「異次元の人」——高度魔法文明に住むエルフです、なぜか異世界召喚されました。 作:白木ケイ
——前書き
今話は少し単調かも。でもお話の序盤だしね。
目覚めると俺は謎の異空間にいた。
机の上に置かれた手紙を見れば、俺が異世界召喚の対象になったという信じがたい情報と共に外にいるトマトを殺すように依頼された。
俺は手紙の送り主の依頼をこなすために、異空間にある屋敷の外に出る。すると何者かの攻撃を受けた。
初めての実戦に緊張したが、結果としては拍子抜けなほど簡単に決着した。
おそらく、俺の完全勝利という形で。
◇◇◇
あの実戦において、大きな反省点がある。隠蔽によって俺の姿を誤魔化す方法を試しもしなかったとか、接近戦時を想定して武器を事前に用意していなかったとか。
中でも一番は、周囲の目を誤魔化すことを一切しなかったことだろうか。
だがこんな杜撰な俺の行動でも勝ってしまった。
勝ててしまったともいう。
「ふぅー」
ともかくひと段落したので、少し緊張がほぐれる。
俺に攻撃を仕掛けたのは、依頼で始末されるように指定されていたトマトだ。
ということはこれで依頼は達成だ。つまり俺は用済みとも言える。
今度は俺が手紙の送り主に始末されるかもな。そして多分、今までの傾向からして抗えない。
「はぁー」
どうしようもないことは諦めよう。それより、横で耳と尻尾をぷるぷるとさせ、怯えているヒマイさんがいる。あ、ヨラメさんを抱きしめた。
そんなに怯えられると悲しい……というか、この感じからしてヒマイさんは見えたのか。
俺の魔法の痕跡が。
「あの」
「ひぃあい。一体どうされましたでしょうか。殺さないで」
最後の部分は小声だったが、まあ普通に聞こえる。そうか、彼女は故郷の魔法の標準機能である発動隠蔽を突破できるのか。
そうかそうか。あとでその手法を詳しく聞いておきたいな。もちろん、本人の同意のもとで。
対価としては、この戦闘で俺が何をしたのかを解説してあげるのはどうだろうか。
善意の情報交換というやつだ。きっと己の見た光景が正解だったと知って喜んでくれることだろう。
「お姉様に近づかないで、ください」
「怖がらせて申し訳ありません。ですが、あとで詳しく事情をお聞きしても?」
そして二人は抱き合ったまま顔を見合わせる。
彼女達は視線の交差だけで意思伝達ができるのか。純粋にすごい技術だ。
もちろん返答するのはヨラメさんだ。
「落ち着いたら。無理強いはダメです」
「もちろんです。その際は、私の方でも何か質問していただければ、教えますよ」
ヒマイさん、そんなに怯えないでくださいよ。まるで俺が悪いみたいに……相対能力評価だと彼女の反応は妥当だな。じゃあ、俺が悪いか。
少し傷ついた。
「おい、エリク」
「エイサンドさん。どうかされまし——」
——防御魔法エスヒルデに感あり。事象干渉を確認。現状は遮断可能。影響なし無害。今後の状況を注視。
——そして解析を開始。解明された原理から、他の攻撃パターンを予測。同時並行で最適対応を作成開始。
「——たか?いきなりですね。本当にどうされました?」
「お前は何をした」
エイサンドさんは俺に何らかの干渉しながら質問してきた。
その顔は敵意に満ちている。なぜだろうか?
反応を見るためにも素直に答えるか。
「この結界外からの攻撃を確認したため、それに対処しました。結果、私は攻撃者の処理に成功しました」
「どういうことだ!」
エイサンドさんは、勢いよく俺のローブを掴み取る。
おっと、《加重》を行使。これで持ち上げることは不可能なはず。
そしてもちろん俺とエイサンドさんとの間にある空間縦深は問題なく機能している。
しかし、なぜ俺を敵視するのだろうか。
「落ち着いてくださいエイサンドさん」
「ふざけるな!くそ。なぜ動かない」
それは空間縦深で干渉を遮断しつつ、《加重》をしているからだ。
先ほど俺がした返答でエイサンドさんが反応したのは、俺が攻撃を受けた事実と攻撃者を処理したという二点。
前者は至極どうでもよさそうに、後者はまるで自身の大切な人物が殺されたかのように。
このギャップはなんだ?
「もしかして、結界外にいた人物と交流が?」
「そうだ!彼は良いやつだった!」
ああ、トマトの性別は男なのか。いま初めて知ったよ。
そのままどうでもいいことをペラペラ喋ってくれているので、その間に俺は考えよう。
加速魔法ケアスィーより、思考加速のみ実行。
疑問がいくつか。
まず、俺を犯人であると確信している理由。最初のエイサンドさんは俺が結界を超えて干渉した様子に気づいていなかった。
ならば普通、結界外の二人を疑うのが筋だろう。
仮に結界内の人物を疑うとして、候補は四択。ピンポイントで俺を敵視する理由は不明だ。
次に、攻撃を受けた結果の防衛行動であることに納得してくれない点。
これはまあ、単純に交流した時間の長さとかにもよるだろうが、それにしてもここまでトマトを贔屓する理由が不明だ。
トマトには普通では考えられないカリスマでもあったのだろうか。
いずれにせよエイサンドさんがトマトを贔屓する理由は不明だ。
しかし。
「いつまでそうやって喚いているのですか?彼は私を攻撃して——」
「黙れ!」
もう話を聞く気がないなこれ。
とりあえず思考加速を終了しておく。で、どうしようかな。
面倒だな。まあ、面倒なだけでエイサンドを殺す気はないが。
ああ、でも誰にもバレないならいいか。一応の保険として暗殺の方法を検討しよう。
その際に考慮すべき極大のリスクは手紙の送り主がそれを許容するかどうかだ。それ次第で実行可能かどうかが決まる。
……かの人物達の意思が不明な以上は、やめておくか。
「お前は、間違っている!」
「ではどう間違っていっつ」
しかしどうしようこれ、とうとう殴りかかってきたよ。
《殴打の感触の再現》はしてるし、ちゃんとリアクションもしてるけどさ。
心底、邪魔なんだけど。
あ、顔に殴られた跡を作らないと。自身ヘ向けて《衝撃》を行使と。
これでしばらくすればあざができるだろう。
そして俺は一歩ずつ後退していく。
「やめなさいよ!エイサンド!」
ここでヴィーシェルさんが止めてくれた。エイサンドさんは後ろから羽交い締めにされつつ、徐々に落ち着いてきている。
不要になった《加重》を解除と。
礼をする以外は、余計なことを言わずに黙っておこう。
「ありがとうございます、助かりました」
それにしても、すごいなヴィーシェルさん。この雰囲気の中で割り込んでこれるなんて。
それに比べてヒマイさんとヨラメさん。
心底から化け物を見るような目を向けていますね。もちろん俺に対して。
目があった瞬間に、あからさまに尻尾がビクッと動くんですけど。はあ。
「よ、よろし、レバ、治療しましょうか。よ、余計なお世話でしょうか」
俺と目が合ったヒマイさんが恐る恐るといった様子で声を出した。
なんか、やりにくいな。
「では、お願いしますね」
俺は承諾した。俺の魔法を感知できた彼女の行使する魔法には興味がある。
もちろん、不意の攻撃には備えるが。
「本当によろしいですね?」
近づいてきたヒマイさんに、俺はその場で頷く。
ヒマイさんは俺の顔に手をかざして、魔法を行使した。
——解析開始。《基本的な治癒》と多くの共通点があり。しかし、構築された魔法体系は異なるものと推察。多少の隠蔽及び暗号化の仕様を確認。総合判断、《基本的な治癒》より僅かに劣るレベルの治癒魔法、以上。
行使された魔法に問題がなさそうなので、結果を受容する。これで自傷によるあざはなくなった。
あ、今度は血を流す必要があるな。要改善と。
「ありがとうございます」
「はい、大丈夫ですね」
そして、すすっとヨラメさんが俺のそばに立つ。彼女はおもむろに耳側で声を潜めて伝えてきた。
その吐息の感触が少しくすぐったい。
「おそらくエイサンドさんは既に洗脳されていると考えられます。私達も、始末された少年から話しかけられるたび、とても不愉快な感覚がありましたから」
その発言は俺の疑問に対する非常に明快な回答であった。なるほど。
あと始末ね。なるほどね。
それは口を滑らしたのか、あるいはわざとなのか。
「なので私達は感謝しています」
「それにしてはヒマイさんが怯えている気がするのですが」
「どうかご勘弁を。お許しください」
ヨラメさんが綺麗な姿勢で頭を下げる。それは悪目立ちするのでやめて欲しいかな。
「責めてはいませんよ。誤解を解きたい、というか説明をしておきたいので」
「それはどのようなものですか?」
「えー、私は基本的に温厚なつもりです。私の魂に干渉されなければ。もちろん意図しない形で干渉することもあるでしょうが、その時はお互いに話し合って妥協点を見出せればと思います」
「かしこまりました。一言一句違わず伝えておきます」
そして明らかにヨラメさんの態度が卑屈だ。
次に戦闘する際は、もう少し隠蔽に気をつけよう。先の戦闘での一番の失敗だなこれ。
無駄だろうが、少しだけ関係改善を試みてみる。
「それと、差し支えなければもう少し砕けた態度で構いませんよ」
「差し支えがありますので、このままです」
ですよね。はい。
色々な事情を知っていそうなお二人と仲良くなれなくて、ちょっと悲しいかな。
お、エイサンドさんからの干渉が止んだ。
解析の結果は、初めて見る力の体系だな。へー色々できそう。あとは……名付けをどうしよう。
まあとにかく、ヴィーシェルさんのおかげで面倒事を避けられた。
再度お礼を伝えよう。
「ヴィーシェルさん。本当にありがとうございます。助かりました」
「別にいいわよ。ほらエイサンド」
「ああ。先ほどはすまなかった。だが許すつもりはない。覚悟しておけ」
あー、はい。その時はエイサンドも俺の報復を覚悟しろよ。敵に容赦することはないから。
「ごめんエリク。私にはこれが限界」
「いえ、ヴィーシェルさんは悪くありませんので。それと、私はエイサンドさんのことを許します。もっとも、次はありません。覚悟してくださいね」
「なんであんたもそう言うの!」
それはもちろん、エイサンドさんとの関係修復は不可能だと判断したので。
ならいっそのことと思います。
そして、彼の洗脳の解除はおそらく専用の設備が必要になるし、俺がそれを製作できることは公開したくないから。
「ヴィーシェル、大切な友を殺されたんだ。如何なる理由であってもボクはそれを許すことはない」
トマトが友ね。
洗脳された結果とはいえ、友の仇を討ちたいという発言に俺は共感してしまった。
そのせいか、俺の敵意が急速に萎んでいく。
エイサンドさんにも譲れないことはあるか。とするとこの異空間での暗殺は中止だな。
そして脱出もしくは召喚後は、可能であれば常時監視に留めておこう。そして不審な動きを感知次第、問答無用で排除するか。
「喧嘩はお終い!それよりほら、アステアを応援しないと」
「エイサンドさん、ここは抑えてください」
「ああ、了解した」
え、納得するんだ。あれだけの敵意を向けていたはずなのに。
というか最後、全然俺への殺意を感じ取れなかった。
もしかして洗脳とやらが解けかけているのかもしれない。それならまあ、いいのが。
「ヒマイ、状況はどうなの」
「そうですね、アステア様がやや優勢に見えます」
ヴィーシェルさんとヒマイさん、そしてエイサンドさんが結界の外へ向く。
俺の隣には、耳を震わせながら怯えているヨラメさんが留まった。その反応は結構悲しいのだが。
「ボクとしては、いまだに二人とも体がバラバラになっても蘇れることが信じれないな」
これは決してエイサンドさんへの敵意があるわけではない。しかし、俺は内心で彼の意見に反目しておく。
能力を鑑みると、あの二人が体がバラバラされた程度で死ぬということの方がおかしいだろう。
ふと、ヒマイさんが振り返って確認をする。
「ヨラメ、ちゃんと視界は通したのよね」
「はいお姉様。私達だけが見れる一方向のみのはずです」
ん?思いっきり嘘じゃないかこれ。
この結界の状態だと普通に双方向の視界が通る感じなんだが。
「そうね、なのになんで向こうはこちらに気づいているのかしら」
急にヒマイさんが、なぜか大根に見えた。理由は不明だ。
どういう……あれか、絶対に手紙の送り主からの依頼だこれ。
「わかりません」
ああ、ヒマイさんとヨラメさんは絶対わかってるよねこれ。
触れるべきでないものには触れず、俺は経験から学べる愚者。よし黙っておこう。
というかヴィーシェルさんとエイサンドさんはわからないのか?
「お願いします」
俺の横で声を潜めたヨラメさんが言う。というか今の発言の時だけ《遮音》に似た魔法を行使したな。おい。
「どうして外のお二人は私達を見ているのでしょうか」
俺はヨラメさんのお願い通り、すっとぼけた。
当たり前だが、俺は手紙の送り主の不孝を買って死にたくはないのだ。
1章-2 第1話終わり
白木ケイ
——備考
なんと今回は無しです。
——後書き
はい。ということで1章-2、第1話スタートです。1章-1、第15話の振り返りと、これから何かが始まるよー、という話でした。
少しずつ文章が成長している気がします。気がするだけです。単純にキャラが多いので、動きが多いだけです。とても難しいです。
それと前話の閑話から、「——」カッコ内の表現方法を覚えました。
◇と並んで二つ目ですね。
あとで読み返して違和感のあるところは修正します。はい。
白木ケイ