「異次元の人」——高度魔法文明に住むエルフです、なぜか異世界召喚されました。   作:白木ケイ

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 区切りがいいので少し短めです。


裏話(12) 依頼の終了(二人への報酬を用意しないと)

 私とお姉様はしばらく抱き合った。私が抱きついて、お姉様が抱きしめてくれた。

 空気が読めないはずのボクさんは、珍しく無粋なことを言わなかった。

 お姉様の柔らかい胸に埋めた顔を離す。その流れのまま、私とお姉様は互いの体に絡ませた両手を解いた。

 そして私は魔術師の方を向いて宣言する。

 

「やりましょう、ボクさん」

「はいはーい。じゃあここからは打ち合わせ通りに、安全確保はお任せあれ」

 

 少し軽い調子で寄って来たボクさんは、私とお姉様について特に何も触れずにいてくれた。

 そのまま魔術師の横に立つと、手招きをしてくる。なんだろうか。

 

「そういえばヨラメ、事前にフードを捲らないの?」

「大丈夫です」

 

 それは停止を解除した後でもいい。

 それよりも、多分これから魔術師さんの命乞いが始まる。それはもう必死なはずだ。

 だが私がそれに耳を傾けることはない。やるべきことは魔術師の体を無力化して、魂にトドメを刺すことのみ。

 今回は私の力を使わない。だからあの時のような惨劇も起こらない。

 なにより、後ろでお姉様が見守ってくれている。

 よし。

 

「じゃあ、いくよー」

 

 魔術師の右に後ろに回ったボクさんが左手を挙げた。

 

「ってくれ!なんで俺を襲撃するんだ!せめて理由を教えてくれ!」

 

 ゆっくりと深呼吸する。狙いは胸を穿つこと。

 お姉様のような達人の動きはよく見てきた。しかしその記憶があるからといって、私はそれを直ぐ活用できる天才ではない。

 だから練習も無しに首を手刀で切り飛ばすのは難しい。あれは繊細な技術がいる。もちろん、衝撃の浸透で心臓を破裂させるのにも高度な技術が必要だ。

 ただし、力任せに胴体に風穴を開けるのなら、素人の私でもできる。

 最低限、必要なのは狙いを違わないこと、それと十分な力だけ。

 

「あ?さっきと別か。一体どうなってやがる」

「ボクさん、体を動かせますか。こう胸を穿ちやすいように」

「うお体が勝手に!てかお前らなんなんだ!」

「ほい、こんな感じでいい?」

 

 魔術師が振り返る途中で停止させられた少し間抜けにも見える体勢から、私と向かいあう直立不動の立ち姿へと変えられる。

 これで正面から狙いやすい。

 

「ありがとうございます」

「どういたしましてー」

「さっきから何話してやがる!クソが!まじで何にもできねえ。あ!」

 

 落ち着いて、ゆっくりと脚を開いて重心を下げる。衝撃の反作用で吹き飛ぶことがないように、そして身を守るために、一時的に世界への重さを加えておく。この瞬間だけは体重を測りたくない。

 

「おっとー?偶然にもボクのポケットから体重計が!ねえヨラ......はい、ごめんなさい。本当にごめん」

「神なる炎を呼び覚ます。我、偉大なる御身の恩寵に縋らんと欲す——」

 

 ボクさんが冗談でなごませてくれようとしたのはわかる。でも今のは全く笑えない冗談であることを後でボクさんに教えてあげます。

 

「——請い願うこと一度。矮小なる我の前に未だ炎は顕現せず。不敬にも再び、神なる炎を呼び覚まさんと欲す。矮小なるこの身は強欲にも傲慢にも御身の恩寵を簒奪せん——」

 

 右の拳を握る。ぶつぶつと意味のない言葉を喋る魔術師を無視して、その拳を胸に当てる。魔術師の胴体に傷はない。

 当然攻撃したわけではなく、強く緊張している私自身のための動作確認だ。そのまま体の軸を中心にして左肩を後ろに、右肩を前に何度か回す。

 

「——請い願うこと三度。未だもたらされることなき恩寵に我は縋らんとする。おお、偉大なる者よ、ついに我の願を聞き届けるか。だが傲慢な我は対価を支払わん。強欲な我はより強大な力を求める。さすれば貴様は我の持つ僅かな魔力で、神なる炎をここに顕現させよ!《フレア》!」

「は?」

 

 魔術師が何かを宣言すると、突然私の体が燃え上がる。燃え上がるが、この程度では火傷すら負えない。この分では多分身を堅めなくても、問題ない。心配なのは服だけだ。

 それよりもボクさんが修羅のような顔をしている。さっきまでこの場に相応しくない笑顔だったのに。

 

「着ている服は燃えないから安心していいよ。ヨラメは魔術師の始末に集中しててね」

「お前《フレア》とか言ったか。ああ、気にしなくていいよ」

 

 ボクさんから二重の声が聞こえる。そしてなぜかはっきりと聞き分けられた。

 一旦無視しよう。

 握った拳を魔力で重くして固める。私はまだ相手との接触の瞬間だけ重さを追加するような真似はできない。

 そして全身の力を程よく抜いて、拳に速度が乗るようにする。おそらく魔術師の魔法による炎で視界遮られている以外はベストな状態だ。

 

「無傷かよクソったれな化け物どもめ!っつ、魔力が使えねえ。これもお前らがやってるのか!クソがクソがクソが!」

 

 魔術師の喚き声は努めて無視する。

 再度息を深く吐いて——拳を振るった。

 

「グボぉ」

 

 廊下に二輪の赤い花が現れた。それは残酷な暴力を受けた被害者の痕跡だ。私へ向かって咲いた花は少し不恰好で、奥に向けて開いた花には勢いがあった。

 前衛的な芸術を作ったのはこれが初めてだ。

 派手に咲いた赤花は植物としての定めに従い、直ぐに枯れ果てた。そして跡形も無くなった。ボクさんがお掃除してくれたらしい。

 魔術師との接触の瞬間は僅かな間だ。それでも気持ち悪い手ごたえはあった。風穴も作れたし、攻撃として十分な仕事は果たせたはずだ。

 初めての正拳突きは随分と不恰好だったと思う。とても理想通りの動きではない。後でお姉様の厳しい指導が必要だ。ふふふ。

 

「はい、お見事。でもまだ生きてるからね」

「あが、ぜひゅー」

 

 魔術師の口からダラダラと血液と涎が流れてくる。血は仕方ないが涎はやめてほしい。

 今もなお魔術師の体には私の腕がめり込んでいる。多分肉体の無力化は成功した。

 しかし、どういうわけか肝心の魂が捕捉できない。魂が捕捉できなければ魔術師を殺せない。

 私の額から汗が噴き出す。

 

「ヨラメ、このままだと魔術師は再生するよ?一応、現実改変とか因果遡行とかいろいろ抑えてるけど、どうする?」

「あの、魂が捕捉できません」

「あー、そういうこと。その問題は考えてなかったや。ボクの手助けが必要かい?」

「情け無いですがお願いします」

「初めてだしそんなものさ。問題を放置しないヨラメは十分立派だよ」

 

 魔法を行使してヨラメが魂を捕捉できるようにするね。ボクさんはそう言った。そして私の頭の中で声が響く、《魂を見透かす眼》と。

 聞こえた通りに眼を使って魔術師の魂を探す。よし見つけた。

 それは随分と小さかった。おそらく隠れ潜むためにわざとそうしているのだろう。ともかく魔術師のそれを捉えた。即座に攻撃を開始する。

 私のそれは、ヒマイお姉様のように衝撃を与えて粉砕するものではない。どちらかといえばマコムお姉様のように、相手の魂を溶解させて自滅を促すやり方だ。そして加護とやらで保護されている魔術師は最期の瞬間まで苦痛に悶え苦しみ続けるだろう。

 

「あが、うぎ、がっ」

 

 これ以上、嫌な光景を見ないために目を閉じていたら、途中で声が止まった。恐る恐る目を開けばボクさんが首をへし折ったようだ。

 

「こいつこの状況で。まあいい、このまま続けて」

「はい」

 

 声を上げる手段を失った魔術師の魂への攻撃を続ける。その間にもボクさんから干渉されたのがわかる。これは私を防御するためのものらしい。

 集中して作業を続ける。それは一時が一年に感じるほどだ。幾ばくかの時間が過ぎた後、ついに魔術師を始末した。

 左手で魔術師の体を抑えて、突き刺した右手を慎重に抜く。気持ち悪い感触だ。二度と味わいたくない。

 そしてボクさんの魔法によって、体と服の汚れは綺麗さっぱり無くなった。

 

「お疲れ様、でも油断はダメだよ」

 

 その言葉を聞いて、《魂を見透かす眼》で見れば溶けて無くなったはずの魂が再び寄り集まっていく様子が見えた。まだ終わらないのですね。

 

「もう一度ですか」

 

 正直、あまり気分は良くない。もう一度は頑張れても、その次以降は厳しいと思う。

 

「いや、ヨラメの仕事はこれで終わりさ。いい成果だよ」

「でも魔術師は始末できていません」

「あー。それ実はヨラメの方法で始末できるかどうかを確かめるための口実だから。ヨラメが必死に攻撃して殺しても魔術師は復活できる。これが今回の収穫だね」

「はあ」

 

 そして魔術師の魂が復活すると同時にボクさんが何かをした。確かに何かをしたはずだが、何もわからない。

 

「お姉様は」

「無理よ、無理。視ていたけどさっぱりわからないわね」

 

 間髪入れずに否定された。お姉様でも無理なら仕方ない。

 

「もしかして解説が欲しい?最初に話した速度の時より長くなるけど大丈夫?」

 

 間髪入れずに首を横に振った。間に合ってます。

 視界の端ではお姉様も同じ動きをしていた。

 

「そう、残念。後始末は全て終わったよ。あとはこの異空間から元の異空間に戻るだけだね」

 

 ふと私の頭に素朴な疑問が浮かんだ。

 

「この暗闇の部屋はどうなるのですか?」

「うーん、内緒。遠い未来でいつか使うかもね」

 

 その時はもう少し広くなってるかもね。そう言うボクさんはとても意味深な雰囲気を醸し出していた。

 

「お疲れ様、ヨラメ」

「ほいお疲れー、協力ありがと」

 

 ボクさんが手を振ると、私とお姉様は元の部屋へと戻っていた。




備考
・解説は例の速度の時より長くなる
 難しくなるとは言っていない。ただし、作者が考える必要がある。いや大体は決まってるんだよ。本当だよ。ホントホント。
 実は何も決まってないからカットしたなんてそんな馬鹿なことがあるはずないじゃないか。ハハハ。

あとがき
 今話でようやく出来事その1が終了です。以降はヒマイとヨラメの蛇足をささっと書いて、本編に戻ります。
 それは、なんと明日の17:00から投稿されます。
 蛇足は(13)と(14)です。今のうちに第13話か第15話までを読み返す準備をしておいてください。

 初作品をここまで読んでくれた方々へ、本当にありがとうございます。
 そして図々しいのですが、この作品についての感想と評価をお願いします。
 読者の皆様がこの作品についてどうお考えなのかを作者に教えてください。
 何も思うところも考えるところもない。それも立派な感想です。ぜひそのままどうぞ。
 もちろん低評価でも大歓迎です。その場合は、無言ではなくできれば詳細な理由が知りたいです。
 「ここの部分が気に入らない、理由はこうだ」や「この出来事が嫌いだ、共感できない」などです。
 それは1章-裏1が完結した後でも構いません。それらはすでに予約済みです。
 どうかよろしくお願いします。
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