羽澄の身体が落下していく。伸ばした手は何も掴むことができず、空を切るばかりだった。
「羽澄さぁん!!!」
その手を節のついた小さな手が掴んだ。
「……ファンビーモン」
ファンビーモンが全力で羽ばたき、羽澄の軽い身体が辛うじて宙に留まる。
「ぐぅぅぅううう!手を離さないでくださいよぉぉぉ!」
「……………うんっ」
羽澄はファンビーモンの手を両手でしっかりと掴みなおした。
「羽澄ぃ!!」
一拍遅れ、ウェンがベランダから顔を出し、羽澄の腕をつかんだ。ウェンはファンビーモンごと羽澄の身体を引っ張り上げようと力を込める。
「引き上げるぞ!」
次の瞬間、部屋の中からシェイドモンの触腕が無数に噴出した。その全てはウェンに目掛けて襲い掛かる。
「『アングリーロック』!!」
ゴツモンが石礫で撃ち落とそうとするが、多勢に無勢。ゴツモンは迎撃を諦め、ウェンの背中に乗って自らの身体でウェンの急所を守り切る。
だが、その身体では全ての攻撃を受け止めることはできない。
「ぐぅっっ!!」
触腕がウェンの腕を、足を、頭を切り裂き、無数の切り傷を作り上げた。
「……ウェン……ウェンっ!」
ウェンの額から血が滴り落ち、羽澄の頬に落ちる。
それでもウェンは口の端を歪ませ、笑った。
「心配そうな声だすなよ……かすり傷だ」
「……で、でも!」
「ファンビーモン!下の階に飛び移れるか?」
「やってみます!」
「羽澄、投げ入れるぞ!」
「……え……あ……」
ウェンは身体を振り、羽澄の身体を揺らした。
その直後、シェイドモンの攻撃が再びウェンに襲い掛かった。
「ぐっ!!」
その攻撃がウェンの身体を支えていた左腕を直撃した。ウェンの身体がベランダの外に大きく揺らぐ。
「ゴツ……モンっ!」
「わかって……らいっ!」
ゴツモンがなんとかウェンを引っ張り戻そうとするも、シェイドモンの攻撃の手は緩まない。そして、次々と繰り出される攻撃がついにベランダの柵を破壊した。支えを失ったウェンとゴツモンの身体がベランダの外へと投げ出される。
「……ウェンっ!」
「羽澄!飛べ!!」
ウェンは羽澄の腕を大きく振り、下の階のベランダへと投げ入れた。ファンビーモンと共に落下した羽澄は洗濯竿の上に叩きつけられ、派手な音を立てて、ベランダの内側へと落下した。
「……っ……ウェンっ……」
羽澄が顔をあげたその時、頭上から巨大な物体が落ちていった。
目で追うことができない速度で落下したそれがウェンの身体だと気づくのに、数瞬の時を要した。
だが、羽澄が現実を受け入れるより先に、羽澄の真横から黄色い塊が飛びだした。
「うおりゃぁぁああ!」
ガン、と大きな音がしてファンビーモンがゴツモンとウェンの身体を掴んだ。
「ぬぉぉおおおおおおおおお!」
鼻から蒸気のように吐息を吐き出し、羽を高速振動させてファンビーモンが必死に空中でホバリングする。
羽澄はベランダから身を乗り出し、ファンビーモンに手を伸ばした。
「……ファンビーモン!!……こっちに……はやく……」
「わかって……おり……ますぅうううううう!」
羽澄は必死に手を伸ばした。肩が外れそうになるほどに伸ばした。そして、ファンビーモンの手の一本を掴んだ。
その瞬間――――
「シャシャシャ!!!」
シェイドモンの触腕が雨のように降り注いだ。無数の攻撃がファンビーモンを、ゴツモンを、ウェンを打ちのめした。
ファンビーモンが落下する。
全ての重量が羽澄の細腕へとのしかかる。必死につかんでいたはずの掌からファンビーモンの腕がすり抜ける。
「あっ……」
3つの身体が落下していく。
「……………っ……」
羽澄は必死に空をかく。届かないとわかっていても必死に何かを掴もうと手を伸ばす。
だが、ウェン達の身体は重力に引かれるままに遠ざかる
「……っ!っ!っ!」
届かない。
もう届かない。
また、届かない