「異次元の人」——高度魔法文明に住むエルフです、なぜか異世界召喚されました。 作:白木ケイ
この話は(5)と(6)が連続しています。
それとお気に入り登録をしてくれた方々へ。
ありがとうございます。
(5)テラフォーミング(一般論として、我々は侵略行為には断固反対する)
私が少し興奮して喚いてしまったので、一度休憩を挟む。といっても、テーブルの上にあるコップから湧き出るお茶を飲んで落ち着くだけだが。
あ、少し甘くて美味しい。お菓子の味がないと風味が変わるのね。
「さて異世界召喚についてざっくり理解して、二つ目の依頼を確認したところだね。さて話は少し変わるけど、この異空間にいる隣人について少し話そうか」
休憩中の軽い雑談を話すそぶりでボク様は続ける。
私は異空間の隣人達について、実は興味があるの。左の椅子に座っているヨラメも同様で、尻尾が少し揺れているのがわかるわね。
おそらく私の尻尾も揺れているのだろう。
「まずは消す予定の魔術師と少年から」
先のものは訂正、隣人といっても全員に興味があるわけではない。ほら、ヨラメの左右に揺れる尻尾が左の位置でピタリと止まってしまった。
「この二人はね......君達すごくわかりやすいね。二人とも耳が垂れてるし。そんなに興味なさそうにされるとやりにくいな」
「お気になさらず」
「問題ないです」
うわーやりにくい。とおっしゃられても何も変わりませんよボク様。
ボク様は私達を順に見て、ため息を吐いて話を続ける。空気が読めていませんね。
「この二人は、異世界召喚にかこつけて送り込まれた侵略の先兵なんだ」
「知ってます」
「でも実はこのことについて本人達は自覚してないんだよね。多分、幸運だったとでも思ってるんじゃないかな、今はね」
「どういうことですか」
ヨラメの覚悟は......大丈夫、興味を示す尻尾のように揺れてはないわね。
「えーとね、話していい範囲は......これくらいかな」
この手の汚れ仕事において隠しごとがあるのは当たり前だ。前職で慣れてはいる。
しかし、親しみを見せているボク様にそれをされると少し苦しいと感じる。
「これについてはごめんね。あんまり知っちゃうと君達が危うくなるから。最悪二人のように始末する必要が生まれるかも」
だから話せないらしい。秘密の理由を安全への配慮のためと言われれば、無力な私達それを信じるしかない。
こちらを窺い、しおらしくするボク様を見ると、ついからかいたくなってしまう。我慢しないと。
「侵略を仕掛ける種族はね、魂に入り込んで、汚染させた状態で話を持ちかけるんだ」
「それは生殺与奪の主導権を奪われている状況では?」
ヨラメの疑問はその通りだ、魂に癒着する方法は不明だが、それができるのならば殺すことも容易いだろう。
「そうだね、だから基本的には魂というものを知らないか、認識できない人物が対象になるよ。でも、もし彼らが君達と交渉するときは......脅してくるか、穏やかに寄り添うか、どちらにせよ相手の機嫌次第で都合よく殺されることは覚悟しておいてね」
「恐ろしいですね」
ヨラメはきちんと理解できている。そのことにボク様も満足げだ。
もちろん私は今すぐなでなでして褒めてあげたい。いやヨラメを驚かせてはダメよ。我慢しないと。
二人に見つめられるヨラメは恥ずかしいのかタジタジだ。可愛い。
やがてヨラメは手で顔を隠してしまった。ならばここは私が質問して話を進めてあげないと。
「それで侵略者はどのようなお話を持ちかけるのでしょう」
「流石に具体的なやり取りは知らないよ。でも事後の結果は知っている」
「それは?」
「侵略者は先兵に恩恵を与えるんだ。先兵の一人はそれを加護とかいってたっけ。あれチートだったけ?まあ両方あったか。で、その加護は先兵が知る限りの範囲でいくら努力しても手に入らない能力をもたらすんだ。例えばそれは、先兵にとっての驚異的な異能とか、特別な成長補正システムとか。あとは、全てを把握する眼だけど一部が把握できない詐欺もあったね。それと、なんかたくさん物が持てるようになるやつ。この《収納》みたいなものだね」
そしてボク様の手から卵のような何かが出現した。それを確認したボク様はなぜか慌てた様子だった。
いつのまにか卵のようなものは消えていた。
《収納》とやらの実演をしてくれたらしい。
「強くなれるのですか?」
ヨラメ、それに頼るのはダメよ。
心配しなくても分かっていますお姉様。
無言で交差するヨラメと私の視線。それに交わることができず、待ちぼうけをくらう可愛いボク様。
やっぱりいじめたい。我慢しないと。
「ヒマイはさっきから急に頭を振ってどうしたのさ。で質問の答えはね、強くはなれるよ。スペックで言えば今のヨラメの大体100倍弱くらいにはね。もちろんこれは補正されるとはいえ、きちんと努力しないと到達できない領域だけどね。もっとも、スペックを十全に使いこなして戦えるかはまた別の話さ」
それは、スペックだけでとてつもない強さだ。そこまで行けばほとんどの戦いが力押しで片付く。
そうか、だから使いこなせるかは別ということか。
「そこまでですか?」
復活したヨラメの質問だ。真面目な表情で話を真剣に聞いている。とても可愛い。
「ああでも、大半、というかほとんど全ての先兵は不意打ちをすれば勝てるよ。魂のことを知らないせいでその防御がなってないからね。脆いものさ」
ここで目覚める以前のときも、魂の破壊で四人が犠牲になった。
嫌なことを思い出したせいで気が沈む。見ればヨラメも同じようだ。
「また耳が垂れてるし。不意を打つのもコツがいるから、慣れないうちはやめておいた方がいいよ」
「ちなみにどのようなコツが?」
「相手が想像できない未知の方法を使うのさ。例えばヒマイにもできるよ。ボクを殺そうとしたときの方法さ」
あのときは眼で視て、その魂を直接破壊しようとした。それでもボク様のように魂が固ければ意味をなさない。
「先兵は加護で身の丈に合わない力を得ているからね。だからヒマイの攻撃でも、威力過剰なものになるよ」
わかりやすく、ボク様はテーブルの上に手を置いて、握った拳を開いていく。魂が簡単に崩れるというジェスチャーだろう。
「まあ、不意を打つのもリスクが高いからおすすめはしないよ」
確かに油断はできない。いくら魂が脆くてもその能力は本物なのよね。ヨラメも同じことを考えているようね。
二人して硬い表情を作り、耳と尾を正して気を引き締める。
「先兵について簡単に理解できたところで、その影響を簡単にまとめるね。まず先兵は運命操作とも言える何かを行使している。残念ながらその原理は不明だね。そして運命操作の結果、先兵はどんなに少なくとも一人の子孫を残して人生を終える。癪なことに徹底的な妨害をしても必ず子孫が残るんだ。全く先兵と関わりのない人物が隠し子を設けていたケースもあったね」
ん?今の話は先兵となった人物の人生についてしか語っていない。この話がどうやって次元侵略に繋がるのだろうか。
「それだけですか?」
「もちろんこれで終わりじゃないよ。侵略者の先兵の加護は子孫達に受け継がれる。その子孫達も先兵と同じように必ず子孫を作る。問題はそれ以降だ。時が過ぎて先兵の加護を持つ子孫が増えたら、今度は星系の核に浸透を始める」
いきなり星系の核への浸透とは。そもそも星系の核とはなにかしら。まあ続きを聞きましょう。
「次の段階は」
「星系の核に浸透したのち、先兵の加護は次元と接続する。接続後は少しずつルールの改変を始める。これは侵略のための地ならしさ。さらに時が過ぎて、風呂場に生えるカビのように先兵の加護が次元の奥深くまで根を下ろした時、奴らの侵略が始まる」
「それがルールの改変と環境の激変による種の大量絶滅です」
「奴らはそれをテラフォーミングと呼んでいるよ」
途中、上から別の人の声が聞こえた。多分ボク様の同位体だろう。ボク様も何も指摘しないし。
(6)忠誠の誓い(どおして?)
しばらく絶句した。何に対してかといえばヨラメと私が話を把握できていないのにボク様が話を続けたことに。
テラフォーミングのことを聞いて、ヨラメが根本的な質問を投げる。
「このお話の情報源はなんですか?」
「今も同胞達が必死にお掃除している次元で過去に観測された情報だね。今は確か合計で6個くらいだったかな。一度も掃除をしなかったお風呂場に蔓延したカビを完全に駆逐するのは骨が折れるけど、同胞達は2つの次元で大掃除をやり遂げたんだ」
そんなに胸を張って誇らしげにしながら、お風呂場のカビ掃除と次元の改変を同じものとして話さないで欲しい。
大したことがないと頭が勘違いしそうになる。本当にやめて。
「えっと、ではボクさ——んの目的は?なぜそのようなことを。危険が降りかかるまで放置すればいいのでは?」
「目的か......我々はね、いずれ世界から消えていなくなるんだ」
突然、抽象的な話が始まった。いや今までも十分抽象的だったわね。
「世界から消えるのは嫌だ。どうにかしなければならない。そのために我々は、こう見えても必死に動いているんだ」
また内容をうまく理解できなくなったので、無言のままヨラメと視線を交差させる。
それにしても、ずいぶんと寂しそうな様子だ。親を失い、仲間を失って、残された孤独に耐えられなくなった子供のようだ。
「最近になって希望が見えてね、みんなが必死になれば全員とはいわずとも半分くらいは助かりそうなんだ。もっと頑張れば助かる数は増えるかもしれない」
この独白はボク様の本音に聞こえる。ここは下位者としてきちんと聞いておこう。
「だから必死になって頑張った」
その後に続く言葉は、もう誰も褒めてくれることはないけどだろうか。なぜか私にはそう聞こえた。
その気持ちは仲間を失った私には痛いほどよくわかる。
これが本心であれば、私達の仲間を見殺しにしたことについて、謝罪したい気持ちは本当のことなのだろうと感じれた。
「これからもボク達は頑張るよ。あと最近元気になれる出来事があったんだ。だから今まで以上に頑張れる」
「それはよかったです」
「本当にいいことだと思う」
そう、本当に。
よくわからない独白ではあったが、それは問題ない。私達はその心で共感できたのだから。
不幸なことがあっても前に進もう。ボク様の姿勢を見て、少しだけそう思えた。
「だからボク達の依頼を受けて欲しい。まずは魔術師を殺して、ボク達を助けて欲しいんだ。ヨラメとヒマイの仲間を見殺しにしておいて虫が良すぎるとは思うけど、どうかお願いします」
ボク様はその場で椅子から立ち上がり、頭を下げて希う。そこには以前までは分からなかった悲痛な思いがある。
今なら義務ではなく、自発的な意思として伝えられる。
ヨラメと私は椅子から立ち上がり、それぞれ左右からゆっくりと近寄り、ボク様のそばで片膝をついて頭を下げる。
「あの時、私にはどうしようもない状況からヨラメを救い上げてくださった恩を返させてください。これから下僕の一人として、よろしくお願いします」
「まだ思うところはありますが、お姉様と同じく私も貴方様の下僕となります。どうか、私とお姉様を生かしてください。よろしくお願いします」
しばらく反応がないので顔を上げてみると、ものすごく微妙な表情をして、オロオロと手と体を動かしているボク様がいた。
私達の忠誠の誓いがよろしくなかったのだろうか。
「あー、もし下僕としての待遇に不満があるなら——」
「そのようなものはございません」
「あえて申し上げれば、私とお姉様を貴方様の庇護下においていただければ」
「あの、普通に対等な関係の仲間でよくない?」
すかさずヨラメが反論する。
「そのようなことは不可能です。私達とボク様の間には厳然たる差が存在します。そのことを考慮すれば、明確な上位者と下位者としての関係が相応しいでしょう」
「ソウデスネ」
頭を低く保ちながら、続けて私も下僕として扱うべき理由を淡々と述べていく。しかし、上申を続けるごとにボク様の目が死んでいくのは気のせいだろうか。
「ハイ、ソウシマス」
やがてボク様は全てを諦めて肩を落とした様子でそう述べた。
どうやら私達の忠誠は受け入れられたようだ。
よかった。