降りると二機並んでいる龍王機と虎王機に再度話しかける。
「龍王機よ、虎王機よ、この度は助かった礼を言わせてもらう!再度聞かせてもらう!有資格者とは何だ?」
(…………)
やはり口を閉ざしたままか……
俺は向き直って三人に話しかける。
「挨拶がまだでしたね。俺はベーオウルフ所属のキョウスケ・ナンブと言います」
「「ベーオウルフ!?」」
二人の女性が驚いたように反応する。
「……俺たちを知っているんですか?」
「はい! リュウセイ君から聞いたことがあります!」
「リュウセイが所属していた……?」
ユキコさんと呼ばれていた女性も俺を見る目が変わった。
「あなた……リュウセイをご存じなんですか?」
「…………」
その名前を聞いて、俺は言葉に詰まった。
「申し遅れました。私は伊達ユキコです。リュウセイ・ダテの母です」
「……そうでしたか」
「リュウセイをご存じなんですね?」
「……はい」
「でしたら教えてください。あの子は……」
ユキコさんが握りしめている紙が目に入った。
戦死通知――か。
「本当に……死んだんでしょうか」
(有資格者については気になる。だが今は――)
「そんな……キョウスケさんはリュウセイ君と一緒に戦っていたんですよね!? だったら、本当のことを知ってるんですよね!?」
(この子もリュウセイの関係者か……)
「正直に話させていただきます。俺はリュウセイとは戦友でした。リュウセイはアインストと戦って」
「亡くなりました」
「やはり……」
ユキコさんは戦死通告を抱きしめて泣き出した。静かな涙だ。戦死通告で覚悟はしていたのだろう。だが俺の言葉が、わずかに残っていた希望まで断ち切ってしまった。
……それでも、嘘をつくことはできない。
「ですが――」
ユキコさんが顔を上げる。
「リュウセイは最後まで戦っていました」
「あの……リュウセイ君が……簡、単、に死ぬわけないじゃないですか!」
「……そんな……」
蒼い髪の看護師の目から大粒の涙がこぼれた。
「本当に……リュウセイ君……死んじゃったんですか……」
「簡単に死んだわけじゃありません」
「……え?」
看護師が俺を見る。
「あいつは最後まで戦っていました。仲間を守るために。俺もあいつに助けられた一人です」
「リュウセイが……」
「はい」
「……あの子は、怖がっていませんでしたか?」
ユキコさんが涙を拭うこともせず俺に尋ねてくる。
「……怖くなかったとは言いません。俺にはあいつの心の中までは分かりませんから」
俺は一度言葉を切った。
「ですが、逃げませんでした」
「…………」
「最後まで仲間と一緒に戦っていました。それだけは俺が保証します」
「そう……あの子らしいですね……」
「クスハさん……ですか?」
「……はい」
「リュウセイからあなたの名前を――聞きました」
「看護師として人を助ける職業に就いた誇らしい幼なじみがいると」
「リュウ……セイ……君」
ふたりはしばらく静かに涙を流していた……
◇ ◇ ◇
しばらくして二人が落ち着いた頃、俺たちは改めて自己紹介をすることになった。
「申し遅れました。私はこの病院で医学研究者をやっているクエルボ・セロというものです」
「ユキコさんの主治医を兼任しています」
「クスハ・ミズハです。先ほど言ったリュウセイ君とは幼なじみでここで看護師見習いをしています。」
「名前は言いましたね。キョウスケ・ナンブです。今はシャドウミラーの隊長をしています」
「よろしければ病院がこの状態です。がれき撤去はうちの部隊でやらせていただきますから戦艦の……シロガネの方で休憩なさってはいかがですか?」
「……ユキコさん。今は休みましょう」
「そう……ですね」
「クスハ君もだ。君も今日は働きすぎだ」
「でも先生だって……」
「俺のことはいい」
「よくありません!」
「先生が倒れたら今怪我をしている患者さんたちを誰が診るんですか!」
「…………いや、それは。」
クエルボ先生が言葉に詰まる。
「さっき先生が言ったんですよ!『自分まで倒れたら患者が一人増えて、患者を助ける人が一人減る』って!」
「……覚えていたのか」
「当たり前です!」
「……わかった。俺も休ませてもらおう」
「はい!」
「お三方をシロガネに案内させていただきます。他の患者さんや医療技術者の方も他の戦艦と分乗して保護させていただきます(まだ見習いらしいが、いい看護師になりそうだな)」
「いや、他の患者の状態を確認してから――」
「先生!」
「……はい」
少し和んだんだろうユキコさんがクスハとクエルボのやり取りを見て、
「……ふふっ」
っと微笑んだ。
◇ ◇ ◇
お三方はシロガネで休んでもらっている
「さてあとはお前たちの処遇か」
俺の前には龍王機と虎王機がお座りしている。
「いい加減教えてもらうぞ。有資格者とは何だ?」
(「有資格者」とは、超機人に搭乗し、我ら超機人の力を引き出す者のこと)
(「有資格者」とは、超機人が選びし、我ら超機人の力を引き出す者のこと)
リシュウ先生が言ってた超機人の話を思い出す
「お前たちがその超機人なのか?」
((我ら四神の超機人なり)
「ではもう一つ聞く。有資格者とはあの二人――クスハさんとユキコさんのことか?」
(然り)
(然り)
「……俺にもお前たちの声が聞こえているんだが?」
(…………)
(…………)
「おい」
((汝もまた有資格者なり))
「…………」
((汝も我らの声を聞く者))
「……そうか」
「だが俺には俺の愛機がある。はいそうですかと乗り換える気にはなれないぞ」
((然り))
「……何?」
「なら、お前たちが今回応えた有資格者は?」
(蒼き髪の娘)
(病床に伏していた女)
「クスハさんとユキコさんか……」
俺だけなら念動力が資格の条件だと思ったんだが……
「お前たちの言う有資格者になる条件はなんだ?」
(強き念を持つ者)
(我らと心を通わせる資質を持つ者)
「……念?」
それなら俺はわかる。
だが――
「ユキコさんとクスハさんにも念動力があるのか?」
((・・・・・・))
「…………」
また黙るのか。
だがあの時、龍王機と虎王機の声が聞こえたのは俺とクスハさん、それにユキコさんだけだった。
クエルボさんには聞こえていなかった。
「じゃあ、あの二人の思いがお前たちを呼んだ?」
(然り)
(蒼き髪の娘は病床の女を救わんと願った)
(病床の女は蒼き髪の娘を救わんと願った)
「…………」
自分ではなく、お互いを助けたいと願ったのか。
「……それで、お前たちはこれからどうする?」
((我らは有資格者を守護する))
「つまりクスハさんとユキコさんについて行くということか?」
(汝も含む)
「……俺もか」
(然り)
「…………」
病院も超機人がいても困るだろうな。クスハとユキコさんはうちで保護するか……
また厄介なものを拾った気がする。