セミがうるさい。
まだ6月なのに、地球温暖化もいい加減にしてほしい。
一秒でも早く冷房の効いた家に帰りたい。めまいがひどいし、吐き気もしてきた。
アパートの階段をよろよろと上る。
ふらついて足を踏み外した
まずい、倒れる
後ろは階段、重力にしたがって頭が落ちていく
浮遊感とともに私は意識を手放した―――
やわらかい毛布、白い天井、セミの声も聞こえない静かな部屋。ここは病院?倒れた後、救急車で運ばれたのかな。
そっと上体を起こすと、栗色の髪が視界に垂れた。栗色?おかしい、私は生まれた時からずっと黒髪のはずだ。やたらと小さい手、枕元のテディベア、本棚や机、クローゼットもある、明らかに病室ではない。
恐る恐る部屋の隅に置かれた姿見の前に立つ―――
フワフワした栗色の髪の毛の少しリスっぽい少女が呆けた顔をしていた。
そしてその顔はどう見ても西洋人…
ちょっと待ってどういうこと?夢?腕をつねる。いたい。これ現実か、どうすりゃええn「ハーマイオニー!」
え?
今某ファンタジー児童小説のメインキャラクターの名前が聞こえた気がする…
もしかして私、ハリポタ世界に転生しちゃった??
あの目覚めから1週間、いつまでも戻る気配がないので、おそらく私は階段から転落死して、ハリポタのキャラクターであるハーマイオニーに憑依したんだろうということで納得している。前世でも二次創作小説とかで見たやつだ。すっかり切り替えた私はハーマイオニー・グレンジャーとして生活している。まあ他人の生活といっても、このハーマイオニーはまだ6歳らしいので気を付けることはそんなにない。それにぼんやり生きてきた私と神童のハーマイオニーの精神年齢なんて対して変わらないので、ちょっと大人っぽい話し方をしてしまっても両親が違和感を抱く様子はない。ハーマイオニーが賢くてよかった。
今はちょうど夏休みなので、家で本を読む(フリをしつつゴロゴロしている)だけ、怠惰の極みだ。マジで子供って最高。
しかし、いつまでも子供生活を謳歌している場合ではない。
なんせここはハリー・ポッターの世界で私は超主要人物のハーマイオニー。前世の私は結構ハリポタが好きで原作も読んだ。だから、いわゆる「原作知識」というやつがある。おかげでハーマイオニーほどの知能がない私でも、知識どおりに行動できればきっと原作と同じ結末に辿り着けると思う。
けどさ、それじゃあつまんなくない??
たしかに安牌、でもせっかくなら原作をなぞるだけじゃなくて、もっと最高の結末を見てみたいと思ってしまう。ハリポタ世界に転生できたんだから、やるだけやってみてもいいじゃん!
前世の私はハリポタの死亡率の高さに驚いた。終盤になるにつれ敵やモブだけではなく、大人も子供も容赦なく死んでいく。バトル漫画とかに比べればマシかもしれないけど、子供向けにしては死にすぎでしょ、と思った。私の好きなキャラクター達も死んでしまって本っっ当に悲しかった。だからこそ、少しでも多くのキャラの命を救って真のハッピーエンドをつくりたい。転生者なんだから原作改変も許されるよね??
そうとなったら今後何をするか考えないとね。モブまで手が回るかは微妙なので、とりあえずネームドキャラの生存を目指したい。たとえばセドリック、シリウス、ダンブルドアのような原作の途中で死んでしまったキャラ、そしてホグワーツ決戦で亡くなったスネイプ先生、ルーピン先生、フレッドなどなど。この辺はどうしても助けたい。
こう見るといっぱい死ぬなー、一人一人守っていくのは厳しそう。
特にホグワーツ決戦は人多いし場所広いしぐっちゃぐちゃで、気づいたらどっかで死んでました、ってことになりかねない。原作の7巻よりも前の時点で早めにヴォルデモートをやっつけないといけないかもしれない。でも、ぶっちゃけ原作の展開って奇跡的でしょ。
・すべての分霊箱の破壊
・『血の護り』によるハリーの生存
・ニワトコの杖の所有権
この3つがそろってやっと原作ではヴォルデモートを倒すことができた。おそらく少しでも展開がずれると、死者が減るどころかヴォルデモートに負けてしまう。ダルすぎ。
だから、やるなら徹底的に。死者を減らすために展開を変えるんだったら、原作から大きく外れることを覚悟して突き進むしかない。ヤバいなこれ、もう憂鬱になってきた。でも大人に言ったところで、この世界は小説で前世の記憶のおかげでこの先の展開を知ってます、なんて信じてもらえる訳がない。闇側に記憶を利用されても世界が終わる。私自身が行動する必要がある。
といっても今できることってなくない?マグル生まれだもん。分霊箱を手に入れても破壊する手段が無いし、いろいろ勉強しておくと言っても本が入手できないし。11歳まで暇だよー。だからといって、ホグワーツに入るまで何もしないのもめちゃくちゃ不安だ。
原作のハーマイオニーは11歳で魔法界を知り、入学前に教科書を暗記し、入学後もマグル生まれにもかかわらず首席をぶっちぎり続けた。いや、無理無理無理(笑)
あれは天才が死ぬほど努力した結果だから、元ジャパニーズ一般ピーポーの私にはできる気がしない。やっぱ原作なぞるのは非現実的だね。ぶっちゃけ細かいところ(しかも主人公のハリーじゃなくてハーマイオニー)なんてわかんないし。わかったところでスペック的にできないと思う。勉強きらいだもーん。
私は原作ハーマイオニーと違って魔法大臣になりたいってわけでもないし、勉強はそこそこで魔法をがんばりたいのよ。だってアバダ食らったら一発さよならだよ??怖いわーハリポタ世界、それが戦場ではポンポン飛び交うんだもん。ちゃんと実力をつけて強くなっておかないと、生き残れないかもしれない。原作は運もありでのギリギリ死地切り抜けだからね。一つ間違えばハーマイオニーとはいえ命を落としかねない。せっかく入学まであと5年もあるんだから、少しでも何か準備しておきたいよなー。
待てよ。そういえば、ホグワーツ入学前の子供は魔力暴走とかで、杖がなくても魔法が使えた気がする。え、魔法使いたい。物浮かせたり空飛んだり火出したりしたい!!
これはもう、今から魔法極めるしかないっしょ!
魔法を使うためなら、そして生き残るためなら訓練とか頑張れる気がする。勉強するよりぜーんぜん良い。なんなら単騎で死喰い人とかヴォルデモートに立ち向かえるくらいになっちゃえば、もう安心だ。ハリーにお辞儀をサクッと献上しておしまーい。いいね、人も死なないし。
とりあえず、まず今の状態から魔法が使えるのかいろいろ試してみますか。なんかワクワクしてきたかも。ここから私の魔法使いライフが始まるのだー!
―――1週間後
もう無理だーーーー!!!
うっっすら思ってたよ、いくら天才ハーマイオニーでもまだ6歳だから魔法は使えないんじゃないかって。嫌な予感が当たってしまった。
まず初日から振り返ると、とりあえずいろいろ念じたり、呪文を唱えてみたりしたけど一切反応しなかった。でもトム・リドルやリリーは、子供のころから意図的に魔法が使える描写があったから、絶対にコントロールできない訳ではないはず。今後も続けてみることにした。
2日目には瞑想をした。マグル生まれでも魔法使いの素質があるということは、生まれながらに魔力をもっている。だから、その魔力を感じ取れればコントロールして魔法を使えるかもーってね。でもこれも効果なし。リラックス効果はあったかな?
3日目にはハーマイオニーパパに頼んで、家で映画をたくさん見た。これは決してサボっていたんじゃない。幼少期の魔法は、最初は感情の爆発による無意識の魔力の暴走だ。ハリーが怒って窓ガラス割っちゃうとか、必死に逃げていて屋根の上に瞬間移動しちゃうとか。だから、感情が昂れば魔力が暴走して何か起こるかなーと思ったんだけど、全然ダメだった。というか、魔力暴走で危ないことになったら嫌なので、この方面はやめることにした。
そんな感じで1週間、両親とお出かけしたり、近所の子供たちと遊んだり、図書館で役立つ本を探したりしながら、毎日瞑想・念じる・呪文をブツブツとやっていたのだけど成果がまるでなかった。ほんとうに何も起こらない。
これ魔力は魂に宿る~みたいな感じで、私の人格が憑依したことによって魔法使えなくなってたりしない??そしたら詰みじゃん。私は普通にマグルとして暮らせばいいけど、賢者ハーマイオニー、あるいは原作知識のある私がいないと、ハリーとロンだけでヴォルデモートを倒せるとは思えない。英国魔法界が崩壊してマグルも皆殺しにされて…あれ、意外とピンチなのでは??
ま、うだうだ考えててもネガティブになっていくだけだし。今日も図書館で本漁りますか!と気合いを入れてベッドから飛び起きた瞬間―――
部屋の、隅から、黒くてカサカサ動くアイツが、勢いよく羽を広げて飛び出してきた。
「―――ッッ!!」
なんで部屋にいるんだよ!きれいにしてるのにっっ
声にならない悲鳴を上げた私が、思わず顔を背け手をアイツに向かって突き出すと—
なんと手から炎が噴き出てヤツを丸ごと消し炭にしてしまった。
えぇ…まじか。一瞬何が起こったかわかんなかったけど、めっちゃ魔法じゃん。
魔法が使えないことはないんだね、よかったよかった。でも毎回アイツに出てきてもらう訳にもいかないし、どうやって意識的に魔法を発動すればいいんだろ。今後も日課を続けながらいろいろ試すしかないのか。
とりあえず、床に落ちた炭(残骸)だけ掃除しとこ。うぇーっ、スコージファイが使えれば良かったのに、魔法使いたいよー。
しばらくここの床は封印かな…
ハーマイオニー主人公の憑依モノが少なかったので、自分で書くことにしました。
私が探した限り無かったのですが、もし似たような題材できちんと完結している作品があったら教えていただきたいです。ネタ被りで書ききる気概がないので…
二次創作は初めてなのですが、エタらないように頑張ります!