「異次元の人」——高度魔法文明に住むエルフです、なぜか異世界召喚されました。 作:白木ケイ
ようやくチュートリアル戦闘(最初のチンピラは戦闘ではありません)です。ちょっとわかりにくいかも。要望があれば活動報告で前提情報とか裏話を交えて作者なりに解説します。
最低限、主人公の戦い方は説明できたはず。できてるといいなぁ。こいつ本名を明かさないので主人公というしかないなぁ。はぁ。
俺たちが発する靴音は、硬すぎる地面の感触を表す硬質なものだ。それが異空間にやけに大きく響いている。つまり移動する最中、全員が無言のままだった。
そんな中でもヴィーシェルさんはどこか心配そうにおろおろしていた。
エイサンドさんは覚悟の決まった戦士の顔をしていた。これから死ぬ覚悟だ。
俺はといえば最後尾で目立たないようにコソコソと歩いている。一番後ろにいるということは、ヒマイさんとヨラメさん、ケモ耳のお二人にある尻尾が左右に揺れる様子が見放題ということだ。初めて見るものなので好奇心が刺激される。
だがすぐに意識を切り替える。これからは仕事の時間だ。俺が殺されないためにも手紙の送り主達から与えられた例のちょっとした依頼をこなさなければならない。
潰れたトマトさんへ、生き残るために俺を殺してもいいよ。もちろん全力で抵抗するけど。
しかし、先ほどから目を皿にして辺りを見渡しているのだが、どこに潰れたトマトがあるのだろう。
もう屋敷の角を一度曲がって、次の角が近づいてきているというのにに一向に見つからない。
《遠見》と《不可知看破》を行使しても見つからない。いや、依頼はトドメを刺せだ。生きている以上は下半身だけでも移動したのかもしれない。もしくは痕跡を消して地面に潜ったのか。
思い至ったので、異空間全体を対象にして《地中探査》を行使した。しかし見つからない。
移動した線が濃厚だろう。
「ねえエリク、あんたさっきから何キョロキョロしてるのよ」
「ちょっと外に何があるのか気になって......」
「何もないわよ。気持ち悪いことに一面ずっと同じ景色よ」
魔法を行使しているのがバレていたら苦しい言い訳だ。
すると、ヒマイさんがさりげなく前から後ろへと位置を合わせてきた。熟練の隠密を彷彿とさせる動きだった。過去のことを話したくないとは、そういうことかもしれない。
「まあまあ、いいじゃないですか。何せ初めての外ですから、気になるのも仕方がないですよ」
「なんでヒマイがそれを言うのよ」
いくら見渡しても野菜のトマトすらも見つからないので、現実逃避気味に屋敷の外観を観察してみる。
例の《入力と転送》の窓を2階の位置に見つけた。部屋の景色はあの窓からのものか。
屋根は何枚もの土を焼いたらしきプレートを並べて独自の模様を生み出している。それはまるで水波のようだった。全体で見ればプレートにある不規則な明暗の燻銀が面白いグラデーションを作り出している。
少し視点を屋敷に近づけてみれば屋根の裏側の木組みが見える。これも綺麗なものだ。
屋敷が崩れないようにするためだろう。地面に向かって何本もの木柱が等間隔で並んでいる。そして木柱の根元には表面がツルツルに加工された綺麗な四角錐台の礎石が置かれている。
とりあえずの感想はこうだ。外装は素晴らしいですね。ただし同じく一部を除いて素晴らしい内装とのミスマッチが目立ちます。今後はまず一つの作品として統一されたテーマを見出せるように頑張りましょう。
「お姉様、ふと思ったのですが外と中の雰囲気が全く違いますよね」
「ふふふ、そうね」
とはいつのまにか並んで歩くヨラメさんとヒマイさんのご意見だ。
ちなみに俺の視界には、前を歩く覚悟の決まったエイサンドさんへ会話しようと必死に声をかけるヴィーシェルさんが見えた。
さりげなく最後尾に戻ろうとする。
「ダメですよ」
「......はい」
ヨラメさんの軽い注意のお言葉と、その奥にいるヒマイさんが発する無言の圧に負けてしまった。
仕方がないので前を見よう。
「ついたぞ、結界の境だ」
「では視界を通します」
俺の横にいるヨラメさんがその場で手をかざす。あれ、視界が通ってなかったの?てことは潰れたトマトは結界の外かつ、地表以上の高さのどこかか。
ものすごい高いところにあったりしたらどうしよう。まあ行使する魔法的には問題ないか。
「そろそろです、どうぞ」
しかし視覚を誤魔化すとは厄介な結界だ、ぷるぷるしてて可愛いやつかと思えばイタズラ好きの小悪魔だったか。
そのまま数秒ほど待つと、見えるものが切り替わったような気がする。言われるまでわからない僅かな変化だ。これは参考になるな。
「アステア!」
彼女はエイサンドさんの思い人なのだろうか。そう思えるほどの必死の叫びと皆の悲壮な様子から、どうやらアステアさんの方が劣勢らしいとわかる。
ところで今更になりますが、アステアさんという方は一体何と戦っていらっしゃるのですか?
そもそもアステアさんはどこにいるのでしょうか。俺はキョロキョロと辺りを見渡した。
あ、いた。
「アステア!」
「そんな」
エイサンドさんの再びの叫び声と、ヴィーシェルさんの小さな呟きがとても悲惨な状況を想起させるがそんなことはない。
ただアステアさんらしき女性の頭が掴まれたまま握り潰されて、ちぎれてバラバラになった胴体が地面に転がっているだけだ。特に何も問題なさそうだな。
魂をみればわかる、アステアさんは生きているしここから簡単に肉体を再生できる......できるはず......まだできないの?
ちょっとおかしくない?
「あれ?」
「何かありましたか」
俺の呟きに答えたのは未だに横に立つヒマイさんだ。彼女からはあまり悲壮感を感じない。彼女も再生できる人なのだろう。
そんなことより。
「再生の阻害?いや違う。外部から受けている別の干渉を退けようとしていて単純に再生に回すリソースが足りないのか」
「なるほど、これはそう解釈すればいいのですね」
別の干渉といっても俺が感知できる時点で手紙の送り主達ではない。そもそも送り主達であれば、この異空間で人知れず誰かを消すことなど容易いだろう。例えば俺の横にいる能力を隠したヒマイの体を潰すとか。
とはいえ、このままではアステアさんが劣勢になるのも事実。どちらに味方するべきかの情報が全くないのが気がかりだが、彼女このままコロコロされるのは忍びない。少しだけ手助けしよう。
アステアさんの戦いのお相手は故郷での最新トレンドの尽くを理解してるファッション強者なのに残念だ。できればお話ししたいな。特にその肉体デザインのこだわりについてぜひ詳しくお聞きたい。
《基本的な治癒》を結界越しにアステアさんへ行使する。ついでに外部から干渉されているらしいので《魂の保護と修復》も。
再生したアステアさんらしき女性がまた戦い始めた。それを見たヴィーシェルさんとエイサンドさんも一息ついた感じだ。
「まあいいか」
これで戦闘の状況は振り出しに戻るだろう。あとは落ち着いてここから観察するだけだ。あとここにいる人達でもいいからアステアさんの戦闘相手の情報を聞かないと。
だがそれよりも先に仕事だ。潰れたトマトはどこにあるんだよ。
「何か干渉しましたね」
ヒマイさんに睨まれている。やばい、魔法の行使がバレた。そしてヨラメさんがこちらに振り向いた。その顔は驚愕している。
結界越しに干渉するのがそんなにおかしなことでもないだ——は?
「あ?」
恒常精神防壁に反応あり。すでに第1層から第6層まで浸透済み。防壁突破まであと12秒。
感知が遅れた。そんなことはどうでもいい。攻撃を受けた。ならば対処を。
即座に《魂の保護と修復》を待機から起動へ。同時並行で精神防壁の構成を変更。即席の多重防御と迷宮化パターンを適応させる。敵攻撃の到達を遅延。全てを1秒以内に完了した。
遅延後、攻撃到達まで36秒。稼げたのは25秒だけか。
「なぜ何も言わずに干渉を?」
「少し黙っていろ」
「ヨラメ、やめて」
「お姉様......わかりました」
ヨラメがどうでもいいことを聞いてくる。
攻撃を受けている状況では彼女の問いかけは対応の優先順位が低い。
これは未知の敵による俺の魂への攻撃だ。目的は殺害だろう。対処しなければ俺が死ぬ。今すぐに目標を発見して無力化......は認めない。絶対にコロコロする。
ここが故郷であればシステムによる制限のせいで軍用魔法などは使えない。その常識があるせいで個室では一般魔法を行使した。
だが今はシステムと接続できていない。これは強化された今でも脆弱なルガル種にとって非常にデメリットが大きい。
しかしそれを逆手にとれば今の俺は自身の能力の限りシステムによる制限なく、やりたい放題できるはずだ。
......代わりに俺のスペックが上限になるのは弱すぎて不安になるな。こちとら最低戦力基準すら満たせてないんだぞ。
ともかく稼いだ時間で魔法を行使する。
【軍用魔法-用途: 自己加速-6工程-ケアスィー】
同時に《思考加速》の行使をやめる。
【試作魔法-用途: 自己防御-17工程-エスヒルデ】
《各種結界の多重設置》の行使をやめる。
【軍用魔法-用途: 核防御-24工程-スプアリト】
《魂の保護と修復》の行使をやめる。これは現在構築している精神防御が抜かれた場合の最終防御層だ。これが突破されると俺が負けて死ぬ。
【軍用魔法-用途: 空間制御-18工程-エスパシー】
《周囲の空間統制》、《空間縦深の生成》の行使をやめる。
【軍用魔法-用途: 身体強化-5工程-アヌイン】
《急変環境への適応》、《身体強度の向上》、《肉体損失時の意識維持》の行使をやめる。
【軍用魔法-用途: 近接戦闘補助-3行程-マルエルツ】
《身体機能の適切な活用》の行使をやめる。
【軍用魔法-用途: 索敵-7工程-エルハー】
《受動的な探知》の行使をやめる。
【軍用魔法-用途: 妨害-8工程-オビルクテ】
今回は相手の攻撃妨害のために使う。
【移動魔法-用途: 流動性の確保-10工程-フエイオム】
移動の自由を確保するとともに、事象との距離を調整できる魔法だ。
【軍医両用魔法-用途: 損傷時の回復-12工程-トラトムト】
お世話になった《基本的な治癒》もこれで終わりだ。
【軍用魔法-用途: 統合運用-8工程-スムアルト】
《各種魔法の制御》、《有害事象への自動対処》の行使をやめる。システムがあればこの魔法は必要ないのだが。
その他不要な魔法の行使をカット。意識を戦闘へ全集中。
合計118工程で11個の魔法を同時並行で行使する。
なお今回は隠密系の魔法を行使しないし移動系は限定使用だ。ここから攻撃魔法を追加で行使するリソースは過剰なほどに余っている。
昔訓練した時より随分余裕があるな。その分のリソースを防御に割り当てる。
「敵のコロコロ準備完了」
「いきなり何を?」
ツッコミたい気持ちは十分に理解できるよヒマイさん。どうかコロコロについてはそっと放置してくれ。
これは俺の保護者がその昔、殺すなんて物騒な言葉を使ってはいけませんと散々に躾けてきたせいだ。その時からの癖が今でも残ってしまっている。あのときの保護者が不意にコロコロと発言した俺を過剰に褒めさえしなければ......。
直したいのになぜかこれだけは戻せないのだ。決して本意ではない。
さて、相手の魂を先に破壊した方が勝ちという不条理で無機質な戦闘の開始だ。
おまけにこちらは行使した魔法群で自動化されている。さてどちらの戦闘システムが優れているのか。
緊張の初陣だ。初めての実戦だが、仕事の研修と基礎教育課程で習ったマニュアル通りの手順を実行すればいい。それ以外のことは俺にはできない。
全ての準備を完了した今、敵の攻撃が遅延を主目的とした第1防御層である恒常精神防壁を突破するまで俺にやることはない。まずは落ち着いてその瞬間を待つ。
傍目にはただじっと立っているだけでに見えるだろうが、魔法制御は結構大変なんだよ。特にシステムのアシストがない今は。
戦闘中は俺自身がわかりやすいようにシステムログで思考するか。
敵の攻撃が恒常精神防壁を突破するまであと3、2、1——突破を確認、即座に妨害を実行、構築した第2防御層で対処を開始、同時に逆探知を開始。
各種の自己加速を実行、暫定基準値は100倍速を目標に可変とする。
現在、敵攻撃に対して防御方式を変化させた第129防御層までの構築を完了。継続して第148防御層まで構築中。完了次第、以上の作業をループします。
敵の攻撃と防御層の反応データから有効な防御方式の分析を開始、フィードバックおよび構築された防御層の事後改良の準備完了。リアルタイムで反映中......攻撃への妨害成功を確認。敵攻撃、第2防御層を突破できず。
おや、拍子抜けか。
一旦俺が対応したことに気がついて戦術的な撤退を選択しただけだろう。油断はできない。次の新たな攻撃に備えなければ。
逆探知に成功。敵の所在地が判明。結界外、異空間内、自身の正面から2時方向。
あれ、なんでこんなにあっさりと捉えられるのだろうか。基礎教育課程の訓練ではもっと妨害されたり、隠密で潜伏されて伏撃を喰らったりするはずなのに。
いや、あえてこちらの攻撃を誘っているのだろう。そして何らかの罠にかけて反撃する腹積りか。
自身との相対位置を把握。距離情報を定義し照準を設定。
敵との空間を多層分割。物理攻撃を無効化。世界の理の変化を無効化。自身の周囲の安全化を完了。
敵周囲の空間及び物質の制御を獲得。敵の魂を封じ込め......抵抗なし、成功。
敵の魂の特異な構造を確認。《記録》しておきます。
???、ここまでいいようにされてなにも抵抗してこない?
教本ではもう詰みの状態だ。だが実戦だとここから驚くようなな方法で切り抜けられるかもしれない。
そうか、新しく自力で生成した異空間を経由した座標跳躍攻撃か、しかし......そもそも俺が目覚めたこの異空間はその方法を許しそうにない。
この状況で俺の魂への攻撃方法は他にどんなものが考えられる。
くそ、何も思いつかない。
敵を解析。結果、上半身が潰された人型と確認。流出した血液が地面にて流動中。
なるほど、敵の正体が判明した。潰れたトマトさんでしたか。
あなたの行為はとても正しいと思います。しかし同時に私はとても不愉快に思います。まさか魂への先制攻撃とは。あのまま油断していればもしかすると私は死んでいました。そんなあなたに敬意を評して。
【軍用魔法-用途: 攻撃-8工程-フレア】
ではさようなら。
そして最後まで油断しない。
敵の完全な消滅を確認。周辺における異常なし。敵の反撃なし。安全確認を完了。
戦闘を終了します。
「終わったな」
「......そうですか」
お待たせしました、ヨラメさん。もう一度先ほどの問いをどうぞ。
次話は別視点の閑話です。主人公視点では絶対に明かされない異空間の真実(本当に異空間の真実かこれ?)がごく一部だけ明らかにされます。割と駆け足で終わらせて、早く本編に戻るつもりです。
なお、手紙の送り主達視点ではありません。この視点はとある事情がありますので絶対にやりません。勘弁してください。......完結後ならいいかも。
手紙の送り主の1人が登場する番外編も二つ、なんとなく構想してはいます。難しすぎてできるかは不明ですが。
作中備考
・【このカッコで括った魔法は行使する際、事前にシステムへの申請と許可が必要となるものです】
故郷では何気なく使用することはできません。
現在はシステムに接続していないため、主人公が独力で行使できる魔法は、彼のスペックが許容する限り自由に使えます。
・戦闘時の攻撃魔法(自身を対象としない魔法)については主要なもの以外は省略していきます。ご了承ください。(雑例: 目の前に迫る投石とそれを投げた人を分解した。そして地面には細かな灰が落ちた。のように結果だけを説明)
激しいアクションシーンでいちいち【軍用魔法〜】とは書けないからね。ただでさえ結構怪しい気がするテンポが致命的に悪くなるし。そもそもこの小説はこの感じで大丈夫なのかな。
・潰れたトマトさん
ある意味で幸せで、ある意味でとても不幸な人。
簡単に作中の状況を説明すると、トマトさんは異世界召喚でよくあるチート貰ったかと思えば、何者かに的確な先手を打たれて最初から詰み盤面だった感じ。
将棋で例えるなら、詰将棋の最後の一手の盤面で負ける側のプレイヤーを強制的にやらされたような感じ。つまり彼にはどうすることもできない状況。
貰ったチートはその特性上、必ず大器晩成型。成長すれば明確に今の主人公より強くなる。最終的にはエルガルド共同体の最低戦力基準は余裕で越えられるチートを貰っていた。なお......
・システムログの思考
戦闘時の状況を示すログ。本当はもっと細かいはずだけど作者の想像力の限界がこれ。今話は一歩も動かずに戦闘開始して終了しやがったので、例によって苦肉の策。
次回作(故郷の話) OR 過去編の"敵の次元間侵攻(第二次)に対する総力防衛戦"の短編でシステムログを出したいので今から練習した、という後付けの言い訳をします。