「異次元の人」——高度魔法文明に住むエルフです、なぜか異世界召喚されました。 作:白木ケイ
——前書き
プロローグその1の続きです。
滅多に使われないのにやたら広大な敷地を持つ航空機の発着プラットフォームへと俺は降り立った。
そして、保護者と並んで指定された転移ポータルへと歩いていく。
「で、結局なんで俺が遅れると分かっていて《転移》でここに来るのを止めたんですか」
「事情があるから」
道中、その事情とやらを何度も保護者に聞いたが、結局説明をしてくれなかった。
そのおかげで、元々の課外活動のために設定された到着予定時刻を大幅に超過している。
大丈夫だろうか。
「あ、他の仕事の人達は先に《転移》したから。予定時刻に遅れたのは君だけだよ」
いや全然大丈夫じゃない。初めての課外活動で遅刻って。
どうしよう。
「ごめんって。先方には事情を説明してあるから大丈夫だって」
無言で睨みつけておく。
保護者には効果がないようだ。
「課外活動の評定に響いたら恨みますからね」
「あは、ははは!」
おい保護者、なぜそこで腹を抱えて笑う。
「だって、そんなこと気にしてると思うとおかしくて」
「おかしくないでしょう。基礎教育課程の評定は将来に向けて重要な事だと教えたのはあなたですよね」
そこで頷きながら真面目な表情を作るなよ。おい。流石に怒るぞ。
「そんなに心配しなくて大丈夫。課外活動の評価が最高点になるのは決定事項だから」
「え、また職権を濫用して不正するんですか?」
「そんなことしないよ!もしそうしたら今の私はシステムオペレーターの職が剥奪されてるよ‼︎」
「じゃあそうなるのも、時間の問題ですね」
「はえ?君は私をなんだと思ってるのさ!」
それはもちろん、生涯にわたる俺の一番大切な恩人です。
でもこの流れだと、それを素直に伝えたくないな。
「家では堕落を極める怠け者。そういえば昨日も——」
「えい!そんな生意気な口は塞いじゃえ」
「——むぐむ、むぐぐっぐ」
塞がれてしまった。
ついでに呼吸が止まることがないように配慮してくれている。
俺は真実を紡ぐ口を妨げる、ちょこざいな手を掴んで……あれ、掴めたけどまったく動かせない。
ちょ、力強っよ。
◇◇◇
そのまま軽くじゃれあいながらも、歩みは止まらない。
やがて転移ポータルのある施設の入り口に到着した。
その頃には、じゃれあいは派手な魔法を行使しながらの激しい運動になっている。しかし閑古鳥の鳴くプラットフォームでは周囲に人はいないので、誰にも迷惑はかからない。
言うなればこれは、俺と保護者の間で行われる挨拶のようなものだ。
幾度かの魔法の応酬の末、俺の頭部に痛みが走る。
「う゛」
犯人は保護者ではない。その後ろに立つ人物だ。
「あまり虐めてやるなよ」
「そうだそうだー、あで!」
結局、保護者も同じ目に合った。ざまあ。
「突然後ろから叩かないでください。ナトリム教官」
「隙がある方が悪い」
俺の正面で煌めく綺麗な紫髪をたなびかせている褐色のエルフは、ルガル種のナトリム教官。
しかし、今日のナトリム教官は珍しく女性の体だ。聞けば、パートナーとの契約に基づき、男性になって30年が過ぎたので性別を切り替えたらしい。
その横には、情け無くも痛みを感じて頭を押さえている保護者がいる。
ナトリム教官は、俺の課外活動では最低限の戦闘能力が必要だからと、システムオペレーターの保護者がその職権を使って手配してくれた戦闘教官だ。
俺は標準時間で1か月ほどの間、ナトリム教官から複数の軍用魔法や、基本的な戦闘戦術について実戦的な訓練を施された。
まあ、普通は基礎教育課程の課外活動程度では戦闘能力が求められることはないのだが。
その必要のある例外的な課外活動を半ば強制的に俺に受けさせたのは、システムオペレーターの保護者なのだが。
なにかおかしくない?
その内心の疑問を口にするのは簡単だ。だがそれをすると、あの勲章持ちの有名人であるナトリム教官からの貴重な訓練の機会を失うことになりかねない。
よって、保護者への悪口とは異なり俺の真実を語るお口は、その実益のために閉じることになった。
「わざわざ、私が職権でシュミレーターを貸し切りにしておいたのよ」
「また濫用ですか」
「だから違う!」
「いい加減お前はこれが冗談であることに気づけ」
いやこれは結構本心に近いのだが。
でもこれ以上のじゃれあいはやめるか。ナトリム教官の鬼のような形相が怖いし。
「ねえ、本当に冗談?」
「本当です。冗談ではありません」
「やっぱりそうじゃないのよー!」
その生意気な口をもう一回閉じてやるー!
俺の保護者はそう息巻いてるが、しかし後ろからナトリム教官に服の裾を掴まれて滑稽な様子を見せている。
その場でじたばた、じたばた。あ、しゅんとなった。
少し面白い。
「その馬鹿にするような顔をやめろー!」
「お前達がこうして馴れ合うのは初めて見たが、仲が良いのだな」
普通この光景を見れば仲が悪いと思われそうだが。しかし。
「それは本当にそうですね」
「うん!そうなの!」
こう見えて、俺と保護者はとっても仲良しです。
◇◇◇
「そういえばなんで教官がここに?」
「お前を見送るためだ」
「私が呼びましたー、えへん」
まさか見送りのがために俺を遅刻させたとかないよな。
「他にも何人かいるよ」
「そうなんですね」
予定では約30日くらいで割と楽に終わる難易度の低い課外活動なんだから、そこまでしなくてもいいと思うが。
「親ではなくて、保護者として心配だしね。せめて見送りくらいはさせてよ」
「まあそういうことなら」
「とても過酷で辛い仕事だろうが、必ず生きて帰ってこい」
「え?まさか俺は死ぬんですか?」
保護者もナトリム教官も、沈痛な面持ちで頷いた。
その可能性は排除しきれないらしい。
嘘だろ。今から行く現場は基礎教育課程の課外活動だぞ。普通はそんなリスクなんて考える必要はないはずなんだが。
——専属担当システムオペレーターより連絡。施設への入場を許可。
これらから待ち受ける課外活動の実態に慄きつつ、俺達は転移ポータルの施設へと入場した。
「そこまで怯える必要はない。お前の現場では我々の仲間が待っている」
「その声は」
「お前が死ぬ可能性は極小だ。そして万が一でもミスは起こらない」
「いつもおかしい二人組」
勢いよく横から腹を殴り飛ばされた。
痛い。
空中で綺麗な放物線を描く俺は、とりあえず雑に心身を翻してみた後に格好よく着地してみようとした。
あ。
「ねえロウリ、あいついま着地に失敗したよ」
「そうだねアミナ、足首を捻って、それを誤魔化すために魔法を使ったね。かろうじて立っていたのがまた無様だったよ」
うざい。
「うるせえ」
「負け犬の遠吠え」
「恥の上塗り」
はい完敗です、ぐうの音も出ません。
プロローグ 祝福された送別2、終わり
——備考
・滅多に使われない発着プラットフォーム
エルガルド共同体では、そもそも航空機自体が滅多に使われない。なぜなら日常で行う移動は全て《転移》でことたりるから。
ではなぜ普段滅多に使われないインフラが用意してあるのか。
一つは、暇と資材を持て余した建設業者が勝手に作ったから。ついでに設計者の感性がそこに何もないのはよくないと訴えたらしい。
一つは、エルガルド共同体の統合システムが提供する安全保障サービス関連の理由でそれが必要になるかもしれないから。
ちなみに、即時稼働可能な航空機は大量にストックされている。
・ナトリム教官
褐色肌、煌めく紫髪のエルフ。つまりダークエルフということ。最近女性になった。
能力は位階11、とある精鋭部隊(戦闘要員が数万人規模)の部隊長。
Q、なぜ有名なのか
A、ルガル種の人口が兆単位とされるエルガルド共同体で、数百人しか叙勲されていないとある勲章を持つから。それはシステムから認められた本物の強者の証明である。
Q、主人公と戦闘した場合は?
A、互いにシステムアシストがないと仮定した場合、可能な限り主人公に贔屓した理想的な条件をつけてもなお、九割以上の確率で教官が勝利する。
つまりルガル種の中ではアホみたいに強い人。
ちなみに理想的な条件とはまあ、ネタバレ防止で。
——後書き
やっぱり難しい。もう少し文章の雰囲気出しを考えないとな。
あとかなり駆け足気味です。
白木ケイ