「異次元の人」——高度魔法文明に住むエルフです、なぜか異世界召喚されました。 作:白木ケイ
第15話の次に書いている閑話が長すぎ(現在通常の2話分が完成)でまだかかりそうです。なお都合により、閑話には手紙の送り主の一人が登場することになりました。あと主人公視点では一部しか推測できない異空間での裏話もあります。
閑話が完成次第、17:00から10分おきに連続で投稿します。
互いの自己紹介のあと、俺たちは呑気にお茶とお菓子を楽しみながら会話による相互理解を進めていた。
しかし、話が進んで俺はとある話題になった途端、非常に気まずい思いを感じていた。
その話題になったきっかけがなんだったのかはもう覚えていない。
「まあそうなんですか?ヴィーシェルさんのところではそのようなものがあるのですね」
「興味深いです。我々はあまりそういった機会には恵まれませんでしたので」
「まあでも、以外と上手くいくことの方が少ないらしいわ——」
そもそも人に過度な高揚感を与えて悪影響をもたらす場合もあるから規制が厳しいしね、と続けるヴィーシェルさん。
なんの話をしているのか。ここで唐突だが女性が集まって交流する定番の話題について考えてみる。思いつくのはファッションや趣味の話、もしくは最近の出来事だ。しかし、正解はそれ以外のようだ。
女子トークはひと段落したのか、ここでヒマイがやや強引に水を向けてくる。
「そう言えばお二人の恋愛遍歴が気になるのですがお聞きしてもいいでしょうか?」
システムへ申請。
一般アーカイブを対象にして検索を実行。
キーワードは女子トーク、恋愛、マッチングアプリを選択。
その後、公共AMボットを利用してヒットした記事および公開会話ログにおける話題傾向の可視化と適切な返答内容をまとめた簡易レポートの作成を実行。
なお、申請者は最高機密閲覧資格を保持。
以上の条件で許可を待つ。
......エラー、システムに接続してください。
ただの頭の中での思考だ。実際に起こったものではない。だが故郷で今の状況に直面したら迷わずそうしたであろう行動だ。
このままでは俺の手元に参考となる資料が生成されない。非常にまずい。
「確かに気になるわね、私も聞きたいわ」
「お願いします」
ヒマイが示したお二人とは、もちろん俺とエイサンドさんのことだ。会話をしている女性同士の姦しい様子に気まずくなってしまったのか、先程からエイサンドさんは深刻な面持ちで黙秘を決め込んでいる。
となれば当然、女性3人が注目するのは俺であり......。よろしい、ならばこうしよう。
「確かに他の種族ではそのようなものがあると故郷での講義で学びました。しかし私は皆さんの語る恋愛というものをしたことがありません」
「そうですか?非常に良い顔立ちかと思いますが」
「確かに、会話をしていて楽しいですし、恋愛経験がないのは絶対に嘘ですね」
ケモ耳のお二人が不穏な空気を感じたのか、俺を煽てることで会話の軌道修正を謀る。
まずいこのままでは恋愛トークに戻ってしまう。より一層沈痛な表情になったエイサンドさんが可哀想だ。
「嘘ではありませんよ」
そのとき彼女達との間で交わされた視線によって、双方が期待する会話の方向性が異なることはすぐに暗黙の了解となった。
ヒマイとヨラメ、さらに俺が残された最後の砦であるヴィーシェルさんへ期待を込めた視線を向ける。
今この瞬間、この会話の行末は彼女に託された。
「なんで皆んなそんなにあたしを見るの......あたしの顔に何かって、ああそういうこと。なんでと聞いてもしょうがないわよね。はあ」
さすがヴィーシェルさん。おおよその事情は察してくれたらしい。
和やかに楽しむはずのお茶会で、奇妙な沈黙が訪れる。皆がこの場における意思決定者のジャッジを待っているのだ。
果たして彼女の選択は。
「エリク、続けていいわよ」
はい勝った。だがこの結果を誇ることはできない。これはヴィーシェルさんが恋愛トークで気まずそうにしていた俺を見かねてくれた故なのだから。
現に彼女の言葉には多分の呆れが含まれていた。
だからケモ耳のお二方、そんなに恨みがましい視線を向けてこないでください。
気を取り直して、ヴィーシェル司法長官からの免罪状を授けられた俺は意気揚々......とまではいかないが、淡々と説明し始める。
「故郷では恋愛という概念は希薄なものです。物語ですらほとんど見掛けませんね。実態としては存在しないといっても過言ではないでしょう」
「お姉様、よくわかりません」
「安心しなさいヨラメ、私もよ」
「なるほどね」
といっても感情自体が存在しないわけでないと思いますが、と聴講者に寄り添っておく。
ヴィーシェルさんは興味深そうに聞いてくれる。たとえフリだとしてもありがたい。
エイサンドさんは.....なんか睨んできてますね。恋愛トークで気まずかったわけではないんですね。勝手に勘違いしてごめんなさい。でもどうしてですか。
「代わりにあるのが契約です」
「ふーん、なるほどね」
「あらら?」
「え、そんな夢がない」
ヨラメさん、恋愛も夢ではなく現実ですよ。
それぞれの様相でお気持ちを表明する御三方。怒らずに反応してくれて、皆さんはとてもいい人達だと思う。
会話の流れを断ち切ってしまって本当にごめんなさい。でもどのみち俺に恋愛トークはできない。
そしてこのまま続くのは彼女達の持つ恋愛の価値観に反する説明だ。それはこのお茶会の本来の目的である互いの相互理解についてより深まることに繋がると信じている。
だから俺はなんだか微妙になってしまった空気を無視して、一方的に故郷の説明を続ける。
「まず前提として、私の故郷では拡大する生存圏に比例して利用可能な生活空間が増え続けています」
いまいちぴんときていない表情だったので、わかりやすく一定の速度で土地が無限に増え続けると考えてくださいと伝える。
「土地が無限に増える?どういうことです?」
それでもケモ耳のお二人はイメージに苦労しているようだ。
「増え続ける土地の中には私達ルガル種が利用できないものもあります。例えば他種族が先に住んでいる土地であったりです。ですが、それは全体としてはごくわずかです」
反応は様々だが一番理解できているのはヴィーシェルさんのようだ。
なぜかエイサンドさんは非常に険しい表情をしている。なんだろうか、その表情から故郷の生存圏内で各地に点在する独立主義者を連想させられた。あいつら会話を拒否してきて面倒らしいからな。気をつけよう。
「エリク、もしかしてあんたのところって星間文明?」
「その質問に答えるなら次元間文明ですかね」
「もしかして、次元って宇宙のこと?」
宇宙?なんだそれは。ああそういえば次元のことを宇宙と表現することもあるとどこかの隅に小さな注釈があった気がする。
「ヨラメ、なんだかよくわかない話を始めたわね」
「お姉様、私に聞いてもわかりません」
「そんなのわかっているわよ」
「はい、お姉様」
残念ながらケモ耳のお二人はここで脱落か。まあヴィーシェルさんの興味が続く限りは話そう。
......空気の読めない迷惑教師になった気分だ。
「多分合っているかと」
「そう、いずれ私達の文明同士が接触するかもね」
「そちらもですか?」
「まだ宇宙が複数存在する説がようやく主流になったところよ」
ヴィーシェルさんは手で口元と武装を隠しながら答えた。誤魔化したか。嘘はついてないが全てを語ってはいないな。これについてはお互い様だし、そんなものだろう。
ケモ耳のヒマイさんとヨラメさんについては機会があればこの話の前提知識となる初期の基礎的世界構造理論について説明しよう。もちろん教えるのは本人達が望んでくれた場合のみだ。
「土地を支配するには人が住む必要があります。しかし、広がり続ける土地に対して人口増加速度が追いついていないのです」
正確には対象となる範囲の空間と存在する物質に対してシステムを適用できれば人が住む必要は全くないが、あくまで分かりやすく一般論として居住を条件にしておく。
「それで契約というわけね」
ヴィーシェルさんの理解が少し早すぎる気がするが、まあ聞いてみればいい話か。
「どうぞ」
「要は人が必要だから、施策で強制的に人口を増加させているんでしょ。大方、成人したら一定期間内に子供を何人以上産みなさいとか、そのパートナーには養育義務があるとか」
おおよそ正しい、しかし強制ではなく社会的合意の下でだ。さもなければ滅びるからな。
「その義務を果たすために、契約を結んで子供を作って育てて別れる。いやまさかゼロから培養して増やしたりは——」
ヴィーシェルさんの発言が少しまずい方向に向いたので、話を差し込んで軌道修正する。
「故郷では培養による生殖は原理的に不可能だと判明しています。何度シュミレーターで検証しても無理でした。そんな無駄なことはしませんよ」
「はぁー、そうなのね。ならうちの科学者どもは何を研究してるのかしら」
「あの、お姉様と私は先ほどから話についていけていません」
「なんだか申し訳ありませんね」
謝る必要は全くない。無知なことは罪ではない。俺も出身地から脱出できなければ、今の話もできなかっただろうしな。
ともかく、とヴィーシェルさんが話を戻す。
「要は私達がイメージする恋愛って、エリクの世界ではやらなきゃいけない義務なのよ。言い換えると、必ずやらなければならない仕事なの。仕事だから信用できる相手を探して契約する。そして、面倒なことは最低限で済ます。そこに甘酸っぱい感情が入り込む余地はないか、あっても極小なのよ」
素晴らしい要約だ言いたいこと全てまとめてくれた。さすがだヴィーシェルさん。君ならやれると思っていたよ、と内心で褒め称えておく。
「なるほど」
「えーと、言葉は分かりますが、うん?」
「ヨラメ、あそこのノルマのようなものなのでしょう」
「え、そんなに辛いことなんですね」
「少し違うような気もしますが......よろしいでしょうか」
ヒマイさんがこちらを伺ってきた。彼女のいうノルマが何かはわからないが......ヨラメさんは少なくとも幸せな恋愛とは異なるというお話しの趣旨は理解できているようだ。
「はい、その理解で問題ないと思います。なので私は皆様の話していたような恋愛という行為をしたことがないのです」
納得できたような、どこか引っ掛かるようなそんな面持ちのようなヒマイさん、ヨラメさん、ヴィーシェルさんの3人。
ヒマイさんとヨラメさんがわからなかったところをヴィーシェルさんに質問している。ヴィーシェルさんもどこか四苦八苦しながら答えているようだ。交流が深まったようで何より。
いきなり俺が変な話を始めたのに、最後まで聞いてくれた3人には感謝だ。ご清聴ありがとうございました。今後の反省とします。
なお、俺に対する質問や感想は一回もなかった。俺には親しみが足りないのだろう。
手持ち無沙汰になった場合の暇つぶしとして、この場にはお茶とお菓子がたくさんある。少しつまませてもらおう。
お茶に対して《解毒》を行使。ほのかな甘味といい香りがする。また飲みたいなこれ。
お菓子に対して《解毒》を行使。......社交辞令の感想を述べるなら笑顔になって、すごく甘いですね、だろうか。決して甘すぎるとは言ってはいけない。ましてや顔を顰めるなどもっての外だ。
うー、口の中が苦しい。あ、お茶がほろ苦くなった。これはこれで美味しいお茶だな。
そういえばエイサンドさん、ずっと無言でしたけど生きていますか。
俺がそっと視線を向けると、そこには鉄仮面を纏った修羅の戦士がいた。
「君達は、なぜそんなに、呑気に、楽しく、笑いながら会話ができるんだい」
楽しいお茶会に強面の戦士がエントリィィィ!
すごいよエイサンドさん。その行動は俺にはできないよ。
エイサンドさんがずっと不機嫌だと全身の態度で示していたのはコミュ症で会話に入っていけないことが気まずかったからではないのか。
ヒマイさんが何度か水をむけていたが、その度にけんもほろろだったのはこのお茶会そのものが気にくわなかったからか。
「今も戦っている彼女を見捨てるのか!」
勢いよく座っていた椅子から立ち上がり、上から見下ろすことで強い興奮を見せるエイサンドさん。
その剣幕に押されて、この場にいる誰もが黙ってしまった。
彼女とは誰ですか。横に座るヨラメさんに小声で聞くと、アステア様のことですと返された。
アステアさんですか。ごめんなさい、知らない人ですね。これから知っていこうと思います。
だから誰か詳しく教えてください。
「ああそうか、エリク君は知らないのか」
めざとく俺の行動を指摘しないでください。あえてコソコソしていた意味がないじゃないですか。
「責めているわけではない。この建物の裏側で彼女は戦っているんだ。流石にドンヨークとクアセリーが殺されたのは知っているだろう?」
責め......指摘されました。そして、興奮したエイサンドさんに対して、いえ知りませんなどとはいえない。察するに、階下の大部屋に安置されたお二人のことだろう。
しかし知っているといえば嘘になるので、ここは曖昧にぼかす。
「なんとなくは」
「そうか」
冷たい声だった。誰もが凍てつく絶対零度の声色 だった。
だが空気を読まずに俺は女性の恋愛トークを断ち切ったある意味での戦士だ。なんだか随分とレベルが違う気がするが言葉の上では同じ戦士だ。
勇気を出していうんだ。
「教えてください、何があったのか」
よし言えた!偉いぞ!いや本当に偉いのか?
「あのと——」
「長くなりそうですので移動しましょうか、見ればわかりますよ」
ヒマイさんも凄い雰囲気ですね。あの静かな怒れるエイサンドさんを圧倒して押し返すほどだ。
最後の一言は俺に向かってのものだろう。
ちなみに、一身上の都合で申し訳ありませんが、建物を背にして右へ向かって移動していただけるとありがたいのですが。
あ、何も言わなくてもう進んでくれそう。ありがとうございます。
俺たちは団子になりながら、硬すぎてもはや石のような感触の地面を歩き始めた。
お茶とお菓子はヴィーシェルさんがなんらかの方法で収納していた。物質圧縮だとか、少し非効率な方法だ。
明日も17:00に投稿します。
読んでいてお話の流れに違和感ないですかね......。あと説明した設定の内容に矛盾がないかがちょっと気になります。ついでにあとがきの作中備考も要りますかね。
よろしければ教えてください。(差し支えなければ感想をください、批判も大歓迎です)
作中備考
・AMボット(人工機構ロボット)
AM(artificial mechanism、人工機構)
地球でのAIのこと。エルガルドでいわゆる「AI」に当たる言葉は「人によって作られた複雑機構」である。その言語的な意味を考えると「AM、artificial mechanism、人工機構」と訳されるのが正しい。主人公はAMが無人ロボットとして稼働する様を見ているので「AMボット」と呼ぶ。
AMボットが能力的にシンギュラリティを達成していても生物とは異なるものとして扱われている。決して蔑ろにはされていない。本当だよ?
エルガルド共同体では街中をヒューマノイドが歩いていたりするのは普通だよ?
この続きの内容はあまりにも作者の妄想がすぎるのでやめておきますね。質問されれば活動報告で書くかも。
・最高機密閲覧資格
この資格の保持者には公開情報の全てを無制限に閲覧する許可がシステムより与えられる。
なおこの資格では非公開情報については原則閲覧できない。決して、最高機密とは、などと言ってはいけない。
・培養による人口増加は原理的に不可能
この世界全体の設定。
人工授精とか体外受精とかは可能。
不可能なのは、分子を操作してらゼロから遺伝子を設計して、それらを機械や魔法で培養して生物を作ることはできないということ。当然ながら生物には人も含まれる。