──うち、天才なんやて!
──みんながうちを褒めよる!
──次のトップアイドルはうちなんやて!
障子が開き、人影が縁側に現れた。
直子は足をとめる。
ニヤつく顔がその姿を見てこわばった。
すらりと背の高い、短い黒髪の女だ。
冷やかな切れ長の瞳が直子を見下ろす。
異質な存在感に目が離せない。
静かな足取りで、彼女は去っていく。
サクラソウの匂いがした。
落ちこぼれだと聞いていた。初星学園でうだつのあがらない、
みんな何言うとんねん。
あんなもん、バケモンやろ。
直子は知っている。
新雪のように白い髪、海の煌めきを閉じ込めたような青い瞳、幼くしてその将来を熱望され、誕生とともにアイドルの水準を何段階も引き上げた
しょぼくれたザコだと思っていた叔母は、自分の足元にも及ばないクズだと決めつけていた
彼女は耳が聞こえないハンデを背負いながら、五条里美を打ち破り、2006年のトップアイドルに選ばれた。
※※※
一年三組の教室。
鷹のような鋭い瞳が周囲を威圧する。
三大広告代理店の令嬢である直子は、初星学園入学と共に芸能業界に大きな衝撃を与えた。禪院家のこねを存分に利用し、大々的にメディアに取り上げられながら鳴り物入りで現れたアイドル界の超新星は、無名アイドルが顔を揃える初星学園1年において、主席入学である
いまだ芽吹くことを知らず、しとやかに根を張る若い草花の中で、彼女だけは大輪の花を咲かせていた。短く切りそろえた金髪、左耳のピアス。清純な輝きや可憐な儚さとは無縁な容貌でも、彼女が人々の心を掴むのには理由がある。
ひとつは単純に、その圧倒的なビジュアルだ。
心臓を射抜くような金色の瞳。
冷たい
くすみひとつない透明感のある肌。
長い手足にすらりとした等身。
豊かに波打つ大きな胸と肉付きのよい尻。
見られることを端から意識して作られたかのように、彼女の体は美の象徴として完成されすぎていた。
そして、もうひとつ、彼女には特筆すべき点がある。
直子は
脳内で思い描いた動き通り、体はひとりでに踊り出す。
彼女の並外れた想像力と、情報処理能力、そしてイメージを実現する完璧な肉体がその特殊舞踊を現実としていた。
ダンスにおいて、禪院直子に並ぶものなし。
1秒を24分割するほどの緻密なリズム感でどのような振り付けも、一目見れば覚え、イメージを脳内で完成させて踊りこなしてしまう。その振り付けをものにするスピードは、まだ学生の身分でありながら、アイドル業界最速の呼び声高かった。
よって、彼女にとって、同級生たちは目をかける価値もない烏合の衆でしかない。いまだこの学園に籍を置きながら日の目を見ていない上級生もザコばかりだ。
くだらん。
こんな学校、プリマステラになったら速攻でやめたる。
うちはすぐにでも里美ちゃんに追いつくんや。
絶対的な一番星として崇められる
「あ、あの、禪院さん」
「……なに?」
クラスの見知らぬ女子が声をかけてくる。
直子は机に頬杖をつきながら流し目を送った。
「あの、プロデューサー科の先輩が、呼んでるよ」
彼女は震える指で教室の後ろ扉を指さす。
しょうもない男がぽつんと立っていた。
「なんでうちが話聞かなあかんねん。君が代わりにプロデュース受けたらええわ」
「えー、む、むりだよ。だって禪院さんにスカウトに来てるんだよ」
「はっ。しょうもない。ぜんぜん興味ないわ。無視しといたらええねん」
「えー、先輩だよ?」
「きっしょ。先に生まれたら偉いんか? そもそもあのプロデューサー、顔がアカンわ。しなびたモヤシみたいや」
直子は男を睨みつけてから顔を背ける。
窓の外の雲を眺め、この学園で入学から3年間、
週1更新を予定してます。