G退治の翌朝、私はいつも通り瞑想を始める。胡坐をかき、目を閉じて深呼吸。自分の鼓動、息を吐く音に意識を集中させる。いつもならこれで終わり。だけど今日は、いつもと少し違う感じがする。
体の中を何かが巡っているような、あたたかいエネルギーが全身を包み込んでいる。これは恐らく炎を出したときに感じたエネルギーと同じ、つまり魔力だ!!さらに集中してかすかなエネルギーに意識を強く向ける。どんどんその存在が大きくなっていく。全身の血が沸き立つ感覚、私の周囲に風が強く吹き髪が躍る、どんどん魔力が膨らんでいく、もう制御できない—と思った瞬間、エネルギーが霧散し静かに風が止んだ。集中力が切れたからか。今、確実に自分の中の魔力を掴んだ。今までできなかったのに急にできるようになったは、一度魔法を発動し魔力の流れる感じを知れたのがきっかけだろう。アイツのおかげだ。不本意だけど感謝しないとね。
よし、もう一回瞑想だ!
そこから一日中瞑想を繰り返して確実に魔力の流れを感じられるようになった後は、実際に魔法を発動しようとした。一度できた炎を出す魔法、呪文でいうとインセンディオ。流れる魔力を手の平から外に押し出すイメージで、そして呪文を唱えながら何度も挑戦した。これはなかなか成功しなかった。
しかし練習3日目、ついにその時が来た。
「インセンディオ 燃えよ!」—何も起こらない
「インセンディオ!」—さっきより魔力に意識を集中させる
「インセンディオ!!」—あのときの炎を強くイメージする
「インセンディオ!!!」—燃えろ!!と、強く強く念じる
ポワッとロウソクほどの火がついた
で、できたぁぁああ!!
初めて自分の意志で魔法を使えた。達成感とともに、どっと疲れが押し寄せてきた。汗が滝のように流れている。そっか、これ杖なし魔法だからこんなに大変なのか。すごいなハーマイオニー、この年でできちゃうとか。本来よりも弱くなっちゃってるから、かなり小さい炎だけど、これは大きな一歩だ。まあこんなに毎回ヘトヘトになってたら、実用性皆無。そりゃみんな杖使うよねー
杖なし魔法は、原作・映画で結構使われている(初歩的、あるいは日常的な魔法なら誰でもできるのかも?)けど、戦闘中は別だ。杖なしでの戦いは記憶にないし、あってもちょっとした魔法だったはず。だから杖なしで完璧に魔法が使えるようになれば、それは魔法を極めたってことになるんじゃない?
杖がないと魔法が使えないって、かなり魔法の戦闘の幅を狭めてしまっているとずっと思っていた。武装解除呪文が命中すれば死んだも同然だし、物理的に杖を奪われたり折られたりしても終わり、戦いに負ければ忠誠心を失う。いや弱点多すぎだって。魔法使いたちにとっては杖があることが当たり前だから、あまり疑問を抱かないのかもしれないし、わざわざ難しい杖なし魔法を使おうとは考えなかったのだろう。しかし、前世で見たフィクション作品の「魔法」には、道具なしで使えるものもたくさんあった。バトル漫画だったら呪文の撃ち合いをする前に、杖を折ろうとする脳筋もいた。『ハリー・ポッター』シリーズという作品的に、そんなメタいことを言い出したらつまんないから誰一人として極めていなかったのかもしれない。しかし、ヴォルデモートを倒すためには手段を選んではいられない。
まずは第一の目標として、入学するまでに杖なしでいくつかの魔法を仕上げたい。今回のインセンディオで、魔法理論を学ばずとも時間をかければ気合で魔法を使えるようになるとわかった。だから呪文の数よりも正確さ・威力・スピード重視で戦闘用にいくつか習得しておく。そして入学したら爆速で魔法理論を学び、戦闘向きではないけど必要な呪文や、杖なしではできなかった高度な魔法(たとえば変身術や危険度の高い呪い、無言呪文など)を習得する。ここまでできたら杖あり・杖なしどちらでも戦えるように実践的な訓練をしていく。ここまでを何とか3年生までに達成したい。流石に無茶がすぎるのか…でもハーマイオニーだから、勉強に注いだ労力をすべて魔法の鍛錬に費やせば、いけるんちゃう?
なぜ3年生までかというと、ここまではわりと安全が保障されているからだ。3年生はヴォルデモート関係ないのでどうにでもなるし、賢者の石・秘密の部屋はダンブルドアがあえてハリーに解決させたように思える。だってダンブルドアが本気出せばすぐ終わったでしょ。ハリーがヴォルデモートを倒す英雄になるための試練的なことだったんじゃないかな。まあ、修羅場をたくさん潜り抜けたから最終決戦まで生き残って勝てたのだとは思う。必要なことだったんだろう。ただ、そのせいでハリーの学生生活は碌なもんじゃなかった。一生英雄人生、ちょっと可哀そうじゃない?
だから私としては、原作知識を使って毎年早めに事件を片付けて、ハリーに少しでも学生生活を楽しんでほしい。そしてできればヴォルデモートが復活したところを、5年生のうちにサクッと倒して被害を最小限に抑えたい!これならハリーも卒業までの2年間は気楽にすごせるはず。
ここから逆算すると、えげつない速度で強くならないといけないとわかる。やっぱやめたいかも…もちろん私一人でヴォルデモートを倒せる必要はないんだけど、原作知識を最大限生かして物語を前倒しするためには、魔法使いとしての強さが絶対に必要になると思う。ハーマイオニー本人が原作知識を手に入れたら、きっともっと頭を使ってスマートに解決しそうだけど、あいにく私にはなーんも思いつかない。だからこそのゴリ押し。自分なりに頑張ればそれでいいのだー!
今のところ、目覚めて数週間のわりには大分頑張ってんじゃない?初めて魔法を使えるまでに、もっと時間がかかる可能性も想定してた。まあ、まだまだスタート地点だけどね。
こっからが頑張り時だ!
───そして私の修行の日々が始まる。
修行開始から1か月後、インセンディオの火力を上げて安定させることができた。
2か月後、石化呪文を習得。
呪文の練習だけでなく、体づくりのためにランニングも始めた。
3か月後、次の呪文として武装解除呪文を練習するが、全くできる気配がない。低学年でやるような呪文とは違ってそう簡単にはいかないのだろうか。
4か月後、まだ成功しない。
半年後、弱弱しい光線が出るようになった。しかし、練習用に作った人形に当たっても何もおこらない。
8か月後、人形を少しゆさぶれるようになった。
そして、
今日で修行開始から一年半。いつも通り人のいない裏山で練習する。自作のかかしには、最近ヴォルデモートの顔を描いた。敵の顔が見えていたほうが武装解除できそうだからね。右手には木の棒をもたせてある。まだ一度も棒を飛ばすことはできていない。
深呼吸をし、人差し指をかかしに向け魔力を指先に集中させる。
「エクスペリア―ムス 武器よ去れ!」
赤い光線が指先から飛び出しかかしの右腕に命中する。かかしが持っていた木の棒が吹っ飛んだ。ついに成功した!!
長かった、この一年半。毎日毎日何も起こらなくても呪文を唱えつづけ、走りつづけた。前世も含めて、こんなに頑張ったの初めてなんですけど!やっっと呪文3つ習得した。
これだけだと進みが遅すぎると思うかもしれないけど、実はそれだけじゃない。
杖という魔力の制御装置を使わずに、魔法を使う。そのためには自分自身でとても精密に魔力をコントロールする必要がある。日課の瞑想のおかげもあって、今の私は魔力の些細な変化までとらえられるようになっており、自由自在に魔力を動かせる自信がある。私はこれを「魔力操作」と呼んでいる。呪術廻戦の「呪力操作」的な感じだ。たぶん普通の魔法使いはそこを杖に任せているから、その感知があまりできていないと思う。そのせいで、杖なしでは魔力操作ができず魔法を使えなくなってしまう。私は優れた魔力操作によって、呪文に頼らない魔法をつかえるようになった。というか、魔法じゃなくてただの技みたいなものかもしれない。魔法理論にもとづいた呪文ではないからね。まあとりまやってみる。
手のひらをかかしに向け、さっきと同じ要領で魔力を手に集める。ここでエネルギーが凝縮される様子を強くイメージする。集めた魔力をじわじわと体外に押し出す、と黄金の光球が現れる。一瞬でも魔力操作を怠ると、体内に魔力が戻り光球がはじけてしまう。気を抜かずに集中を保ったまま、これを大砲が撃たれるイメージで───「ハァッッ!!」
光球が一直線にかかしに向かい、命中した瞬間かかしが爆散した。
はい、これです。つよくない??武装解除呪文を練習してるときに、この集めた魔力を呪文としての効果をつけずに放出したらどうなるのかなーと思ってやってみたら、できちゃった。魔力の凝縮ができるようになったので、魔力をエネルギーに変換して発射なんて技が完成した。
ぶっちゃけバトル漫画脳の私としては、時間をかけていろんな呪文を身に着け、それをわざわざ詠唱して戦うのはめんどくさい。失神呪文とか石化呪文とか、当てたら勝ち確のやつはかなり便利そうだけど、本当に必要なのはそれくらいかな。かといって一から戦闘に最適な呪文をつくるのも厳しい。原作で明確に呪文開発してたのなんてスネイプ先生くらいじゃない?あの人絶対頭いいじゃん!魔法理論も勉強しなきゃいけない気がするし、そこまではしたくない。だったら、この魔力操作を応用した技でバリエーションを増やしていくのが良いと思う。
私はその後も戦闘呪文の練習と、新技の開発を続けた。
そうして時間はあっという間に過ぎ、ついに私にホグワーツ入学の手紙が届いた。
ハーマイオニーになってからもう5年が経とうとしていた。
ただの杖なし魔法だとつまらないので、いろいろできるようにしました。バトル漫画の修行回が一番わくわくすると思ってます。
下にこの二次創作での魔法の解釈、というか設定を書いておきます。読み飛ばしてもらって全く問題ないですが、参考程度にどうぞ。
◇魔力:魔法使いだけが持つ血に宿る力。これを運用することで魔法を発動する。消費するものではないので「魔力切れ」は起こらない。魔力に「量」という概念はなく、純血だから多いとかもない。火力発電に使う石油ではなく、水力発電の水のイメージ。
魔法使いとして強さに差が出るのは、魔力操作の練度。それによって、魔法発動のスピード・正確性・威力が変わってくる。主人公は、これを魔法ではなくエネルギーへの変換に使うことで新技を編み出した。
◇魔法:魔力をもとに、魔法理論にもとづいて構築されている。適切な魔力のコントロール(杖があってもなくても)からの正しい詠唱によって発動できる。本来なら魔力操作をきちんとすればそのまま魔法が使えるが、現代のイギリスの魔法使いは間に呪文の詠唱や杖を挟まなければいけない。高度な魔法=魔力操作が難しい魔法で、たくさん使うほど発動しにくくなる。これは、エネルギー不足というより筋肉の疲労みたいなこと、休めば治る。乱発できるのは魔力操作が上手くて疲れにくいってことで、これも強さにつながる。
◇無言呪文と杖なし魔法:
難易度は 詠唱呪文<無言呪文<<<杖なし詠唱呪文<<杖なし無言呪文
無言呪文は学生に教えているし、特に映画では戦闘シーンでほとんど呪文を唱えていないので、わりと誰でも練習すればできそうだなーという認識。杖なしは、普通の人なら魔力をコントロールできず魔法にならない。才能がある人でもパトローナスや許されざる呪文は難しい。