「異次元の人」——高度魔法文明に住むエルフです、なぜか異世界召喚されました。 作:白木ケイ
——前書き
作者は隙あらばエルガルド共同体を語りたい。
今話は割と好き勝手に、そして強引に進めたせいで、話の流れとキャラ思考に違和感がないかが気がかりです。
あと長いです。途中から表話と同時系列になります。ついでに備考と後書きも長いです。
さらに振り返りやネタバレ解説をする活動報告も投稿します。これも長いです。覚悟しておいてください。
話は変わりますが、最近◇記号によって場面転換ができることに気づきました。これとっても便利です。すごい(これが小並感でしょうか?)。
また話は変わりますが、次回以降、更新する時間を18:02に変更致します。引き続きよろしくお願いします。
私が洗面台で口をゆすいだ後、ヨラメの付き添いによって廊下を戻る。
そして目覚めた時点では部屋になかった、信じられないほど柔らかい三人掛けのソファに座る。
いつも思う、これは人をダメにする危険なものだと。
そっと横に座ったボクさんが気まずそうにしている。
ボクさんが気にすることは全くないのよ。これは私が学習せずに自滅しただけ。ただし、乙女の尊厳は失われていない。
そう伝えると楽しそうないつもの笑顔が戻った。
とても可愛い。軽く抱きしめておこう。
ヨラメはボクさんを挟む位置に座って、背後から同じように抱きしめる。
「ヒマイの調子を悪くしておいてあれだけど。二人に少年を放置してもらう理由は話せません」
「やはりそうですよね」
「話せることは?」
「これはボク達にとって重要なことだ。それだけだね」
ボクさんの時折見せる重苦しい雰囲気は、見ていて少し辛い。これは私が勝手に共感しているだけ。
でも共感したからには、少しでも寄り添いたいと私は思う。
それはヨラメも同じ思いだ。
◇◇◇
しばらくたわいのない雑談を楽しんだ後、機会を見てヨラメが問う。
「結局、少年とやらはどう始末するのですか?」
「少年はこの異空間にいる別の人物に始末してもらう」
私達に抱きしめられたままのボクさんは、そのまま起こる出来事を順番に話していく。
その語り口はいっそあからさまなまでに感情の抑揚が抑えられ、非常に淡々としたものだった。
その中には私達への細かな行動指示と注意事項も含まれていた。要するに新しい依頼だ。
私達は一も二もなく全てを了承した。
その後、部屋の外に出て実際に起こる出来事の全てが、あの部屋で聞いた語りの通りに進む。
そのことを私は少し不気味に感じた。それでもボクさんへの態度は変わることはないが。
一連の流れの中で私達がしたのは、ことが起こるまでのほんの少しの準備。そして件の人物を最終段階へ誘導しただけだ。
◇◇◇
誘導をかけるタイミングは、お茶会の席に五人が座り、テーブルに花を咲かせるほど過ごしたあとだ。
ボクさん曰く、件の人物は本音を隠して建前のみで交流を図るらしい。
あの時はさすがに冗談だと思い、そんなことを言われると不安になりますなどと返した。
実際に相対してみると、それは冗談でもなんでもなかった。
「あら、はじめまして」
扉から頭だけを出した彼の第一印象は非常に整った容姿であった。私はその美しさに呑まれそうになった。
各パーツの造形やきめ細かい肌は作り物のようで、しかし不思議とそうではないと感じられる。
それはまるで後世まで歴史に名を残す偉大な芸術家が、魂を込めて作り出した一世一代の傑作のようであった。
次に目が向くのは髪だ。短髪で遊びがありつつ、立体感を出すように揃えられたスタイルである。その色は明るい白を基調としつつ、角度によって暗い黄、緑、青、赤といった様々なカラーが筋状にかかり、彼の存在と美しさを際立たせる。
私は三人が些末なやり取りをしている間、常に彼の容姿へと惹きつけられていた。
「お三方で親交を深め合うのもいいことですが......せっかくです。私達とも少しお話しませんか?とくにそちらの方は初めてお会いしますし」
ヨラメの発言で正気に戻る。
「それはいいですね、ヨラメ。このままだと我々が置いてきぼりですから」
片目を瞑り、親しみやすさをアピールしておく。
そして彼はヴィーシェルさんに連れられて、自己紹介をした。
自称した名前はエリク、出身はエルガルド共同体。種族はルガル種。
彼がボクさん指定のした人物だ。
キーワードはエルガルド共同体のルガル種。私達の部屋でボクさんが幾度も幾度も語った存在。驚愕と恐怖、好奇心と共によく覚えている言葉だ。
この文明社会はボクさん達が、あくまで個人かつ正面から正々堂々と互いの全力で戦闘をした場合、ボクさんが九割以上の確率で負けるらしい。
とても信じられない。
万全の準備をして同胞の協力を得られれば現時点で負けることはないとも述べていた。
しかし、それでも持久戦を仕掛ける共同体を一つの次元から完全に追い出すのには絶対法理の基準時間換算で数百年はかかるとか。共同体は稼いだ時間でさらに発展し、最終的にはボクさんの同胞達でも勝てなくなるかもしれないとも。
ここでの比較対象は例の侵略者による次元侵略のお掃除だ。これは同じく絶対法理の時間を基準にすると長くても数年で済むものらしい。
そういえば、速度の説明の時にエルガルド標準設定速度といっていたような。少なくとも観測因果の連続変遷速度は操作できるようね。
ボクさん曰く、このレベルの文明社会に住む住人が、何の目的もなくわざわざ異世界召喚されてあげる、なんてことはまずないそうだ。
それこそボクさんの知るところによれば、エルガルド共同体は異世界召喚を感知したその瞬間には、即座に報復を実行するらしい。
魔法の実行者を中心とした広大な範囲、それこそ複数の星系にまたがる空間が一時的に消滅するらしい。そして再出現した際には範囲内に存在した生命が完全に滅び、築かれた建造物と星のみが残されていた様相を、同胞の一人が偶然観測できたらしいとも。
その同胞の感想は実に鮮やかなお手並みだったせいで、危うく見逃すところだったらしい。
ボクさんと同等の存在ですら偶然に頼らなければ観測できない大規模攻撃......。
今回の異世界召喚では今のところ、そのようなことは起きていないらしいが、それがいつ起こるかは不明だ。
ヨラメと私では到底抗うことなどできない。ただ巻き込まれないことを祈るばかりだ。
条件付きであってもあのボクさんに勝てる文明社会......私の眼が捉えたあの計り知れないほど強大な魂を思い出す。ちょっと想像がつかない。
それにしてもなぜ彼は召喚されたのだろう。
ボクさん曰く、その目的を探るのは難しいらしい。そのため、次善の策として彼の実力がどの程度なのかを見極めておきたいそうだ。
先兵である少年を始末させることで彼の脅威度を計るとのこと。
これは私の直感だが、今の理由には大きな違和感がある。それが具体的に何かはわからないのよね。
記憶の回想から現実へと回帰すれば、件の人物は私達の付け焼き刃とは違う、洗練された能力隠蔽で見事なまでに己を偽っている。
ボクさんによるとエリクは偽名らしい。なので私は彼の本名を知らない。
両方ともボクさんから事前に教えてもらわなければ決してわからなかった。こうして観察している今でも、彼がありのままの自然体であると勘違いしてしまう。
実際にヴィーシェルさんはそう思っているようね。
おそらく何らかの高度な魔法が行使されている。
ヨラメはその薄気味の悪さからか、終始恐怖によって緊張していた。
眼を開いて視てみるという誘惑に駆られる。そうすればエリクと名乗った人物の一切合切を暴けるだろう。
実際ボクさんもそれは可能だと言った。そして全てを暴く前に、一切の苦痛なく殺されるだろうとも。
全ての抵抗は無駄で、そもそも不可能だそうだ。あと、何かの間違いで奇跡が起これば重傷の残る拷問で済むらしい。
嫌すぎる。
「エルガルド共同体のルガル......」
まずい、初対面でここまで反応するのは何か知っていると白状するも同然だ。なんとか軌道修正をしないと。
「まあまあまあ、とても不思議なお名前のところからやってきたのですね。我々もお返事しましょうか、ヨラメ?」
「はい姉様」
ああ、ヨラメには本当に余裕が無さそうね。これはどうしようかしら。
「私はヨラメです。ここに来る前のことは説明したくない、です。決して我々があなたに隔意を持っているとは誤解しないで欲しい、です」
まずいまずい、本当にまずい。
確かボクさんのお話では彼に強制力のある形で依頼与えているはず。そしてえっと。
「私はヒマイと申します。ここにいるヨラメと同じ場所の出身ですよ。ヨラメが言った誤解してほしくないのは本当のことです。隠しごと、ばかりをしていて虫のいい話とは思いますが、どうか仲良くさせてくださいね」
彼は依頼について口外しないようにしてあるはず。だからこちらにも同じよう隠しごとがあると匂わせておく。
これで勘違いしてくれるかしら。
「改めて、ヴィーシェルさんに紹介してもらいました、エリクです。私にも言えない秘密はありますからお互い様です。これからよろしくお願いします」
なんとか誤魔化せたかしら。
ほらヨラメ、私に合わせて返事を。
「はいよろしくお願いしますね」
「どうかよろしくお願いする」
ヨラメが緊張して言葉遣いがおかしくなってるわ。ゆっくり少しずつでいいから直しなさい。
◇◇◇
人の価値観が現れるものとはなんだろうか。様々あると思うが、雑談のトークテーマの一つに恋愛がある。
私はこのテーマで問い掛ければ大なり小なり彼の価値観を引き出せると考えた。彼の本音は分からずとも、その感情にはなんらかの動きが生まれるはずだと。
だから私はこのお茶会で話される話題をさりげなく恋愛トークへと誘導した。
あとは件の彼に答えてもらうだけ。
「まあそうなんですか?ヴィーシェルさんのところではそのようなものがあるのですね」
「興味深いです。我々はあまりそういった機会には恵まれませんでしたので」
「まあでも、以外と上手くいくことの方が少ないらしいわ——」
しかし、ヴィーシェルさんのお話がとても面白い。異文化で生まれた肉声のお話が聞けてヨラメも私も普通に楽しんでしまっている。
これではいけない。
「そう言えばお二人の恋愛遍歴が気になるのですがお聞きしてもいいでしょうか?」
この場に二人いるグループとは何か、そう男性だ。少し強引だけど早く彼からなにかを聞き出しておきたい。それが嘘にまみれた建前だとしても。
「確かに気になるわね、私も聞きたいわ」
「お願いします」
よしヴィーシェルさんが釣れた。ヨラメもだいぶ元の調子を取り戻せているようね。
「確かに他の種族ではそのようなものがあると故郷での講義で学びました。しかし私は皆さんの語る恋愛というものをしたことがありません」
建前以前の問題であった。この話題を拒否されたのだ。
「そうですか?非常に良い顔立ちかと思いますが」
「確かに、会話をしていて楽しいですし、恋愛経験がないのは絶対に嘘ですね」
頑張って価値観を引き出そうとしてみるが、うまくいきそうに無い。
どうやら彼もこちらが話を聞き出したいことに気がついたようね。
「嘘ではありませんよ」
ここはヴィーシェルさんに流れを任せるしか無いか。
「なんで皆んなそんなにあたしを見るの......あたしの顔に何かって、ああそういうこと。なんでと聞いてもしょうがないわよね。はあ」
察してくれた。この子すごくいい子なのよね。だから巻き込まれてしまってとても可哀想。
「エリク、続けていいわよ」
これはしょうがないか。そして彼は自身については一切語らず、エルガルド共同体の価値観について語り始める。
ここまで徹底されると、いっそ私も見習うべきかしら。
適当にわからないふりをして、最低限の相槌を入れておく。
しかし語られる中身についてはよく考えさせられる。特にこのセリフだ。
「土地を支配するには人が住む必要があります。しかし、広がり続ける土地に対して人口増加速度が追いついていないのです」
前半部分の語りに若干の違和感を感じた。まるで、都合の良いことを語って本当の秘密を隠すかのように。
そしてボクさんとの勉強の成果だろうか、私は気がついた。
エルガルド共同体が義務的に人口を増加させているのには全く異なる理由があるのだと。
ヴィーシェルさんは彼の語りに対する素直な理解を示しているが、彼の反応を見ればそれは真実では無い。
考える。必死に考える。でもわからない。
「あの、お姉様と私は先ほどから話についていけていません」
「なんだか申し訳ありませんね」
嘘だ、全て理解できている。だが生まれた謎は解けていない。
だから反応的には何も隠す必要はない。彼の語る話に隠された本当の真実がわからないのだから。
ヴィーシェルさんが語る。エルガルド共同体において、人口を増やすことは義務であり仕事だと。これは正しいはずだ。あ。
「なるほど」
「えーと、言葉は分かりますが、うん?」
「ヨラメ、あそこのノルマのようなものなのでしょう」
「え、そんなに辛いことなんですね」
「少し違うような気もしますが......よろしいでしょうか」
ヨラメは私が咄嗟に出した嘘について、阿吽の呼吸で合わせてくれた。よし。
「はい、その理解で問題ないと思います。なので私は皆様の話していたような恋愛という行為をしたことがないのです」
彼はそれを言い終えるとこちらに対する興味を失ったようだ。どうやら他人に対しての興味が薄いようね。
あとはヴィーシェルさんにいくつか確認をしよう。耳を少し傾けてヨラメに合図をする。
「今のお話はエルガルド共同体?の義務についてですよね」
「そうよ——」
人口増加に貢献する義務。これは正しいはず。恋愛云々は除外しておく。
それはエルガルド共同体にとって必要なこと。人を増やして何ができる?有事の際の防衛要員?
「でもなんのために人口を増やすのでしょう」
「それはエリクの説明だと——」
余った土地に住む人を求めている。だがそれは違う。少なくとも信憑性は相当に薄い。
「お姉様、彼は魔法が使えるそうです」
ヨラメがヴィーシェルさんから聞き出してくれた情報だ。ヴィーシェルさんの返答の合間に小声で伝えてくれた。
まあそれは当たり前のこと。特に気にする必要はない。
本当に?
おそらく彼はヨラメと私には全く感知できない魔法を行使している。それは眼を使えばわかるが、ボクさんに警告されている以上は控える。
でもきっとそれは非常に高性能な魔法で、魔法で......魔力の消費がとても多そうね。
それを苦もなく行使している彼はヨラメと私には敵わない本物の化け物なのでしょう。
そういえば、エルガルド共同体は異世界召喚への報復攻撃で大規模な魔法を行使したはずよね。それはそれは、とても大量の魔力を消費したはず。
そんな魔法はボクさんでもない限り一人では絶対に発動できないはず。なら。
「——ということよ」
「ヴィーシェル、わかりやすい解説をありがとう。ようやく理解できたわ」
「質問に答えてくれてありがとうございます」
「そんなに堅苦しくしなくてもいいわよ。もっと砕けた感じでも大歓迎よ」
そう、目的は魔力だ。おそらく有事の際に行使する大規模魔法には大量の魔力が必要となる。そして行使のためには大量の人が連携して一緒に魔法を発動する必要があるはずだ。だから人口増加を義務にしている。
穴だらけの仮説だが、一応は成り立つと思う。あとでボクさんにも聞いておこう。
◇◇◇
あのあとエイサンドさんが怒り出した。彼は現実を理解できていないようね。
確かに眼で視た両者の実力は拮抗していた。しかし経験が違う。アステア様は力の使い方が格段に上手いのだ。
それを加味すればアステア様が蛮族如きに負けるはずがないのに。
まあボクさんの依頼もあることだし、誘導しましょうか。
多少の雰囲気を漂わせて、声色を強く出す。
「長くなりそうですので移動しましょうか、見ればわかりますよ」
道中、彼はしきりに少年を探している様子だった。それだけ辺りを見渡していれば、すぐに分かる。
事情を知らないヴィーシェルさんが話しかけていたので、彼のやる気を削がないように少しだけフォローしておく。
「まあまあ、いいじゃないですか。何せ初めての外ですから、気になるのも仕方がないですよ」
魔法を行使して探している気配もない。やがて諦めたのか、件の人物は屋敷の外観に興味深々のようだったので、ヨラメに合図をして適当な会話を試みる。
「お姉様、ふと思ったのですが外と中の雰囲気が全く違いますよね」
「ふふふ、そうね」
全く反応なし。ふう。
それよりも彼、さりげなく後ろに下がって逃げようととしてないか。
流石にそれはまずいので、柔らかい声色を意識しながら彼を止める。
「ダメですよ」
「……はい」
それは私達にとって大きな恐怖を伴う行為だった。
彼が表面上だけでも温厚な性格で助かった。
そして屋敷の外に構築したボクさん曰くとってもしょぼい結界の前についた。ヨラメと私もそう思う。
ヨラメが結界を操作して視界を通す。
見ればアステア様と蛮族が肉弾戦をしているようだ。それは端的に表現すればとてもグロい光景だった。
眼を開いて視る。アステア様は無事なようだ。むしろ蛮族の魂の方が傷ついている。なるほど、このまま泥臭い消耗戦で決着をつけるおつもりですか。
それにしても、なんだろうこの様相は。何か奇妙な出来事が起こってアステア様の再生がうまくいっていないらしい。
その時、横に立つ件の人物が口を開く。
「あれ?」
「何かありましたか」
私はすかさず聞き返した。しかし彼はこちらに反応することもなく独り言を呟いた。
「再生の阻害?いや違う。外部から受けている別の干渉を退けようとしていて単純に再生に回すリソースが足りないのか」
「なるほど、これはそう解釈すればいいのですね」
素直に関心する。私が言語化できなかった違和感を彼は淀みなくすらすら述べた。
これだけでも、ボクさんが彼を指定する理由が垣間見れた。
「まあいいか」
一体何がいいのだろうか。もしかして、何か機嫌を損ねることがあったのだろうか。不安だ。
そして今、ボクさんに依頼されて構築した結界に反応があった。
結界は内側と外側を区別し、双方向からの干渉遮断効果を持つ。それを無視して魔法が行使されたのだ。
魔法の結果、アステア様の体は再生し、魂に対して胃もたれしそうなほど堅固な防御が施されていた。
あれを壊すのは相当な無理難題だ。詳細を視れば、衝撃の浸透に対する対策もしっかりとされている。
とすれば、蛮族とアステア様の戦闘結果はもう決まったようなものね。
さて、いくら善意の行いとはいえ魔法の行使者に対してその意図を聞き出さなければ。
私はそんな浅はかな考えのもと、そのまま犯人を睨む。
「何か干渉しましたね」
「あ?」
あ、まずい、怒らせた。死ぬかもしれない。
なぜ私は肝心なところでミスをするのだろうか。
私が結界の件で不用意に彼へと話しかけたことに驚いたらしく、ヨラメが振り返る。
そして戸惑い臆する私を見かねたのか、ヨラメが彼に対して強い口調で問いかける。
「なぜ何も言わずに干渉を?」
「少し黙っていろ」
まずい。ここは彼の指示に従うしかない。無力な私達は嵐が過ぎ去るのを待つしかないのよ。
そんな悲痛な願いを込めて、ヨラメに伝える。
「ヨラメ、やめて」
「お姉様......わかりました」
そして体感で数えること1秒に満たないない時間が過ぎた後、彼は言う。
「敵のコロコロ準備完了」
「いきなり何を?」
唐突にコロコロのという言葉を用いるセンスが少し面白く感じてしまい、ボクさんの冗談の時と同じように反応してしまった。
特に彼からの応答はない。
ボクさんの助言に従い、私の眼で彼を視ることはしない。代わりに少年の方を視る。
横からアステア様を応援する者達の声が聞こえる以外は、ひたすらに何も起こらない時間が過ぎていく。
彼も動いていない。
その間にボクさんから教わった魔法を行使しようかとも考えたが、彼の邪魔をするわけにはいかない。
割り切って、おそらく蛮族に潰されて下半身だけになった少年に何が起こるかという点のみに意識を集中させる。
しかし何も起こらないまま、不意に横に立つ彼が言う。
「終わったな」
「......そうですか」
結局、私の眼が捉えたられたのは彼の行使した魔法によって散々に掻き乱された世界が、同じく魔法の効果によって修復されていくその最後の一瞬だけであった。
彼が何をしたのか、こちらに一切感知させずに魔法を行使したのは分かる。それだけだ。
そして眼で視たその後の世界で、少年がそこにいた痕跡は皆無であった。
眼を閉じて考える。遅まきながらに、今ようやく理解できた。私の横にいるのは正真正銘、規格外の化け物だ。ボクさんよりは弱いなどと考えてはいけない。
ボクさんが助けられないかも知れないと注意してくれたのは事実だった。
決して逆らってはいけない。彼の要求は全て飲もう。
そして私はヨラメを手招きして、その服の裾をつまんだ。今とても不安なのだ。
裏話(14)終わり
1章の裏-1 異空間での出来事その1 〈完結〉
——備考
・カットしたボク様の語り
少し書いてみたら先の展開のネタバレが激しすぎたのでカット。これを載せたら出来事その2がほとんど説明されてしまう。下手したらその先も。
なお、作中でボク様達の語る情報はボク様達視点での事実である場合が多い。全てを事実と断定できないのは、後で作者が変更する可能性を排除できないという完全にメタ的な理由である。
ただしボク様達は全ての真実を明かしていない。そのことには要注意。
・エルガルド共同体の報復攻撃
絶対法理の標準時間(≒エルガルド標準設定時間)で本編開始より数年前の出来事。
本編の外で起きている様々な出来事に繋がる切っ掛けとなった事件。
あとは天才の友人が天災と呼ばれる所以。(後付けです)
攻撃に使われた兵器は例のスマート爆弾シリーズの内、広域空間殲滅用の物。
初の実戦使用にて、そのカタログ性能を遺憾なく発揮し、システム側が設定した目標のみを消滅させ、それ以外に対して無害であるという文句無しの成果を挙げた。
実はシステムが採用したスマート爆弾シリーズには次元消滅用のスマート爆弾も存在する。当然ながら各種性能は試験済み。
なおかつ実戦証明済み。
この兵器の採用以降、天才にして天災なる発明家の称号がシステム公認となった。
なお星を破壊するスマートな爆弾の方は想定脅威に相対するには威力不足である。
よってシステムには不採用。
しかし現在、軍では訓練用の模擬弾薬として、とある演習にて頻繁に使用されている。
・ヒマイのエルガルド共同体に関する考察
主人公の語りの時に誤魔化しポイントはなんとなく考えていたけど、ほとんど後付け。
うーんとね。
主人公視点でこの考察を採点すると100点満点中70点はあげてもいいくらい。残りの30点はヒマイ視点だと絶対に無理かな。
主人公がこれを知れば少ない情報でよくそこまで辿り着いたと考える。あと大筋は正解だと答えてくれる。
なお、システムによる採点だと点数はかなり下がる。
——後書き
まずはここまで読んでくれてありがとうございます。
よろしければ感想と評価をお願いします。
批判も罵倒も作者的には本当に大歓迎なのですが、周囲の目にはご注意ください。
作品の世界観やあの出来事がどうなっているのか、といった質問があれば活動報告からどうぞ。
結構細かいところまで答えられる自信があります。ネタバレ注意ですよ。
では本当の後書きの始まりです。
実は1章-1の13話で「エルガルド共同体......」とか発言していたのはこの回のための伏線なんだよ。
当然そんな高度なことを、この作品で実質初めて小説を作る作者ができるわけもなく……。
あの時点で決まっていたのはヒマイとヨラメの二人がエルガルド共同体をなんらかの形で事前に知っていたという設定だけです。それも13話を書いてる時に生えた設定です。
その設定を膨らませたせいで、短いつもりの閑話が群像劇(←これは最近知った言葉)のような裏話になりました。
そして上記の説明も後付けです。
結論だけ述べると、この作品には狙いすました伏線が綺麗に回収されることなど一切なく、大半は後付けした辻褄合わせの結果です。
本当のことは活動報告で書きます。
さて裏話が完結したので、本編の続きを書けます。また少しお待ちください。
キーワードは自然派と基礎的世界構造理論です。(実質的には何も決まっていない)予定では結構がっつりと、この世界の世界観について簡単なイメージを紹介するつもりです。
あとは......主人公が結構激しい運動をします。誰がなんと主張しようが運動です。