「異次元の人」——高度魔法文明に住むエルフです、なぜか異世界召喚されました。   作:白木ケイ

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——前書き
 遅れました。


第6話 面倒ごとの始まり(ククク、計画通り!)

 

 ヴィーシェルさんの心配はとてもありがたい。しかし、どこかの誰かの悪意ある要望によって、この場に残らざるを得ないのだ。

 俺は肩を落としながら返答する。

 

「私としても、ものすごく不本意なんですが」

「そんなに嫌がっているのに、それが嘘に聞こえないのが不思議だけど」

 

 ヴィーシェルさんは芸術品から四角いモノクル……にしてはガラスではない物を出現させた。まあ、そのモノクルのような物を通して俺を観察する。

 多分、嘘つき係数とかが見えているんだろう。値が低いと嬉しいな。

 

「まあいいわ、一緒に戦ってくれるのね。ありがとう」

 

 それは甚だ不本意な勘違いなので、訂正しなければならない。

 

「それは違います」

「……じゃあ逃げなさいよ」

「……結界外のお二人に自己紹介をしなければと思いまして」

「ふざけてるの?」

 

 ごめんよ、不機嫌なヴィーシェルさん。俺も苦しい言い訳なのは自覚してるよ。

 それきり、ヴィーシェルさんは視界に入った俺を意識しなくなった。そして、ケモ耳のお二人を一瞥すれば、どこか満足したように頷いてから結界の外を向いた。

 一応、軽く頭を下げておこう。

 誠に申し訳ありませんでした。

 

「……」

「ぐっ」

 

 そして、この間も俺の左右にいる金色と灰色のケモ耳は俺に向けられている。

 ペしょペしょの灰ケモ耳は復活し勇足だっている。弱腰で拳を構える金ケモ耳を見れば、すぐにフイっと逸らされた。そして、灰しっぽがバサバサに逆立つ。

 この間に、ヒマイさんとヨラメさんは真剣な表情を崩していないのが面白い。

 個人的な感想はさておき、もうお二人の仕事は不要だ。労いの言葉をかけるか。

 

「ヒマイさん、ヨラメさん。ご苦労様でした」

「そうですか」

 

 尾を萎ませて、淡々と返事をするヨラメさん。割り切りの早いシゴデキなケモ耳だ。

 一方で、ヒマイさんの視線はヨラメさんに向いており、その目元は柔らかい。魂の奥深くからの安堵を感じる思いやりのケモ耳だ。

 いい加減、思考でふざけるのはやめよう。俺は結界の外から来る面倒事に向き合わなければならない。

 

「そろそろですね」

 

 呟くヨラメさんの視線の先にあるのは、ヴィーシェルさんとエイサンドさんの儚いお背中。その先には結界の薄膜。さらに奥には、横並びでこちらへ歩んでいるアステアさんと例の彼。

 ふと彼を観察すれば、傷ついていたはずの魂が修復されきったところだった。

 俺は場の空気を壊さないように、かなりの小声で称賛する。

 

「素晴らしい、魂の修復もできると」

「では蛮族は万全の状態ですね」

 

 ……空気を読まない横入り、金ケモ耳なヒマイさん。ぷるぷると怯えてる癖に。

 俺が左にいるヒマイさんを見れば、予想に反して威風堂々とした金ケモ耳がいた。

 ……意識の切り替えがお早いことで。俺も見習わせていただきましょう。

 ちょうどいいので、俺は彼についてヒマイさんに問う。彼の進むペースからして、猶予はあと少しだろう。

 

「蛮族とは随分と失礼な物言いですねヒマイさん」

「適切な表現かと」

 

 ヒマイさんのお顔が、少し横に傾く。

 なるほど、次は俺との間に独特の価値観の違いがあるかを確認しよう。

 

「ヒマイさんにとって、蛮族とは褒め言葉なのですか?」

 

 今見えたヒマイさんの、少しだけ険しい目元からしてまずあり得ないだろう。

 

「そうですよ?」

「え?」

 

 まさかの肯定の返事。

 俺は動揺から肩に力が入り、反射で指先が僅かに動く。

 嘘だったら許せないかも。

 

「冗談ですよ?」

 

 即座に俺の指先は丸め込まれ、硬い拳に変化した。俺の肩にはさらに力が込められる。

 ついでに、体の重心も低くしておこう。

 

「殴りますよ?」

「ダメです」

 

 袖を持って口元を隠し、くすくすと笑うヒマイさん。

 

「……」

「ご不快でしたら謝罪いたします」

 

 ここで、素直に頭を下げているヒマイさんをコロコロするのは不利益が多すぎる。この余裕の有り様からして、悪辣な誰かの介入も考慮すべきだろう。

 ……ここはあえて、親しみを見せてくれたと穏便な解釈をしておこう。

 そうこうしている中、ヨラメさんが前方のお二人に声をかけている。

 

「後ろのお姉様達の親睦が深まったところで、私からお二人へ提案が」

「なんだい?」

 

 エイサンドさんはヒマイさん曰く蛮族の方を注視しているが、その片耳はヨラメさんへと向けられた。

 

「いまから結果を変化させます。それで第一撃は耐えられるかと」

「それは保証できるのかい?」

「少なくとも大幅に減衰できるはずです」

 

 すぐに返答しない様子から、エイサンドさんが半信半疑であることがわかる。

 その横で刻一刻と迫りくる彼を観察するヴィーシェルさんの判断は早かった。

 

「できるならお願い」

「すぐに終わります」

 

 ヨラメさんが手をかざして、魔法を行使すれば結界は明らかに弱体化していく気がする。

 

「ん?」

「結界に問題はありませんよ」

 

 左のヒマイさんを無視して、結界に対して《解析》を行使する。

 《解析》のもたらす情報に、俺は苦笑することしかできない。

 確かに強化はされているよ?主に物理攻撃に対する面でね?

 あとは形状変化の準備か。

 その代償として、干渉に関する脆弱性がひどく目立つ。

 

「ちょっと干渉してみても?」

「やめてください」

 

 頭上の金ケモ耳が荒ぶる。

 やめてよー!、と必死に主張している。

 試しに一歩踏み出してみれば、慌てたヒマイさんが体を張って俺を遮る。

 

「冗談ですよ。ご不快でしたら謝罪いたします」

「やめてください……」

 

 先ほどとは真逆の立場を作り出せた。

 ここからは俺が主導権を握れる……といいな。

 

「本当に結界の問題はないと?」

「それは保証します」

 

 ため息一つで、冗談を水に流せるヒマイさんの懐の深さには感服するばかりだ。

 そしてなるほど、ケモ耳のお二人にとってはこれが既定路線だと。犠牲となるヴィーシェルさんとエイサンドさんが可哀想だ……ほんとうに?

 妾さんとのやり取りを振り返れば、この事態の犠牲になるのは俺なのでは?

 

 俺が錆びついた歯車のような動きで左を見れば、ヒマイさんが悪魔の微笑みを返してくる。

 

「私達は、陰ながらあなたの幸運を祈っております」

 

 再び立場が逆転した。今回は不可逆的に。

 俺は弱者として、せめてもの抵抗を試みる。

 

「私達とは一体誰を指すのですか?」

「お教えしたいのは山々ですが、時間切れですね」

「そうですか」

 

 じゃあ、現実逃避のためにも少しだけ、ヨラメさんの演技を見させてもらいますか。

 

◇◇◇

 

「これで結界の変更は完了です。あとはお二人で」

「ありがとう」

「ありがとうね」

 

 エイサンドさんとヴィーシェルさん、お二人の純粋な感謝は私の心を締め付ける。

 二人とも、心の底からドンヨークさんとクアチリーさんの仇討ちがしたいのだ。

 見ず知らずの出会ったばかりの赤の他人に対してそこまでの自己犠牲を伴うことができるお二人のことは尊敬している。そして応援もしている。

 しかし私は知っている。その抵抗は無意味かつ不必要なものであると。

 本当は今すぐそれを伝えたい。だって、二人にはここで死んで欲しくないから。

 

[いま少し耐えてもらおう]

[了解しました]

 

 私とお姉様には、ルガル種の彼が最初に魔法を行使した直後から、カラリル様の人格の一つである妾さんの思念が届いている。

 最初の思念では、無事に彼がトマトの処分が完了したことを伝えられた。

 全てが、事前に伝えられたボクさんの予定通りだ。

 そして、妾さんからもたらされる一つ一つの指示は単純明快だが、ボクさんと違って少し機械的だ。

 たとえば、恐怖に怯えているお姉様と一緒に彼と対峙させられた時は死を覚悟した。

 

[ヨラメよ、お主は妾について誤解しておる。それは必要かつ安全、なにより最適解であるからそうしただけだ]

[怖いものは怖いのです]

[そうか、お主の懸念するからようなことは起こらん]

 

 だから最大限の配慮をしているであろう。妾さんは少し誇らしげに言った。

 問題は、配慮の内容が私とお姉様には説明されないうことだ。

 それを伝える間も無く事態は進む。

 

[まあよい、次にやることはわかっておるな]

[はい]

[そう気負わずともよいのだがな……。さあ、始まるぞ]

 

◇◇◇

 

 正真正銘の蛮族である彼は、割としょぼめの結界の前に到達した。もっとも、そこまでの蛮族の歩みを阻む障害は存在しないのだが。

 蛮族は目の前の結界と巨大な建築物を眺めて思う。

 なぜ、俺の支配する建物に俺の侵入を阻むものが存在するのかと。

 実際には、彼の中ではそこまでの言語化はされていない。まあ、蛮族の思考を適切に翻訳すればこうなるだろう。

 次に蛮族が考えたのは、邪魔なものは壊せばいいという実に野蛮な思考だ。妾としては、もっ文明的な思考をして欲しいものだ。

 そして、妾が、横に立つアステアに囁かせる。

 

「この壁を越えると、君の敵であるカラフルな白髪の男がいるよ」

「うるせえババア」

「私をものにしたいなら、カラフルな白髪を殺すしかないのよ」

「ふん」

 

 これでよし。

 ご苦労だったアステアよ、今後の口調は素に戻してよいぞ。

 

[おえー、わしの媚び声きっしょ。なんだ私をものにしたいとか。これは老体にはちときついのう]

[対価は用意してある。召喚後を楽しみにしておけ]

[わしとしては、別に今すぐでも構わんのじゃが]

[それは妾達の都合を優先させてもらう]

[まあ、確実に履行されるのなら問題なかろ。楽しみにしておく]

[今後とも末長いお付き合いを]

[おお、怖いのう]

 

 その感想、実に残念だよ。

 まあよい。妾の最大の関心はこれから起こることだからな。

 楽しみで仕方ない。

 さて、ヨラメに開始を伝えなければ。

 

◇◇◇

 

[——さあ、始まるぞ]

 

 妾さんの思念と同時に、私は《擬装》を行使する。それは後ろにいるお姉様も同じだ。

 これで、蛮族に意識されることはない。

 

「っあ」

 

 後ろから強い圧力を感じる。早速、彼に《擬装》を看破されたようです。

 いくらなんでも早すぎです。でも、これはボクさんから事前に伝えられた予定通り。焦りは最小限で済む。

 外の蛮族はおおよそ武術など知らない動きで拳を振りかぶる。

 

「おお!」

 

 なぜか後ろの彼は興奮しているようだ。私はこれを極力無視します。

 

 私は予定通りに《結果の操作》を行使する。全体の形状を泡のような膜から変更し、分厚い正方形の壁を生成した。

 蛮族は蛮族らしく、猪突猛進。障害の無くなった横から迂回することもなく、無駄だらけの動きで力を込めた殴打を結界にぶちかます。

 激しくガラスが割れるような音が響き、思わず私は耳を伏せて手で抑える。目は逸らさない。

 

「いいね!」

 

 よくないです。

 《戦術情報の共有》が後方のお姉様より行使され、私はすぐにそれを受け入れる。

 その場で瞬きを一回。それだけで視界は最適化される。

 見えるのは一撃で過半以上の防御リソースを失ったものの、規定の役目は果たした結界。

 そして、蛮族らしい馬鹿の身体強化。戦闘時に用いる魔法のセオリーを全て無視している。

 私はあらゆる人生の問題を筋肉のみで解決することは不可能だと信じている。しかし、蛮族の強化された筋肉は直近の問題を破壊するには十分である事実は認めなければならない。

 そして再び蛮族が、結界を殴る。

 

「次は持ちません!」

 

 殴打が結界に接触する前に、私はヴィーシェルさんとエイサンドさんのお二人のみへ、《音の制御》を行使して警告を届ける。

 なぜか、範囲外にしたはずの彼には聞こえているようだが。

 本当に出鱈目です。

 

「ボクが抑えたら頭を狙え!」

「了解!」

「ヒュー!」

 

 ヒュー!、ではありません。

 すでに蛮族の馬鹿げた身体強化によって結界は砕かれてしまった。

 私は先ほどの反省を生かし、《音の制御》を用いて自らに届く音量を減ずる。おかげで耳を塞ぐ必要はない。

 蛮族は煩わしいものを発見し、独り言を発する。

 

「またお前か。邪魔だ」

「死ね!」

 

 蛮族は腕による薙ぎ払いでエイサンドさんを退かそうとしている。

 エイサンドさんの強い殺意を乗せた異能が、うねりを伴い行使される。

 異能についてボクさんより説明されたのは、彼の故郷でそう呼ばれる力であること。そして、外部のエネルギーを活用することで、自らの身の丈を超えた力を発揮できること。

 私の視界には、砕かれた結界の破片に対して、異能が結びついていく様子が視える。

 結界によるドーピングを終えたエイサンドさんと蛮族の力は一時的に均衡し、その体が激しくぶつかり合う。

 ステゴロの殴り合いです。

 

「ザコのくせに俺様に逆らうのか?」

「まだ!」

「まさか本当に自然体なのか」

「うるせえな」

 

 そうです、私の後ろがうるさいです。

 

 まとわりつく虫を払うために、蛮族の体はより大きな力を用いる。それだけで均衡は崩された。

 力負けと判断したらしいエイサンドさんは、別の異能を用いる。それは蛮族の体に作用するものだ。

 残念ながら、蛮族の身体強化の防御によって効果は乏しいようですが。

 

 ここで私は少しだけ贔屓します。

 エイサンドさんの異能に対して《魔法の増幅》を行使。異能と魔法の原理は共通なので、問題なく魔法は効力を発揮する。

 結果。

 

「あ?」

「あー!」

 

 エイサンドさんの異能の効果で、蛮族の両脚がサラサラとした砂になる。蛮族はこの瞬間、大きく移動することはできなくなりました。

 なぜか、後ろの彼は残念そうにしています。

 魔法の阻害をされなくて幸いです。

 

「今だ!」

 

 エイサンドはわざと殴られて距離を離した。同時に合図を出す。

 一瞬だが、蛮族はエイサンドの声に意識を取られた。

 隙を逃さず、ヴィーシェルの構えた銃から、異空間を焼き焦がす一筋の熱線が放たれる。

 光速の熱線は、寸分違わず蛮族の頭部に直撃した。

 

第6話終わり

白木ケイ




——備考
・手紙の送り主
 これからはカラリル(様)と略したりします。

・ヴィーシェルさんの芸術品
 それは、彼女の故郷に普及した汎用デバイス。物品の収納、ネットワークへの接続、観測情報の収集(←モノクルのやつ)などの機能が搭載されている。
 軍属である彼女は、幸いにも武器を所持していた。
 彼女が展開した武器とは、汎用デバイスが収集したエネルギーを様々な形に変えて投射するもの。
 強化された蛮族の体には弾体投射の物理攻撃は効果が薄いと考え、熱線(レーザー)による蒸発を狙った。
 ちなみに、ヴィーシェルは故郷での戦闘任務の直前にカラリル様によって異空間へと拉致された。

・ヒマイとヨラメ、カラリル様との思念
 それは、主人公が潰れたトマトを蒸発したトマトにした瞬間から始まっている。

・アステアさん
 ある目的のために、ちょうどそこにあった異世界召喚に自力介入したはいいものの、そこには化け物が待ち構えていた。

 化け物「妾の名前はカラリルシェイ・ミアサトム」
 アステア「終わり終わり、絶対むりじゃー!」

 しかし、なぜか友好的なので化け物だったので、その存在に恐怖しながらも必死に交渉した。名前を呼ぶなんて畏れ多い。
 交渉で得るべきものは得られた。

・エイサンドの異能
 それは、発想を実現する万能の能力。言い換えれば器用貧乏。
 特筆するべき点として、周囲の制御されていないもしくは統制の甘いエネルギー(魔力とか)を活用できる。
 エネルギーを相手から奪い取る場合、エネルギー収支がマイナスにならないように気を使う必要がある。収支を無視してもいいが、それは彼の息切れが早まるだけだ。
 そして、エイサンドの魂が耐えられる限り、彼の能力の上限を超えた力を発揮することが可能。
 これにより、本気を出していない蛮族と拮抗できた。

・気配が薄い傍観者の主人公
 主人公はエイサンドの観測によって、周囲のエネルギーを活用するという新しい発想を得た。
 そして、ひたすらに巻き込まれたくないと考えているが、絶対に無理だろうと諦めている。
主人公「俺は大河を流れる枯れた樹木の葉っぱさ」
 暇なので、裏では芸術的な表現を試みたりしている。

——後書き
 初めて書いてみた戦闘シーンです。いかがでしょうか。
 作者は頭に浮かぶ、ぼんやりした映像を切り取りながら表現してます。
 よろしければ、率直な感想を教えてください。

白木ケイ
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