「異次元の人」——高度魔法文明に住むエルフです、なぜか異世界召喚されました。 作:白木ケイ
8/3(月)17:00より1時間ごとに第6話と第7話を投稿予定
以降の続きは制作中です。
床に倒れた俺は、おもむろに起き上がる。
すでに見知ったログハウスの部屋だ。
カタカタと音を立てる窓が特徴の部屋だ。
例のブツが俺の目線の先にある。
それから手元にある複製した方を再び読む。
『手紙の内容を知りたかったら複製せずにオリジナルを確認してね!』
「......」
『オリジナルの手紙を読まないとこの部屋からは出られない!』
再び肩の力が抜けてしまう。だが今回は倒れることなく椅子に座った。
座り心地のいい椅子だ。
そして感じるのは徒労だ、俺の準備した魔法が、思いつく限りの魔法が意味をなしていないことに。
俺の出現した封筒と中身をそのまま複製したはずだ。当然、中の手紙はそのまま読めるはずだ。なのに手紙の内容はこちらの複製を見透かしたものだった。
《物質の複製》に対応した細工があるのか、あるいは俺の認識を変えているのか。
他にも方法があるだろうが、俺の貧弱な想像力では思いつかない。
「もう何というか笑うしかない」
故郷から切り離されて異空間に監禁されているかもしれない。これから実験台のモルモットのように扱われるかもしれない。
だが不思議と口角があがり、笑いが込み上げてくる。
「負けたよ、俺の負けだ。一応最後まで足掻かせてもらうよ」
どうせどこかで聴いているんだろう。俺は投げやりで意思表示をした。
複製した封筒から出した手紙にはまだ続きが書かれている。ついでにもう1枚あるみたいだ。これを読んだ後にオリジナルを読もう。
『驚いたかい?君が複製品を作り出すことはわかっていた。なのでわたくしはそれに対応したサプライズを用意した。楽しんでくれたら幸いだ。』
俺のリアクションは苦笑いだ。
それとおまえは未来視でもできるのか。
『これから君にはオリジナルの封筒を開けて中身を読んでもらう。そこには今の君が置かれている状況の説明と、オレからのちょっとした依頼を書いておいた』
依頼か、面倒であれば無視しよう。
『依頼については君にとってはすぐに終わる簡単なことだ。もちろん何か問題があれば無視しても構わないよ。』
ずいぶんと思いやりに満ちた素敵な手紙だ。誘拐犯とは思えないな。
『最後になるが、謝罪をさせてくれ。誠に申し訳ない。許してくれなくても構わない。しかし、どうか妾を敵視しないでほしい』
とりあえず謝罪を受け入れよう。しかし一体何を謝りたいのか疑問だ。
当然、問答無用で敵視はしない。
警戒はさせてもらうがな。
『それでいい、ボクは君の選択を尊重するよ』
1枚目の手紙はこれで終わりだ。
本当に未来視ができるのでは?
あ、そうだ。
「読心という線もあるのか」
というか監視と読心の組み合わせが本筋だろう。
つまり俺が恒常的に展開している精神防壁に加えて、追加された《魂の保護と修復》の防御を突破する存在か。
そして俺が感知できない方法で手紙の内容をリアルタイムで追記する。
わざわざそこまで手間をかける意味はどこにあるのだろう。一体何がしたいのだろうか。
さらにこの複製した手紙はエルガルド共同体の標準語で書かれている。
もう1枚はエルドアル連合国の公用語で書かれていた。概ね同じ内容だが、時候の挨拶から末尾の修飾文まで丁寧に仕上げてある。ずいぶん格式高く上品な手紙だ。本国の上流階級が書いたとしてもここまでのものにはならないだろう。
手紙の送り主はこちらのことをよく知っているらしい。
「考えても仕方ない」
再び《物質の複製》を行使して中身を見る。
『無駄だよ?諦めてオリジナルを読んでね!』
手紙は1枚だけで内容はこれだけだった。
もう一度行使する。
『どうして読まないのですか?』
文章が変わった。別人か?
もう一度。
『時間を無駄にするな。さっさと読め』
また変わった。これからは圧を感じる。
次を最後の複製とする。
『いい加減にしてくれ、これ以上は少し痛い目を見てもらうからな』
素直にやめる。
いくつかわかったことがある。
1つ、送り主は複数人の可能性がある。ただし、単に文面を変えているだけかもしれない。
1つ、この送り主はこちらへ干渉することができるらしい。つまり相手は俺を攻撃できるということだ。
1つ、何度試しても誰が、どこから、どのようにして、俺が複製する封筒に干渉しているのか俺にはわからないということ。
結論、無駄な足掻きをやめる。
せめて相手の場所がわかればこちらも自爆覚悟で反撃できるのだが。
またカタカタと窓が揺れる。
そして硬い木で包まれた空間は再び静寂へと戻る。
「ふう」
覚悟を決めてオリジナルを手にとる。見た目、感触、厚み、全ての感覚が複製したものと同じだ。少し気味が悪い。
同じように封を開け中身を取り出す。
『ログハウスの部屋にいるルガルへ』
俺の種族を知っているのか。まあ故郷の言語を習得しているのなら当然か。
『無事目覚めたようで何よりだ。この手紙では君が置かれた状況について説明する。それと君がこの手紙を見たことで部屋から出られるようになる。あとで確認するといい。』
このあたりは前置きか。
それと反応に困る。この部屋の監禁状態から解放されたそうだが、俺にはその自覚があまりない。
『さて早速だが本題だ。とある次元に存在する星において異世界召喚の魔法が行使された。君はその対象となり、次元の壁を越えてその星へ召喚される。』
「え?は?」
驚愕と混乱で体が固まる。目に映るものが信じられない。上下左右に揺れる視界が、俺の心の動揺を強く訴える。いつのまにか手紙を持つ手が震えていた。
「異世界召喚など馬鹿の所業だ。普通に考えればあり得ない」
召喚者には破滅願望でもあるのか?
一応考えてみる。
前提として、異世界召喚とはリスクの大きい行為だ。
異世界とは"認識外の世界"、召喚者が知らない未知の世界のことだ。
未知の世界から召喚される存在がどのようなものかは完全な運だ。まして、それが友好的か敵対的かどうかも完全なギャンブルだ。
さらに召喚魔法は相手を呼び出すという性質上、向こう側から干渉される可能性もある。これは召喚魔法においては不可避のリスクだ。
干渉の結果として単に星を破壊できる規模の爆弾を送りつけられる程度で済むなら御の字だ。居住する星が無防備であれば跡形もなく砕け散るだろうが、その程度であれば後々の復興は可能だ。
もっと悪い場合、召喚魔法で形成される経路が侵略のための道として利用される。そうなれば故郷では誰もやりたくもない戦争をしなければならなくなる。
もし故郷でそうなれば、召喚者は真っ先に極刑となるだろう。
まあ故郷で異世界召喚を実行する奴はエルガルド共同体の存続を脅かす人物として、事前に粛正されるはずだが。
閑話休題。
「つまり、異世界召喚は危険な敵対者を呼び出すか、侵略者へ橋頭堡を与える可能性がある魔法だ」
無論、成功すれば危険性が少なく従順なモルモットを呼び出すこともあるだろう。
しかしそんなもの培養機でいくらでも作れるはずだし、それがなくても同じ共同体に所属している他種族の星から追放された重犯罪者で事足りる。
結論として、リターンの乏しさとリスクを踏まえて合理的に考えれば、異世界召喚を実行する馬鹿はいない。
そして繰り返しになるが、故郷ではそのリスクを考慮できなかったアホは問答無用で消される。故郷を滅ぼすような馬鹿には当然の処置だろう。
これも保護者から聞いた確かな話だ。
故郷では去年の1年間でも4桁人が消されたらしい。大半が事前、最中で再三に渡って通達されたシステムの警告に従うか、実行前に適切な手続きをすれば問題のないものだったらしいが。
「そうか、どこの世界にも馬鹿はいるのか。だが普通は異世界召喚なんて思いついてもしないだろ」
しないよな?
「いや、だが、しかし」
そのとき、俺の保護者が机に置いていたバインダーにやけにデカデカと異世界召喚と書かれていたことを思い出した。
俺はその厄ネタの書類の中身は見ていない。
「大丈夫なはずだ......たぶん、きっと」
俺の保護者はシステムの中枢にかなり近いところにいる。随分と激務らしく、かなりの頻度で「仕事が辛いよ〜慰めてよ〜癒して!」と言っていたことを思い出す。あの人が粛正される心配はないだろう。普段はわがままでも仕事はきっちりとこなす人だからな。
きっと大丈夫だろう。
「よし」
気を取りなおして手紙の続きを読む。
『私はそれに干渉した。異空間を用意し、君と同じく召喚の対象となった人物達をそこへ放り込んだ。』
先程から散々に貶しているが、異世界召喚には一つ確かな目的があることを忘れていた。
それは知的好奇心の探求だ。未知の世界から呼び出す未知の存在。そのロマンを追い求めることを否定する気はないし、むしろ応援したい。
ひょっとすると、異世界の召喚者は未知の存在との交流を目的に異世界召喚をしたのかもしれない。
「お気の毒に」
拝啓、異世界召喚の魔法を行使した方へ、あなたの魔法は何者かに干渉されました。ご愁傷様です。
あなたの心身の無事は絶望的でしょう。残念ながら私には何もすることはできません。まだ生きているのならばあなたの短い余生の幸福を心よりお祈りします。
この思いがせめてものお慰めになれば幸いです。
俺は異星の召喚者をほんのりと哀れに思った。
なお、召喚者が何も考えていない単なる馬鹿である可能性などは努めて無視する。人はこれを現実逃避という。
それと手紙によれば複数人が召喚されるらしい。だがこの人物がわざわざ異空間を用意して放り込む目的は?
「わからない」
『言語の違いで会話に苦労することがないように配慮をした。君の故郷にある自動翻訳の機能と同じようなものだ。これは呼び出された星でも使える。ただし、文字の読み書きは自分で努力してくれ。』
これは感謝すればいいのか、それとも魂に干渉された可能性について懸念するべきか。
もし俺の魂に干渉して意思を捻じ曲げるならば、誰であろうと絶対に許さない。
「だが諦めるしかないか」
俺に力がないことが悔やまれる。
文字の読み書きについては間に合わせの魔法に心当たりがあるので問題ないだろう。
『次にこの異空間での暮らしについてだ。君達が生活するための屋敷を用意した。食糧他の生活物資について、君達それぞれの故郷から良さそうなものを適当に用意した。』
これは後で確認だな。毒物の混入......いい加減その類いのことはもう考えないようにしよう。
「前言撤回、異空間にいるらしい隣人による毒殺は十分に懸念するべきだ」
まだそちらは備えれば対応できる可能性が残されている。どんな時でも最期まで希望は持つべきだ。
『屋敷の外には地面が広がっている。地面の発光色の変化で時間経過を示した。1日のサイクルとして擬似太陽光が日中は明るく、夜は暗めに光る。』
そういえば、まあまあの頻度でカタカタと音を発する窓へ差し込む光は空から来ていない。部屋の天井に映る光は明らかに足元の方向から来ている。
確かにこれは自然ではあり得ない光景ではある。しかし、自然とは魔法によって制御され最適な状態に変化できるのが常識だ。
たとえば、祭りとかお祝いの時とかにはシステムが太陽を消して地面を光らせたりする。だから俺はこの光の差し込む方向に対して微塵も違和感を抱くことはなかった。
「ここが異空間であることを実感させる光景か」
人類にとって視覚情報は特に重要なものだ。それを踏まえればいい仕掛けといえる。
ここを異空間と認識できたのはルガル種としての感覚で捉えた魔力に違和感があったからだ。俺はできなかったが、普通は自然とは異なる光景に注目するのだろう。
「そうか、これがシステムへの依存か」
便利なものは、人の能力を鍛える機会を奪う。今、俺を閉じ込める実験をしているかもしれない友人の言葉だ。
だからあいつは常日頃から「人はもっと苦しむべきだ」などと主張していたのか。
あいつの実験へ予算をつけるのは正しかったのかもな。
一つの気づきを得た俺は、続きを読む。
『この異空間から脱出する必要はない。異星からの召喚により君達は自動的に異空間から解放される。合図として召喚の1日前には建物の外へ出られなくなる。そのとき異星へ持ち込める物資は身につけているか《収納》したものだけだ。注意するといい。』
これが故郷の実験であれば、異空間からの解放は実験の終了と同義だろう。
ただし、どこか不穏な感覚がある。あまり楽観的には考えずに、異星とやらでのサバイバルを覚悟するべきだろう。
「ふう、気が重い」
『なお私は異空間にいる君達に対してよほどのことがなければ干渉しない。これは召喚後も同様だ、安心してくれたまえ。』
欠片も安心などできない。文言は、『私は』『干渉しない』だ。つまり、『私以外は』『干渉する』と解釈できる。
突如走った全身の緊張から思うように体を動かせない。やけにノロノロとした動作に内心で罵倒しそうになるのを堪えながら必死になって先程の複製物を手にとる。
目を凝らして探すのは1人称だ。
『わたくし』、『オレ』、『妾』、『ボク』。
「最低でも4人、文言の変化からもっといると想定できる。手紙を書いていない人物を考慮すれば......」
無意識だろう、片手で頭を抑えようとした。しかし力が入りすぎて自傷してしまった。
少し打身になったが、待機させていた《基本的な治癒》によりすぐさま回復する。同時に緊張もほぐされる。
少し冷静になった状態で考えても結論は変わらない。正体不明でおそらくは格上の相手が4人以上か。故郷の最低戦力基準すら満たせていない上に、実戦経験ゼロで対処しなければならないのは厳しすぎる。
俺の経験といえば現役の軍人の方から見ればおままごとと言われる基礎教育課程の訓練だけだぞ。
緊張が解けた反動か、椅子から転げ落ちる。
迫ってくる床を見ながら考える。めまいと吐き気の症状はない、前回より大幅に改善した。